ヨシモト∞ホール閉館、渋谷よしもと漫才劇場オープンで思い出す悪夢の「コント禁止令」
13日に開催された「第10回 上方漫才協会大賞」の壇上で、それは突然発表された。
今年3月をもって「ヨシモト∞ホール」が閉館、それに伴い、春には「渋谷よしもと漫才劇場」がオープンすることになるという。2006年3月に開館した「無限大」は、19年の歴史に幕を下ろすことになる。
今回の閉館は劇場の所属芸人にも知らされておらず、多くの芸人たちがX上で惜別の念をポストしている。当然、ファンにとっても寝耳に水の一報だった。
「渋谷よしもと漫才劇場」がどんな劇場になるのか、所属芸人に変更や移籍はあるのか、座席やグッズ販売はどうなるのか、詳細は後日発表されることになるという。
近年、「ヨシモト∞ホール」を巡っては大きな動きが重なっている。昨年春には『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)2年連続ファイナリストのさや香、2022年の『キングオブコント』(TBS系)王者であるビスケットブラザーズ、23年『R-1グランプリ』(フジテレビ系)王者の田津原理音に加えて、滝音、kento fukaya、ヘンダーソンといった人気芸人たちが次々に上京し、大阪・難波のよしもと漫才劇場を去っている。その前年にはロングコートダディ、ニッポンの社長、紅しょうがも上京し、東京に拠点を移している。
こうした動きもあってか、吉本は非公式に“鎖国”を宣言。「ヨシモト∞ホール」をはじめとした吉本興業の劇場から他事務所所属の芸人を締め出す動きを見せていた。この“鎖国”の動きに影響を与えていたとされるのが、上方漫才協会の生みの親である大師匠・中田カウスだ。今回の「渋谷よしもと漫才劇場」へのシフトも、カウスの意向が反映されていることは想像に難くない。
「コント禁止令」の悪夢
無限大から、マンゲキへ。その動きにファンが不安を覚えるのは、10年前の悪夢があるからだ。
14年12月、カウスは自身が会長、相方の中田ボタンが副会長を務める上方漫才協会を発足させた。それと同時に多くの関西若手芸人が拠点としていた大阪・難波千日前の「5upよしもと」を閉館させ、「よしもと漫才劇場」に改名してリニューアルしたことがあった。その際カウスは、これも非公式だが「コント禁止令」を発令してたのだ。
ほどなく解禁され、現在ではコントも多く披露されているマンゲキだが、その一時期にはコント芸人も漫才を強制され、ネタが書けないというコンビにはベテラン作家がついて台本を提供するといった異常な状況が数カ月にわたって続いた。漫才用のスーツを仕立てる業者まで吉本側に指定されているといった話も漏れ伝わっていた。
そうした事態が、主に関東の若手お笑いファンの間で「カウスアレルギー」ともいうべき反感を生んできた。
もとより“黒いウワサ”が取りざたされてきたカウス。暴力団との親密な関係が報じられたことも一度や二度ではないが吉本内での権力は依然として絶大である。
今年の「上方漫才協会大賞」では弟子であるドーナツ・ピーナツに大賞を与え、自ら「見えない力が働いたのかな? 芸名を『えこひいき』に変えます』」とうそぶいてみせた。霜降り明星・粗品や令和ロマン・髙比良くるまが好々爺然としたカウスのエピソードを披露することもあるが、そのイメージの回復には至っていないのが現実である。
それでも新しい「マンゲキ」を見守りたい
現在の無限大には、いぬ、蛙亭、カゲヤマ、コットン、そいつどいつ、滝音、ダンビラムーチョ、ニッポンの社長、ネルソンズといった『KOC』ファイナリストが所属している。20年『KOC』王者の空気階段が賞金で改装したトイレもある。まさか「コント禁止」ということにはならないだろう。
難波のマンゲキも発足当時こそ混乱があったものの、ミルクボーイと霜降り明星が『M-1』を制し、ビスケットブラザーズもマンゲキ所属のまま『KOC』を獲った。見取り図やアインシュタインもタイトルこそないもののテレビスターとして羽ばたいている。
一足先に東京にオープンした神保町よしもと漫才劇場は令和ロマンという怪物を生み落とし、ヨネダ2000やエバース、金魚番長など未来の賞レース王者候補がひしめいている。
結局のところ、劇場は舞台に立つ芸人が育てるのである。渋谷よしもと漫才劇場にも、悪くない未来があることを信じたい。
ただ、問題は呼び方なのである。「マンゲキ」といってしまえばどうしても大阪だし、「シブゲキ」はもう近所にあるし、単に「渋谷」というのも紛らわしい。悩ましいところだ。
(文=新越谷ノリヲ)