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ドナルド・トランプはいかにしてドナルド・トランプになったのか? 映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』

ドナルド・トランプはいかにしてドナルド・トランプになったのか? 映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』の画像1
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』より

 1月20日、ドナルド・トランプが第47代アメリカ大統領に就任する。

 132年ぶりとなる“大統領への返り咲き”もさることながら、これほど一方では激しく非難されながら、一方では熱く支持されている大統領も珍しいだろう。

 任期就任前からイーロン・マスクの閣僚起用を発表したり、就任後直ちにウクライナとロシアを停戦させると宣言するなど、早くも世界をざわつかせているトランプ氏。

 2021年の連邦議会議事堂襲撃事件では、熱狂的なトランプ支持者を煽るような言動を行い、選挙で不正が行われていると主張、さらには不倫相手に口止め料を払ったなどの罪状で有罪になるなど、おおよそ大統領経験者としては前代未聞の行状を繰り広げながら、それでもアメリカ国民の少なくとも半分の心はガッチリ掴んでいる。

 かくいう筆者もニュースや報道番組でトランプ氏が出てくると、ついつい見入ってしまう自分がいる。一体ドナルド・トランプという人物の魅力はどこから来るのだろうか?

 そんな折も折、トランプ氏の大統領就任3日前の1月17日公開という絶妙なタイミングで、ドナルド・トランプはいかにしてドナルド・トランプになったかを暴き出す映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』が公開される。映画制作時にはトランプ氏が大統領に就任するかまだ未知数だったはずだが、結果的にトランプが当選したことで、本作はより注目される作品となった。

 近頃は、グリーンランドの領有を主張し、そのためには軍事的行動も辞さないとか、カナダをアメリカの51番目の州にするなど、ますますその言動が過激さを増しているトランプ。1期目よりもさらに辣腕さを増しそうなトランプのもとで、世界は力こそすべての混乱の時代に逆戻りしてしまうのかもしれない、と戦慄する一方で、ついトランプに期待してしまう人々も決して少なくないのではないか。

 最近のリベラルな為政者の理想主義では、結局世界はうまく機能しなかったではないか、それよりも、世界に必要なのはトランプのような指導者ではないか。プーチンや習近平、金正恩などと対等に伍していけるのはトランプくらいなのではないか……。近頃の世界情勢を見るに、そんな思いに捉われそうになるのも、無理はないのかもしれない。

トランプの礎を作った“教え”とは

ドナルド・トランプはいかにしてドナルド・トランプになったのか? 映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』の画像2
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』より

 この映画に登場するのは20代の若きドナルド・トランプ。不動産業を営む父の会社が訴えられ、ピンチに陥った彼は、高級クラブで悪名高きやり手弁護士、ロイ・コーンと出会う。

 その時点でのトランプは、飲めない酒をコーンに飲まされて困惑するなど、まだまだナイーブなお坊ちゃんという雰囲気。そのトランプが、コーンから大物になるための教え〈勝つための3つのルール〉を教わり、やがてコーンをもしのぐ傲慢な大物に変貌していく。

そのルールとは、
ルール1 攻撃、攻撃、攻撃
ルール2 非を絶対に認めるな
ルール3 勝利を主張し続けろ

の3つ。

 映画の中でコーンとトランプの師弟関係はやがて終わりを迎えるが、トランプが今もこのルールを守り続けていることに、観客はすぐに気づくだろう。どんなに間違っていても絶対に非を認めない、謝らない。絶対的な自信で主張しているうちに、やがて世界が彼に騙されていく――。すでに我々は完全にトランプの手中にあるのかもしれない。

 映画の中で、トランプが最初の妻、イヴァナと結婚する時、コーンから結婚するなら結婚相手と契約書を交わさないとダメだと言われ、契約に臨むトランプとイヴァナ。分厚い契約書にイヴァナは不機嫌になり、「離婚の際にはあげたプレゼントは返却すること」という条項を見て怒り出すシーンがある。

 結婚相手すら信用しきれず、契約書で縛ろうとする、そんなトランプの生き様がコーンの教えに基づいたものだとしたら、その生き方はトランプの政治にどんな影響をもたらしているのだろうかと考えてしまう。いや、もしかしたら常に契約に基づいて行動するというのは、政治家としてはむしろまともなのか……? 

 よくわからなくなってくる一方で、この映画のトランプは、どこか憎みきれない人間くささもあるのも事実だ。トランプの本質が強大な権力を持った子どものようなものだったら、破壊をもたらす悪人だった場合よりはまだましである。とにかく、来る4年間で、これ以上の大きな戦争が起こらないことを祈るばかりだ。

ドナルド・トランプはいかにしてドナルド・トランプになったのか? 映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』の画像3
『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』より

 また本作は、80年代ニューヨークのセレブたちのファッションやライフスタイルも見ていて楽しく、また、セバスチャン・スタン演じる若きトランプのそっくりぶり、マリア・バカローヴァ演じるトランプの最初の妻、イヴァナとの感情のぶつかり合い、そしてジェレミー・ストロング演じる辣腕弁護士ロイ・コーンのこわもてぶりも見応えがある。監督はイラン出身で、イスラム圏でのタブーに迫った『聖地には蜘蛛が巣を張る』で注目されたアリ・アッバシ。アメリカ大統領の若き日を扱った本作を、あえてアメリカ出身ではない、異なる文化圏の出身である監督が描いているのも面白い。トランプ大統領のもとでますます混沌としていくであろう2025年の世界情勢に備えるために、トランプが好きな人も嫌いな人も、この映画を見ておくべきだ。

(文=里中高志)

『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』
2025年1月17日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

監督:アリ・アッバシ
脚本:ガブリエル・シャーマン
出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング、マリア・バカローヴァ、マーティン・ドノヴァン
配給:キノフィルムズ

公式サイト: https://www.trump-movie.jp
公式X:https://x.com/trump_movie_JP

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里中高志

フリージャーナリスト。1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、週刊誌記者などをしながら、大正大学大学院宗教学科修了。精神障害者のための地域活動支援センターで働き、精神保健福祉士の資格を取得。メンタルヘルス、宗教などのほか、さまざまな分野で取材、執筆活動を行う。著書に『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)、『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社) がある。

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最終更新:2025/01/17 20:07