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デヴィッド・ボウイの7インシングルが100万円!? 『ポケットモンスター 緑』は10万円…とんでもないことになっていたコレクターズ市場

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同じアルバムでも7000円と40万円の違いがある。(写真:千駄木雄大)

 スーパーファミコンやゲームキューブ、PlayStation2、ファミコンなどのレトロゲームは、軒並み高値で取り引きされており、秋葉原の中古ゲーム店には訪日インバウンド客が押し寄せている。

 さらにレコードやCDも海外からの関心が高く、都内のレコードショップでは「レアグルーヴ」などの音源を探す外国人を見かける機会が増えている。一体何が起きているのか?

 世間で囁かれている「インバウンド需要」の背景を探る。

日本のフュージョンが海外で人気

シティポップブームで山下達郎の自主制作盤が100万円!

「邦楽・洋楽問わず、“日本盤レコード”の需要が高まっています」

 レコードの詰まった段ボールが積み重なる部屋で、そう語るのは、レコードとCDの買い取りに特化した「セタガヤレコードセンター」で査定チームを統括する責任者、川松信一氏だ。

「もともと弊社の社長は、アメリカで買い付けたレコードを日本で販売していました。しかし今では、海外の方々が日本のレコードを求めるという、真逆の状況です」(川松氏)

「日本盤レコードとはなんだ?」と思うかもしれないが、これは日本で製造・流通しているレコードのことを指す。海外で製造された「輸入盤」とは区別され、邦楽・洋楽を問わず、日本で販売されるための「帯」や「ライナーノーツ」が付いているのが特徴だ。

“ビートルズ”と書かれた帯に日本語があれば、確かにマニアは欲しがるだろう。しかし、重要なのはそのような“オリエンタル”な要素だけではない。

「インターネットの普及により、オークションサイトなどでレコードを手軽に買えるようになりました。かつては入手困難だったレコードも簡単に手に入るようになり、レコード全体の“相場”が形成されました。そうした中で、海外の人たちが日本盤レコードに注目し始めたのでしょう。僕も海外に買い付けに行ったことがありますが、アメリカのレコードは状態が非常に悪い。その一方で、日本盤のレコードは本当に驚くほどキレイなんです」(同)

 もともと、日本国内で流通していた日本盤が、海外のコレクターたちの目に留まり、購入されるようになったことで、需要と供給のバランスが変化し、価格が一気に上昇。その結果、レコード市場全体の価格も底上げされたという。

 また、世界的なシティポップブームも相まって、日本盤に限らず邦楽も海外から注目を集めるようになった。

「自主制作のレコードですが、大学生だった山下達郎が友人たちと作った『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』というアルバムがあります。これは100枚しかプレスされておらず、現在では100万円を超える値がついています」(同)

 海外人気の高いカシオペアのデビューアルバム『CASIOPEA』にも興味深い例がある。

「このアルバムには2種類のジャケットが存在し、そのうちレーシングカーのジャケットを使ったリプレス版は、特に高価です。通常のファーストプレス盤(集合写真ジャケット)が1万円程度だとすると、セカンドプレスのレーシングカーバージョンは、その倍以上の価格で取引されています」(同)

デヴィッド・ボウイの日本盤シングルは100万円!?

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洋楽も帯があるだけで物によっては信じられない値段になる。(写真:千駄木雄大)

 書籍では初版のほうが希少価値は高くなるが、レコードにおいては、ジャケットのデザインがより重要な意味を持つ。さらに、世間ではあまり知られていないが、好事家の間でコレクタブルな存在として取引されているアーティストもいる。

「昭和の歌手・梅木マリは、どの作品も1万円以上の高値がついているのですが、『白ゆりの丘/夢の恋人』というシングルは、マスター音源も紛失したとされる幻の一枚で、おそらく現物が確認されたのは昨年ヤフオク!に出品されたレコードが初めてかと思います。発売中止になった作品ですので、確認されたレコードもテストプレス/プロモーション盤でした」(同)

 プロモーション盤とは、レコード会社が関係者のみに配布した「販促用非売品のレコード」のことを指す。一般流通には乗らず、ラジオ局やテレビ局などに提供されていた。

「プロモーション盤は何枚もプレスされるわけではないため、数に限りがあります。そして『白ゆりの丘/夢の恋人』の場合は、その後なぜか販売されることなく、文字通り“幻のレコード”となっているのです。ちなみに、ヤフオク!では80万円で落札されていました」(同)

