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政治・人種・ジェンダー・宗教…タブーに迫り笑いにする、日本にはない米テレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ』

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政治・人種・ジェンダー・宗教…タブーに迫り笑いにする、日本にはないテレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の画像1
『サタデー・ナイト・ライブ』1975-84シーズンからの静止画/NBC Television(写真:Getty Imagesより)

 米国の人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』(SNL)には観るたびに度肝を抜かれる。1月18日の放送では、ロサンゼルスの山火事を早くもパロディにしていた。

 山火事が自宅に迫ったことを知り、家族で避難することを決めたところ、家主の男性が突然、鉈(なた)で居間の壁を壊し始める。妻が悲鳴を上げて止めに入るが、壁の中から現金がザクザクと出てくることに。

 避難するなら隠していた現金を持ち出さないわけにはいかない。そのうち、被災地を狙う強盗が侵入してきて、家族をナイフで脅す。家主は拳銃を取り出して強盗を撃ち殺すが、赤い血のりが周囲に飛び散る派手な演出で視聴者を笑わせた。

 ロサンゼルスを中心としたカリフォルニア州南部の山火事は1月7日に発生し、18日も燃え続いていた。死亡24人、住宅など建物焼失1万2000棟以上、約10万人が避難を余儀なくされている中での放送だった。日本では災害はコントのネタに到底ならないが、米国は違う。

燃え続けるロスの山火事も人種問題もコントのネタに

 『サタデー・ナイト・ライブ』は毎週土曜日の夜、米3大ネットワークの1つであるNBCが生放送している。毎回、大物ゲストを番組のホストに起用し、政治や時事、社会問題を中心に、コント仕立てで世の中を風刺する。人気アーティストによるライブショーもある。1975年にスタートして以来、高視聴率を弾き出し続け、今年で50年を迎えた。

 政治的な主義、主張が右だろうが左だろうが一切おかまいなしに批判する。人種、ジェンダー、宗教などのタブーに迫って笑いにする。これが長寿番組の基本姿勢だ。

 山火事のコントは、被害者の中には「超」がつくほどの富裕層がいて、ニュースを見ても素直に「気の毒だ」とは思えない米国庶民の感情を代弁している。簡単に強盗を撃ち殺してしまうのは、銃社会の現状を反映している。災害という悲劇の裏の、もうひとつの米国の実相を笑いで表現しているのだ。

 また、この日の別のネタには、アパートの仲間同士がバーベキューパーティーをしている設定のコントがあった。白人と黒人の男性が並んで座り、白人の男性が「これが、俺の部屋の隣に住んでいる黒人の〇〇さんです」と紹介すると、「黒人」と呼ばれた黒人男性は苦笑。すると白人男性は「おお、そうか。ごめん。アフリカン・アメリカンの〇〇さんです」と言い直し、再び黒人男性は苦笑するのだった。

 米国では、差別をなくすために「黒人」という言い方を避け、先祖の出身地を示した「アフリカン・アメリカン」という呼び方をすることが多くなった。企業や学校、行政、ニュースの現場など公共性の強い場所では、黒人を「アフリカン・アメリカン」と呼ぶのが当たり前になっている。

 しかし、白人を「白人」と言っておきながら、黒人だけ「黒人」を使わないようにするのはおかしいのではないかという意見は根強い。白人だけではなく当の黒人の中にも「黒人」と呼ばれることに抵抗がない市民も多い。

 「アフリカン・アメリカン」は、差別はなくならないのに、配慮したかのように呼び方だけ変える偽善的なネーミングであるとの考えは、広く米国民の中にある。今回のコントは、人種問題のすっきりしない部分を軽妙な演技で言い表していた。

 『サタデー・ナイト・ライブ』では、俳優が時の大統領に扮して、発言や言動を批判するのがお決まりのパターンだ。大統領だけではなく、連邦議会の大物議員らも「えじき」になる。

 チクリとやられた政治家が、真顔で『サタデー・ナイト・ライブ』を批判したりすれば、「たかがお笑いにムキになるとはなんだ」と国民から逆に批判される。度量の狭さを見せたくない政治家や企業経営者は『サタデー・ナイト・ライブ』を叩くようなことはしない。

 日本では、テレビには一切出演しない落語家が、強烈な政治、社会批判をして高座に質の違う笑いを提供しているが、政治家は寄席の落語家を批判したり、攻撃したりはしない。もし批判したら「落語や漫才にムキになる愚か者」とばかにされるからだ。

 しかし、日本の場合、寄席の辛らつな政治批判は、テレビでは絶対に放送されない。放送責任を問われてしまうからだ。日米の違いがくっきりと現れている。

やり過ぎると猛烈批判

 そんな『サタデー・ナイト・ライブ』だから、やり過ぎると後始末が大変だ。

 1988年10月の放送では、話題になり始めたヌーディストビーチについてのコントが演じられ、裸でいるという設定の男性俳優3人が性器の話で盛り上がった。放送後には、数万件にのぼる苦情がNBCに寄せられた。「ペニス」という言葉が放送で40回ほど使われ、これが視聴者の許容の範囲かどうかが論じられた。

 1992年10月の放送では、歌手のシニード・オコナー氏が聖職者による児童虐待スキャンダルに絡んでローマ法王の写真を破るパフォーマンスを見せ、「本当の敵と闘え」と叫んだ。カトリック教徒から非難が殺到し、オコナー氏はその後、NBCに出演できなくなった。

 2015年11月の放送回には、大統領選の選挙運動をスタートさせたドナルド・トランプ氏が出演している。移民への強硬政策に反発するグループなどがNBCに出演のキャンセルを迫り、番組は注目の的になった。トランプ氏は12分間出演し、放送回は直近4年で最高視聴率を記録したが、メディア評論家らからは酷評された。NBCは共和党のライバル候補からトランプ氏と同じだけの出演を要求され、系列局などが対応した。

 物議を醸すたびにNBCは厳しい対応を迫られるが、『サタデー・ナイト・ライブ』は人気番組として生き残っている。「言論の自由」を守るという制作サイドの気概があるからだ。

(文=言問通)

言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/01/25 14:00