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GACKT、三池監督が“蒼き若者”だった日々を語る 青春アクション映画『BLUE FIGHT』クロストーク

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新作『BLUE FIGHT』の公開を控えた三池崇史監督(画像左)とGACKT(写真:宇佐美亮)

 マルチアーティストのGACKTとバイオレンス映画の巨匠・三池崇史監督が初タッグを組んだ映画『BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~』の公開が迫っている。総合格闘家、YouTuberとして人気の朝倉未来の自伝『路上の伝説』(KADOKAWA)にインスパイアされ、『金田一少年の事件簿』の原作者・樹林伸が脚本化。2000人を超えるオーディションから選ばれた新人の木下暖日、吉澤要人がダブル主演しているヤンキー系青春アクション映画だ。

 少年院で出会った不良少年のイクト(木下暖日)とリョーマ(吉澤要人)は、少年院を訪問した朝倉未来の「夢は叶う」というスピーチに感激。出院した2人は、朝倉が主催する格闘技イベント「ブレイキングダウン」出場を目指し、トレーニングに打ち込むことに。本作のエグゼクティブプロデューサーも務める朝倉をはじめとするリアルな格闘家たちが大挙出演。さらに三池監督の大ヒット作『クローズZERO』(2007年)、『クローズZERO II』(2009年)のキャストが意外な役で登場しているのも話題だ。

 GACKTはイクトたちの前に立ち塞がるラスボス・御堂静を演じ、格闘技仕様の研ぎ澄まされたボディと狂乱ファイトでクライマックスを盛り上げている。『翔んで埼玉』二部作(2019年、2023年)とは異なる顔を見せたGACKT、彼の狂気性を大いに引き出した三池監督に、撮影の舞台裏とそれぞれの青春時代を語ってもらった。

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「ブレイキングダウン」の発起人であり、格闘家の朝倉未来が本人役で出演。

映画界の常識を崩してしまいたかった

 人気沸騰中の格闘技イベント「ブレイキングダウン」のCOO(最高執行責任者)でもある溝口勇児エグゼクティブプロデューサーから出演オファーを受けた際、GACKTサイドは一度断っている。だが、再オファーを受けてGACKTは出演を決めた。その間、何があったのか。出演決定の経緯からまず切り出してもらった。

GACKT 断ったのは、ボクじゃない。事務所ですよ。単純にスケジュールが合わなかったから。企画はボクも聞いていました。ボクは三池さんが大好きなので、スケジュールさえ合えば出たいよねと話していました。それで溝口くんが「少し話しませんか?」と言うので、「じゃあ少し話しましょうか」と向かったところ、三池さんをはじめスタッフがばーんとそろって待っていた。あれ、これってもしかして断れない状況か?と(笑)。

三池 今回の映画は新人ばかり。主演の木下暖日なんか、この映画に出るまではただの高校生でした。でも、映画って新人を育てて、新しい作品をつくることをずっとやってきたのに、近年はそうしたことをやらなくなってしまった。今の映画界のそんな常識を、若いキャストたちと共に崩してしまおうと。それには若いキャストたちが立ち向かう大きな壁として、GACKTさんしかいないと思ったんです。映画を制作する我々にとっても、GACKTさんは自分の美学を持っている、ハードルの高い存在。我々もぶつかっていくしかなかった。それで、力を貸してほしいとお願いしたわけです。

GACKT ボクの役がすでに決まっている前提で、話がどんどん進んでいくんですよ(笑)。でも、三池さんとはご一緒したいと以前から伝えていたので、スケジュールを動かしてみますと返事をしたんです。

三池 最後に「わかりました。ボクでよければやりますよ」とGACKTさんは約束してくれた。帰り際、スタッフみんなで「くぅ~。GACKT、かっこいい!」と(笑)。それ以来、自分も決めたことがあるんです。「5年後にGACKTになる」と会う人ごとに伝えています。1日1食しか摂らないと聞いて、もう挫けそうになっていますけど。でも、夢があるじゃないですか。64歳になる男が、GACKTを目指すなんて(笑)。

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三池監督が撮った『クローズZERO』は格闘家たちにも人気が高い(写真:宇佐美亮)

いい意味での「荒さ」が三池作品にはある

 GACKTの男気に、三池監督はゾッコンのようだ。ちなみにGACKTは、三池作品のどこに魅力を感じていたのだろうか?

