『バック・トゥ・ザ・フューチャー2 』は“トランプ大統領がモデルのビフ”が主人公か
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冗談が現実になった世界、それがSFコメディ映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』(1989年)です。ロバート・ゼメキス監督が撮った『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)が大ヒットしたことから、『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3 』(1990年)と同時に制作されています。第1作のDVD発売時、ラストシーンに「TO BE CONTINUED」とジョークで入れたところ、あまりの反響に実際に制作することになった……がファンの間では定説となっています。実際はDVD発売前にシリーズ化は決まっていたそうですが、こうした冗談めいた逸話が残るのも人気シリーズだからこそでしょう。
先週オンエアされた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に続き、2月14日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2 』を放送します。マーティ役に起用された宮野真守の吹き替えの評判もまずまずのようです。
高校生のマーティ(マイケル・J・フォックス)が、天才科学者のドク(クリストファー・ロイド)の発明したデロリアン型のタイムマシンに乗って時間旅行するシリーズ第2弾。第1作では現在(1985年)から過去(1955年)へタイムトリップしたマーティたちですが、PART2では未来へと向かいます。まぁ、未来といっても「2015年」という設定なので、2025年現在からは10年前になってしまいました。そのため、いろいろとツッコミどころのある内容になっています。
ノストラダムスもびっくり、PART2は予言書だった!?
PART2で2015年にやってきたマーティは、メジャーリーグのカブスがマイアミを破ってワールドシリーズを制したと知り、びっくりします。シカゴ・カブスは「ヤギの呪い」によって1908年以来、ワールドシリーズに優勝できずにいるという都市伝説がありました。その「ヤギの呪い」が解け、107年ぶりに優勝したことに、マーティは驚いたわけです。現実世界のシカゴ・カブスは2016年にワールドシリーズを制覇し、1年遅れですがPART2の予言を実現しています。
マイアミにメジャーリーグの球団があることにもマーティは驚きますが、マイアミ・マーリンズの前身となるフロリダ・マーリンズが誕生したのは1993年。PART2公開の3年後でした。
スティーブン・スピルバーグ監督の人気作『ジョーズ』(1975年)が延々とシリーズ化され続けることも、PART2ではネタになっています。スピルバーグJr.監督作ではありませんが、サメ映画は今も大人気で、毎年のように新作が公開されています。数々の予言が当たっていることに、驚かずにはいられません。
逆に予想が外れたのは、日本企業による米国支配です。2015年のマーティは、日本企業に勤めているなど、バブル期の日本企業の米国進出にハリウッドの映画関係者たちは戦々恐々だったことが偲ばれます。
成功のためには手段を選ばない男
第1作で1955年を訪れたマーティは、1980年代にはロナルド・レーガンが大統領になっていると告げても、その時代のドクには信じてもらえません。1950年代のロナルド・レーガンは西部劇などに出ていた大根役者だったからです。俳優業がパッとせずに政界に転じたところ、俳優としての知名度と見栄えのよさ、一般大衆が好みそうな公約を掲げたことから、あれよあれよという間に大統領選に勝利したわけです。ギャグと現実が入り乱れるおかしさが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の世界にはあります。
そして、主人公のマーティ以上にPART2でクローズアップされるのは、悪役のビフ・タネン(トーマス・F・ウィルソン)です。2015年のビフは大資産家になっています。金髪かつ大柄で、成金趣味のビフのモデルになったのは、現在のドナルド・トランプ大統領です。ビフが所有する「カジノ・パレス」も、トランプ大統領が「不動産王」と呼ばれていた1983年に建てた「トランプタワー」にそっくりです。
1980年代、父親の不動産会社を継いだ若き日のトランプ大統領は、課税をうまく逃れながらマンハッタンの再開発に成功し、賛否両論ながらもマスコミの寵児となっていました。そんなイケイケな時代のトランプ大統領をモデルにしたコメディが『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』であり、より生々しく当時のトランプ大統領の実像に迫っているのが現在公開中の実話系映画『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』です。
米国のアカデミー賞では主演のセバスチャン・スタン、助演のジェレミー・ストロングがノミネートされている話題作『アプレンティス』では、悪徳弁護士ロイ・コーンという裏技師と手を組むことで若き日のドナルド・トランプが実業界の覇者となった衝撃的な実話が明かされています。
同じように『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』のビフは、タイムマシンを悪用して財産を手に入れます。成功を収めるためには手段を選んではいられないという、現実世界のシビアさが『アプレンティス』と『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』では共通して描かれています。
コメディ化してしまった現実社会
ロバート・ゼメキス監督も、まさかビフ・タネン、いやドナルド・トランプが大統領になるような未来が訪れるとは予測していなかったはずです。現実の米国社会そのものが、ジョークみたいな世界になってしまったようです。コメディ映画よりも、現実世界のほうがコメディ化してしまっているなんて、すごい時代になったなぁと思いますよ。まぁ、コメディというよりも、ホラー映画に近いかもしれません。
私利私欲に走る人間に政治家をさせるより、AI(人工知能)に任せたほうがマシではないかと考える人たちが、これから増えてくるんじゃないでしょうか。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『ターミネーター』(1984年)やキアヌ・リーヴス主演の『マトリックス』(1999年)みたいに、AIが支配する世界が現実に近づいているように思えます。
これ以上、悪い冗談が現実にならないよう、せつに願うばかりです。
文=映画ゾンビ・バブ