スピルバーグ監督作『ジュラシック・パーク』 ハリウッドの巨匠は「人間」を描くのが苦手?

人をうらやむ生活を送っているせいか、つい「ジェラシック・パーク」と呼んでしまいます。正しくは『ジュラシック・パーク』ですね。言わずと知れた、スティーブン・スピルバーグ監督の大ヒット映画『ジュラシック・パーク』(1993年)が、7月25日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて4年ぶりに放映されます。
マイケル・クライトンの同名ベストセラー小説を原作に、CGを大々的に導入した『ジュラシック・パーク』は世界的なメガヒット作となりました。世界興収は9億ドル。日本でも128.5億円の興収を記録しています。今も続く「恐竜」ブームを巻き起こしました。
ブラキオサウルス、トリケラトプス、ティラノサウルス……。太古の人気恐竜たちが続々と登場します。スピルバーグ監督って、人間以外のものをすごく活き活きと撮りますよね。そんなハリウッドを代表する巨匠監督のヒット作を振り返りたいと思います。
テーマパーク内で起きる恐怖のドラマ
8月8日(金)からシリーズ第7弾となる最新作『ジュラシック・ワールド 復活の大地』の劇場公開が始まるわけですが、シリーズ第1作だった『ジュラシック・パーク』はこんな内容です。
古生物学者のアラン(サム・ニール)と古代植物学者のエリー(ローラ・ダーン)は、恐竜の化石の発掘調査を地道に続けていました。そこへ現れたのは、大富豪のハモンド(リチャード・アッテンボロー)。2人をコスタリカにある孤島へと招待します。その島ではテーマパークの開業準備が進められていました。
テーマパークの名前は「ジュラシック・パーク」。漢字にすると「聚楽園」でしょうか。なんと恐竜たちのDNAを、琥珀に閉じ込められた太古の蚊から採集し、クローン恐竜を生み出すことに成功したのです。生きた恐竜たちと対面し、アランもエリーも大感激です。
ハモンドの孫たちと一緒にパーク内を巡るアラン一行でしたが、スタッフのひとりがクローン恐竜の胚を持ち出し、ライバル企業に売りつけようと考えます。パーク内を仕切っていた電流柵の電源まで切ってしまったため、肉食系の凶暴な恐竜たちが暴れ始めます。パーク内に放り出されたアランたちは、大ピンチに陥るのでした。
スタッフが売りつけようと考えたライバル企業は、一体どこでしょう。ちなみに本作の配給はユニバーサルでした。もしかして、Dから始まる有名なテーマパークを経営する大企業でしょうか。
ユル・ブリンナーが怖かった『ウエスト・ワールド』
原作者のマイケル・クライトンは、ユル・ブリンナー主演のSFホラー映画『ウエスト・ワールド』(1973年)の脚本・監督も手がけた才人です。ハイテク仕様のテーマパークが、制御不能状態となり、パニック化するという設定は、『ウエスト・ワールド』も『ジュラシック・パーク』もまったく同じです。
子ども心に怖かった『ウエスト・ワールド』はロボットのユル・ブリンナーが執拗に迫ってきましたが、『ジュラシック・パーク』はロボットの代わりに恐竜たちが襲ってくるわけです。CGとアニマトロニクスをうまく併用した恐竜たちは、30年以上も昔の作品とは思えないほど見事な動きです。
アカデミー賞視覚効果賞を受賞した「ILM」スタッフの仕事ぶりが絶賛されたのも、当然の仕上がりです。
「人種ヘイト」か「クローン技術」か
スピルバーグ監督といえば、ハリウッドを代表する巨匠ですが、この人は人間を描くのはあまり得意ではありません。人間を描くよりも、謎の巨大トラックがセールスマンを襲うデビュー作『激突!』(1971年)や巨大ザメが遊泳者を襲う『ジョーズ』(1975年)のように、人間以外のものを描くことに才能を発揮する特殊な監督です。
