岡本和真、牧原大成、ムーキー・ベッツ…“便利屋”では終わらせない! 勝つチームが手放せないユーティリティプレイヤー論

プロ野球は今、かつてないほど“流動的”な時代を迎えている。
データによる打順の最適化、守備シフト、相手投手に応じたスタメン変更など、1試合の中で選手の起用が目まぐるしく変化する。
さらに、シーズン中のケガ人発生やコンディション不良、登録抹消を前提としたローテーション管理など、長丁場を戦い抜くうえで「固定メンバーだけで戦う」ことはもはや不可能に近い。
ユーティリティプレイヤーが必要な理由
そんな中、近年はユーティリティプレイヤーの存在が重要視されている。これは野球、サッカーなどのチームスポーツで、複数のポジションをこなせる選手のことを指す場合が多い。
野球でもユーティリティプレイヤーと呼ばれる選手が増加している……。いや、増加しているだけではなく、打撃はもちろんのこと、守備に関しても守備位置が変わってもパフォーマンスが落ちない選手が目立ち始めた。
ひと昔前なら、コンバート(専門の守備位置を変えること)によって、ほかのポジションの可能性を断ち切っていたが、今では完全なコンバートをせず、状況に応じて柔軟に起用されるケースが増えている。
高いレベルで複数のポジションを守れる選手が何人かいることで、選手枠が限られている中でも野手運用がスムーズに回るというメリットがある。
具体例としては、広島東洋カープの坂倉将吾のように、捕手としての役割を持ちつつ、ほかのポジションもこなす選手が登場している。かつては、小笠原道大や和田一浩、村上宗隆のように、捕手から完全にコンバートされるのが一般的だったが、現在では守備位置の選択肢を狭めず、チーム状況に応じて柔軟に対応するスタイルが主流となっている。
ケガ・不調・相手投手…対応力の高い選手がチームを支える
ユーティリティプレイヤーの価値が最も顕著に表れるのが、“アクシデント対応”の局面だ。主力選手のケガや離脱は避けられないが、そうした穴を穴として見せないためには、代役が一定以上の守備力・打撃力を持っていなければならない。
例えば、遊撃手が不在になった際に二塁手や外野を守れる選手が一時的に穴を埋めることで、チームバランスを崩さずに済む。ベンチには7〜9人の野手しか控えていないことが多いため、ひとりで3つのポジションをカバーできる選手の存在は極めて大きい。
また、相手投手のタイプによってスタメンを組み替える際にも、ユーティリティ選手の存在が大きな意味を持つ。左投手には右打者を並べ、右投手には左打者を起用する……。このセオリーに対応できるのは、“打てるうえに守れる”複数対応型の選手だ。
さらに、守備だけでなく代走やバントといった細かい役割も担える選手であれば、ゲーム終盤の戦術も広がる。試合後半における選手交代の余地を大きく広げ、監督が「攻める采配」を実現できるのは、こうした柔軟なユーティリティプレイヤーの存在があってこそである。
守備位置の柔軟性に加え、打順に対しても対応できる選手は、チーム戦術に多様性をもたらす。これらの選手はスタメンでも途中出場でも力を発揮でき、長期戦における“控えの強さ”を底上げする存在である。
例えば、さまざまな打順に対応でき、三塁・一塁・左翼を守れる選手がベンチにいれば、代打のあと、そのまま守備につかせることができ、投手交代や二重の守備交代といった複雑な采配を避けられる。
また、ユーティリティプレイヤーがいることで主力選手の休養日をつくることも可能になる。フルイニング出場が常態化していた過去とは異なり、現代の野球では主力選手に“リフレッシュ休養”を挟む運用が常識になりつつある。こうした“質の高い休養”を成立させるにも、ユーティリティプレイヤーの存在が不可欠だ。
成績では見えない貢献…“縁の下の力持ち”の真価
ユーティリティプレイヤーの貢献は、打率やOPS、守備率といった分かりやすい指標では測りきれない。時には1週間出番がなかったり、与えられた打席で即結果を出さなければならないケースも多い。常に準備を怠らず、“試合に出ていないとき”にもチームの勝利に貢献している。
さらに、彼らは「主力のサポート役」だけではない。調子を落としたレギュラーの代わりにスタメンで出場し、好調を維持すればそのままレギュラーを奪取する可能性もある。そうした競争意識をチーム内に与える存在としても、ユーティリティプレイヤーは大きな役割を果たしている。
また、ベンチにおける雰囲気作りや若手のサポートなど、“見えない貢献”も重要だ。チームの潤滑油として信頼される選手こそが、年間を通じて優勝を狙うチームに欠かせない。
WBCにも選ばれたソフトバンクの牧原大成は二塁手として出場は多いものの、外野も難なく守れる。また、周東佑京は走塁のスペシャリストのイメージが強いが内外野守れる選手でもある。
スラッガータイプでは、巨人の岡本和真は現在28歳という若さで一塁手・三塁手としてベストナインとゴールデングラブ賞を獲得している。さらに、外野も守っていることから、チーム事情によって内外野を守りつつ、打線を引っ張っていった。
さらに、メジャーリーグでは大谷翔平のチームメイトであるロサンゼルス・ドジャースのムーキー・ベッツが代表例だ。チーム事情によって二塁手、遊撃手、外野手をこなし、キャリアを振り返るとシルバースラッガー賞を外野部門とユーティリティプレイヤー部門で獲得している。さらに、トミー・エドマンも内外野を守り、さまざまな打順で対応しながら、大谷やベッツとともにチームをワールドチャンピオンに導いた。
いざという時に“何でもできる”存在がいるかどうか……。これが、長丁場のシーズンを乗り切るうえでの“見えないアドバンテージ”となる。
チームを支えるユーティリティプレイヤーこそ、現代野球における最も重要な“バランサー”であり、真に勝てるチームに必要なピースなのだ。
単なる“便利屋”ではない。勝利を支える戦略の一角として、ユーティリティプレイヤーの価値は今後ますます高まっていくだろう。
(文=ゴジキ)