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「宇宙人にさらわれた」で有名人になった主婦が再び「時の人」に NetflixのUFOドキュメンタリーが絶好調

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 1989年11月30日、ニューヨーク・マンハッタンに住む専業主婦が「宇宙人にさらわれた」と突拍子もないことを言い出した。女性は瞬く間に「時の人」となり、メディアに引っ張りだことなった。それから35年、女性の証言と当時の騒動ぶりを検証するドキュメンタリーがNetflixで配信され、再び注目を集めている。

 女性は現在でも「さらわれた」と言い続け、ドキュメンタリーの取材班に全面的に協力したが、配信直前に「話が違う」とNetflixを提訴した。UFOブームに乗ったNetflixは寝た子を起こしてトラブルに巻き込まれたが、騒ぎは大きくなるほどNetflixには好都合だ。

 このドキュメンタリーは『The Manhattan Alien Abduction(邦題:マンハッタン宇宙人拉致事件)』。10月30日から配信が開始された。第1週にストリーミング回数でトップ10入りし、早くも人気シリーズとなった。

地球外生命体への関心が高い理由は…

 このところ、「UFOもの」のドキュメンタリーは米国視聴者の反応がすこぶるいい。Netflix では昨年、映画界の巨匠、スティーブン・スピルバーグの制作会社アンブリン・エンターテインメントが手がけた『Encounters (邦題: エンカウンターズ) 』が大ヒットした。

 日本や英国、ジンバブエなどでの不可解な現象を追った作品で、客観的な目撃情報を丹念に拾う手法が、視聴者への説得力を持たせている。

 米国では安全保障上の理由から、政府や議会が未確認異常現象(UAP)について真正面から取り組み始めた。米国民の地球外生命体への関心はかなり高まっており、UFOドキュメンタリーを求める土壌は厚い。政治がUFOシリーズの追い風になっている。

「UFOドキュメンタリー」の中でも異色の作品

 『Encounters』のヒットを受けての『The Manhattan Alien Abduction』の配信だが、『Encounters』とは違い、1人の主婦の妄想とも言えるような話が題材で、「UFOもの」の中でも異色のドキュメンタリーだ。

 マンハッタンのリトル・イタリーで育ったリンダ・ナポリターノは、イーストリバーにかかるブルックリンブリッジの近くにあるアパートに住んでいた。夫と子ども2人の4人暮らし。慎ましやかではあるものの、不自由のない生活を送っていた。

 リンダが主張するところでは、1989年11月30日午前3時ごろ、3人の宇宙人が現れ、ベッドで寝ていた自分の体を、ブルックリンブリッジの上空にあった宇宙船の中に連れて行った。

 宇宙人の体は灰色で、二足歩行をしており、青い光線を操ってリンダの体を宙に浮かせて12階にある部屋から運び出した。宇宙人は人間の身体の特徴を調査するかのようにリンダの体を調べ、その後、元の部屋に戻したという。

 リンダはこの体験を主張し始める数カ月前、ニューヨークのUFO研究家バド・ホプキンスに手紙を送っていた。13年前、保養地として知られるニューヨーク州キャッツキルで宇宙人に遭遇したという内容だった。

 当時、「宇宙人にさらわれた」との主張が各地で起きていた。リンダは、バドが主催する「宇宙人にさらわれた」と主張する「拉致被害者」グループの集会にも参加していた。

 1989年4月には、キャッツキルでの宇宙人との遭遇後に、自分の鼻の中に異物があることを見つけたとバドに話した。

 バドは宇宙人がリンダの鼻に何かを埋め込んだと考え、宇宙人による人類の拉致行為の証拠だと主張した。

 しかし、検証のため医師らが摘出しようとした直前に、リンダの鼻から異物は消えていた。

 拉致体験の後、リンダがその体験をバドに話すと、バドは本腰を入れて調査を始め、目撃者を探すため、ニューヨークのダウンタウンを駆け回った。

 1996年、バドはリンダの拉致体験をまとめた『Witnessed: The True story of the Brooklyn Bridge abduction(目撃者:ブルックリン拉致事件の真実)』を出版した。書店でサイン会が行われるほどの売れ行きとなった。

 本の中には23人の目撃者がいるとされる。中には、ネグリジェ姿のリンダが宙に浮いているのを見たという証言もあった。しかし、目撃者は実名で表記されておらず、当然ではあるが信ぴょう性に劣っていた。

 それでもリンダとバドはメディアの注目を浴びた。テレビのワイドショーや雑誌は「宇宙人による拉致問題」を取り上げ、リンダはスターのように扱われた。

 一方、バドの元妻で映画製作者のキャロル・レイニーはリンダの証言は真っ赤なウソだと主張し、証言の矛盾などを映像に残していた。

リンダらが損害賠償と配信の中止を求めNetflixを提訴

 リンダは現在、77歳。テネシー州ソディ・デイジーに住む。ドキュメンタリー取材班は改めてリンダを長時間にわたってインタビューした。2023年に死去したキャロルにもインタビューし、2011年に死去したバドが残した膨大な映像などを交えてリンダの証言や当時のバドの調査の様子、メディアの騒動ぶりを検証している。当然、リンダの証言に疑問を呈する内容がかなりの部分を占めている。

 リンダとバドの遺産相続人は配信が始まる2日前、「名誉を傷つけられた」などとして損害賠償と配信の中止を求めNetflixを提訴した。リンダは「論争と対立を目的とした悪役として自分が設定されており、明らかに虚偽の描写だ」と強く非難している。Netflix側は現時点でコメントしていない。

 未知の世界にいざなうはずの「UFOもの」が、一転して法廷という超現実的な舞台にさらされることになり、米国メディアは大喜び。NBCなど大手ネットワークのニュースでも裁判騒動が報じられるなど、リンダは再び「時の人」となっている。

言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2024/12/22 21:17