3200億円で『スター・ウォーズ』を買収 「ディズニー」が帝国軍に見えてしまう!?

「遠い昔 はるかかなたの銀河系で……」のオープニングテロップでおなじみなのが、SF映画「スター・ウォーズ」シリーズです。第1作『スター・ウォーズ』(1977年)が劇場公開されて、はや48年になります。
ジョージ・ルーカス監督による『スター・ウォーズ』が大ヒットしたことで、ショービジネスの世界は一変しました。1970年代前半の米国映画は、行き場を失った若者たちがバッドエンドを迎える陰鬱な「アメリカン・ニューシネマ」が流行していたのですが、壮大な宇宙を舞台にした明るい『スター・ウォーズ』の登場によって、時代は大きく変わっていきます。
それまでは子ども向けのサブジャンルと思われていたSF映画が、一流のエンタメ作品として認識されるようになったのです。斬新なデザインの宇宙船にR2-D2やC-3POといったロボットたち、精巧な特撮技術に、若者たちは夢中になりました。
4月25日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、「スター・ウォーズ」サーガの始まりとなった『スター・ウォーズ/新たなる希望』がオンエアされます。また、BS日テレでは4月26日(土)に『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980年)、4月27日(日)に『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』(1983年)を夜7時から放送します。
デジタル修正されているとはいえ、半世紀近く昔の映画が、ゴールデンタイムにテレビ放映されるのってすごくないですか。人々を熱中させた「スター・ウォーズ」神話と、ファンに衝撃を与えたウォルト・ディズニー社によるルーカスフィルム買収劇を振り返ります。
ジョージ・ルーカスが生み出した現代の神話
うずまきヘアが印象的なレイア姫役のキャリー・フィッシャー、甘いマスクのルーク・スカイウォーカー役のマーク・ハミル、お金にがめついハン・ソロ役のハリソン・フォード。当然ですが、みんな若いです。全身黒ずくめの悪役・ダースベイダー率いる帝国軍に、反乱軍が立ち向かっていくパルチザンの物語です。辺境の惑星でおじさん夫婦に育てられたルークも反乱軍に加わり、やがてオビ=ワン・ケノービのような「ジェダイの騎士」に目覚めていくことになります。
ルーカス監督は大好きだったSFコミック、冒険映画、西部劇、黒澤明監督の時代劇などの要素を巧みに融合させ、独創的なスペースオペラに仕立てています。米国の神話学者であるジョセフ・キャンベルの著書『千の顔をもつ英雄』(ハヤカワ文庫)の影響を受けていることも有名でしょう。不遇な生い立ちの若者が、異世界へと旅立ち、イニシエーションを経験し、ヒーローになるという展開は、古今東西の神話における英雄譚がベースとなっています。
そんな神話的世界だからこそ、世界中で愛され、劇場公開から半世紀近く経っても、楽しむことができるわけです。ハリソン・フォードも本作とルーカス製作総指揮の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)で大ブレイクしましたが、それまではほぼ無名の存在でした。目先のヒットしか考えず、人気タレントの起用に固執する今の映画界では考えられない企画です。
ルーカスが生み出した「スター・ウォーズ」は、現代の神話と呼んでいいんじゃないでしょうか。旧三部作は低迷していたハリウッドを活性化させ、ダースベイダーの若き日を描いた新三部作(1999年~2005年)は、デジタル技術が大々的に導入され、撮影スタイルや上映形式を良くも悪くも大きく変えることになりました。新しい時代の幕開けを告げるのが、現代の神話「スター・ウォーズ」だったわけです。
厳格な父親と折り合いが悪かった少年期のルーカス
後にジェダイの騎士となるルークと、その前に立ち塞がるダースベイダーの関係性も特筆されます。ダースベイダーら帝国軍の衣装は、第二次世界大戦時のナチスドイツ軍をイメージしてデザインされたそうです。
