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完結編『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』 結局、ヴォルデモート卿は何がしたかった?

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(写真:Getty Imagesより)

 2001年から10年間にわたって、全8作が映画化された「ハリー・ポッター」シリーズ。第1作の公開時は12歳だったハリー役のダニエル・ラドクリフの成長ぶりをリアルタイムで観てきたファンたちにとっては、特別なシリーズとなっています。

 1月31日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、シリーズ完結編『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』(2011年)を放送します。30分の拡大枠でのオンエアです。

 ダニエル・ラドクリフは1989年生まれで、日本では岡田将生、佐藤健、賀来賢人ら「ゆとり世代」の俳優たちと同世代になります。『死の秘宝PART2』の見どころと、ダニエルらメインキャストのその後のキャリアについて振り返ります。

冷血キャラを再び演じたレイフ・ファインズ

 闇の帝王・ヴォルデモート卿を倒すため、ハリー(ダニエル・ラドクリフ)、ロン(ルパート・グリント)、ハーマイオニー(エマ・ワトソン)の試練が、前作『ハリー・ポッターと死の秘宝PART1』(2010年)から続きます。ヴォルデモート卿が魂を分割して隠している「分霊箱」を見つけて破壊するだけでなく、死の秘宝(透明マント、蘇りの石、ニワトコの杖)もヴォルデモート卿より先にゲットしなくてはいけません。ヴォルデモート卿の手に渡れば、誰もかなう相手がいなくなるからです。

 分霊箱のひとつはホグワーツ魔法学校にあるに違いないと推理したハリーたちは、魔法学校へ帰還。ほんの少し前までは学びの場だった学校が、ヴォルデモート軍団と戦う戦場と化していきます。永井豪の学園漫画『ハレンチ学園』のハレンチ大戦争ばりの激しいバトルが繰り広げられます。

 不気味なヴォルデモート卿を特殊メイクで演じているのは、ホロコースト映画『シンドラーのリスト』(1993年)で強制収容所の所長アーモン・ゲートを演じたレイフ・ファインズです。英国を代表する名優レイフ・ファインズが、ユダヤ人を大量虐殺するナチ将校を演じていたことは重要でしょう。

現代に甦る「優生思想」とアドルフ・ヒトラー

 結局、ヴォルデモート卿は何がしたかったのかという謎があります。原作をかなりはしょった映画シリーズだけを追っていると分かりづらいのですが、純血の魔法族による世界支配をヴォルデモート卿は考えていたようです。魔法族であるマグルが支配階級となり、半純血の魔法使いたちを使って、愚かな人間たちを支配させるという社会です。要はナチス政権を率いたアドルフ・ヒトラーも唱えた「優生思想」を、現代に甦らせようとしたわけです。

 ヒトラーはゲルマン民族がいちばん優れた民族だと考え、ユダヤ人、障害者、同性愛者たちを排斥し、不況下にあったドイツをはじめとするヨーロッパで絶大な支持を集めました。暗黒世界から復活したヴォルデモート卿は、「ヒトラーは今も生きている」という都市伝説につながるものがあります。

 ハリーたちは、そんなヒトラーまがいの怪物を倒そうと懸命に戦います。シリーズ初期はヘタレの同級生だったネビル(マシュー・ルイス)が果敢に立ち向かう姿は、シリーズを見続けてきたファンなら胸が熱くなるはずです。ナチスに対する学生たちのレジスタンスを思わせます。

ファンタジーの世界に置き換えられた欧州の近現代史

 ヴォルデモート卿と戦うなかで、ハリーは別の恐怖にも襲われます。ハリー自身も強い力を身につけていくのですが、同時にハリーはヴォルデモート卿と心がシンクロしていきます。ハリーの血によって、ヴォルデモート卿が復活する様子が『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005年)では描かれていました。ハリーとヴォルデモート卿はある意味、近しい存在です。

