モモレンジャーの原型は“忍者モノ”にあった? 東映・名物プロデューサーが語る! 「スーパー戦隊シリーズ」に女性ヒーローが不可欠な理由

『秘密戦隊ゴレンジャー』に「モモレンジャー」が登場して以降、スーパー戦隊シリーズでは必ずひとりは女性ヒーローが登場している。
スーパー戦隊シリーズでは50年にわたり多様性(ダイバーシティ)が描かれてきたが、当時のスタッフがそうした意図で制作していたとは考えにくい。それでは、その背景には一体何があったのだろうか?
スーパー戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズなどの特撮作品に、プロデューサーとして携わってきた東映の白倉伸一郎氏に話を聞いた。
始まりは山田風太郎の「忍法帖シリーズ」
1975年に『秘密戦隊ゴレンジャー』が始まり、スーパー戦隊シリーズは50周年という節目を迎えた。現在は『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』(テレビ朝日系)が放送中である。
かつて、ヒーローといえば男性が当たり前だった。大人向けの刑事ドラマなどでも、登場人物は全員男性で、女性が集団の中で対等に格好よく描かれることはほとんどなかった。
なぜ、スーパー戦隊シリーズには、女性ヒーローが欠かせないのだろうか?
「スーパー戦隊シリーズ以前、1964年から放送された国際放映制作の特撮番組『忍者部隊月光』(フジテレビ系)には、すでに女性戦士が登場しています。同年から連載が始まった石ノ森章太郎の『サイボーグ009』(秋田書店)にも、003=フランソワーズ・アルヌールという女性キャラクターがいますよね。1972年開始の『科学忍者隊ガッチャマン』(フジテレビ系)もそうですが、60〜70年代にかけては“忍者モノ”を中心に、『女性キャラクターをひとり加えることでチームの特色が際立つ』という感覚が、当時は今以上に強かったと思います」
スーパー戦隊シリーズ誕生以前から、「戦う集団に女性キャラクターが1〜2人いるのが自然だ」という風潮がはすでにあったということだ。これは1950〜60年代に人気を博した作家・山田風太郎の小説「忍法帖シリーズ」の影響を強く受けていたと考えられる。
若い世代にはあまり馴染みがないかもしれないが、シリーズ第1作『甲賀忍法帖』は、のちに『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』(講談社)としてマンガ・アニメ化されたことで知られている。同作には、独自の忍法を持つ20人の忍者が登場し、老若男女問わず総当たりの戦いを繰り広げる。
「『忍法帖』シリーズがなければ『009』も生まれず、1966年の『レインボー戦隊ロビン』(NET TV/現・テレビ朝日)のような“戦士たちの集団”という構図も存在しなかったかもしれません。今でいうダイバーシティを石ノ森先生が意図していたとは思いませんが、『009』では各国の代表が集まり、人種や性別のバランスが意識された構成になっています。それが直接ではなくとも、スーパー戦隊シリーズに確実に影響を与えていると感じますね」
一方で、例えば『セーラームーン』や『プリキュア』のような「スーパー戦隊シリーズの女性版」とも言える作品では、「(一部では登場するものの、レギュラーメンバーとして)男性キャラクターをひとり混ぜよう」という発想にはならないだろう。この差は一体、なんなのか?
「これはある種の“コピー&ペースト”であり、伝統が続く限り、その形が踏襲されるものだと思います。逆に言えば、必然的に『ゴレンジャー』にはモモレンジャーが必要だったし、それ以降も『女性戦士は必要な存在だよね』という共通認識が生まれたわけです」
『パワーレンジャー』が日本の制作陣に与えた影響
それだけではなく、制作陣が明確に男女比を意識し始めたターニングポイントがあった。
「1992年放送の『恐竜戦隊ジュウレンジャー』の映像をもとに、翌年アメリカで『パワーレンジャー』が放送されました。元の『ジュウレンジャー』ではピンクだけが女性で、ほかは全員男性でしたが、アメリカ側は『男4・女1ではバランスが悪い』として、イエローも女性キャラクターに変更したのです。その結果どうなったかというと、戦闘シーンには日本版の映像が使われているため、変身前は女性でも、変身後は男性の体格になってしまいました」
違和感はあったものの、「そこまでして男女比を整えようとするのか」というアメリカの“多様性”への強い意識は、日本側にも一定の影響を与えた。
「男女比だけでなく、民族や人種への配慮も含め、アメリカ側はダイバーシティに非常に気を遣っていました。その姿勢を見て、『我々も少しは考えた方がいいのではないか』という機運が一時的に高まったのです。『パワーレンジャー』をきっかけに、日本でも『社会的な影響』を意識するようになりました」
7月25日より公開中の映画『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー復活のテガソード』ではゴジュウユニコーンという、スーパー戦隊シリーズ史上初の“女性ブラック戦士”が登場している。昔からの伝統を踏まえながら、スーパー戦隊シリーズはこれからも新たな女性ヒーロー像を提示し続けるのだ。
(取材・文=千駄木雄大)