池田エライザ&松居大悟監督『リライト』 タイムリープものが多発する日本映画界の実情

いまの映画界は、タイムリーパー(時間跳躍者)でいっぱいだ。インディーズ映画ながら日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『侍タイムスリッパー』(2024年)は、現在も池袋シネマ・ロサなどでロングラン上映が続いている。伊藤万理華、河合優実らが出演した『サマーフィルムにのって』(2021年)は、数々の映画賞を受賞した。現代の女子高生が戦時中に迷い込む『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(2023年)も興行的に大成功を収めた。
今年に入っても、松たか子が独身時代にタイムスリップする『ファーストキス 1ST KISS』が大ヒット。さらに、中島健人とMireiが共演した『知らないカノジョ』のような「パラレルワールド」ものを加えると、作品数はもっと増える。
そんなタイムループ&パラレルワールドものが溢れる日本映画界だが、真打ちと言える作品が登場した。池田エライザ、橋本愛らが女子高生を演じる松居大悟監督作『リライト』が、6月13日より劇場公開されている。

尾道を舞台にした、せつない青春ファンタジー?
広島県尾道のとある高校に、ひとりの男子転校生が現れることから物語は始まる。転校生の保彦(阿達慶)は300年後の世界から来た未来人で、同じクラスの美雪(池田エライザ)はその秘密を知り、誰も知らない2人だけの夏休みを過ごすことに。展望台でのデートに、風鈴の音色、夏祭りに打ち上げ花火……。ひと夏限りの淡い恋愛体験が描かれる。
尾道が舞台の、恋愛ファンタジーと聞いて、多くの人は既視感を覚えるだろう。そう、映画『リライト』はタイムリープものの名作と呼ばれる大林宣彦監督、原田知世主演の『時をかける少女』(1983年)のオマージュ作となっている。
だが、池田エライザや橋本愛が女子高生を演じることに、微妙な違和感も感じるはずだ。その違和感どおり、タイムリープをモチーフにした青春映画のセオリーから、中盤以降どんどん逸脱した展開となっていく。
保彦と過ごした奇妙な夏休みの体験をもとに、美雪は小説を執筆し、作家になるーという序盤までのストーリーはよくあるもの。ところが、保彦と美雪の思い出は2人っきりの秘密のエピソードと思いきや、実は保彦は何度もこの時代にタイムリープしており、美雪以外のクラスメイトもそれぞれ特別な夏休みを過ごしていたことが発覚する。おとなしそうな顔をして、とんでもない転校生だった。

青春映画の名手・松居監督とタイムリープ職人とのタッグ作
池田エライザ、橋本愛に加え、久保田紗友、山谷花純、森田想らミニシアター系の作品ではすでに主演を経験している人気女優たち、さらに松居監督作品でおなじみの大関れいか、福永朱梨らがクラスメイト役で出演している。それぞれの夏休みがキュンとするエピソードになっているあたりは、いかにも『くれなずめ』(2021年)や『ちょっと思い出しただけ』(2022年)などの青春映画を得意とする松居監督らしい。
タイムリープものに対するメタ視点を持つ本作の脚本を担当したのは、劇団「ヨーロッパ企画」の主宰者である上田誠。『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)やTVアニメ『四畳半神話大系』(フジテレビ系)などタイムループもの、パラレルワールドものを数多く手掛けてきた。単館系で公開され、話題となった『ドロステのはてで僕ら』(2020年)や『リバー、流れないでよ』(2023年)は現在アマプラなどで配信中だ。
法条遥による原作小説『リライト』(ハヤカワ文庫)はバッドエンディング版『時をかける少女』と評されているが、上田誠と松居監督のコンビによって映画『リライト』は、人生の苦味を感じさせながらも、クラスメイトたちそれぞれの青春を輝かせたものとなっている。映画を見終えた後の読後感は悪くない。
それにしても、タイムリープものが映画界に氾濫しているのはなぜだろうか?

タイムリープものが映画界で多発する理由
その答えは極めて簡単だ。身も蓋もないが、制作費が安く済むからである。時間や予算が掛かるアクション映画や特撮映画などに比べ、現代を舞台にしたタイムリープやパラレルワールドものは脚本さえしっかり練り込まれていれば面白い内容にすることができる。
ゾンビ映画をモチーフにした上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』(2017年)は制作費300万円ながら、興収31億円ごえの大ヒット作になった。ゾンビとタイムリープは、低予算映画を託された者たちにとっての数少ない武器となっている。
バカリズム脚本、安藤サクラ主演のTVドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)が2023年に放映され、好評だったことも大きな要因だろう。2024年には宮藤官九郎脚本、阿部サダヲ主演ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)が人気を博し、SFジャンルから身近なジャンルに浸透した感がある。企画のGOサインが出やすくなったに違いない。

人生のやり直しを切実に願う人たち
海外でも、リチャード・カーティス監督の恋愛ファンタジー『アバウト・タイム 愛おしい時間について』(2013年)などのヒット作が知られている。もうひとつ、タイムループもので重要な作品となっているのは、アーシュトン・カッチャー主演作『バタフライ・エフェクト』(2004年)だ。主人公が人生をやり直すたびに、恋人や親友が不幸になってしまうというビターな物語ながら、今なおレンタルDVDのロングセラー作品となっている。
今回、映画化された『リライト』でも、美雪のクラスメイトの中にはシビアな青春を送っていた者もおり、タイムリープ=人生のやり直しが、より切実な意味を持つことになる。
コロナ禍で文化祭や修学旅行が取りやめになり、自宅で変わりばえのしない学生生活を悶々と過ごした若い世代には、同じシチュエーションが繰り返されるタイムループの世界は、リアリティーを感じさせるかもしれない。
6月の映画興行は、制作費に10億円以上を費やした吉沢亮と横浜流星の共演作『国宝』や、すでに興収137億円を突破した劇場アニメ『名探偵コナン 隻眼の残像』などの大作映画がランキング上位を占めている。物語の面白さで勝負する『リライト』は、はたしてどこまで闘えるだろうか。
映画『リライト』
原作/法条遥 脚本/上田誠 監督/松居大悟
出演/池田エライザ、阿達慶、久保田紗友、倉悠貴、山谷花純、大関れいか、森田想、福永朱梨、若林元太、池田永吉、晃平、八条院蔵人、篠原篤、前田旺志郎、長田庄平(チョコレートプラネット)、マキタスポーツ、町田マリー、津田寛治、尾美としのり、石田ひかり、橋本愛
配給/バンダイナムコフィルムワークス 全国公開中
(C)2025『リライト』製作委員会
https://rewrite-movie.jp/
(文=長野辰次)