小泉進次郎新農水相が推し進める「コメ民営化」問題と“JAマネー”の闇
「政権はファシストがやるであろうことを忠実になぞっているようにみえる」(ガバナンス専攻の大学院生ルーカス・アトキンス氏)
「自分よりも遥かに大きい権力と対峙し、無力感がある」(ケネディスクール卒、コマラ・アヌピンディ氏)
「とても合理的な判断ではない。民主主義国家でこんなことが起きるんだと驚いています。アメリカ政治への見方がまるっきり変わった」(ケネディスクール卒、日本人のミカコ氏〈仮名〉)
アメリカの憲法修正第1条は、表現の自由や報道の自由を保障しているが、ロースクールの学生たちは、「トランプ政権は憲法を侵害している」と口をそろえているようだ。
トランプは熱烈なイスラエル支持者だ。もっとも、アメリカ経済そのものがユダヤ人に牛耳られているのが現実だ。
当事者であるユダヤ系のジョシュア氏(ロースクール卒、欧州出身)は、「反ユダヤ主義は、ハーバードや他大学に限らず、どこにでも存在する」と語る。
「自分を含め、反ユダヤ的な思想を持たない全ての留学生が大変な思いをしている。トランプ政権の本当の目的は、リベラルな高等教育機関への攻撃にあり、反ユダヤ主義を許さないというのはただの口実にすぎないのでは」
だが、トランプによる、最大50億ドル(約7100億円)の助成金停止は、研究へのダイレクトなダメージになりうる。
博士課程で物理学を研究するスペイン国籍のパブロ氏はすでに大打撃を受けたと話す。
「僕が携わっているリサーチの多くが、連邦政府が拠出する資金に頼っています。すでに複数のプロジェクトが止まりました」
社会科学分野も影響は免れそうにない。経済学を研究する博士課程5年のリンジー・キャリエール氏が曇った表情で明かす。
「5月14日には、アメリカ国立科学財団からの奨学金が打ち切られました」
今後の研究資金については大学に問い合わせ中だというが、見通しは暗いというのである。
学問の自由を守り、トランプ大統領への怒りを示したい――デモに参加する理由も意思もあるが、当局への恐怖がそれを阻んでいるという。
「インドからの移民の両親には『デモには参加しないで』と言われて育てられてきました。私は『憲法に守られるから大丈夫』と、両親の心配を杞憂扱いしてきたのですが、留学生の国籍獲得のチャンスが失われる可能性がある現状を目の当たりにして、自分の考えのほうが間違っていたと思い始めています。私自身はアメリカ国籍ですが、それでも怖くて参加できない」(ロースクール卒、ヴァイシャリ・シャンドラリ氏)
アメリカは2001年に起きた9・11以降、友人たちと政治に関する話をすることもできなくなるほどの言論統制が行われた。だが、今また「反ユダヤ主義を許さない」というトランプ大統領によって、自由な言論が封殺され、多様な国から集まってくる優秀な人材がアメリカを去ってしまえば、アメリカには自国の愚鈍な人材だけが残り、国際社会から落ちこぼれていくことになりはしないか。
あと100年経って、トランプ大統領を恨んでももう遅いのだ。
次は、冒頭でも記した長嶋茂雄の死である。享年89。重度の脳梗塞を患っても、いつも穏やかな笑顔を絶やさなかったミスター。私は、彼に何度励まされたことだろう。高校3年の秋。健康診断で結核が見つかり、1年の“静養”がいい渡され、友人たちが皆受験勉強に励む中、私の楽しみはテレビで長嶋の野球を見ることと、親からもらった100円玉を握りしめてパチンコをやることだった。
大学はおろか、このまま社会へも出られないかもしれない。そんな不安を一時的にでも忘れさせてくれたのは、長嶋の躍動する姿だった。
私は父子二代の由緒正しい巨人ファンだった。
父は読売新聞の野球部(同好会のようなものではなかったか)で、時々、多摩川の巨人軍の練習場に小さかった私を連れて行った。そこで「背番号16」の川上哲治から、当時としては珍しいチョコレートやキャンディを山のようにもらったことで、私は熱烈な巨人ファンになった。
私が13歳の時に長嶋が立教大学から巨人に入団した。私たち野球少年はすぐ彼の虜になった。私が出版社に入ったばかりの1970年代初め、長嶋から先輩編集者に「〇〇さんいますか」と電話がかかってきた。たまたま出たのが私だった。すぐに長嶋だとわかり、思わず「長嶋さん、頑張ってください!」と大声で叫んで、編集部の顰蹙を買った。