圧倒的な武力を誇る帝国軍に、反乱軍がゲリラ的に戦うという図式は、ベトナム戦争における米軍とベトコンとの関係性が投影されていると言われています。今なら、ダースベイダーはロシアのプーチン大統領か、無茶な関税を強いるトランプ大統領に置き換えることもできそうです。
また、元祖オタク少年だったルーカスは、厳格な父親と折り合いが悪かったことが伝えられています。ルーカスの父親は身長が2mもある大男でした。高圧的な父親と自由を求める子どもの対立という、普遍的なテーマも「スター・ウォーズ」は含んでいます。観る人によって、いろんな解釈ができるところも、名作とされているゆえんでしょう。
「フォース」が感じられなかったディズニー版
多くのファンに愛されてきた「スター・ウォーズ」シリーズだけに、2012年10月にウォルト・ディズニー社にルーカスフィルムごと買収されたというニュースは衝撃的でした。しかも買収額は40億5000万ドル、日本円で約3200億円(当時)。破格の安さです。『スター・ウォーズ/シスの復讐』(2005年)以降は新作を企画していなかったこと、ルーカス以外に実績のあるクリエイターがいなかったことが、低い買収額になった理由だそうです。
ルーカスは再婚したばかりで、いろいろとお金が入り用だったのでしょう。「ジャージャー、うざい」などとファンが新三部作をさんざんディスったことも、ルーカスが「スター・ウォーズ」の権利を手放した要因でした。
ディズニーが製作した『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)から始まる続三部作も観ましたが、「スター・ウォーズ」っぽいけれども違和感が最後までどうしてもぬぐえませんでした。「スター・ウォーズ」は、時代に革新をもたらしてきたシリーズなわけですよ。
でもね、続三部作は「こんな内容やキャラなら、これまでのファンも新しいファンも喜ぶよね」というディズニーランドっぽいおもてなしぶりで、サプライズ感がまったくなかったんです。本当の意味での「スター・ウォーズ」精神、ジェダイの騎士道=フォースを受け継いでいるようには感じられません。
ライアン・ゴズリング主演の新作『スター・ウォーズ/スターファイター』(2027年公開予定)はどうなんでしょうか。
ディズニー社が厳重に保管している「聖櫃」
ディズニー社のロバート・アイガーCEOの著書『ディズニーCEOが大切にしている10のこと』(早川書房)を読んでみたところ、買収の際にルーカスは新シリーズのあらすじ3本分を書いて、アイガーCEOに渡したそうです。しかし、「ルーカスからのアイデアは歓迎するが、それを採用する義務はない」「新作を誹謗中傷しない」という契約内容になっており、結局のところ続三部作にはルーカスのアイデアは使われていません。「スター・ウォーズ」という神話を生み出したルーカスですが、お金と引き換えに創造主の立場を降ろされてしまったのです。
今夜放送の第1作『スター・ウォーズ/新たなる希望』では、レイア姫は帝国軍の軍事拠点となる「デス・スター」の攻略ポイントがわかる設計図を持ち出し、帝国軍との激しい争奪戦が展開されます。何度も何度も観た、おなじみのストーリーです。オールドファンの中には、こんな夢想をした人もいるんじゃないでしょうか。
厳重に保管された、ルーカスが考えた新シリーズのあらすじを誰かがこっそりと持ち出して、世間に公表しようとする。もちろん、ディズニー側は「聖櫃」とも言えるこのあらすじを奪回するのに懸命だ。いろんなキャラクターが飾られた巨大なディズニー本社内で、目まぐるしい追いかけっこが繰り広げられる――。
まぁ、あくまでも自分の頭の中に浮かんだ妄想なんですけどね。でも、巨大資本を武器に世界市場を牛耳るメジャースタジオが、帝国軍と重なって見えてしまうんですよ。ディズニー的ポリコレをゴリ押ししている実写版『白雪姫』(上映中)は、世界各地で物議を醸していますしね。白雪姫役のレイチェル・ゼグラーは、もっと輝ける作品が他にあるように思います。
巨大帝国に反旗を翻す若く才能あるクリエイターが現れたときこそが、新しいジェダイの騎士の誕生じゃないでしょうか。フォースを受け継ぐ、新しい神話の誕生を心待ちにしたいところです。
(文/映画ゾンビ・バブ)