KIBA x CUTT 対談前編 ― 幸せは向こうからやってくるが、楽しさは能動的につかみにいくものである

KIBA:責任を取る……。ちょっと、一緒かどうかわからないですけど、ずっとぼくは歌い手としてGargoyleをやってるじゃないですか。ここでできないことは他のどこに行ってもできないだろうなって感じてるんです。ボーカリストをやらせてもらえる立場っていう感じで。
Gargoyleをやれるのであれば、メンバーが辞めようがどうしようが、ボーカルなんだからぼくはここで歌っていればいい、みたいな感覚で。それが責任かどうかは分からないですけど、自分では近い気がします。だから他の人が辞めても気にならない。気にならないという言い方は変だけど、だったら辞めるとはならないです。
CUTT:なぜKIBAさんがいま1人でGargoyleをやられているのかは、ものすごく共感するというか、自分なりに理解ができる気がしています。
これまでのKIBAさんの軌跡を一端でも拝見していると、表現活動をとても誠実にやっていらっしゃるじゃないですか。ぼくがさっき言った責任というワードも、いろんな尾ひれがつく可能性がありますが、いま1人でやられているということが、表現としての責任を取っているという感じがするんです。
例えば人によっては、これはGargoyleじゃない、って言う人もいるかもしれないけど、でも、これがGargoyleなんですよ、って言えることで責任が取れるというんでしょうか。
KIBA:なるほど。例えば、古い曲は歌いません、みたいなのはないですし、これまで自分がやってきたことや、いまいる場所もそうで、やれることを全部やってきた感じはするんです。ネガティブに考えると、他ではできないだろうし、できなかったとも思うし。ここでやれることを全部ずっとやってきたんだから、ぼくはそれで良いんじゃないかなと考えていますね。それがCUTT君のいう責任かもしれない。
――少し突っ込んだ質問になりますが、1人になって、あれはGargoyleじゃない、みたいな声みたいなのは届いたことはあるんですか?
KIBA:どうでしょう……ぼくはあんまりそういうの見ないんで。嫌な意見とか、汚い言葉を見ると目が汚れるから。
――CUTTさんは現在どういった音楽活動をされていますか?
CUTT:今は活動としてはソロがメインですが、バンドもやっています。
KIBA:それはどれ? 宇宙人のやつ?
CUTT:そうです! SPEED OF LIGHTSという宇宙をテーマにしたバンドをキーボーディストの長﨑祥子、ドラマーの山本淳也とやっておりまして、近年の活動はあまり活発ではないですが、来年は結成十周年なので記念のイベントをしたいと考えています。
ソロの方は基本的にライブを東名阪でやっているのと、配信ライブやバラエティ的コンテンツも含めたYouTube動画などオンラインでの活動に力を入れています。音楽活動ではないですが、大学生活を綴ったブログを書いたりもしています。
KIBA:shameはやらない?
CUTT:今年久しぶりにやります!
KIBA:KOSYO(※shameのベーシスト)はどうしてる?
CUTT:KOSYOもおかげさまで元気にしています。2年前のライブでもバキバキに現役のベースを弾いてくれました。
KIBA:他の2人とは会うもんね、ちょこちょこ。
CUTT:そうですね。やっぱり一番多感な時期に作ったshameの曲は特別なものですし、デビューの時から応援してくださっている方や、SNSを通じてshameをやってほしいっていう声も頂くので嬉しいです。
KIBA:コロナの時に一緒にやったよね。
CUTT:はい、コロナの時に。初期の頃でしたっけ?

KIBA:確か。無観客ライブじゃなかったっけ。配信をライブハウスでやってみます、みたいなのの最初のやつだったかと。
CUTT:そうでした!
ちょうどデビュー20周年っていう、その大半は活動していないのに詐欺みたいな話なんですけど(笑)、それを機に活動を再開させた時にご一緒させていただいたんですよね。
――その時に無観客でやるって、CUTTさんはミュージシャンとしてどういう気持ちでした? KIBAさんは以前のインタビューで無観客ライブについては、これが続いていたらバンドを続けられなかったかもしれないと言っていましたが。
CUTT:ぼくはその時は結構やりやすかったですね。KIBAさんとお話しさせていただいていて、勝手にこういうところに共通点があるなと思わせてもらうことも多いんですけど、それがゆえに違うところも顕著に感じます。
例えばライブハウスのエネルギーだとか、お客さんとのエネルギーの交換みたいなところっていうのは、ライブの醍醐味だとは思うのですが、逆にお客さんが目の前にいないライブも、自分としては表現として結構ピュアに感じたし、その方向が好きな自分もいるんです。なので自分にとってはそれはそれで面白い体験でした。何かが足りないっていう気持ちはあまりなかったですね。shameの楽曲は内向的なものも多くて、自分たちの中から出るものをそのまま表現したいという気持ちが強いのかもしれません。
KIBA:いまの話を聞いていると、CUTT君は「100点だと気持ち良い」みたいな感じじゃない?
CUTT:ええ。
KIBA:ぼくは「何とか120点にならないかな?」と思ってやってるタイプなんですよ。人によっては50点でもいいけど、自分では120点って感じたくて。そのためにはお客さんが必要なんですよね。自分だけでは100点しか目指せないっていうか。客席と一緒にガーっとなった瞬間に「あっ俺いま120点!」みたいに感じることがあって。それはお客さんがいないと、ならない気がします。その感じがぼくの持ってる武器や魅力の1つかはわからないけど、それに近いものなんじゃないですかね。
CUTT:KIBAさんって、楽しむっていう姿勢というか、この連載の以前の記事で「楽しいことやります」みたいなセリフが最後にありましたよね。1つの言い方をするとKIBAさんって自分以外の世界、外部に対しての信頼が実は根底にあるんじゃないかと感じるんです。お客さんと一緒に何らかの作用を生んで、120点にしてやろうみたいな。それがKIBAさんの表現に通底しているところがあるような気がします。
これまで拝見してきたKIBAさんの表現で自分が感じてきたことが、ライブ中の瞬間の不確定な因子をプラスに作用させて、120点を出したいと思っている、と今仰られたことで納得できました。
KIBA:ぼくは自分が楽しむかどうかが、重要だと思うんです。例えば、他のバンドを観に来ているお客さんも、基本的にライブハウスに楽しみに来てるんで、そこがまず繋がればお互い絶対楽しめると思うんです。嫌な目にあいたいと思ってライブハウスに来てる人はいないしね。
例えば、幸せって感覚って、あるとき向こうから勝手にやってくる感じがするんですね。「あ、俺いま何か幸せだわ」みたいな。でも、楽しいっていうのは逆に自分でつかみに行かなきゃいけないものじゃないかと思うんです。
CUTT:なるほど。
KIBA:こうやったら楽しいんじゃないか? とか、それを自分で探して。ライブ観に行こうもそう。だから、ライブハウスに来る人、その楽しみをつかみに来てる人、つかみたいと思ってる人と繋げれたらいいなと思うんです。
CUTT:幸せは向こうからやってくるが、楽しさは能動的につかみにいくものである。勇気の出る言葉ですね。ぼくももっと積極的に楽しみをつかみにいったり、つかんでもらったりしたいと思いました。
(文・構成=編集部、撮影=石川真魚)
※後編に続く