1974年10月14日、長嶋茂雄の引退試合の日、私は後楽園球場のバックネット裏にいた。
社の持っている年間シートを取材だと偽って手に入れ、双眼鏡で長嶋だけを見つめていた。
引退試合は中日とのダブルヘッダーだった。1試合目が終わって突然、長嶋がダッグアウトを出て外野を歩き始めた。「やめないでくれ」という悲鳴のような声が沸きあがった。長嶋は手を振りながら泣いていた。私は双眼鏡が放せないほど涙が溢れた。後楽園球場が、日本中の野球ファンが「野球少年の死」(寺山修司)を惜しんだ。
2004年3月4日、長嶋は家で脳梗塞をおこし倒れた。家には誰もいなかった。運転手が発見したが、だいぶ時間が経っていたといわれた。別居していた妻はその3年後に亡くなった。享年64。
しかし、そこから長嶋の英雄伝説第二幕が始まる。麻痺が残り過酷なリハビリに励む姿が何度もテレビで流れた。翌年には東京ドームで野球観戦できるまでに回復した。今年3月、大谷翔平とも会っている。野球少年たちの夢を実現したスーパースターが、今度はハンデを持つ多くの高齢者たちを励ます“希望の星”になったのである。
今年は昭和100年だという。現役時代は数々の偉業を打ち立て、憧れの存在になった歌手や芸能人、スポーツ選手は数多くいただろうが、引退し、大きな病を得ても、その頑張る姿が日本人に勇気を与えてきた人間はほとんどいないだろう。
長嶋はそれをやったのけたのである。右半身が動かなくても、常に笑顔を浮かべ、少しもつれる舌で野球や人生を語る前向きな言葉は、我々高齢者を勇気づけた。
葬儀の時、娘の三奈がこういった。SponichAnnex(6/8(日) 16:00配信)より引用。
《「6月3日、朝6時過ぎに、病室におりまして、脈拍と血圧の数値が0になったんですが、よく見ると、波形が、ピッピッと山なりの波形が、ずっと続いているんです。看護師さんに“これ、どういうことなんですか”と聞きましたら、“監督が心臓を動かそう、動かそう、動かそうとしている振動なんだと思います。私、こんなの見たことありません”。看護師さん、主治医の先生方、最後まで驚いていました。最後まで長嶋茂雄を貫いた人生を送ったと思います」と最期を明かした。
「意識がなくなっても諦めず、そして、最後まで、俺は生きるんだ、諦めてないぞ、諦めてないよと。父の心臓の鼓動がそう発していると、私は思いました。父らしい、最期まで諦めない姿を見せてくれました」と語り、「父は、きっとこの後、天国でも日課としている散歩とトレーニングを続けると思いますので、晴れた日には、皆様どうぞ時々空を見上げて、父のことを思い出していただければと思います」と呼びかけた。》
長嶋茂雄のいない日本なんて……。寂しくなるな。
ところで、今日(6月9日)昼、大横綱だった白鵬(40)が引退についての説明会見を開いた。
八角相撲協会理事長の白鵬に対するいじめとも思える嫌がらせや、後輩の照ノ富士が伊勢ケ濱親方になり、その下では嫌だという思いが重なり、ついに堪忍袋の緒が切れたといわれていたが、会見では、そういったことへの「口撃」はなく、終始穏やかな表情だった。
会見には、前伊勢ケ浜親方で9日付で襲名した宮城野親方(元横綱旭富士)が同席するサプライズがあった。
退職するにあたって白鵬は「悔いはまったくない」といい切った。日刊スポーツネット版(6月9日12時10分)から引用する。
《宮城野親方は「このたびは白鵬翔が本日付をもって引退しました。これだけの実績、たくさん記録を持っています。こういう人がずっと協会にいてくれていれば、良い力士が出ると思っていた。本人の意志が固くて引き留めることができなくて、ファンのみなさまには申し訳なく思っています。本人も相撲が好きで愛していて、十分誇りに思っていると常々、聞いている。相撲を通じて社会貢献したい、相撲協会にも恩があるから応援していきたい気持ちがあった。外の方からやっていきたいとの意思を尊重した。ひきとめることができずに残念でなりません。相撲を通じて社会貢献したいと思いがある。ご指導を鞭撻(べんたつ)を切にお願い申し上げます」と支援を呼びかけた。
その上で「私も今日から宮城野親方になった。将来、(宮城野の)名跡をつげるものがでてきたら、いずれ宮城野部屋を復興させられるように尽力したい」と話した。
