『ライオン・キング』の盗作騒ぎが再燃する? ディズニーの他人に厳しく、自分に甘い体質
あけましておめでとうございます。新年も『金曜ロードショー』(日本テレビ系)でおなじみのメジャーな映画を、ゾンビ視点で取り上げたいと思います。2025年の「金ローはじめ」となる1月3日(金)放送は、ディズニーのフルCGアニメ『ライオン・キング』(2019年)です。動物たちのモフモフした毛並みがリアルに再現されており、動物好きのケモナーたちにはたまらない映像作品となっています。
ディズニーの2Dアニメ『ライオン・キング』(1994年)のセルフリメイク作であり、世界的に大ヒットしました。日本でも興収66.7億円という数字を残しています。本国では1997年から上演が始まったミュージカル版『ライオン・キング』は、現在も続く大ロングランとなっています。
物語は野生動物たちの王国を治めるライオンのムファサと妻のサラビとの間に生まれた息子・シンバの成長を描いたものです。叔父のスカーは、ムファサの王位を狙っており、策略によって幼いシンバを王国から追い出してしまいます。
故郷を追われたシンバは、ミーアキャットのティモン、イボイノシシのプンバァに救われ、昆虫食を身につけることで生き延びます。今夜はノーカット放映なので、お正月早々からシンバたちが丸々と太ったイモムシたちを味わうシーンがしっかり流れることでしょう。
昆虫食のおかげで、シンバは立派に成長。一方、スカーが王位に就いたことによって、王国はすっかり荒れ果ててしまうことに。そのことを知ったシンバは故郷に戻り、スカーと対決することになります。
裁判に強い大企業には、誰も逆らえない?
ディズニーは2D版『ライオン・キング』の公開の際、「ディズニー初の完全オリジナル作品」を謳ったわけですが、このフレーズがアメリカ本国で騒ぎを招くことになります。1989年に亡くなった手塚治虫原作のTVアニメ『ジャングル大帝』(1965年~66年、フジテレビ系)のキャラクター設定などに非常に酷似していたためです。
手塚治虫の人気アニメ『鉄腕アトム』は『Astro Boy』の英題でアメリカでも放映され、大好評でした。続いて『ジャングル大帝』も『Kimba the White Lion』の英題で1966年からTV放映されています。Kimba/キンバとは『ジャングル大帝』の主人公・レオの英語名です。キンバとシンバと主人公の名前が似ているだけでなく、レオの仲間にオウムとマンドリルがおり、敵対する隻眼のライオンの手下がハイエナたちというキャラクター設定も、そっくりです。
盗作疑惑に対し、ディズニー側は「似ているのは偶然。『ジャングル大帝』を観ていない」と完全否定しています。何百人もいるアニメーターの誰も『ジャングル大帝』を観ていなかったとは考えられないことから、火に油を注ぐ結果になりました。
この騒ぎは当然ながら日本にも伝わりましたが、『ジャングル大帝』の著作権を管理する「手塚プロ」は「影響を与えたのが事実なら、手塚が生きていればむしろ喜ぶだろう」と大人の対応を見せています。一説には、ディズニーと裁判沙汰になったら、莫大な裁判費用がかかるため、訴訟を見送ったのではないかともささやかれています。
このとき、ディズニーから「コミック界、アニメ界に多大な功績を残した手塚先生と『ジャングル大帝』に敬意を表します」的な言葉が出ていれば、事態はすぐに収まったんでしょうけどね。訴訟社会の勝ち組企業であるディズニーは、自分たちの非はいっさい認めないという態度を貫いています。
ディズニーに狙われた庵野秀明作品
ヒットしなかったのでさほど騒がれませんでしたが、ディズニーアニメ『アトランティス 失われた帝国』(2001年)も、庵野秀明総監督のTVアニメ『ふしぎの海のナディア』(1990年~91年、NHK総合)をパクったのではないかと言われています。自社キャラクターについての著作権には非常にうるさいディズニーですが、自分たちが作る作品はたびたび盗作疑惑を指摘されています。他人に厳しく、自社に甘い体質の企業のように感じます。
2024年12月20日からはフルCG版『ライオン・キング』の前日談となる『ライオン・キング:ムファサ』が劇場公開中ですが、やはり日本のアニメファンをざわつかせているようです。『ライオン・キング』のシンバの父・ムファサと叔父・スカーの若き日のエピソードが中心となっているのですが、ムファサたちに襲いかかる冷酷な悪役・キロスが、ホワイトライオンなんですよ。
白いライオンといえば、『ジャングル大帝』を知っている世代と西武ライオンズのファンは、やっぱりレオを思い浮かべます。『ライオン・キング:ムファサ』に参加したクリエイターたちは、当然『ジャングル大帝』の騒ぎを知った上で参加しているわけです。「ホワイトライオンをヴィランにするのはやめましょう」と諫言するディズニー社員はいなかったんですかね。
近年のディズニーがポリコレを尊重し、多様性のある社会であることを主張しているのは大変結構なことですが、どうもそうした発言はファン向けではなく、株主たちに向けたアピールにしか聞こえないのは自分だけなんでしょうか。
日本のアニメーターたちが見習うべき点
そんなディズニーですが、ひとつだけ学ぶべき点があるように思います。日本のアニメーターは薄給で知られ、動画担当者は平均年収が111万円程度だそうです。平均ってことは、年収100万円に届かない人も大勢いるわけです。あまりに貧しく、仕事に追われ続けるために、「デジタル作画を勉強することができない」という嘆きの声もあるようです。
現代の奴隷社会のような日本のアニメ界に対し、ディズニーのアニメーターの年収は1000万円以上あるそうです。もちろん、腕利きのアニメーターたちばかりだと思いますが、年収1000万円以上は夢があります。きちんと仕事をしたスタッフには、充分な対価を支払う。これは日本の映画界、エンタメ界も見習ってほしいところです。
日本ではいくらアニメ作品がヒットしても、潤うのは放送局、出版社、大手アニメ制作会社といった「製作委員会」に名前を連ねた大企業ばかりです。下請けのアニメーターたちに利潤が還元されることはありません。
日本のアニメーターたちも、奴隷制度のような現状に我慢せずに、ライオンのごとく吠えまくるべきなんじゃないですかね。
(文=映画ゾンビ・バブ)