GACKT 今回、撮影を体験して分かったことですが、三池さんはその場その場でパパパッと決めていくんです。カメラ割りとか構成とか。ボクの好きな三池作品の特徴です。アクションって、本来は段取りを重視して、事前に練習を積み上げていくことが多い。でも、三池さんはそうじゃない。いい意味での「荒さ」があるんです。その「荒さ」を三池さんはとても大事にしている。

 最近のアクションって、二次元が入っているじゃないですか。ゲームや二次元の世界寄りになってしまっている。でも、三池さんの作品はリアルなんですよ。アクションを主体に見せるのではなく、アクションを通してその人の感情を見せる。殴られるほうだけじゃなく、殴るほうの痛みもちゃんと伝わってくる。それが本来のアクションだと思うんです。だから、三池さんの現場は、やってて楽しいですよ。もしかしたら時流とは逆行しているかもしれない。でも、よりリアルなものを大切にしようとする三池さんの姿勢には、心を打たれるものがあります。

三池 GACKTを怪我させちゃいけないと、普通は考えるかもしれないけど、自分の場合は違いましたね。「GACKTがこのくらいで怪我するはずがない」と(笑)。まぁ、これまで数多くのアクションものを撮ってきて、キャストもスタントも含めて、その人の人生を変えてしまうほどの大きなトラブルは起こさずにきています。ただ、直感的な勘が働くことはあります。本番に入る直前に、「いや、待て」と。それはアクションの手を変えるということではなく、その人のモチベーションが何かのきっかけで弱っている感じがした際に、またイチから説明し直して、テンションを再度上げてもらうんです。

 現場のバランスが崩れていると、非常に危険なんです。今回のキャストは、演技経験も肉体のレベルもみんなバラバラの状態。プロの格闘家でもなく、ただの不良で、場数を踏んでいるかどうかの違いだけ。きれいな立ち回りになるはずがない。劣っているほうに気合を入れてもらうことでしか調和できないんです。芝居と同じで、バランスは大事です。

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さまざまな格闘技をマスターしてきたGACKT(撮影:宇佐美亮)

撮影前に犬歯を削ったGACKT

 半グレ集団を率いる御堂静を演じるにあたり、GACKTは「危ない自分の素を出そう」と考えたそうだ。撮影前には犬歯を磨いて、尖らせたと言う。往年のプロレスラー、フレッド・ブラッシーのようにヤスリで磨いたのだろうか?

GACKT いや、違います。お抱えのデンタリストがいるので、「こういうキャラなんだけど」と説明した上で、犬歯を磨いてもらったんです。普通、人が笑うとみんな幸せを感じるじゃないですか。でも、御堂静が笑うと周囲は「怖い」と感じるようなキャラじゃないとダメだと。アルカイックスマイルが似合う、人間っぽくないキャラにしたいなと。

三池 GACKTが自分で犬歯を磨いていたら、おかしいよね(笑)。でも、彼のすごいところは、削った歯をこれみよがしには見せないんです。ごく普通に自分の芝居をしてみせた。だから、こちらもことさら歯を強調するようなカメラアングルにはしていません。自分から「歯を削ったので、カメラで撮ってくれ」と頼むのが当たり前なのに、そうしないところがまたGACKTらしいなと思いましたね。

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御堂静(GACKT)は、最凶の半グレ集団「クリシュナ」を率いる冷血非道な男

「2度とアイツには関わりたくない」

 ミュージシャン、俳優として活躍するGACKTだが、幼少のころから空手を学び、芸能界入りしてからもトレーニングを続け、有名格闘家たちとスパーリングしてきたことが知られている。GACKTの自伝『自白』(光文社)などの著書を読むと、16歳のときには13人を相手に乱闘を繰り広げたなどのヤンチャ体験が記されている。三池監督もラグビーの超強豪校として知られた大阪工大高校(現・常翔学園高校)出身だけに、リアルクローズ体験がありそうだ。それぞれ本人の口から語ってもらおう。

GACKT あのころのボクは、頭がおかしかった(苦笑)。13人を相手にしたときは、倒しても倒しても、復活してくる。今でいう『ウォーキング・デッド』状態で。それで最終的にはボコボコにされました。骨は折れるし、熱は出るし、顔も腫れ上がって。悔しくて2週間ほど眠れませんでした。どうやって復讐するかだけを、ずっと考えてました。やった、やられたを繰り返すのは面倒くさいので、「2度とアイツには関わりたくない」と思わせるまで、一人ずつ徹底的にやりました。本当にどうかしてたんですよ、あのころは。

三池 自分はラグビー推薦で大阪工大高に入りましたが、ラグビー部はすぐに辞めて、もっぱらパチンコかバイクでしたね。リアルクローズだったのは、むしろ中学時代。地元では八尾中学は有名でしたし、当時はいちばん荒れていた時期でした。

 自分は気が弱くて不良にはなれなかったけど、一学年上や二学年上の不良は同じ人間とは思えなかった。僕が不良ものを撮るときは、中1だった自分の目線から、不良だった上級生たちを描いているんです。『クローズZERO』などは、不良たちへの憧れの世界。それでどんなヘタレでも、かっこいい瞬間を描きたいと思うんです。強い弱いではなく、そいつ自身の貫いているものがあるかどうか。でも、彼らもやがて成長して、大人となり、別の人生が始まることになる。今回の若いキャストたちもそう。数年後には自分で食べていかなくちゃいけなくなる。そんな彼らが思いっきり暴れる姿に、喜びとせつなさを感じて、応援したくなるんです。

GACKT 若いキャストはみんな真っ直ぐですよ。何とかしてやろうと、懸命にチャレンジしている。自分が10代のころは死の衝動に駆られて、でも人間はこんなことじゃ死なないんだという感覚で生きていた。なので、彼らと自分を比べるのもおこがましい。本当に若いころの自分はただ病んでいただけで。劇中のボクがもし楽しそうにしているように見えたのなら、それは彼らが羨ましく感じられたからでしょうね。骨を折ってまでも立ち向かうなんて、そんな彼らの一生懸命さは羨ましいですよ。

  今も毎日2時間のトレーニングは欠かさないというGACKT。事務所のスタッフとも、一度はグローブを持たせてスパーリングをするという。殴り合った者同士でないと信頼できないということだろうか?

