『ハリー・ポッターと謎のプリンス』 米国で焚書処分にも遭った大ベストセラー
ホグワーツ魔法学校に通う3人の少年少女の友情と成長を描いた英国のファンタジー小説と言えば、「ハリー・ポッター」シリーズです。1997年にシリーズ第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』が刊行されて以降、全7巻とも世界的な大ベストセラーとなり、書店に新刊を買い求める人たちが殺到したことが懐かしく感じらます。
2001年からはワーナー・ブラザース社で映画化され、こちらも軒並み大ヒット。ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンが本当にかわいかったですね。1作ごとに3人が大きくなっていくのを、親戚のおじさんのように温かく見守ったものです。
1月17日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、シリーズ第6弾となった『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2009年)を30分の放送枠拡大でオンエアします。「ハリー・ポッター」シリーズは、なぜゆえ社会現象級の大ヒットになったのかを考察してみたいと思います。
『鬼滅の刃』『呪術廻戦』もハリーの魔法から生まれた?
家庭に恵まれない男の子が、実は魔法使いとして突出した能力を持っており、入学した魔法学校で大活躍。友情も育み、さらには両親を殺した宿敵・ヴォルテモート卿と対決することに……。古典的物語の定番とも言える「貴種流離譚」と、「週刊少年ジャンプ」(集英社)の黄金則「努力・友情・勝利」を組み合わせたような鉄板系のストーリーです。設定だけを見ると、キン肉星のダメ王子を主人公にした『キン肉マン』にも少し似ています。
第1作『賢者の石』では、ロンドンのキングス・クロス駅からホグワーツ特急列車に乗って、ハリーたちは魔法学校へと向かいます。現実世界からファンタジー世界への、このふわっとした入り方が『ハリー・ポッター』の大きな魅力でしょう。『指輪物語』のようなガチなファンタジー作品にはハードルの高さを感じた人でも、『ハリー・ポッター』の世界にはふわっと入ることができたわけです。
主人公が現実世界と非現実世界を自在に行き来するというパターンは、今ではすっかりファンタジーものの主流となっています。呪術学校を舞台にした学園ホラーファンタジー『呪術廻戦』、主人公が仲間と共闘して家族を殺した鬼舞辻無惨と戦うダークファンタジー『鬼滅の刃』など、日本の人気漫画の多くも『ハリー・ポッター』から影響を受けています。
映画版のシリーズ化が始まった2000年代はCG技術が普及し、ファンタジー作品が企画されやすい土壌が整っていました。架空のスポーツ「クィディッチ」の空中戦などは、CG技術がなければ不可能な描写だったはずです。
また、子どもたちだけでなく、大人も『ハリー・ポッター』の世界に引き込まれたのは、昔ながらの寄宿学校が舞台になっていたからだと言われています。伝統的な文化を愛する英国人にとって、寄宿学校でスネイプ先生のような嫌味な教員にめげることなくハリーたちが青春をエンジョイする姿は、ノスタルジーを掻き立てられるものがあったようです。
日本でも高度経済成長期の変わりゆく東京の様子をCGで再現した山崎貴監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)が大ヒットして、シリーズ化されました。CG技術と人間の持つ郷愁という感情は、意外と親和性が高いのかもしれません。
批判する声も少なからずありました。キリスト教原理主義者の一部は『ハリー・ポッター』が魔法使いや魔術を肯定的に描いていると、図書館での貸し出しを制限させるなどの禁書運動を起こしています。米国のニューメキシコ州の教会では、焚書イベントも行われたそうです。頭のカチカチな人は、どの時代のどの国にもいるようです。
対決を前に、「恋愛」で盛り上がるハリーたち
ハリー(ダニエル・ラドクリフ)、ロン(ルパート・グリント)、ハーマイオニー(エマ・ワトソン)がすっかり大きくなった『謎のプリンス』はこんなストーリーです。ハリーたちは魔法学校の6年生に。思春期真っただ中の16歳です。ハリーたちの日常生活は「恋愛」が大きなウエイトを占めています。魔法は使えても、人の心を操ることは魔法学校の生徒でも簡単ではないようです。ハリーはロンの妹・ジニー(ボニー・ライト)と急接近。ロンもハーマイオニーといいムードになります。
一方、ダンブルドア校長(マイケル・ガンボン)は、闇の帝王・ヴォルテモート卿との対決の準備に追われています。ヴォルテモート卿の若き日の秘密を暴くために、退職していた魔法薬学の教師・ホラス(ジム・ブロードベント)を呼び戻すのでした。ホラスからハリーが借りた魔法薬学の本には「半純血のプリンス」と署名されており、さまざまな呪文も書き加えられていました。この本のおかげで、ハリーは好成績を残すことに。ハリーは「半純血のプリンス」に興味を抱くようになります。
はたして「半純血のプリンス」とは何者なのか? 1月24日(金)、31日(金)放送のシリーズ最終作『ハリー・ポッターと死の秘宝』二部作(2010年)に直結する内容となっています。
同じクラスにエマ・ワトソンみたいな美少女がいれば、そりゃ学校生活は大いに盛り上がるでしょう。体育祭も文化祭も、あらゆる男子が張り切るはずです。ときめきのない中学・高校時代を過ごした自分は、ハリーたちの学園生活が眩しくて仕方ありません。
こんな憧れのクラスメイトがいればなぁ、勉強も運動もできないダメ人間でも活躍できる世界があればなぁ……なんて妄想に駆り立てる魔力が、『ハリー・ポッター』のいちばんの魅力なんじゃないですかね。
(文=映画ゾンビ・バブ)