 プロモーション盤は当時「非売品」で、関係者しか入手できなかったため、希少価値が上がり高値になる。しかし、それは邦楽に限った話ではない。

「ビートルズとピンク・フロイドは、安価なものがほとんどなく、相場としては3000〜5000円くらいからで、上限はキリがありません。日本盤レコードで、さらにプロモーション盤でいえば、『狂気(The Dark Side of the Moon)』というアルバムがあります」(同)

 1973年に発売された『狂気』は、聴いたことがなくてもジャケットだけは誰もが知っている名盤だ。今から50年前のレコードであるため、状態が悪くなっていて当然だが、その中でも状態の良い“美品”は、どの国でプレスされたものも高価になる。中でも日本盤は特に注目度が高い。

「当時、関係者のみに配られたプロモーション盤は、なぜかジャケットの表裏が反転しているんです。これに希少価値がつき、日本の通常盤は7000〜8000円程度ですが、このプロモーション盤は、状態が良ければ40万円にもなります」(同)

 状態の良い日本盤に加え、プロモーション盤という要素が重なると、相乗効果で世間一般では信じられないような金額になることもある。

「ほかにも、デヴィッド・ボウイの『スペース・オディティ』の7インチシングルは、主に流通しているジャケットはボウイの顔がアップになっている写真です。しかし、限られた人しか入手できなかった日本盤オリジナルのプロモーション盤は、中央が虹色になっていて、100万円もの値がついています」(同)

 数曲が収録されるアルバムならまだしも、シングル盤は表と裏の2曲しか収録されていないのに、どうしてそんな高額になるのか? 実はここに、日本特有の文化が関係している。

「7インチシングルにまでジャケットが付いているのは、日本だけなんです。海外では、紙スリーヴに入っているのが一般的ですよね。そのため、この日本独自の文化が海外の人たちに見つかれば、シティポップ以上のブームが巻き起こる可能性もあります」(同)

 実際、7インチレコードは海外を含めても、まだLPほどには世界的な価格バランスが整っていない。シティポップブームのときもそうだったが、もし海外の人たちが日本の7インチに注目するようになれば、状況は大きく変わるかもしれない。

「それに、7インチはシングル盤なので、LPよりも流通量が多いんですよね。だからこそ、今後の注目度次第で、日本盤7インチの価格はさらに動く可能性があります。そもそも日本盤は高騰しやすい傾向があるため、今後はビートルズのような世界的スターではないアーティストでも、日本独自のシングルジャケットが海外で見つかり、ブームになることも十分に考えられます」(同)

 日本人だけでは市場がそこまで盛り上がらないかもしれないが、海外のコレクターには資金力のある人も多い。そうした人が「これが欲しい!」と感じて大金を投じれば、一気に価格が跳ね上がるというのだ。

ファミコンの海外版・NES用ソフトは1400万円

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さまざまな中古ゲームが販売されているスーパーポテト秋葉原店。(写真:千駄木雄大)

 ファミコン、スーパーファミコン、ゲームボーイ……。子どもの頃に遊んだゲーム機の魅力は、いくら新しいハードが台頭して性能が良くなろうとも、色褪せることはない。

 そんな数十年前のゲーム、いわゆる「レトロゲーム」が高騰しているのはご存じだろうか?

 近年、SNSなどでは「外国人観光客がレトロゲームを買い漁っている」という言説がたびたび取り沙汰されてきた。それは、オタクな外国人観光客が増えたというだけではなく、海外ではレトロゲームが投資のアイテムとして注目されていることを意味している。

 2014年、アメリカのネットオークション「eBay」で1990年に発売されたNES(ファミコンの海外版)用ソフト『Nintendo World Championships』が、300件以上の入札の末に約10万ドル(約1400万円)で落札された。

 さらに2021年には、NES用『ゼルダの伝説』(1987年発売)が87万ドル(約9600万円)、NINTENDO64用『スーパーマリオ64』(1996年発売)が156万ドル(約1億7200万円)、NES用『スーパーマリオブラザーズ』(1985年発売)は200万ドル(約2億2000万円)で相次いで落札されている。

 もはや、ここまでくると驚きしかないが、こうした流れを受けてレトロゲーム全体の価格が底上げされているのも事実だ。

 中古ゲームショップ「スーパーポテト秋葉原店」で売られている商品を見てみると、1980年発売の携帯ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」が5万〜9万円、1991年発売のファミコン用ソフト『スノーブラザーズ』が37万円、2003年発売のゲームボーイアドバンス用ソフト『ゲゲゲの鬼太郎 危機一髪!妖怪列島』が11万円と高値で販売されている。

 かつて「型落ち」した中古ゲームは、国道沿いの中古ゲームショップやリサイクルショップのワゴンで数百円で投げ売りされており、小学生でもお小遣いで購入できるものだった。それが今や骨董品のような値段で取引されている。

 近年のレトロゲームブームについて、スーパーポテト秋葉原店の店長はこう語る。

「当店はコロナ禍前から欧米系の外国人観光客に人気がありましたが、コロナ禍が終わってからは、いろんな国の人が来るようになりました。何万円分という単位で買う人はたまにいますね。そうしたお客様はPCエンジンやPlayStationなど、特定のハードのソフトをたくさん購入されます」

 それでは、外国人観光客がこぞって買うようなタイトルはあるのだろうか?

