日テレがお笑いコンテスト「ダブルインパクト」新設も…乱立で危惧される「賞レース疲れ」
![新たな賞レース「ダブルインパクト」の画像1](/wp-content/uploads/2025/02/20250206-cyzoonline-news-second-eyecatch.jpg)
日本テレビと読売テレビが、新たなお笑い賞レース「ダブルインパクト~漫才&コント二刀流No.1決定戦~」を開催すると発表した。漫才とコント両方のネタを審査し、真の“二刀流芸人”を決める大会で、今夏に決勝戦を放送する。優勝賞金は1000万円。
“二刀流芸人”たちが競い合うという異例の大会に期待が集まる一方、ネット上では「お笑いの賞レースが多すぎる」「M-1やキングオブコントの優勝を目指す芸人は時間的に参加が難しそう」「THE WやR-1みたいに微妙な扱いになりそう」といった不安の声もある。
「ダブルインパクト」は成功することができるのか。活躍しそうな芸人や大会に期待する点、不安視される要素などについて、お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏が解説する。
活躍しそうな二刀流芸人は
漫才の頂点を決める大会は『M-1グランプリ』、コントの王者を決定する大会には『キングオブコント』があるが、『ダブルインパクト』は両方できる“二刀流芸人”に焦点を当てることで差別化を図った。出場資格はプロアマ問わず2人以上。芸歴制限はなく、ピン芸人らのユニットでの参加も認められるという。
この大会では、どんな芸人が活躍しそうなのか。田辺氏はこのように展望する。
「出場資格はかなり自由度が高いようですし、過去の賞レースの優勝経験の有無も明記されていないので、たとえば、かまいたちのように『キングオブコント』優勝、『M-1』準優勝みたいな、両方の大会で実績を残したコンビが強いのは間違いないと思います。ただ、かまいたちはさすがに出る理由がないでしょうね。
破壊力でいけば、活躍が期待できるのはニッポンの社長。『M-1』では準決勝(敗者復活戦)が最高成績ですが、毎回インパクトを残しています。そして『キングオブコント』は2020年大会から5年連続ファイナリスト。『ダブルインパクト』はその企画内容からアグレッシブな笑いが求められる気がします。『暴力性』もはらんだニッポンの社長の笑いはぴったりではないでしょうか。
また、漫才とコントの両方の実績組では、ロングコートダディ、男性ブランコあたりも強いと思います。ニッポンの社長も含め、いずれも『M-1』『キングオブコント』の両大会で勝ち切るにはこれまであと一歩足りなかったけど、間違いなく高いレベルにある。『ダブルインパクト』は、彼らのような芸人たちのための大会になるのではないでしょうか。陸上競技でいうところの『10種競技』みたいな位置付けかもしれません」
賞レース乱立で危惧される弊害
期待の声がある一方、ネット上で目立ったのは「賞レースが多すぎて埋もれそう」といったネガティブな意見だ。「賞レースは飽和状態にある」ともいわれ、すでに日テレでは『女芸人No.1決定戦 THE W』を放送しているが、なぜ新たな賞レースを始めるのか。
「賞金を1000万円も出せるということは、それだけスポンサーとなる企業からの需要があるということ。お笑いの賞レースは、リアルタイム視聴はもちろんのこと、配信サービスでも盛り上がりますから、さまざまなところで数字が見込めるのでしょう。テレビ局としては、ビジネス面で手堅いコンテンツなのだと思います。
ただ、さすがに賞レースが多すぎます。3月に『R-1グランプリ』、5月に『THE SECOND~漫才トーナメント~』、夏に『ダブルインパクト』、10月に『キングオブコント』、12月に『THE W』と『M-1』。ほかにも若手は、東西での若手登竜門的な賞レースがたくさんあります。それぞれの予選もありますし、お笑い芸人は一年中、賞レースばかりに挑むことになります。
賞レースの結果次第で、仕事量や劇場での出番数も変わってきますし、なにより大金がもらえるチャンスですから、みんな出ようとするのは当たり前でしょうが、芸人のみなさんの消耗が気になります。ネタだけがどんどん消費されていって、息切れする芸人もいるのではないでしょうか」
やはり識者から見ても、「賞レースが多すぎる」というのは否定できない事実のようだ。田辺氏が最も危惧するのは「賞レース疲れ」だという。
「なにより一番の心配は、見る側も含めた『賞レース疲れ』が起きること。テレビ局は『ビジネス』として賞レースをとらえているはず。しかしその側面が強いと、業界全体がグラついてきます。
お笑いの賞レースは情報過多になりつつありますが、シンプルさを失った物事は淘汰されるのが常ですから。お笑いファンはそれでも見ますが、お笑いをもっと気軽に見ている人たちは情報が多すぎて追いきれなくなり、お笑いの賞レース自体、見るのをやめるようになるという事態も十分考えられます」
ダブルインパクト成功に必要なもの
賞レースの乱立は「お笑い離れ」を引き起こしかねない危険性をはらんでいるようだ。だが不安ばかりではなく、期待できる面もある。田辺氏は『ダブルインパクト』の成功のカギと面白さのポイントについてこう語る。
「成功するカギの一つは、決勝に進出する芸人たちの顔ぶれの差別化ではないでしょか。既存のお笑いの賞レースは、ファイナリストの顔ぶれが絶妙に異なるので並び立っています。『ダブルインパクト』の決勝は、普通に考えると『M-1』と『キングオブコント』のファイナリストばかりになるはず。そればかりでなく、この大会だからこそ発掘できた若手芸人や知られざる才能が現れると、良い結果になるのではないでしょうか。
また、興味深いのは審査方法です。おそらく漫才とコントの合計得点勝負になると思います。そうなると、たとえば漫才で誰かが大きくリードしても、コントで大逆転劇が起きたりするはず。そのあたりの『勝負論』の面白さはあるのではないでしょうか」
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。