瓜田純士が、永野芽郁主演『かくかくしかじか』を観て号泣!「この映画は和製ベスト・キッドだ!」

“アウトローのカリスマ”こと作家の瓜田純士が、森羅万象を斬る不定期連載。今回のテーマは、不倫疑惑報道で女優生命の危機に瀕している永野芽郁の主演映画『かくかくしかじか』(関和亮監督)だ。スキャンダルの影響で大コケを懸念する声もあったが、取材当日は平日の日中にもかかわらず、まずまずの客入り。そんな客席の最後尾を陣取った瓜田とその妻・麗子は「不倫嫌い」のおしどり夫婦だが、果たして永野の演技を見て何を感じ、何を語るのか?
映画『かくかくしかじか』は、人気漫画家・東村アキコの自伝的漫画を、東村自らが脚本を担当し映画化したもの。そのあらすじは以下の通り。
漫画家になるという夢を持つ、ぐうたら高校生・明子。人気漫画家を目指していく彼女にはスパルタ絵画教師・日高先生との戦いと青春の記録があった。先生が望んだ二人の未来、明子がついた許されない嘘。ずっと描くことができなかった9年間の日々が明かされる──(公式サイトより引用)。
主人公の明子を永野芽郁が演じ、日高先生を大泉洋が演じる。公開初日の舞台挨拶では、永野が「関係者にご迷惑をおかけしてすみません」と涙ながらに謝罪。大泉が笑いを交えつつフォローする場面もあったようだが、永野にとっては笑えない日々が続きそうだ。出演CMの打ち切りが相次ぎ、その違約金は数億円とも。さらには主演予定だった大河ドラマの降板も決定するなど、女優としてピンチに立たされているのだ。
永野の演技もこれで見納めとなる可能性が出てきたため、今回は『かくかくしかじか』を心して批評してもらいたいと瓜田にオファー。だが、浮かない表情で映画館に現れた瓜田は、「つまんなそう」「まったく乗り気じゃない」と愚痴を連発しながら映画鑑賞をスタートした。さて、どうなることやら……。

2時間後、映画館から出てきた瓜田は開口一番、「いやぁ、舐めてたら痛い目に遭うわ」と語り、鼻をすすった。
* * *
──「舐めてたら痛い目に遭う」とは?
瓜田純士(以下、純士) そもそもこの映画にまったく興味がなかったんですよ。俺は『教皇選挙』を観たかったのに、「よりによって、なんでこれ?」って思った。不倫で話題だからって、この映画を俺に観せて悪口を言わせたいのか。だったら想像を上回るような悪口を言ってやろうか。タイトルの『かくかくしかじか』にちなんで、「田中圭とカクカクしてたのか? お前は激烈バカか?」くらいの毒を吐くつもりだったんです。
で、いざ観始めたら、人をズルズルと引きずるシーンや、竹刀をマトリックスみたいに避けるシーンでコミカルな演出がなされてて、「ああ、漫画原作だから、こういう子供向けの陳腐なギャグが延々と続くのか」と、ウンザリしかけました。
ところがどっこい、途中から、嗚咽と鼻水で呼吸困難になっちゃった。しかも今日はサングラスをつけてきたから、涙で前が見えなくなって……。「どうせ退屈な邦画だろ」と舐めてかかってたら、痛い目に遭った。ティッシュを持ってくりゃ良かったな。
──不倫騒動が、映画を観る上でのノイズにはなりませんでしたか?