冒頭で発言を終えると、白鵬さんと握手とハグをかわして、退席した。
白鵬さんが師匠を務めていた宮城野部屋で昨年、弟子だった元前頭北青鵬の暴力が発覚。監督責任を問われて部屋は閉鎖、昨年4月に師弟で伊勢ケ浜部屋に転籍した。
横綱の先輩である宮城野親方の下で、部屋の運営などを学んでいた。
6月9日付の退職願が協会に提出されていた。》
以下は朝日新聞Digital(6月9日 12時20分)からの引用。
《「相撲に愛され、相撲を愛した25年だった。私白鵬翔は協会を退職し、新たな夢に向かって進み出すことを皆さんにお伝えします。今の自分が置かれた立場を考えると、協会の中ではなく外の立場から発展に尽くすことが良いと判断した」
「弟子たちへの愛情は変わらない」
今後の活動については、「日本のみならず、世界の人たちに多くの『世界相撲グラウンドスラム』で広めて参ります。相撲は神事でもあります。精神や肉体を鍛え、人々を導く道でもあります。いま世界にある差別や偏見を回収するための基本を届けることができると信じております。この理念をもとに『世界相撲グランドスラム』を実現してまいります」》
相撲協会との軋轢を乗り越え、次の大仕事へのやる気が、静かな中にも滾っている。「今に見ていろ」という覚悟が伝わってくる会見だった。
最後に白鵬が壇上から降りる際、記者から拍手があった。横綱在位中は、ぶちかまし、張り手など、横綱にあるまじき相撲と、横綱審議委員会から何度も注意されたが、白鵬はそれを改めることはなかった。
しかし、横綱に相応しい相撲を取って負けるよりも、自分の思う相撲を取り切ったからこそ、史上最多の45回という優勝を成し遂げることができたのだ。
世界グランドスラム構想を発表し、ここは株式会社になるという。トヨタ自動車の豊田章男会長は白鵬を贔屓にし、この構想も支援していくようだ。
新潮によれば、このグランドスラムというのは、
「これまでわんぱく相撲大会『白鵬杯』を開催してきましたが、まずは国際相撲連盟と連携する形で、子供だけでなく、男子、女子と階級別で世界一を争う大会を主催する意向です。将来そこに派生するビジネスにも手を広げたいと考えています」(協会関係者)
相撲を世界のスポーツに成長させ、オリンピックの正式種目にもしたいという夢を持っているといわれる。そう簡単ではないだろうが、相撲が持っている「真剣勝負」のぶつかり合いは、プロレスや異種格闘技と並んで、見る者を熱くさせるはずだ。白鵬に期待したい。
今週の最後の特集は、「コメの民営化」を進めるのではないかといわれる小泉進次郎農水相についての文春と新潮の記事。
鳥に食べさせる餌のような古古米を人間に食べさせるのかという批判さえあった「備蓄米の放出」だったが、5キロ2000円程度で手に入る安さもあって、入荷すれば長蛇の列ができ、あっという間に売り切れるスーパーが続出している。
味のほうも、食べた消費者の声は概ね「おいしい」と好評である。それだけコメの値段の高騰に、庶民は怒り、困っていたのである。
農水族や一部の識者たちが指摘していた、コシヒカリなどの銘柄米への影響はなく、コメの値段は二分化、三分化していくとのしたり顔が、おそらく醜くゆがんだだろうと思うのだが、備蓄米放出後に、銘柄米の下落が起きているのだ。
備蓄米の販売が全国各地に広がるなか、“銘柄米”の価格に変化の兆しがある。テレ朝NEWS(6/9(月) 13:07配信)はこう報じた。
《「内田米店」 内田幸男社長
「茨城コシヒカリの2等米が(60キロ)3万5000円。1日で4000円も下がっちゃうの? っていうのは、正直、こんな経験はあまりなかったです」
こちらのコメ販売店が購入しているのは、JAを通さずに卸売り業者同士が直接取引する“スポット取引”。その価格が急落しているという。
内田社長「3250円くらいで5キロ売れますね」》
小泉進次郎と石破茂の「やった!」という顔が見えるようだ。
文春は、JAと癒着してきて、小泉の進め方に異を唱えた野村哲郎元農相の収支報告書を精査したという。
《資金管理団体「彩燿会」は2100万円の寄附、政党支部「自民党鹿児島県参院第五支部」は80万円の寄附、4725万円のパーティ券購入を受けていたのだ。総額7000万円近い“JAマネー”が注入されていたことになる。
JAからの献金などについて野村氏に訊いた。
――小泉氏の手法に思うところがある?
