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吉沢亮『ババンババンバンバンパイア』、『国宝』との“合わせ技”で集客効果抜群!「振り幅半端ない」事務所の戦略勝ちか

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吉沢亮(写真:サイゾー)
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 映画『国宝』が公開1カ月強で興行収入56億円、累計動員数398万人突破(7月13日時点)の特大ヒットを飛ばしている。主演の吉沢亮と横浜流星が素晴らしいという絶賛が後を絶たない裏で、吉沢といえば現在『ババンババンバンバンパイア』(通称『バババ』)も公開中。こちらも公開3日間で興収1億3500万円、動員数10万人超と順調なスタートを切っているが、元はといえば不祥事によって延期になった映画。いったいこれは“セット販売”を狙った妙なのか、偶然なのか。

『国宝』『ババパ』の“出来すぎ”な共通点

 劇場版『バババ』の原作は「別冊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載中の同名マンガ。今年1月にアニメ化、9月に舞台化などメディアミックスも盛んな話題作で、2021年の連載開始から現在までに11巻が刊行されている。銭湯で働く吸血鬼・森蘭丸は、銭湯の息子・立野李仁を「最も血が美味しくなる“18歳童貞”の状態でいただく」野望がある。しかし、高校生になった李仁は女の子に恋をしてしまう──。李仁の“童貞喪失”を阻止するために奔走する吸血鬼を描いたBL=ボーイズ・ラブならぬ“ブラッティ・ラブコメ”だ。

不祥事で延期に

 吉沢は映画『銀魂』の沖田総悟、映画『東京リベンジャーズ』マイキー(佐野万次郎)など、マンガの実写化で作中屈指の人気キャラを演じてきた“実写版界の王子様”。本作も大いに期待が寄せられていたのだが、昨年末に自身が起こした不祥事が原因で、本来2月14日予定の公開が延期となっていた。

 念のため不祥事を振り返ると、2024年12月30日、酒に酔った吉沢は自身のマンションの隣部屋に侵入し、住居侵入の疑いで警察から任意の事情聴取を受けていた。年が明けた25年1月6日、所属事務所のアミューズが無断侵入の経緯と謝罪コメントを発表。酒が原因ということでアサヒビールのCM出演が打ち切られるなどの事態に発展する一方で、映画に関しては〈器物破損したり吐いたりしたりしてないのなら公開延期はやりすぎでは……〉と同情票も集まったものだ。

 その後被害者との示談が成立し、吉沢の不起訴が確定。本作の新たな公開日は7月4日だと発表された。本来なら、2月から『バババ』、上映期間終了後間をおかずして『国宝』と、“吉沢亮出ずっぱり状態”が目論めたにもかかわらず、これでは6月6日全国公開の『国宝』とほぼ同時期のスケジュール。『国宝』の影に隠れてしまうのかと思いきや、フタを開けてみればなかなかの好評ぶり。Xには〈吉沢亮の振り幅すごい!国宝とのギャップでずっと笑ってた!〉と、むしろセットで見てこそ評価を上げる人も少なくない。

 さて、この“セットで高評価”のカラクリを、映画評論家・前田有一氏が解説する。

俳優の不祥事後、「公開」と「延期」ジャッジの境目は

 日本の映画は、そのほとんどが複数の企業が出資して著作権を共有する「製作委員会方式」で制作されており、本作も同様だ。それゆえ、「公開日」の設定は全社の同意が必要となる。裏を返せば、一社でも公開を躊躇(ためら)えば、延期せざるを得ないのだ。

「そもそも公開日の設定やその変更の判断は、“ライバル”となる他作品の有無やメディアミックス事情、上映館の都合など、さまざまな要因が絡みます。そして製作委員会方式の場合、延期の決定には『配給会社・制作会社・俳優(所属事務所)』という3つの立場が関係する。配給会社は映画で収益をあげることが目的なので、最も興行収入が見込めるタイミングで設定していた公開日を可能な限りズラしたくなかったはず。

