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科学未来館の人気展示、署名活動実らず廃棄へ…消えゆく文化施設たち

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科学未来館のエントランスにあるデジタル地球儀ジオ・コスモスは圧巻です(写真/GettyImagesより)

 日本科学未来館の「インターネット物理モデル」が、24年の展示を経て1月31日をもって公開終了となった。通常の展示が4年程度で変わる中、これほど長く残ったこと自体が異例だったものの、最終的には展示物の移設・保管はかなわず、廃棄となる予定だ。

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 千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館が一度は休館を発表し、その後作品数を4分の1程度に減らし東京都内に移転するという事例が大きな注目を集めているが近年、美術館や博物館の閉館が増えているという調査結果もある。

「インターネット物理モデル」も同様に、縮小する日本経済の影響を受けて、価値ある展示品がなくなってしまったのかーー。日本各地で同様の事例が起こっている中で、この件に関して、展示物廃棄の撤廃を求めた署名活動の発信者であるチカイケ秀夫氏に話を聞いた。

展示終了を知ったのは突然だった

ーー まず、そもそも「インターネット物理モデル」とはどのような展示だったのでしょうか?

チカイケ これは、インターネットの仕組みを視覚的に体験できる、という展示でした。0と1のデータを白と黒のボールに見立てて、ネットワークを通じてどのように情報がやりとりされるのかを物理的に表現するものでした。科学未来館の開館当初から設置されていて、本来は4年程度で新しい展示に入れ替わるはずでしたが、人気があったために例外的に長く残りました。

「インターネット物理モデル」とは…
世界中に普及し、一般の人々の生活に浸透したインターネット。情報が伝わるしくみをボールの流れで視覚化した展示です。
インターネットで情報が伝わるしくみを、白と黒のボールの動きで視覚化した展示です。白と黒のボールは、実際には目に見えない「0」と「1」の信号の代わりです。インターネットへ放った情報は、タワー(ネットワーク上のルーターに相当)を中継して、相手の端末に届きます。 2017年6月のリニューアルで、「文字」だけでなく「音」「動き」などの情報も扱えるようになりました。今日の社会で人や情報ばかりでなく、モノ、環境、サービスなどをもつなぐインターネットが、世界に開かれた重要なコミュニケーションツールであることもあらためて実感できます。
(参考URL:https://www.miraikan.jst.go.jp/exhibitions/future/internet

ーー それがなぜ今回、廃棄という決定に至ったのでしょうか?

チカイケ いくつかの理由があったと聞いています。まず、24年間使い続けたことで老朽化が進んでいたこと。もともと、開館当初の展示品は終了後に残す設計ではなく、基本的には廃棄する予定になっていたんですね。そして、科学未来館としても新しい展示へと切り替えていく流れがあったこと。さらに、移設や保管にかかる費用が大きな課題でした。

移設や保管にかかる数千万円の壁

ーー 移設や保管は検討されなかったのでしょうか?

チカイケ 実際には、移設や保管の可能性も探りました。しかし、未来館側の試算では「移設には数千万円かかる」とされていました。これは設置当初にかかった金額と同じで、単純にそのままのコストがかかるという計算でした。でも、現実的にはもっと安く済む可能性もあったと思います。

ーー本当にそんなに費用がかかるんですかね!? でも、費用が抑えられたとして移設先の候補はあったのですか?

チカイケ いくつかの場所で受け入れを検討してくださったところもありました。しかし、予算の問題や、未来館側の方針もあって、最終的に移設は実現しませんでした。

ーー チカイケさんが署名活動を始めたのはどんな経緯だったんですか?

チカイケ  私自身はもともと、そこまでこの展示に近しい関係があったわけではないんです。未来館の展示が好きで、物理モデルも何度も見ていました。それが2024年の10月頃に今回の展示終了の話を知人から聞きまして。すでに展示の撤去は決まっていましたが、何とか保存できないかというか最後の悪あがきをしようと、何かできないかなと署名活動を立ち上げたんです。

ーー 署名の目的はどのようなものだったのでしょうか?

チカイケ  多くの方が設立に関わったという展示ですが、関係者もすでに動いたあとだったのか、「長く展示したからしょうがないね」という感じでした。署名を始める段階ですでに、解体と廃棄が進んでいて、展示されたスケールのままでの移設はハードルが高かったため、「保全解体」と保管を目標にしました。そして、その次のフェーズとして、候補地を探して移設するというのを設定したんです。

「解体された一部分を残すのはどうか」という提案をしたんですが、それも叶うことがありませんでした。

ーー 署名活動の結果、どのような反応がありましたか?