「日本人か外国人か、どちらに人気というタイトルは特にありません。『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼルダの伝説』など、いわゆる定番タイトルが人気です。そして、任天堂であればファミコンからNintendo Switch 2まで、どのハードのソフトもまんべんなく売れています」(同)

 やはり、日本を代表するグローバル企業の影響力は絶大だ。ゲームは言語に関係なく遊べる。

どうして日本語のゲームが購入されるのか?

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高値で取り引きされているセガサターンのソフト。(写真:千駄木雄大)

 その一方で、多くのゲーム機にはリージョンロックがかかっており、特定の地域で製造・販売されたハードやソフトがほかの地域では利用できないよう制限されている。

 そのため、ハードを持っていても自国ではプレイできないソフトもある。そんな中、地域制限のないリージョンフリーだったのが1989年発売の「ゲームボーイ」である。この携帯ゲーム機を代表するソフトが、1996年発売の「ポケットモンスター」だ。

「特に海外ではゲームボーイ版の『ポケットモンスター 緑』が発売されていないため、『ポケットモンスター 赤』よりも値段は高くなっています。店舗に在庫がなければ、買い取り価格も2000円程度です」(同)

「30年前のゲームがちゃんと動くの?」と思われるかもしれないが、スーパーポテトでは基板に半田付けされた古い電池を交換して販売している。動作確認に抜かりはない。

「当店で販売している商品は2週間の保証がついています。CD-ROMは劣化が激しいと言われることもあり、実際セガサターンやドリームキャストのソフトには読み込めないものもありますが、PlayStationのソフトは今も動きます」(同)

 そう考えると、50年近く前のファミコンソフトが、マイペットで拭けば動くのだから驚きである。

 また、PlayStationにはプレミアがついているソフトも多い。

「1998年に発売され、国内外問わずカルト的な人気を誇るPlayStation用ソフト『serial experiments lain』と、サイケデリックで支離滅裂な夢体験を楽しむ『LSD』は10万円を超えています。前者はAIが発展し、世界観の理解に今の時代が追いつき、再評価されているのでしょう」(同)

 目が飛び出るような高値で取引されているのは、1991年にSNKから発売された「ネオジオ」だ。界隈では有名な話だが、1996年発売の『メタルスラッグ』は200万円、1995年発売の『ちびまる子ちゃん クイズ デ ラ クレヨン』は300万円のプレミア価格がついている。

「当時、ネオジオ自体をそんなに買う人がいなかったのと、流通している本数も少なかった。任天堂のゲームとは違い、みんなが持っているソフトではなかったんです。というのも、定価が2万〜3万円しましたからね。そのため、今はまだNESの『スーパーマリオブラザーズ』のように海外のオークションサイトに出品されていないだけで、もしかすると相当な値段で落札されるかもしれません」(同)

 それでは、今後もレトロブームは続き、何十年も前のゲームが高騰していくのだろうか?

「一時はスマホゲームの台頭で『テレビで遊ぶゲームはもうオワコン』という風潮もありましたが、最近のNintendo Switch 2の盛り上がりを見ていると、やはり据え置き機の人気はいまだ健在であることを思い知らされます。そのため、今後もレトロゲーム人気は続き、価格も上がっていくでしょう」(同)

 実家の押し入れの中から昔遊んだゲーム機を探し出して、秋葉原に売りに行こう。

デヴィッド・ボウイの7インシングルが100万円!? 『ポケットモンスター 緑』は10万円…とんでもないことになっていたコレクターズ市場の画像1
かつてプレイした商品が信じられない高額で取引されているとは……。(写真:千駄木雄大)

戦隊モノに女性ヒーローが不可欠な理由

(取材・文・写真=千駄木雄大)

千駄木雄大

1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「東洋経済オンライン」にて「奨学金借りたら人生こうなった」、「ARBAN」にて「ジャムセッション講座」を連載中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)、原作を担当したマンガ『奨学金借りたら人生こうなる!?~なぜか奨学生が集まるミナミ荘~』(祥伝社)がある。

X:@yudai_sendagi

千駄木雄大
最終更新:2025/12/08 22:00