 一方、原作の出版社を含む制作会社側は、IPの価値の最大化が目的。映画はそのための“販促手段”です。本作の場合、本来の公開日はテレビアニメの放送中だったことから、相乗効果的な話題化を狙ったのは明らか。延期は避けたかったことでしょう」(前田氏、以下「」内同)

 しかし本作には、深夜に女子高生・篠塚葵(原菜乃華)の自宅2階の窓から、森蘭丸(吉沢亮)が入室しようとするシーン(吸血鬼は家主に招かれないと入室できないという設定があるため、実際には侵入しない)があり、前田氏は「どうしても不祥事を想起させるため、公開延期は免れなかった」と断言。くわえて、俳優サイドの事情もあったと見る。

「映画よりもCMの方が圧倒的にギャラの“タイパ”がいい。所属事務所にとっては広告契約を守ることが最優先事項です。今回の場合、公開を強行すれば内容が内容だけに“笑えない”“不謹慎”などといった批判を浴び、将来的な広告収入に影響する可能性もあった。危機管理として最良の判断だったと思います」

なぜ公開時期が『国宝』と重なったのか

 不祥事のほとぼりが冷めるまでに数カ月を要すると考えると、必然的に公開時期は後ろにずれ込む。集客が見込める春休み時期もGWも見送り、7月公開とした思惑は何か。

「不祥事で延期した映画は、“コケ確実”でも仕方がない。そのためダメ元だとしても、中途半端に延期するよりはいっそ『国宝』時期にぶつけたほうが傷は浅いと判断したのでしょう。

 というのも『国宝』は今年の東宝の勝負作。ほぼ“吉沢さん頼り”のキャスティングである『バババ』と違って、横浜流星さんや渡辺謙さん、高畑充希さん、田中泯さんといった豪華オールスターが名を連ねていますし、事前にヒットが約束されていた。7月なら吉沢さんの不祥事もだいぶ禊が済まされている感じもある。つまり『国宝』は通常公開で、吉沢さんについてもきちんと評価されるだろうという既定路線があったので、『バババ』での“不謹慎感”もまぎれるという目論見ですよね」

 戦略が功を奏したのか、公開週の興収ランキングでは本作が初登場作品で首位を記録。むしろ『国宝』のメガヒットと相まって、吉沢の実力や魅力を評価する声が相次いだのだ。

吉沢亮の「ラッキー」さ

 そのうえ、不祥事報道直後は“不謹慎”だった本作の役どころが一転、吉沢にとって幸運をもたらした。

「本作では『国宝』でのシリアスな役どころとは真逆ともいえるような、体を張ったコメディに挑戦。全裸になったり、全力の変顔を披露したり……男子高校生の童貞を阻止するためにあの手この手を尽くす吸血鬼というバカバカしい設定を演じ切りました。

 登場キャラも個性的で、ヒロインから先生から全員バカ集合。不祥事からある程度時間が経ち、『国宝』で本格派の演技を見た後だからこそ、『ここまでバカもやるなら許してやるか』という気持ちにもなる。“ギャップ萌え”です(笑)」

 前田氏は「作品としても、“ラッキー”な方向に事が運んだ」と語る。

「もともとBL要素を少年漫画誌の作品で打ち出すという点で画期的な原作ですが、当初の予定されていた公開時期では、それ以上の宣伝材料はありませんでした。しかし、ここにきて“『国宝』の吉沢亮”という後ろ盾がつきました。吉沢さんは、『国宝』では女形ですよね。 女形も、BLもこなす。“ひとり多様性”ともいえる演技の幅を一度に見せつけたことで、『バババ』も本来時期に公開されるより評価が上がったはずですよ」

 “災い転じて福と成す”結果につながったのは、元来吉沢の俳優業に対するストイックさがあったから。Xにあった〈吉沢亮マジ仕事選べや(褒め言葉)〉という声を借りて、本稿の締めくくりとしたい。

『国宝』は横浜流星に注目!

(構成・取材=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2025/07/23 12:00