純士 そりゃ彼女がやったことは、いただけない。それが作品にケチをつけるんじゃないかという不安があったのは事実で、やっぱ最初のうちはピンク色のフィルターがうっすらかかって見えたし、「こんだけの作品に出て周囲に迷惑をかけるんかい。どうしようもない小娘だな」という思いもチラつきました。
ただそうした感情も、ものの30分くらいでどっかいっちゃって。やっぱ何がすごいって、大泉洋ですよ。大泉が出てからは、彼の力に引っ張られる形で、ピンク色のフィルターは徐々に消えていき、純粋に作品を楽しめるようになりました。
その大泉演じる日高先生と、永野演じる明子の師弟愛だったり、二人の絶妙な距離感だったり、誰もが一度は経験する「あのときもっと親切にしときゃ良かった」というすれ違いや後悔だったり、あとあと感謝する展開などを見てるうちに、「これは和製ベスト・キッドだ!」と思いましたね。
『かくかくしかじか』と『ベスト・キッド』の共通点
――『ベスト・キッド』は、80年代にヒットしたアメリカの空手映画ですね。
純士 はい。金曜ロードショーとかでさんざん観たあの映画の、ミヤギさんとダニエルの関係を見ているようでした。いじめられっ子のダニエルに対し、師匠のミヤギさんはひたすら車のワックス掛けを命じるじゃないですか。あのミヤギさんの「ワックス掛ける! ワックス拭く!」という掛け声が、まさに日高先生の「描け!」なんですよ。
『ベスト・キッド』では、そのワックス掛けの動作があとあと空手の防御に役立って、ダニエルはいじめっ子を倒すんですが、『かくかくしかじか』もそんな感じ。美大で「描きたいものが見つからない」という壁にぶち当たってた明子に対し、日高先生が「鏡に映るありのままの自分を描け!」と命じて、その作品が評価される。明子が漫画で賞を受賞できたのも、スパルタな日高先生のもとで「描け! 描け!」と言われながらひたすら絵を描き続けたからこそなんですよ。忍耐力も養われただろうし、画力も当然磨かれたはず。
って考えるとね、今回、永野が不倫スキャンダルを起こしてピンチに追い込まれてるのも、大物女優になるために必要な経験と言えるのかもしれませんね。漫画もそうだけど、やっぱ何事も経験なんですよ。人生経験が未熟な漫画家が脳内で作り上げた作品は、たとえ絵が上手くても青臭くて見てられない。でもいろんな人生経験を積んだ漫画家の作品は、たとえ絵が下手くそでも面白い。永野も今回の騒動を乗り越えれば、きっと女優として一皮も二皮も剥けるはず。人の旦那を奪うのは良くないことだし、これから禊も必要になってくるだろうけど、女優として今まさに大きな岐路に立つ彼女の作品を、今日はベストタイミングで観れて良かったと思います。
――しかし、永野さんは実質的に活動休止状態に陥っており、下手すればこのまま引退してしまう可能性も……。
純士 いやいや、辞めない、辞めない。彼女は多分、女優以外できないと思いますよ。
瓜田麗子(以下、麗子) 違約金が数億あるらしいから事務所が辞めさせないわな。
純士 それもあるし、顔見りゃわかるんだけど、彼女はそんな豆腐メンタルじゃないです。人の旦那を奪って家庭を壊しておきながらハロウィンメイクしてる時点で、メンタルがタレントなんですよ。そこは心配してないです。これからもいろんな家庭を壊していくかもしれませんよ、激烈バカみたいにカクカクしながら。
という冗談はさておき、僕は今回、永野の演技を初めて見たんですけど、大泉洋とタメ線張れる存在感を出せていたから、女優としてたいしたもんだと思いますよ。最初はちょっとストーリーが青臭いなと感じたけど、その青臭ささえも感覚的にモノにしてるのは演技が上手いのかな、とも思った。
――瓜田さんがそこまで褒めるとは意外です。
純士 個人的な話になるけど、今自分が置かれてる状況が、この作品の明子とオーバーラップしたのも大きいのかな。僕は今、とある漫画原作を執筆中なんですが、版元や編集の方から何度もダメ出しをされ、しまいにはネームが完成したものをいったん白紙に戻し、一から構想を練り直す必要も出てきたりして、とても苦労してるんです。心が折れそうになり、すべてを放り出したくなる瞬間もたびたびあります。だから余計に明子の気持ちがわかるというか、感情移入しちゃう部分がありました。
僕は自分のことを「書く」か「喋る」しかできない男と思ってて。「描く」と「書く」の違いこそあるけど、この映画を観てる最中ずっと、日高先生から「書け!」と叱咤激励されてる気がして、すごく刺さりましたね。