チカイケ 科学未来館には、最終的に727名の署名を提出しました。多くの方が関心を持ってくださり、応援の声もいただきました。お伝えした通り、署名が間に合ったかどうかというと正直、タイミングとしては厳しかったです。ただ、その署名を提出したりすることで、知らぬ間になくなってしまうはずの展示になにがあったのかを直接伺うこともでき、詳しい内情を知ることもできたんです。こうして取材を受けることにもつながって、「こういうことがあった」という記録を残すことも、ひとつの目標ではありました。

美術館・博物館の閉館が相次ぐ中で

ーー この「インターネット物理モデル」の件も似たような境遇だと思いますが、最近、経済的な理由での美術館や博物館の閉館が増えています。例えばDIC川村記念美術館も休館からのスケールダウンした上での移転が決まりました。こうした流れについてはどう思いますか?

チカイケ 文化施設の閉館や展示の終了は、最近ますます増えていると思います。科学未来館の展示終了もそうですが、美術館や博物館は「採算が取れないから」という理由で閉館することが多いです。でも、文化や学びの場は、単純に経済的な合理性だけで判断すべきものではないと思います。

ーー 「壊して新しく作る」流れが日本にはありますよね。

チカイケ  そうですね。日本は「スクラップ・アンド・ビルド」の文化が根強く、建物や展示が一定の期間で新しくなることが多いです。これは決して悪いことではないですが、長年の歴史や価値があるものも、簡単に消えてしまうリスクがあります。

 普段企業のブランディングなどをしていたりもしますが、知らぬ間に消えていってしまいそうなものでも、リブランディングすることでまた新しく残るものもたくさんあります。今、他にもまだ間に合う場所が結構ありますので。今回の署名で動いたのも、同じ理由ではあります。

ーー 今回の経験を踏まえて、文化を守るために必要なことは何でしょうか?

チカイケ 1つは、「計画的な保全」が必要だと思います。科学未来館の物理モデルも、最初から「いずれ移設する可能性がある」と考えて設計されていたら、違う結果になっていたかもしれません。展示や文化財をつくる際に、終了後の保全や移設まで考えておくことが大切です。

 もう1つは、「ソフト面の強化」です。展示や文化施設は、ただハード(建物や展示物)があるだけでは続きません。例えば、地域の人々や企業が関わり、運営の仕組みを工夫することで、長く続けることができるのではないかと思います。

ーー たとえば、どういった形が考えられますか?

チカイケ 地方の商店街再生などでも、1人の強い思いから変わるケースがあります。静岡県の熱海では、シャッター商店街だった場所を再生し、新しい人の流れを作った例もあります。文化や科学の展示も同じで、単に「残したい」ではなく、どう活用するか、誰が関わるかが重要です。

ーー 今回の件を通じて、何か伝えたいことはありますか?

チカイケ 今回、結果的には展示は終了しましたが、署名活動を通じて、多くの方が関心を持ってくださったことに意味があったと思います。未来館の方々とも話し合い、決定のプロセスを知ることもできました。

 文化や科学の展示は、単に「作って終わり」ではなく、次世代にどう残すかを考えることが大切です。今回の経験を、今後の科学館や美術館の運営にも活かしていけたらと思います。

(取材・文=大沢野八千代)

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チカイケ秀夫(ちかいけ・ひでお)
日本初のブランディングを通してスタートアップ支援するベンチャーキャピタル。現在、社外CBO(最高ブランディング責任者)と複数のスタートアップ企業へジョイン。20代WEB系デザイナーにはじまり、ディレクターから、一部上場IT企業グループ、複数のベンチャー立ち上げに携わる。上場企業の理念策定や、代表直下プロジェクトマネージメントとブランディングを経験し、スタートアップに特化したブランディング起業。現在は、スタートアップに特化した企業のブランディング・パートナー/社外CBO(最高ブランディング責任者)として10社〜15社との関係性を持つ。累計100社ブランディングに関わる。スタートアップから200億円規模のブランディングを担当。


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大沢野八千代

1983生まれ。大手エンタメ企業、出版社で勤務後、ネットソリューション企業に転職。PR案件などを手掛けている。KALDIフリーク。

大沢野八千代
最終更新:2025/02/13 18:00