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『ムショぼけ』『インフォーマ』、そして…ゼロから築き上げたメディアミックス戦略

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『ムショぼけ~懲役たちのレクイエム~』4巻

 まずは最初によいだろうか。時はコロナ禍の真っ只中。兵庫県尼崎市で産声を上げた『ムショぼけ』のマンガ版ムショぼけ~懲役たちのレクイエム~4巻(秋田書店)は、現在、Amazon・各書店にて絶賛、発売中である。

絶対に泣ける小説はこうして書き上がった

 本書の帯は、登録者数288万人を誇る超人気YouTuber「たっくーTVれいでぃお」がコメントを寄せている豪華な装丁で仕上がっている。ぜひ、お買い上げいただければ、担当編集の岩本くん(東大卒)も大喜びで連絡をしてくるはずだ。よろしくどうぞ、と言わせてほしい。

 さて、メディアミックスである。『ムショぼけ』も『インフォーマ』も、小説、ドラマ、マンガで展開し、いわゆるメディアミックスをかけてきたのだが、そもそものメディアミックスと言えば、角川書店を率いていた角川春樹さんが1970年代後期に始めたものだ。

 書籍の帯においてもそうだ。小説、マンガを問わずに、本を少しでも売るために、今では当たり前に巻かれている帯だが、その発案も角川春樹さんで、それが現在まで脈々と受け継がれているのだ。豆知識である。

 現在、私で言えば『ムショぼけ』『インフォーマ』に続き、新たな作品でメディアミックスを仕込んでいるのだが、世の中に姿を見せていくのは、来年からになるだろう。それも楽しみにしていただければ嬉しい限りなのだが、そもそも小説を出版するだけでも難しい時代に、どうやったらメディアミックスを仕掛けられるのか。そこにガイドブックのようなものは、存在しない。

 当たり前だが、小説が売れたり、話題になれば、結果的にそれが映画になったりマンガになったりドラマになったりするのだが、私はそんな既成概念の中で生きていない。すべて自らの手で切り拓いてきた。そこにはもちろん、出会いから始まる人間関係が原点としてあるのだが、それを私は1から試行錯誤しながら、自らの手で構築してきたのだ。

 スタートは、編集者の知り合いが一人もいないところからだった。師もいなければ、導いてくれる人も、引っ張り上げてくれる人もいなかったのだ。それでも私は突破口を見つけ、その狭き入口をこじ開けてきたのだ。誰に紹介されたわけでもなく、兵庫県尼崎という小さな街から、「必ず小説家になる。その物語を映像化してやる」という一心で、ペンを握り続けた。未来に保証は一ミリもなかったが、それでも書くことをやめなかった。

 他人が聞けば、その全員が絶対に無理だと鼻で笑うような環境の中で、私だけは諦めずに筆を磨き続けてきたのだ。それも1年2年の話ではない。デビューまでに13年かかった。だからこそ、デビューしたときには自信もあった。当たり前ではないか。13年の歳月、隙あれば「書く」「読む」「写す」を繰り返してきたのだ。

 ただ一つ、見込み違いがあったとすれば、印税くらいだろうか。すまん……もっと儲かると思っていたのだ。仕方ないではないか。だって出版社の人間も編集者も誰一人知り合いがいなかったのだ。今みたいにSNSが普及していたわけでなく、業界事情を聞く相手もいなかったのだぞ。すべての空想も、現実も自分の中にしかなかったのだ。

 それでも筆を磨き続けていた。戦場にすら立つ術もない中で、書き手としての苦悩を味わい、書き続けることの困難を乗り越えてこれたのは、意地とか執念でもなければ到底できなかったと思う。意地でも小説を出版し、意地でも映像化してやると、自らを叱咤激励し続けてきた。

 次第に、自分の物語に自信を持てるようになった。これなら戦場でも戦える、そう確信できた。そしてチャンスが一瞬、目の前をサッと通り過ぎようとしたとき、それを掴んで離さなかった。それは今思えば、針の穴に糸を通すような瞬間だったが、私はそこに食らいついた。

 それだけ一つのことをやれば、何だってできるよと思われるくらいは努力してきたし、他者を圧倒できる武器を持っていることを私が理解していたのだ。それがスピードだった。それとプロジェクトを実現させる情熱があった。それは今でも何一つ変わらない。

人が真似できないくらいなことをやるしかない

 人間関係において、私は人を紹介することがあっても、ほとんど紹介なんてされずにやってきた。だからこそ、一つひとつの出会いを大切に育んできた。

 その出会いの中で、私は大きなことも言わないし、ウソもつかない。ただ淡々と現実を冷静に分析するだけだ。そして、大事だと思った人間のことは絶対に裏切らない。もちろん私は聖人君子ではないし、文句も人一倍言う。でも、絶対に裏切らないし、自分の言葉には責任を持ってきた。それによって何が生まれるのかがわかるだろうか。簡単なことである。信用である。

 それは仕事においても友人関係であっても、最優先されるものだ。初めは誰だって信用なんてないのだ。それを育てていくのは、自分自身なのだ。たった一人の編集者や出版社に知り合いがいなかった私だったが、今では出版業界、映像業界、テレビ業界に至るまで、数えきれないほどの人脈を築けたのは、筆と信用、そして自分にしかできない仕事を通じてだった。

 今、時を戻してもう一度ゼロから始めろと言われても、おそらく無理だろう。というか、やらないと思う。それほどその時々に人生を賭けてきたからこそ得られた財産であり、同じことを繰り返すことはできない。

 順風満帆だったわけでも、現状に満足しているわけでもない。ただ、10年後も「書く仕事」で食えていれば、それでいいと思っている。その先のことはわからない。あと10年は、今のままの情熱を持って、日々、仕事に追われるくらいであればよいと思っている。

 そのために今、私にしかできない仕事をやっているのだ。常識は覆していきたいと思っている。私はどこまで行っても、物語の作り手だ。他人の真似なんてつまらない。

 人さまにアドバイスなんてない。とにかく頑張るしかないのだ。こんなにも頑張っているのにーーと思っているもっともっと先にしか、第一線の舞台はないのだ。その舞台に上がりたければ、人が真似できないくらいのことをやるしかないのではないか。

 それは何も特別なことではない。当たり前のことを延々と続けていくのだ。そうすればきっと、それが当たり前ではなくなるだろう。

 「どうすればメディアミックスを実現できるか」ではなく、「メディアミックスを実現したいなら、そのために立ち向かう」。簡単な話、諦めないことだ。

 今の時代、何が流行るかは誰にも分からない。でも私は、だいたいこうなるだろうな、という流れを分析できる。そしてこれからも、それを物語に投影させていきたい。

  熱い夏が来た。来年の夏は、さらに熱く燃え上がれるよう、私は今、寝る間も惜しんで働いている。

 小説『木漏れ陽』(角川春樹事務所)も絶賛、発売中である。

(文=沖田臥竜/作家・小説家・クリエイター)

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沖田臥竜

作家・小説家・クリエイター・ドラマ『インフォーマ』シリーズの原作・監修者。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』シリーズ(サイゾー文芸部)がドラマ化もされ話題に。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

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最終更新:2025/06/28 12:00