「大手にだけ備蓄米を渡すって、離島なんかどうするのかね。そもそも備蓄米が届かない。もう少し詰めた議論をしてから発表してほしいという意味です。マスコミの皆さんが追いかけるから、彼もサービスしなきゃいけないと、『(党の)部会になんかかけない』と言ってるんだと思うけど」
――党の農林族は同意見?
「今度の選挙にマイナスにならせんか、と。少なくとも農林の森山先生のところの幹部の人たちぐらいには事前に話があればね」
――JAからの献金が多いが、意向を汲んでいる?
「そんなことないですよ。JAを贔屓にすれば、それこそ逆効果だもん。我々は色がついていると見られているわけですから」》
開き直りとしか見えない。だが、小泉のやり方に反発しているのはJAという“魔物”である。コメが足りない、高いと庶民が悲鳴を上げている時JAは、「3月に2回行われた備蓄米の競争入札では、JA全農が9割を落札。5月末の時点で卸売業者に引き渡されたのはそのうちの3割強で、消費の現場まで届いたのは2割程度に留まっています」(農水省担当記者)
落札、流通、金融のすべてを一手に握っているのがJAなのである。文春によれば、
《農水省のデータ(23年産米)によれば、全国で収穫されるコメの約93%を「集出荷業者」である各都道府県のJA農協が集荷。そこから全国団体であるJA全農へ出荷される。その後、「1次問屋」である米卸業者へと移るが、その多くもまた、JA系なのだ。
「全農パールライスをはじめ、JAグループの米卸が11あります。それ以外の米卸もどれもJAと長年取引のある会社ばかり。コメの流通に参画したい業者は、2次問屋や3次問屋として請け負うしかないのです」(JA関係者)
その結果、次のような事態が発生していると意見書では指摘している。
〈5次問屋なども存在する多重構造によって、中間コストに加え、マージンがそれぞれに発生することが、最終的な小売りの仕入原価に反映されることになる〉
米卸関係者が補足する。「JAが流通経路の“川上”を牛耳ることで間に入る卸業者の数が増え、マージンが嵩みます。それらが経費として上乗せされ、コメの販売価格が高騰していく構造があるのです。実際、3月の備蓄米も販売価格が落札価格の2倍にまで跳ね上がっていました」》
小泉進次郎の父親は「郵政民営化」を叫び、選挙で大勝して民営化したが、その後を見れば、これが誤りだったことはよく知られる。今回、小泉が、備蓄米がなくなれば外国から輸入するといい出したのは、やや気になる。
参院選目当てで、当面、安いコメを流通させれば、有権者は単純に喜び、自民党の票の目減りを押さえられると考えているとしたら、大きな誤りである。
それよりも、自民党とJAが組んで進めてきた「減反政策」を即刻やめ、農地を増やし、若者にも魅力ある農業に転換することこそ、喫緊の課題であるはずだ。
それを阻むのは、JAの守護神といわれる森山裕幹事長だ。文春は森山を直撃している。
《――野村元農相の言葉はJAの声を代弁している?
「農家の皆さんに心配をかけちゃいけないのは2000円のコメがずっと続くことはあり得ないわけです。そこを心配しておられるというのはよく分かりますので」
――5次問屋に及ぶ構造も問題視されている。
「自由主義経済では、問屋の数を規制もできませんし。あれだけのコメの保管や輸送をするとなると、今の流れが一番安定します」
――小泉氏は、JAを農業などの経済事業に注力する方向に改革するつもりだ。
「都市部ではなくてもいいですけど、田舎は他に金融機関がないですから。飛躍した考え方だと思います」》
森山は進次郎の父親・小泉純一郎の「郵政民営化」に反対して離党したことがある。今回も、進次郎のやり方を腹の底では苦々しく思っているはずだ。だが、今の有権者の大多数は、「コメの値段の下落」を支持している。
参院選までにもう時間はない。小泉の農業改革が本物か、票欲しさの思い付きか。我々有権者は冷静に見極めることが求められているはずだ。
(文中一部敬称略)
(文=元木昌彦)