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「ウチのお風呂、1年半、お湯替えてません!」 「検索してはいけない言葉」だったマコモ湯が令和でも元気なワケ

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レジオネラ属菌もあるのだから、お風呂の水は定期的に入れ替えよう(写真:Getty Images)
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かつて、「検索してはいけない言葉」としてネット上でネタ扱いされていた「マコモ湯」。これを推奨する動画が、SNSを通じて再び注目を集めている。

マコモ湯とは、イネ科の多年草「マコモ(真菰)」を加工し、その粉末や抽出液をお湯に溶かすという入浴法。マコモの効能により「1年以上お湯を替えなくても清潔なまま」「美容・健康に効果がある」などと謳われているものの、科学的根拠に乏しいため疑似科学の典型例とされてきた。

ネット上でも、「マコモ」と検索すると「マコモ やばい」といった候補が真っ先に提示される有様だが、なぜ今になって注目を集めているのか? ライターで、陰謀論ウォッチャーの雨宮純氏に聞いた。

「東野幸治の呪い」と都市伝説

「ウチのお風呂、1年半、お湯替えてません!」

「マコモ湯が再び話題になったきっかけは、昨年12月にインスタグラムに投稿された1本の動画でした。それをインフルエンサーたちが拡散した結果、視覚的なインパクトも相まって一気に広まったと思われます」

 件の動画によると、「(マコモによる)発酵の力で雑菌を抑えてくれるから、お湯を替えなくていい」「逆に替えない方がお湯の質がよくなっていくから、アトピーや肌荒れにも良いと言われてて、デトックス効果も抜群」とのことである(なお、根拠は示されていない)。

 また、マコモを投入したお湯は黒く濁る性質がある。何も知らずにこれを見せられ「ウチのお風呂、1年半、お湯替えてません!」と満面の笑みで言われたら確かにインパクトは抜群……というか、正気を疑う。果たして、この動画で話されていることに根拠はあるのだろうか?

「浴用マコモをはじめとするマコモ製品を販売している株式会社リバーヴは、創業者の小野寺廣志という人物が『マコモ菌ON-1』なるものを発見したと主張しています。さまざまな販売サイトに記載されている謳い文句によれば、この菌はマコモに太陽エネルギーを吸収させることによって発生する、自然状態では存在しない微生物とのことです」

 それでは、そのマコモ菌は具体的にどんな効能をもたらすのか? リバーヴの公式ホームページには「土を蘇らせ草木を元気にし、空気、水を浄化する」「認め合える友達の輪が広がる」「神話の時代から今日まで大切に伝えられてきたマコモの神秘なる力」といった文言が躍る。なるほど、わからん。

 また、ホームページでは小野寺氏が残した“丈夫になるため大自然に帰ろう!”という言葉を「創始者からの最も大切なメッセージ」と紹介しているが、雨宮氏は「自然状態では存在しないものを生み出すことは、自然派の理念と矛盾しているのでは……?」と首をかしげる。

保守論客・西部邁もハマっていた……

 マコモ関連の商品を販売する複数のネットショップによると「マコモ菌」は、枯草菌(バチルス・サブチルス)の変異株とされ、ON−1の名は小野寺氏にちなんでいる。そして、高温や強酸性の環境でも生き延びる強い生命力を持つとされ、「飲むことでアトピーや高血圧、肝臓病や糖尿病、婦人病や喘息など、さまざまな症状が改善」「血液を浄化し、免疫力を強化する力を持っている」と宣伝されている。しかしながら、その健康効果に関する大規模な研究や、査読済みの論文は見当たらない。

「マコモ湯は1982年に出版された『マコモ革命』(八曜社)という本でおそらく始めて紹介され、1990年代から2000年代には節約家として知られた小幡玻矢子氏が『お湯を替えなくていい』節約術としてテレビで紹介したことで、一部でブームを起こしました」

 90年代の雑誌などを調べてみると、「新潮45」(新潮社)の99年12月号では経済学者の西部邁氏が「我が友『マコモ・バクテリア』は手放せない」と題した手記を寄稿してマコモ湯の有用性を説いている。また、「財界」(財界研究所)89年7月30日号では、当時サッポロビールの顧問を務めていた河合滉二氏が「マコモ湯で皮膚病がピタリと治る」と題した体験談を語っている。この頃からすでに一部で「マコモ湯=健康に良い」という認識が広まっていたとみられる。

 雨宮氏によると、現代におけるマコモ湯の支持層は主にスピリチュアル愛好家や、オーガニック食品などにこだわりを持つ“自然派”だという。

「自然派やスピリチュアルに傾倒する人々は、化学物質を避け、微生物の『自然のパワー』で隠された力を引き出せると信じがちです。マコモ菌やEM菌、バチルスなど、菌に特別な力があるという発想は、自然派コミュニティで根強い。工業化以前の社会にこそ純粋な力が宿ると考え、拡大解釈してしまうんです」

 コロナ禍は、この傾向をさらに加速させた。外出制限や情報過多の中で、医療への不信感や「自分で健康を守りたい」という意識が広がり、そうした考えを持つ人々に「自然の力で健康に」というマコモ湯のメッセージが響いたと考えられる。

「マコモ湯のような話は、不確実な時代に『何かすごい力がある』と感じたい人々の心理に訴えるんです。また、テレワークや外出制限により“おうち時間”が増え、生活様式が変わったことも大きい。特に、お風呂を癒しの場に変えたいというニーズが高まり、マコモ湯の『節水』や『災害時にも役立つ』といった主張は、環境意識や非常事態への備えを重視する人々の心を捉えたと考えられます」

