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公開4日で500万人『鬼滅の刃』の社会現象 “知識ゼロ”で劇場版を見た女子大生の「疑問点」

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(Getty Imagesより)
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 コロナ禍でのアニメシリーズをきっかけに、社会現象を巻き起こし続ける『鬼滅の刃』。7月18日に全国公開された最新劇場版は、4日間で観客動員516万4348人、興行収入73億1584万6800円。映画史上の記録を大きく塗り替えるロケットスタートを切った。

 原作は2016年から「週刊少年ジャンプ」(集英社)にて連載、すでに23巻で完結しているが、単行本は2025年7月時点で累計発行部数2億2000万部を突破。劇場版1作目となる『無限列車編』(2020)は美麗な映像や豪華声優陣も人気を後押しし、興行収入は404億円。日本の歴代興収で19年間1位だった『千と千尋の神隠し』(2001)の316億円を大幅に更新し、日本国内の累計来場者数は約2900万人と驚異的な数字を叩き出した。

それから5年。全3部作となる『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』の第1章『猗窩座再来』が封切りされると、手堅い人気を見込み、1日に30〜40回も上映する劇場が続出。日本中の映画館が『鬼滅』にほぼジャックされる事態で、前作劇場版と合わせると、延べで累計3400万人が見た計算になる。

原作履修が前提、「劇場版だけで完結しない」という罠

 マンガを原作にアニメと劇場版がある『鬼滅』は、『劇場版名探偵コナン』や『映画クレヨンしんちゃん』のように劇場版単体で物語が完結するパターンではなく、あくまでも“続編モノ”。原作マンガのストーリーラインをなぞってアニメ化されており、本作では16巻以降の展開が描かれる。全4シーズン・56話(2021年放送のTV版『無限列車編』を除く)のTVアニメ版と劇場版1作の視聴、もしくは原作を読んでいることが前提の作りなのだ。

 話題になればなるほどトレンドから“置き去り”になる人も出てくるのは自明の理。一方で、Xには〈鬼滅の映画見る気なかったけど、さすがに見るか〉という声があるように、『鬼滅』ファンでなくとも、あまりの話題ぶりにはさすがに気になってくるというものだが、アニメシリーズや劇場版をすべて履修するのはハードルが高い。せめて劇場版だけでなんとか追いつけないものか。

 そこで原作・アニメとも未履修の女子大生に、いきなり前作劇場版『無限列車編』を視聴してもらい、「今から追いつけるのかどうか」を検証した。

初心者もこれだけ知っておけばOK、『鬼滅』の5ポイント

 まずは『鬼滅』未履修の人のために、5つのポイントをまとめてみた(女子大生には教えていない)。

(1)大正時代。主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう)は家族を「鬼」に喰い殺され、唯一生き残った妹の禰豆子(ねずこ)も「鬼」になってしまう。

(2)妹を人間に戻すため、炭治郎は鬼の殲滅(せんめつ)を目指す組織「鬼殺隊(きさつたい)」に入隊。鬼の始祖である鬼舞辻󠄀無惨(きぶつじむざん)を倒すため立ち上がる。

(3)鬼殺隊の精鋭部隊は「柱(はしら)」、無惨陣営の幹部は「十二鬼月(じゅうにきづき)」(上弦の鬼6名、下弦の鬼6名)と呼ばれ、互いに戦力を削りあいながら1000年もの戦争を続けてきた。

(4)鬼殺隊剣士が持つ日輪刀(にちりんとう)で首を斬り落とすか、日光を浴びることでしか死なない鬼相手に、勇敢に立ち向かう炭治郎たち。戦いを重ねるうち、禰豆子は日光を克服。喜びも束の間、無惨は自身も日光を克服するため、禰豆子を喰らう計画を立てる。

(5)無惨の急襲で、鬼殺隊の頭目である「お館(やかた)様」が死亡。駆けつけた炭治郎たちは総攻撃を仕掛けるも、無惨の本拠地である「無限城」へと落とされ、最終決戦が始まる。