GACKT いや、スパーリングすると分かるんですよ、どんな人間なのか。こいつはすぐ逃げる、とか、立ち向かうタイプだ、とか。殴り合いうんぬんではないんです。

三池 すごいなぁ(笑)。

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木下暖日(画像中央)、吉澤要人(左端)ら新人キャストが抜擢された

アジア人はみんなアクション映画が大好き

 GACKTは表現者とは別に、実業家としての顔も持っている。『翔んで埼玉』二部作を主演俳優として大ヒットさせたGACKTだが、彼の目には今の日本映画界はどう映っているのだろうか?

GACKT 日本映画だけの問題じゃないですけど、パイがどんどん小さくなっている。世界を見据えてマーケットを大きくしていかないと、これからビジネスとしてはますます厳しくなるだろうなと。今は映画もドラマも、どんどん制作費が圧縮されている。でも、映画はオワコンになったわけじゃない。観たいと思っている人はたくさんいます。ただ、娯楽の数が多くなったので、映画の存在感が失われてしまっているのが現状です。

 ボクは今、マレーシアで暮らしているんですが、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナム……、アジアの人たちは今回の『BLUE FIGHT』みたいなアクション映画が大好きですよ。欧米はまたちょっと違う文化。何かあれば、すぐに銃を出す。一対一で闘う美学もない。日本だとよく「殺すぞ」と口にするけど、実際には殺さない。それって、面白いなぁと思うんです。多くのアジア人に共通する感覚ってあるんですよ。韓国の映画界は25年前から海外輸出に取り組んで、世界的に成功していますよね。中国も含め、アジア全体という大きなマーケットを狙わないと、突破口は開けない。ボクはそこを本気で目指すべきだと思います。

三池 彼はこれからますます輝きを増し、日本の映画界に欠かせない存在になっていくはずです。映画を撮りながら、そのことを感じました。もちろん、これからも自分が撮る映画に出てほしいけど、「この役をGACKTに引き受けてもらえると助かるなぁ」という起用の仕方ではなく、GACKTにしかできないキャラクターのときにお願いしたい。その際に、彼に響くものがあるかどうかでしょうね。自分もこの年齢になると角が取れてくるんですが、GACKTのようにエッジを立てて生きている人間たちと出会え、仕事ができることはすごく楽しいですよ。

(取材・文=長野辰次 撮影=宇佐美亮)

 

『BLUE FIGHT ~蒼き若者たちのブレイキングダウン~』
監督/三池崇史 脚本/樹林伸 音楽/遠藤浩二 
エグゼクティブプロデューサー/朝倉未来、溝口勇児
出演/木下暖日、吉澤要人、篠田麻里子、土屋アンナ、久遠親、やべきょうすけ、一ノ瀬ワタル、加藤小夏、仲野温、カルマ、中山翔貴、せーや、真田理希、大平修蔵、田中美久、金子ノブアキ、寺島進、高橋克典、GACKT
配給/ギャガ、YOAKE FILM 1月31日(金)より全国ロードショー
(c)2024 YOAKE FILM / BACKSTAGE
https://bluefight.jp/

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GACKT(写真:宇佐美亮)

GACKT
沖縄県出身。ビジュアル系バンド「MALICE MIZER」の2代目ボーカルを経て、ソロアーティストに。NHK大河ドラマ『風林火山』での上杉謙信役のほか、主な出演作に『MOON CHILD』(2003年)、『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』(2009年)、『BUNRAKU』(2010年)、『翔んで埼玉』(2019年)、『翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて』(2023年)など。2025年1月4日に放映された三池監督の演出作『新・暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)では徳川宗春を演じて話題に。

 

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三池崇史(写真:宇佐美亮)

三池崇史
大阪府出身。横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)で学び、ビデオ映画『突風!ミニパト隊』(1991年)で監督デビュー。監督作に『オーディション』(2000年)、『殺し屋1』(2001年)、『クローズZERO』(2007年)、『ヤッターマン』(2009年)、『十三人の刺客』(2010年)、『悪の教典』(2012年)、『初恋』(2020年)、『怪物の木こり』(2023年)ほか多数。『極道恐怖劇場 牛頭』(2003年)はVシネマながらカンヌ国際映画祭で上映されるなど、海外での人気も高い。

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(写真:宇佐美亮)

長野辰次

映画ライター。『キネマ旬報』『映画秘宝』などで執筆。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

長野辰次
最終更新:2025/01/31 09:36