 この点に関して、株式会社リバーヴのマーケティング戦略も見逃せない。高額なマコモ製品(例:7700円の入浴剤)は、「伝統」「自然」といった情緒的な訴求で消費者の感情に訴える。さらに、オンライン上のコミュニティ形成が支持者を増やしている。

「リバーヴは宮城県の気仙沼市で『マコモ龍宮城』という施設を運営しています。こちらは建築資材にマコモを使用しているほか、『60年モノのマコモ湯』なんかもあるそうです。こうした施設や体験談の共有が、仲間意識を生み、科学的根拠の乏しさをカバーしてしまうのです」

ナショナリズムと結びつくスピリチュアル

 また、マコモは「神の宿る草」として古来より神道の儀式に使われ、出雲大社での神事に用いられているが、雨宮氏はこの事実が新たな層にも訴求すると指摘する。

「スピリチュアル系の人は、これを根拠にマコモに『日本古来の精神』が宿ると主張し、ナショナリズムと結びつけています。縄文時代に日本古来の精神があるというロマンは、スピリチュアル系の拡大解釈の典型です。特に、マコモの種子が縄文時代の遺跡から出土した記録があることから、『マコモの実である菰米こそ、日本人の原点であるスーパーフード』という言説が出回っています。この手の言説では、縄文時代が平和で平等な理想郷として扱われています。その一方で、“『氣』はGHQに消されて『気』になった。米という字は八方に広がるとともに、米自体にパワーが秘められていたから”というスピリチュアルな陰謀論が人気なように、こうした人々は米も大好き。そこで想像される日本の原風景は稲作が普及した後の農村地帯で、一般的に想像される縄文時代の暮らしとは異なっています。むしろ稲作普及後に身分制度も発生した後の社会に思え、ずいぶんちぐはぐな印象を受けますね。この手の言説では工業社会以前の暮らしに『今、ここではない理想郷』を求めるあまり、さまざまな時代を印象ベースで混合してしまうのでしょう」

 なお、北米原産のアメリカマコモの種子が「ワイルドライス」と呼ばれ、古来よりネイティブアメリカンに食されてきたという歴史はあるようだ。ミネラルや食物繊維、タンパク質を豊富に含まれるとされ、近年ではスーパーフードの一種として一部で注目を集めており、アメリカやカナダでは商業的に栽培している地域もあるようだ。

 雨宮氏によると「スピリチュアル系や自然派の人々は、“先住民族の智慧”といったフレーズも大好き。縄文人の例と同様に、やはり工業化以前の社会に神秘性を見出しがちなんです」とのこと。

 繰り返すが、ワイルドライスはあくまでマコモの種子であり、我々が日常的に食するコメとは異なる。しかし、ワイルドライスを「まこも米」の名で販売しているネットショップもあり、昨今のコメ不足も相まって今後話題になっていく可能性はある。そうなれば、マコモ湯の支持者たちはさらに勢いづくだろう。

 ここまでの話をまとめると、マコモ湯はコロナ禍によって引き起こされた従来の医療・健康への不安、そしてSNSの拡散力が、一部のスピリチュアル愛好家などのニーズと結びついて再燃したといえる。その性質は、現在ネット上で幅を利かせているさまざまな陰謀論と似通っており、一笑に付す存在ではなくなってきている。

 今回登場した「スピリチュアル」「自然派」「ナショナリズム」といった要素を持つ政党が、国政政党になっている現状がある。個々の要素を悪と断じるつもりはないが、それらに乗じて危険な言説がまかり通ることは社会にとってよろしくない。

 マコモ湯に関しては、その効能について検証する複数のオンライン記事において「長期間お湯を交換しない行為は、雑菌やカビの繁殖リスクが高まり、免疫力の低い人は感染症の危険がある」と感染症専門医などが警鐘を鳴らしている。給湯器メーカーのノーリツも「お湯が腐らない根拠はない」として毎日のお湯交換を推奨している。

「ファイナンシャルフィールド」が2月7日に配信した「毎日湯船にお湯をためると1ヶ月でどれくらい水道代・ガス代がかかる? シャワーのみの場合と比較」という記事によると、「一般的な湯船の水量は、約180リットルです。水1リットル当たりの単価を0.24円とすると、お湯をためたときの水道代は、1日43.2円かかることが分かります。これを1ヶ月30日続けたとすると1296円かかることになります」とのこと。

 少なくとも、節約目的でマコモ湯を検討している人は、お湯を替えずに感染症などを発症した場合の医療費のリスクについて考えてみてほしい。

都市伝説と親和性が高い宮崎作品

(取材・文=ゼロ次郎)

雨宮純(あまみや・じゅん)
都内在住の30代。悪徳商法や陰謀論など、主にウェブで広がる怪しい「いろいろ」について調査・執筆。ライターデビューのきっかけは、悪徳商法団体の構成員や元会員と接触しての情報発信活動。著書に『危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング』(ぱる出版)がある。

ゼロ次郎

ライター。2015年からライターとして活動。 「実話ナックルズ」「月刊サイゾー」「日刊SPA!」を中心に執筆しているほか、 B級ニュース情報サイト「BQN」の管理人を務める。得意ジャンルは国内外のB級ニュースや珍事件。

X:@zerojirou

ゼロ次郎
最終更新:2025/07/19 18:00