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『名探偵コナン 隻眼の残像』絶好調! ロケ地・長野で盛り上がる“聖地巡礼”と識者が語るコナンが巨大コンテンツになった理由

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(写真:サイゾー)

『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』が絶好調だ。4月18日に公開すると、5週連続で動員数・興行収入ともに1位をキープし、累計動員数は884万人、興収128億円(5月25日時点)。興収100億突破は過去最速、前作より3日早い19日目で実現している。この勢いなら、最終興収は2023年の『名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)』の138億8000万円、2024年の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の158億円に続き、新記録を打ち立てる可能性も出てきた。

特典商法に賛否!

 人気の背景には個性的なキャラクター勢はもちろん、緻密なミステリーや壮大なアクションなど複数の要素が絡み合うが、その影響力は“まちおこし”にも及ぶ。前作は北海道・函館で人気キャラクター・怪盗キッドと服部平次が夢の対決を実現し、市をあげたさまざまな施策が展開された。

 そして、本作の舞台は長野県。長野県警・大和敢助が「隻眼」となった事件と毛利小五郎の友人が殺された事件を巡り、コナンたちが八ヶ岳連峰の架空の山で縦横無尽に活躍する。

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長野県庁(写真:サイゾー)

 スポットが当たるとあって、県も大張り切りだ。令和7年度予算案には本作と連携した観光プロモーションなどの費用として約1400万円を計上、ラッピングバスや「信州列車旅キャンペーン」など、全力で“聖地”をアピールしている。

舞台・長野で地元ファンが大喜び、盛り上がる“聖地巡礼”

 そんな長野では、早速“聖地巡礼”も盛り上がっている。作中に登場する善光寺や県警本部をはじめ、重要な役割を握る国立大天文台野辺山(南牧村)は東京駅から電車を乗り継いで4時間、長野市からも車で2時間弱というアクセスの悪さにもかかわらず、県内外のファンが訪れるという。当然地元ファンは大喜びで、長野県在住、コナンファン歴19年のAさん(30代/女性)は「長野にコナンが来てくれるなんて!」と、テンションを上げる。

「長野駅構内には、(今回のメインである)長野県警チームの特大広告が貼り出されていて、通路の天井にもコナン関連のイラストがずらり。キャラクターパネルやフォトスポットもあって、長野駅を歩くのがこんなに楽しいと思ったのは初めてです。善光寺にも行きましたよ。県庁と県警本部は休日閉庁で中に入れませんでしたたが、外観写真を撮れただけでも大満足です」(Aさん)

 長野県警チームは、全員歴史上の人物がモチーフで優れた推理力を持つなど、個性的かつ有能な刑事たち。Aさんは「本編での登場回数は少なく、ちょっと地味な存在だった」というが、本作を鑑賞して見方が変わったという。

「体当たりで事件に挑む姿や、犯人の裏をかいて行動する“強キャラ感”、メンバー間の信頼関係や愛情がフィーチャーされ、好感度が上がりました。どんなキャラも表には見せない秘めた思いがあって、知れば知るほどコナンの世界観を好きになるんですよね」(Aさん)

 同じく長野県在住で、毎年欠かさず『劇場版コナン』を映画館で見るというBさん(20代/男性)は、「ながの東急百貨店」で開催されていた『名探偵コナンプラザ』に行ってきたばかり。本作について「長野ならではの大自然のなかでキャラクターが動き回り、物語が展開するのは胸熱」だと話す。

「コナンシリーズは、車軸が壊されて転がり出す観覧車とか、超巨大なサッカーボールで爆発を阻止するなど、ド派手なアクションも見どころ。野辺山の天文台は子供の頃に1度だけ行きましたが、見たことがある景色をスケボーで駆けるコナンくんを見ると、ワクワクしますね。夏前に、改めて行きたいと思っています」(Bさん)

少年漫画発の長寿漫画が、官民一体施策に広がるワケ

 原作『名探偵コナン』(小学館)は、1994年に「週刊少年サンデー」で連載スタート、1996年からはアニメ放送も開始。少年漫画の枠を飛び出して老若男女に愛され、自治体や企業をも巻き込んだ官民一体の施策にまで広がる魅力の秘密は何か。

 アニメなどコンテンツビジネスを研究するいしじまえいわさんは、幅広い展開の背景として、「難解な印象になりかねない推理もの作品でありながら、シンプルな物語の縦軸、多面的な人物像、バランスのよい人間関係が交わり、視聴者が多くの視点で楽しめる」ことを指摘する。

「コナンって、基本的には事件を通じて子どもになってしまった天才高校生・工藤新一(コナン)とヒロイン・毛利蘭の関係が引き裂かれ、再会するまでのドラマなんですよね。そこさえ押さえればどこからでも話に入れて、各話の推理を楽しめます。

そのうえで、登場するキャラ造形が多面的です。コナンに高校生と子供という2つの面があるように、多くの登場人物が複数の顔を持っています。それだけで、いろんな人の琴線に“引っかかる”。

 ただ、人の多面性は描くのが難しいうえに、話も複雑になりがちです。それをコナンは『設定』ということで全て乗り切る。たとえば『コナンが実は新一であることは、蘭ちゃんには隠してるんだから、そういう行動しかとれないよな』といったように前提が明確なので、視聴者は余計なことを考えずに物語に没頭できるんです」(いしじまえいわさん、以下「」内同)

 時代・世代を問わない“普遍性”の懐の深さは、前述した「視点の多さ」に起因する。

「長く続くTVアニメには『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日系)『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)などファミリーものが多く、いわゆる“昔ながらの家族像”を基にストーリーが構築されます。その点コナンは、時代を感じさせるような人間関係描写が比較的少なく、個々人が“立って”いて、子供もいるし大人もいるし、イケメン枠もいれば活躍する女性キャラも当たり前にいます。人間関係も多様で、観る人がそれぞれの着眼点をもてるので、どんな人にもスッと入っていける」(同前)

劇場版が「新規ファン」の入り口となる秀逸なからくり

 とはいえ長寿作品であるだけに、劇場版を初めて見る人は「アニメを見ていないとついていけないのでは……」と不安にもなりそうだが、いしじまえいわさんによれば、コナンの場合“真逆”。「むしろ劇場版がファンになる“入口”として機能している」という。

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(写真:サイゾー)

「物語が連続している映画シリーズや、一つの物語がずっと続いている漫画が原作だと、映画で途中から見るのは厳しかったりしますよね。あと、“このキャラはあそこで出てきたあれ”みたいに、全部見ていることが前提とされると、途中参加のハードルが高いと感じる人はいるでしょう。

コナン劇場版は冒頭で設定を説明してくれるうえ、基本的に物語が1本で完結し、いきなり見る人でも楽しめる作り。毎回テーマやメインキャラクターが絞られているのも見やすいポイントです。さらに、エンディングではちらっと次回の匂わせをしてくれる。作品世界への引き込み、ファンの喜ばせ方が上手なんですよね」

 新たな層を取り込んでいるのは来場者数や興行収入の数字が示しているとおりだが、それを支えるのは女性ファン。2018年の『ゼロの執行人』では、重要人物となったイケメン人気キャラ・安室透を“100億の男”にするため興行収入100億を目指す社会現象まで巻き起こした。

 層の拡大に加えて実在の場所を舞台にすれば、“聖地”として注目され、ファンの新たな行動を呼び起こすことは確定路線。今後、“まちおこし”を期待する地域は増えていきそうだ。

「長野県警」声優の業界評

(取材・文=町田シブヤ)

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町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

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最終更新:2025/05/30 22:33