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米国のテレビを「占拠」するリアリティショー 名誉もカネもついてくる

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 米国人の成人の80%が見ているといわれるリアリティショー。今や米国のテレビはリアリティショーに占拠されてしまった感がある。リアリティショーに出演しなければドナルド・トランプ氏は大統領になれなかっただろうし、キム・カーダシアン氏は18億ドル(約2800億円)もの資産を築けなかったはずだ。リアリティショーは社会に大きな影響を与える存在になった。米国ではなぜリアリティショーの人気が続くのか。

始まりは1940年代、70年代に出演者がゲイを告白した番組も

 米国のテレビ界の業界用語に「Scripted Series」と「Unscripted Series」というのがある。「Scripted Series」は台本が存在する番組シリーズのことで、代表格はドラマだ。これに対し「Unscripted Series」は台本が存在しない番組のことで、クイズ番組やトーク番組、リアリティショーのことをいう。

 最近はドラマの制作本数が年を追うごとに減り、台本がない番組が増えているが、ストリーミングを含めリアリティショーは新作が続々と発表され、長く続くリアリティショーも新シリーズを打ち出している。

 一言でリアリティショーといっても、ジャンルは多岐にわたる。家族や職場など限られたメンバーの生活ぶりを描くものや、厳しい自然環境での生き残りゲーム、恋人獲得合戦、素人をスターにさせるためのオーディション、シェフが登場して料理を競うものなど幅広い。

 ピューリッツァー賞受賞者でもある米国のテレビ評論家、エミリー・ナスバウム氏によると、米国のリアリティショーの起源は1940年代にさかのぼる。隠しカメラを設置して被写体の素直な表情を追う「Candid Camera(キャンディッド・カメラ)」は1948年にスタートした。2014年まで続いた長寿番組で、日本でいう「ドッキリカメラ」である。

 「家族もの」のはしりは、1973年に放送された「An American Family(アメリカン・ファミリー)」だ。意外にも米国の公共放送、PBSが放送した。カリフォルニア州の中流家庭の日々の生活を追っているが、長男がゲイであることを打ち明けて衝撃的な展開となる。テレビで同性愛者であることを公表した初めてのケースともいわれており、当時としてはかなり刺激的な内容だった。

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2000年から黄金期に「Survivor」は先駆者的存在

 2000年に「Survivor(サバイバー)」がスタートして、現在のリアリティショーブームが始まった。孤島や密林などに隔離された素人の参加者がサバイバル生活をして賞金を競う内容だ。スウェーデンのテレビシリーズを米CBSが発展させてヒット番組にした。現在も続くリアリティショーの「お化け番組」である。

 シーズン1の最終回は全米で520万人が視聴したといわれ、この年、この視聴者数を上回った番組はプロフットボールの王者を決めるスーパーボウルの中継だけだった。

 その後、続々とテレビ史上に名を残すリアリティショーがリリースされた。2002年には結婚相手を探す「The Bachelor(バチェラー)」が始まり、同じ年、オーディション系の「American Idol(アメリカン・アイドル)」がスタートした。各地から歌の上手な素人が集まり、頂点をめざす。シリーズ1の優勝者は今や国民的歌手となったケリー・クラークソン氏だ。フォックスからABCに放送が映り、現在も続いている。

 ドナルド・トランプ氏が出演した「The Apprentice(アプレンティス)」は2004年にスタートした。素人の番組出演者は、見習いとして働き、トランプ氏の会社の本採用をめざす。失敗すると「You’re Fired(お前はクビだ)」とトランプ氏に通告される。

 「家族もの」の代表作品である「Keeping Up with the Kardashians(カーダシアン家のお騒がせセレブライフ)」は2007年に始まり2021年まで続いた。キム・カーダシアン氏と姉、妹の3姉妹を中心に繰り広げられる家族の生活ぶりを描いた。番組でプライバシーをさらけ出したことでカーダシアン家のメンバーはセレブと呼ばれる「億万長者」になった。

柱は「愛」「家族」「野心」 ねたみ、そねみをのぞき見る

 表現形態は違うにせよ、リアリティーショーの柱は「愛」「家族」「野心」だ。「家族もの」では家族のけんか、夫婦の離婚などをそのまま見せて、視聴者に「あいつはいやなやつだ」「こっちの方が正しい」などとあれこれ思わせて、見せる。ねたみやそねみを外から観察することが楽しいのである。

 2010年スタートで上流階級の専業主婦の生活を描いた「The Real Housewives(リアルハウスワイフ)」や2019年に始まった不動産会社内の人間関係を描いた「Selling Sunset(セリング・サンセット)」は、家族ではないが親密な関係の人間たちの友情と確執をさらけ出し、人気となっている。

 ソーシャルメディアの発展も同様だが、他人の生活を遠くからのぞき見ることが好きな人間は多い。作家が執筆した台本よりも、リアルなけんかの方が驚きが多く、のぞき見心理を増幅させる。

 新型コロナの感染拡大で社会との関係が希薄になったことも、リアリティショーへの関心を高めさせた。

 庶民には接触する機会がない富裕層がどんな生活をしているのか、ということも、競争社会の米国ではことさらに好奇心をそそられる。

 また米国の場合、人種をはじめ生活環境が多岐にわたっている。敬けんなユダヤ教徒の生活から逃れようとするユダヤ人家族の苦悩や喜びを描いた作品や、夫や息子がマフィアがらみで逮捕されて刑に服している家庭の主婦だけを取り上げた作品など、日本では考えられない設定のリアリティショーもある。社会の多様性がリアリティショーへの視聴者の関心を強めている。

 一方で制作する側の理屈からすると、費用が安く済むのが最大の利点だ。このためリアリティショーの制作本数が増える。ある業界関係者によると、ドラマの1シリーズを制作するのに、多い場合は、俳優らの出演料を含め900万ドル(約13億円)ほどかかる場合があるが、リアリティショーは1シリーズで10万ドル(約1600万円)から50万ドル(約7800万円)程度で制作できるという。

 リアリティショーへの出演で、社会からたたかれた出演者が自殺するケースや、制作会社側が出演者から裁判を起こされることもある。それでもリアリティショーの「歯車」を懸命に回し続けるのは、「安くておいしい」からのようだ。

(文=言問通)

言問通

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆。

最終更新:2025/02/03 09:00