あと、これは僕だけじゃなく、映画を観た多くの人が共感できるポイントだと思うんだけど、明子が金沢の美大に進学した後も、日高先生は明子のことをずっと気にかけて、何度も電話してくるじゃないですか。でも、宮崎の片田舎でずっと暮らす先生と、新しい環境で大学生活を送る明子とでは時間の流れが違うから、明子はついつい友人との付き合いを優先して電話に出なかったり、というすれ違いが生じてくる。あれがつらいんですよ。
先生が一度、焼酎持って下駄履いて、金沢に住む明子の元を訪ねてきますが、明子は多感な時期だから彼氏ができたりなんだりで、絵をまったく描いてないんです。先生は本当はあの焼酎で、明子の同級生たちも交えて乾杯して美術談義でもしたかったと思うんだけど、明子が絵をおろそかにしてるのを知って、寂しそうな顔して早々に帰ってしまう。あれがつらかった。明子は別に悪いことをしてるわけじゃないんだけど、先生に対して申し訳なさそうにしてるのもまたつらかったですね。
シチュエーションの違いこそあれ、ああいうことって大なり小なり、誰もが人生で経験してると思う。だから、わかりみがすごかったです。
でもね、そういう感情の機微を、漫画の世界で描くのってとても難しいと思うんです。しかも売れるような作品にするんだから、東村さんという人はよっぽど共感性を描くのが上手いんでしょうね。言ってみれば、決して波瀾万丈ではなく、ごくごく普通に生きてきた人の自伝で共感させて泣かせてくるんだから、すごいとしか言いようがないです。
ただ、これはあくまで僕の想像だけど、現実の明子は先生に対して、もっとできないことがたくさんあったり、もっと冷たくあしらってしまったことも多かったんじゃないかな。だって、東京で売れっ子漫画家になって連載を抱えてるわけだから、物理的に時間がなかったでしょう。でも彼女は漫画家になって本当に良かったですよ。その後ろめたさや後悔を、こうして作品に昇華することで浄化することができたわけだから。彼女がもし漫画家にならず普通のOLになってたら、あのとき電話に出なかったのと一緒で、先生に対する申し訳なさを抱えたまま、そのことから目を逸らし続ける人生だったのかもしれない。
自分の能力を活かして生きる。自分の能力を活かして恩返しをする。その大切さをこの映画で改めて学べた気がします。
麗子「東村アキコにドハマりしていた」
――では、ここでいったんバトンタッチをして、奥様の感想も聞いてみましょう。この映画、いかがでしたか?
麗子 永野芽郁の演技を見るのは初めてやし、『かくかくしかじか』というタイトルも初耳でした。でも、いざ観始めたらなんと、東村アキコさんのリアルを知れる映画やってことが途中でわかって、驚きました!
――東村さんをご存知だったんですか?
麗子 はい、全部の作品を読んだわけじゃないけど、大ファンでして。東村さんは、男の子を出産されてるねんけど、その子育てを描いた『ママはテンパリスト』という漫画にドハマりしたんです。普段、漫画を読んでも作家名を調べることなんてないんやけど、『ママはテンパリスト』だけは別で、「こんな面白い漫画を描くのは、いったいどんな人やろ?」と名前を調べたくらいハマった作品でした。
だから、途中からは永野芽郁の醜聞なんかどこかへ吹き飛んでしまって、東村さんの作品として没頭することができました。「描け!」「描くために生まれてきたんだ!」というメッセージがビンビンに伝わってきて、終始号泣でしたね。泣けるだけじゃなくて、笑えたのも良かったです。一回、涙で鼻が詰まってるところに大泉のギャグが飛び出して吹き出す瞬間があって、呼吸困難になりかけましたよ(笑)。
純士 大泉洋って、笑わせるのも上手いけど、それ以上に、泣かせの演技がすごいんですよ。と言いつつ、彼のことをそんなには知らないんですけどね。最近、嫁に薦められて『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)というラグビーのドラマを配信で見て、彼の魅力を知ったばかりなんで。とにかく今作は、大泉の力がすごかった。これがたとえば、阿部寛が日高先生を演じたと想像してみると、格好はいいけど味が出ない。大泉はダサさがあるから人間味が出る。ナイスキャスティングでした。
あとは、明子のパパ(大森南朋)も良い味出してたなぁ。あるものを落とすシーンで最高に笑ったわ。
――永野芽郁さんを明子役に据えたキャスティングについて思うことは?
麗子 厳しいことを言うようですが、永野じゃなくても良かった気がする。だって永野は個性ないもん。
純士 違うよ。永野でドンピシャだよ。
麗子 えっ? なんで?