代表作の『未知との遭遇』(1977年)や『E.T.』(1982年)も、人間よりも宇宙人のことが大好きな変わり者たちの物語です。他人とコミュニケーションすることが苦手な人たちを、スピルバーグ監督は好んで主人公にしてきました。おそらく、スピルバーグ自身の分身なのでしょう。子どものころのスピルバーグは学習障害があり、疎外感を感じていたそうです。映画監督という「天職」に就けて、よかったなと思います。
スピルバーグ監督は『ジュラシック・パーク』と同時進行で『シンドラーのリスト』(1993年)も制作しています。多くのユダヤ人を大量虐殺から救ったオスカー・シンドラーの感動の実録ドラマは、1994年のアカデミー賞を席巻し、スピルバーグ監督は巨匠として扱われるようになっていきます。
でも、『シンドラーのリスト』も物語の構造は『ジュラシック・パーク』とよく似ています。人間社会が生み出した「ナチス・ドイツ」が、強制収容所を秘密裏に作り上げ、罪のないユダヤ人を次々と大量殺戮していたわけです。人間の都合ですでに絶滅したはずの恐竜たちが蘇らせられ、パーク内で恐竜たちが暴れ回る『ジュラシック・パーク』とストーリーはほぼほぼ一緒です。「人種ヘイト」か「クローン技術」かの違いだけでしょう。どちらも人間の傲慢さが生み出したものです。
主人公であるシンドラー(リーアム・ニーソン)より、むしろ強制収容所のアーモン・ゲート所長(レイフ・ファインズ)のほうが印象に残ります。
人間同士は理解しあえない
同じことが、戦争映画『プライベート・ライアン』(1998年)にも言えるんじゃないでしょうか。ライアン一等兵の救出劇よりも、映画序盤のノルマンディー上陸作戦を克明に再現した戦闘シーンのほうが圧倒的にインパクトがあります。人間を描くよりも、人間同士が理解しあえないことをスピルバーグ監督は描き続けているように感じます。スピルバーグ作品にどこか違和感を覚えるという人は、少なくないでしょう。
だからと言って、スピルバーグ作品がダメだとは思いません。人間になりたがっているAI搭載の少年型ロボットを主人公にした『A.I.』(2001年)は、ハーレイ・ジョエル・オスメントくんの妙演もあって、何度見直しても泣けてきます。やっぱり、スピルバーグ監督は、人間じゃないもの/人外を描くと天才的な才能を発揮するクリエイターなんですよ。それまでのハリウッドにはいないタイプの監督だったことが、大成功した要因でもあるわけです。
ダメ人間が進化を遂げた瞬間
話を『ジュラシック・パーク』に戻すと、サム・ニール演じるアランは恐竜の研究には並外れた情熱を注いでいますが、人付き合いは苦手です。うまく大人になることができずにいる主人公です。スピルバーグ自身でしょう。
共演者であるローラ・ダーンは、デイヴィッド・リンチ監督の『ワイルド・アット・ハート』(1990年)で殺人犯と逃避行を重ねるヒロインを熱演し、脚光を浴びました。数学者のマルコム役のジェフ・ゴールドブラムは、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ』(1986年)で「ハエ男」を演じて、大ブレイクしています。アランの仲間たちも、人外系の人たちなんです。
他人とコミュニケーションするのが得意ではない主人公たちですが、自分よりも非力な子どもらが危機的状況にあることは放っておけず、精一杯の勇気を振り絞ります。大人にうまくなれずにいた彼らが、ほんのちょっとだけ進化するわけです。恐竜がやがて鳥類へと進化を遂げたように。
人類にとっては小さな一歩だが、その人にとっては大きな一歩です。そんな瞬間を『ジュラシック・パーク』は描いているんだと思うんです。
人間を描くのがうまくないのに、ハリウッドを代表するヒットメーカーになってみせたスピルバーグ監督。自分の欠点を、見事に反転させ、才能に変えてみせたわけです。欠点だらけの凡人にとっては、ジェラシーを大いに感じさせる存在です。『ジュラシック・パーク』は、やっぱり「ジェラシック・パーク」なんですよ。
文=映画ゾンビ・バブ