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なぜ海外進出を目指す芸人が増えたのか 日本との笑いの違いを識者が解説

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 元「尼神インター」の誠子が、今春にカナダで初の海外公演を開催すると発表した。コンビ時代は海外進出に意欲的というイメージがなかったため、ネット上で驚きの声が広がっている。これに限らず、近年は海外での活躍を目指す芸人が増加しているが、なぜ彼らは海の向こうへ飛び出そうとするのか。お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏がその背景を解説する。

 尼神インターは昨年3月に電撃的に解散を発表。渚(現・ナ酒渚)は吉本興業に残った一方、誠子は吉本を退所してフリーのピン芸人になった。誠子は昨年12月にフリー転身後初の単独ライブを実施し、今春にカナダ・バンクーバーで自身初の海外公演を開催すると発表した。

 誠子は9日付の「集英社オンライン」のインタビュー記事で、バンクーバーへの1週間の短期留学を予定しており、その最終日に留学中に覚えた英語でお笑いライブをするのだと明かしている。現時点で海外進出を具体的に考えているわけではないというが、「カナダの番組とかメディアに出てみたいですね。ほかにも機会があればいろんな国のメディアに出てみたい」と国外での活動への意欲を見せている。

 わずか1週間の留学で現地でお笑いライブを成功させることができるのかは不透明だが、近年は彼女に限らず芸人たちの海外志向が加速。とにかく明るい安村、ゆりやんレトリィバァ、チョコレートプラネットらが人気オーディション番組『ゴットタレント』(アメリカ版やイギリス版などが放送)に出場し、会場を沸かせたことは日本国内でも大きな話題になった。また、渡辺直美、ゆりやん、ピースの綾部祐二、ウーマンラッシュアワーの村本大輔らのように国外に拠点を移し、本格的に海外進出を目指す芸人も増えている。

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芸人たちが海外を目指すワケ

 なぜ芸人たちの「海外志向」が強まっているのだろうか。芸能ライターの田辺ユウキ氏はこう解説する。

「日本国内で売れっ子芸人として活躍しているのであれば、そのまま国内だけに焦点を絞って活動した方が負担は少ないですよね。忙しい中、スケジュールを調整したり、自分でお金を負担したりしてまで海外へ渡る必要は、本当はない。それにもかかわらずお笑い芸人たちが海外進出をするのは、世界中の人を笑わせたいという芸人的欲求と、より大きい成功を手にしたいという願望の両方があるからではないでしょうか。たとえば日本で数億円を稼ぐプロ野球選手が、マイナー契約でもいいからメジャーに挑戦したいと思う気持ちに似ているのかもしれません。

 また、とにかく明るい安村さんらが海外挑戦してウケているところを見て、同業者として血が騒ぐということも間違いなくあるでしょう。チョコレートプラネットが2024年に『TT兄弟』のネタを提げて『アメリカズ・ゴット・タレント』に挑戦したのは、まさにそういった気持ちだったはず。2023年5月13日放送『マツコ会議』(日本テレビ系)にとにかく明るい安村さんが出演した際、VTRで登場したチョコレートプラネットの長田庄平さんは『必死になんとかしようともがいている姿に、芸人として心打たれる』『自分の魂を削ってやっている』とリスペクトを示していらっしゃいました。やはり身近な芸人たちの海外挑戦は、大きな刺激になるのだと思います。

 ジャルジャルのケースは自分たちの可能性を試すという、笑いに対するストイックな姿勢にほかならないのではないでしょうか。ジャルジャルはヨーロッパでお笑いライブツアーを実現させるなどしていますが、その中身は、現地のお客から募ったお題を組み合わせて即興コントを披露するものだったりします。自分たちの笑いが国の違いを超えて通用することは、芸人として一番の快感なのかもしれません」

日本と海外の笑いの違い

 ただオーディション番組でウケたり、海外でライブや番組などに出演したりしても、それは「海外で活躍している」とイコールではない。海外に打って出たものの、思ったような活躍ができていないように見える芸人が少なくないのが現実だ。

 やはり「言葉の壁」が大きいように感じられ、海外でウケたケースは言葉のいらないリズムネタや身体を張ったネタが中心となっている。そうなると「一発ネタ」的な扱いになりやすく、人気を継続するのは難しいようにも思える。日本と海外の笑いの質が異なるのも難しい部分があり、それについて田辺氏はこのように指摘する。

「2024年にキンタロー。さんにインタビューしたとき、もともと海外志向はあるものの『海外進出は難しい』という気持ちの方が現状は上回っているとおっしゃっていました。というのもキンタロー。さんは以前、テレビ番組の企画でカナダでネタを披露する機会があったのですが、『今までで一番スベった』そうだからです。

 海外のお笑いはスタンダップコメディで政治問題をイジったりするのが主流。そういう笑いの取り方とキンタロー。さんのスタイルはマッチしない。だからこそ海外挑戦は難しさがあり、またかつてスベった経験もあって、『なかなか踏み出せません』とおっしゃっていました。あとキンタロー。さんは、自分のようなモノマネ芸人は海外にはあまりいない気がすると話していました。日本と海外の笑いにはやはり、スタイルに大きな違いがあるのだと思います。

 ダウンタウンの松本人志さんは。バラエティ番組『進ぬ!電波少年』(日本テレビ系)の企画『電波少年的 松本人志のアメリカ人を笑わしに行こう』で1999年から2000年にかけて米国進出に挑戦しましたが、やはり苦戦しました。その原因は、日本特有の『間の笑い』がなかなか通じないこと。逆に、シンプルなパッと見の笑いがウケるともおっしゃっていました。そういったことから松本さんは『100パーセントで65点の笑いをとりにいかなければならない』とコメントしていました。つまり、練り込んだ笑いではなく、もう少しカジュアルな笑いが海外ではウケるということです」

 日本の芸人たちおよび、誠子の海外進出について、田辺氏はこう続ける。

「海外だとパッと見で笑えるかどうかが鍵なので、とにかく明るい安村さんや、チョコレートプラネットの『TT兄弟』などは受け入れられたのだと思われます。一方、ウーマンラッシュアワーの村本さんらはスタンダップコメディで勝負しているので、まず現地で暮らし、そこでいろんな情報や『あるあるネタ』などを仕入れ、それを自分の中にしっかり落とし込む必要がある。ネタを成立させるためには、それなりの時間と労力が必要になるのではないでしょうか。

 元尼神インターの誠子さんのインタビューを読むと、あえてそこまで計画的に海外進出を行おうとしているようには読み取れませんでした。ご本人はもちろん本気だと思いますが、印象的にはもう少しライトな感覚で挑戦される気がしました。ご本人もきっと、そううまくいくわけがないことは承知されているはず。お笑い芸人として海外を笑わせようという強い意欲というより、『自分開拓』の意味合いが強いのではないでしょうか」

(文=佐藤勇馬)


協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。

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佐藤勇馬

1978年生まれ。新潟県出身。SNSや動画サイト、芸能、時事問題、事件など幅広いジャンルを手がけるフリーライター。雑誌へのレギュラー執筆から始まり、活動歴は15年以上にわたる。著書に『ケータイ廃人』『新潟あるある』がある。

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最終更新:2025/02/15 09:00