純士 永野で良かったと思う最大の理由は、声ですね。あの声だと、朴訥とした宮崎訛りがドンピシャハマる。あれ、テキパキ喋る女優だと違和感あったと思うよ。そういう意味で永野はハマリ役だったと思うけど、強いて一点だけ物足りなさを感じた部分を言うのであれば、自堕落さやダサさが弱かったかな。
カラオケで仲間とハシャぐシーンがあって、熱を入れてダサく撮ったんだろうけど、そこだけ永野がハマってなかった。
麗子 ええ? あのロボットダンス、おもろかったやん。
純士 いや、俺は、「それ、何テイク目?」という目で見ちゃった。彼女はもしかしたら、ダサいことを演じるのが苦手なのかも。育ちの良さが透けて見えちゃった感がありますね。
こんなこと言うのは失礼かもしれないけど、広瀬すずだったら、ああいうシーンも一発でOKが出るはず。ダサいことをやらせても上手いのが広瀬すずなんですよ。可愛いだけじゃなく、ダサさも兼ね備えた女優ですからね。
それでも不倫は絶対に許せない
――では、作品からいったん離れて、永野芽郁さんの不倫疑惑報道について思うことがあれば語ってください。
麗子 やったことは絶対に許せないし、一生かかわりたくない人種ですけど、女優として考えたら、そういう最低な経験もしといたほうがいいのかな。演技に深みが出るから。田中圭みたいなしょーもない男とはとっとと別れて、この失敗を糧にして幅広い演技をできる女優として光り輝いてほしいな……という期待はありますけども、人種としてはかかわりたくありません。
――手厳しいですね。
純士 瓜田夫婦は、浮気や不倫をする人間が嫌いだからね。でもね、女優と極妻は紙一重。女優として生きると腹を括ったんであれば、殺人以外の悪事にはすべて手を染めるぐらいでいい、という思いもあります。不倫も借金も薬物も、全部経験しといたほうがいいのかもしれない。
麗子 いや、不倫は二度とすんな! 人様の家庭に迷惑をかけるな! これを何度も繰り返すようなら女優としても人間としても三流や!
純士 確かに映画やドラマは団体競技だからね。一本の作品を作るためには、とんでもない数の人間がかかわってる。チョイ役ですら、その親兄弟ならびに親戚一同が、公開やオンエアをとても楽しみにして、花園神社でヒット祈願したりするわけですよ。よく「不倫ごときで騒ぐな」「プライベートの問題はほっとけ」という意見も聞くけど、それは一般人の話。たくさんの人の生活を背負ってるタレントという立場で、それはまずいよな、って思います。
だって、もし作品が公開されなかったら、どう責任を取るの? 作品をたくさん掛け持ちしてるような売れっ子が、そういう軽率な行動を取ってしまうんだったら、「おまえ、アマチュアか?」と言わざるを得ません。
『かくかくしかじか』は、東村アキコさんが、実在する恩師への思いを込めた作品を映画化したものですよね。それがヒロインの不倫でお蔵入りでもしようものなら、作家も恩師も浮かばれないですよ。作品は命なんだから。少なくとも作品にかかわってる間だけは、役者は文春系のスキャンダルを起こしてはいけない。さっき「女優は殺人以外はなんでもやれ」と言ったけど、前言撤回。「やるんだったら死ぬまでバレねえようにやって芸の肥やしにしろ」と言い直します。
――では最後に映画の話に戻りますが、クライマックス近くの海辺のシーンについて思うことは?(※以後、軽いネタバレに注意)
純士 今回の映画には、泣きのピークが三つありまして。一つ目は、すれ違いが起きる中で舞い込んだ一報。二つ目は、先生が今ちゃん(鈴木仁)に囁いた言葉。それだけでも十分だったので、最後、舞台が海辺に移った瞬間に「これ、やっちゃいけないやつ?」「やりすぎて逆に冷めるやつ?」と不安になりました。だけど、ラストで「描けえええええ!」と語尾を伸ばすことによって最大のピークを作ってくれましたね。アクセントを変えてきたのがストライク。あのカタルシスはまるで、映画『メジャーリーグ』のチャーリー・シーンですよ。
ノーコンでどうしもようもなかった近眼投手のチャーリー・シーンが最後、ワイルドシングが流れる中、メガネをかけてマウンドに登場するでしょ。あれと同じ。その手があったか! そう来たか! と。
麗子 確かにラストはめっちゃ感動した。でも惜しむらくは、あの台詞を叫ぶ際に、竹刀の先と目線を、もっとカメラの方角に力強く向けてほしかったわ。そうすれば、明子だけやなく、書けなかったり作れなかったりで悩んでる多くの観客にも喝が入ったと思うから。
純士 まあ、なんにせよあれは名場面ですよ。「開始7秒で泣いてました」というCMの宣伝文句は大袈裟にもほどがあるけど、泣ける映画であることに違いはなく、観て良かったと思います。不倫騒動がなければこの映画を観ることはなかったと思うので、田中圭にも感謝しておかないといけないね。
(取材・文=岡林敬太)
『かくかくしかじか』瓜田夫婦の採点(100点満点)
純士 85点
麗子 80点