 テレビアニメ版で描かれたのはここまで。続きは現在公開中の劇場版だ。

 なお前作劇場版では、「柱」の煉獄 杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)と「下弦の鬼」の魘夢(えんむ)、「上弦の鬼」猗窩座(あかざ)との戦いが繰り広げられる。舞台は、多数の乗客や剣士が謎の行方不明となっている「無限列車」の中だ。

「全部セリフで説明してくれる」のは初見にやさしい

 さて、初めて『鬼滅』に触れるのは、幼少期をアメリカで過ごした大学4年生のAさん(22歳)。『鬼滅』にハマる姉を横目に、Aさんは「“グロ描写”が苦手なので、縁がないと思っていた」というが、「映像がきれいだというから気にはなっていた」と、視聴を快諾してくれた。

 前述の通り『鬼滅』は、観客があらすじや設定を知っている前提だ。そのためAさんは、「特殊な世界観と謎の専門用語に最初はだいぶ迷子だった」と明かす。

「ただ、何から何までセリフで説明してくれるので、戦いの目的や鬼殺隊のシステムがだんだん理解できてくる。あと、絵のタッチでなんとなく誰が悪者か見分けがつくし、鬼退治の構図はわかりやすい。裏切り者がいなくて話がシンプルなのも、追いつきやすさはあると思います」(Aさん、以下「」内同)

 この「説明」に関していえば、“興ざめ”と賛否が分かれる点でもあるのだが、初心者に優しい設計なのは確かだろう。ところで『鬼滅』には、竹を咥えている禰豆子や、猪の被り物をしている嘴平伊之助(はしびらいのすけ)など、奇抜なキャラクターが多数登場するが、Aさんは「主要キャラは企業コラボやグッズなどで見たことがあったので、入り込みやすかった」という。この点はキャラクタービジネスの副産物といえそうだ。

想定外だった部分と「ツッコミどころ」は

 一方で、Aさんがわかりづらかったのは、「鬼」と「鬼殺隊」の実力レベルだったようだ。

「想像以上に鬼の設定や戦闘システムが緻密に練られていたのは意外でした。ただ、鬼の倒し方や戦闘のルールがわかってきたところで、首を切っても生き返る鬼(魘夢)が出てきたので、思わず『なんでもありじゃん!』とツッコんでしまいました。あと、上弦の鬼や柱がどれくらい強いのかといったレベル感がよくわからなかったです。妹(禰豆子)が鬼なんだとわかったのも最後の最後でした」

 物語の中盤、魘夢は無限列車と融合することで、弱点を列車内に隠していたという設定が明らかとなる。それまでのストーリーを追っている人からすれば、「その手があったか!」とひざを打つシーンだが、初心者からすれば、ルールのちゃぶ台返しに見えるのも無理はない。

 さらにAさんを苦しめたのは「魘夢が見せた夢の内容」だった。それもそのはず、夢の中のシーンではキャラクターたちの願望や回想が描かれるのだが、それぞれの性格や背景を理解していないとチンプンカンプン。Aさんは「みんな何かを抱えているんだな、とふんわり納得するしかなかったです」と苦笑いだった。

全体的な感想と「追いつけるか」の回答は

 そうはいっても、全体的には「面白かった!」とのこと。

「細かくひっかかるところがあっても、戦うシーンにはそれをぶっ飛ばす勢いを感じました。知識ゼロでも映像の美しさや激しさで没入はできたので、劇場版をいきなり見ても楽しむことはできると思います」

 では、これを機に『鬼滅』にハマりそうか。

「キャラクターの背景に興味は湧きましたが、今のところアニメシリーズを見る気力はないです。ただ、新作劇場版なら見てもいいかなという気持ちにはなりました」

 ちなみに印象的だったキャラは「煉獄さん」。理由は、「体育会系すぎて面白かったから」だそうだ。

(構成・取材=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2025/07/22 22:00