「怪物と戦う者は、自分も怪物にならぬよう気をつけよ」という19世紀の哲学者・ニーチェの言葉があります。まさにハリーは、自分自身が怪物になるんじゃないかという恐怖に怯えることになります。ナチスドイツに対抗するために、米軍の要請を受けて原爆を開発したオッペンハイマーにも、思い出してほしかった言葉です。物語の最後に、大人になったハリーがどんな生き方を選ぶのかも注目ポイントです。

 もうひとり注目したいのは、「ハリー・ポッター」シリーズの裏主人公とも言えるスネイプ先生(アラン・リックマン)です。ホグワーツの校長・ダンブルドア(マイケル・ガンボン)とヴォルデモート卿との間を怪しく立ち回っていたスネイプ先生は、言ってみれば「二重スパイ」のような存在です。

 こうして見てみると「ハリー・ポッター」シリーズは、欧州の近現代史を題材にした社会派サスペンス&スパイ映画をファンタジーの世界に置き換えた物語のように思えてきます。

メインキャストのその後は……

 シリーズ完結後のメインキャストのその後も追ってみましょう。主人公3人組の中でいちばんの売れっ子になったのは、ハーマイオニー役のエマ・ワトソンです。ディズニーの実写映画『美女と野獣』(2017年)や『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』(2019年)などに出演し、美しさにますます磨きをかけています。また、ハリウッド大作に出演する一方、南米チリに実在した、ナチス残党によるカルト集団を描いた実録サスペンス映画『コロニア』(2016年)にも主演し、社会意識の高さを感じさせます。

 ロン役のルパート・グリントは役と同様に、超マイペースなキャリアを歩んでいます。「ハリー・ポッター」シリーズですでに一生分以上のギャラを稼いでいるので、自分が気に入った企画だけ参加するというスタンスのようです。アポロの月面着陸は、実はスタンリー・キューブリック監督が撮ったフェイク映像だったという都市伝説をモチーフにした『ムーンウォーカーズ』(2015年)では、ハリウッドの怪優ロン・パールマンと共演しています。英国人のルパート・グリントも、どこか「ゆとり世代」ぽさを感じさせます。

 主人公ハリーを10年間演じ続けたダニエル・ラドクリフは、シリーズ卒業後はやはりユニークな作品選びが目立ちます。コメディタッチのアクション映画『ガンズ・アキンボ』(2020年)ではパンツ姿で二丁拳銃を振り回す冴えない青年役、テレビ映画『こいつで、今夜もイート・イット』(2022年)ではパロディ歌手のアル・ヤンコビックの半生を演じるなど、おかしな役を好んで演じています。

 とりわけ強烈なインパクトを放ったのは、ポール・ダノと共演した『スイス・アーミー・マン』(2016年)でしょう。ダニエルは死体だけど、スイス製アーミーナイフのようにサバイバル生活に役立つという奇妙なキャラを演じています。シリウス・ブラックを演じたゲーリー・オールドマンのような個性的な演技派俳優になるために、今はまだいろんな役に挑戦する修行中の身のようです。

ファンから賛否両論だった舞台版『ハリー・ポッター』

 2016年には、ハリーたちのその後を描いた舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が上演されました。映画とは異なるキャストが配役された舞台版でしたが、大人になったハーマイオニー役にアフリカ系英国人のノーマ・ドゥメズウェニが起用されたことが大きな波紋を呼びました。映画化シリーズが続いた2000年代に比べ、多様性を配慮しなくてはいけない時代になったことを感じさせます。

 ちなみに2016年は、英国が国民投票によって、EU(欧州連合)からの離脱を決めた年でもあります。難民たちの英国への流入問題が、EUと決別する大きな要因となっていました。

 優生思想や階級社会といった差別意識とハリーたちは闘ってきたわけですが、ファンタジーの世界よりも現実世界のほうが根が深く、厄介な問題が立ちはだかっているようです。連続ドラマ化されることが発表された新しい「ハリー・ポッター」シリーズは、どんなキャスティングになるのか気になるところです。

(文=映画ゾンビ・バブ)

映画ゾンビ・バブ

映画ゾンビ・バブ(映画ウォッチャー)。映画館やレンタルビデオ店の処分DVDコーナーを徘徊する映画依存症のアンデッド。

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最終更新:2025/01/31 12:00