【ファッションから見る映画】 『ロード・オブ・ドッグタウン』『ヒストリーX』──ファッションデザイナーが語る「実は服がカッコいい映画」

「ファッションがオシャレな映画」と聞くと、『プラダを着た悪魔』のようなファッション業界を舞台にした作品や、『007』シリーズのように洗練された衣装が印象的な映画を思い浮かべる人が多いだろう。だが一見そうは見えなくても、物語の中にリアルな時代性や思想をまとった“カッコよさ”がにじむ作品もある。
ここでは【ファッションから見る映画】というアプローチでアパレルブランド「RESOUND CLOTHING」のデザイナー・梅本剛史氏に話を聞いた。
梅本氏が取り上げたのは、『ロード・オブ・ドッグタウン』と『アメリカン・ヒストリーX』の2本。ともにファッション映画とは呼べない作品だが、今の時代でも通用するストリートスタイルが登場し、服装を通じて当時の空気や社会背景、服の背後にある思想までもが浮かび上がってくる。
衣装の裏にある“時代とスタイルの真実”を、デザイナーの目線で読み解いていく。
『ロード・オブ・ドッグタウン』──スケートカルチャーとアメカジの原点

まず梅本氏が「ファッション業界では擦り切れるほど語られてきた映画」と話すのが『ロード・オブ・ドッグタウン』(2005)。1970年代のカリフォルニアを舞台に、新しいスケートカルチャーを築いた若者たちを描く、実話ベースの青春映画だ。
「VANSのオーセンティック(初期モデル)とリーバイス517の組み合わせとか、ホワイトデニムにブルーのボーダーTを合わせた西海岸っぽい着こなしとかは、『今見てもカッコええな』って思いますね」
この映画がファッション業界で注目された背景には、2000年代中盤の大きなトレンドの変化があった。
「公開当時の2005年はディオール・オムが流行ってたし、ダボダボのB-BOYスタイルから細身のピチピチ系へと流行が移っていく大変革の時期やったんです。そのなかではアメカジも再注目されていて、この映画にはアメカジの原点といえるスケーターやサーファーのファッションが描かれていたから、業界が沸いたんやと思います」
青春時代にアメカジを通ってきた、梅本さんのようなファッション業界の若手世代には、そのスタイルが懐かしくも新鮮に映ったそうだ。
「ファッション好きって、服のルーツとか裏側にあるカルチャーを掘るのがやっぱり好きやから、この映画は70年代のファッションを知れるのがまず面白いし。見ていると『またVANSのオーセンティックを履こうかな』って気分になるんです。あと、70年代を象徴するブーツカットのリーバイス517なんかは、2000年代前半に実際に流行っていましたしね」
青春時代にスケボーやサーフィン、そしてロックを中心とした音楽に親しんできた梅本さんにとって、『ドッグタウン』は単なる映画以上のものだった。
「主人公の1人は、途中でバンダナにチェックシャツを合わせたギャングっぽいファッションになりますけど、あれはガンズ(・アンド・ローゼズ)っぽさもあるやないですか。あと主人公たちの兄貴分を演じるヒース・レジャーは、タンクトップにアロハシャツやポリシャツを合わせてフレアジーンズも履いてましたけど、ああいうロックスターっぽいスタイルも僕は好きで。僕は10代の頃に『濱マイク』のロックンロール・スタイルに憧れてましたけど、『ドッグタウン』も同じくらいドンズバな映画でした」
『アメリカン・ヒストリーX』──思想と反骨を映すストリートスタイル

もう一作の『アメリカン・ヒストリーX』(1998年)もカリフォルニア・ベニスビーチを舞台にした作品。白人至上主義に傾倒していた青年が服役を経て改心し、家族と社会に向き合い直す物語だ。若き日のエドワード・ノートンが主人公を演じる、思想的なテーマが強い社会派作品だが、梅本さんはそこに強烈なファッションの魅力も感じていた。
「MA-1にスキニー、ドクターマーチンっていう、いわゆる“スキンズ”っぽい不良のスタイルは、やっぱりファッションとしてはメチャクチャかっこよくて。ワークシャツにディッキーズ、ベン・デイビスを合わせた普段着の感じも好きやったし、なんなら主人公が入ったムショの囚人服まで『これ、デザイナーおる?』ってくらいカッコいいんです(笑)」
なお出所後の主人公・デレクは、細身のジーンズにブーツ、白のサーマルというシンプルな装いになっており、それが彼の意識の変化も表している。「そこにスイングトップを羽織ったアメカジトラッドみたいなスタイルで、不良のパンクスの巣窟に乗り込むギャップもおもろい(笑)」と梅本さんが話すように、この映画ではファッションが非常に重要な舞台装置になっているのだ。
「この映画のエドワード・ノートンの白Tにジーンズのスタイルって、言うたらほぼジェームス・ディーンやないですか。でも、それだけでカッコいいんです。この映画を見たとき、俺は19歳やったと思うんですけど、『シンプルでカッコいいものってええな』って思った作品でしたね。それから3つのメンズブランドをやってきましたけど、ブラックのスキニージーンズとサーマルは毎回作ってきたし、自分にとっての“かっこよさの原点”は、間違いなくこの映画やと思います」
そして、この映画が梅本さんの記憶に強く残っているのは、やはりストーリーのインパクトも大きかったからだ。
「19歳の僕は、黒人差別があることは知っていても、アメリカに白人至上主義という思想があって、それがネオナチと繋がっていることなんかは知らんくて。しかも、この映画の投げかける題材って、いまの日本で見てもほんまにリアルやないですか。公開から25年経っても、こういう差別の問題は終わってないですから」
ここまでの話からもわかるように、『アメリカン・ヒストリーX』と『ロード・オブ・ドッグタウン』の登場人物たちが身につけていたのは、単なる舞台衣装ではなく、時代と思想がにじみ出たリアルな服装だった。梅本氏のようにファッションが語りかけるものに耳を傾ければ、映画を見る体験はより豊かなものになるはずだ。

『ロード・オブ・ドッグタウン』
ブルーレイ発売中 1980円(税込)
権利元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
© 2005 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『アメリカン・ヒストリーX』
デジタル配信中
ブルーレイ&DVD発売元/販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
権利元:ワーナー ブラザース ジャパン合同会社
© 1999 New Line Productions, Inc. All rights reserved.
(構成=古澤誠一郎)
梅本剛史(うめもと・たかふみ)
RESOUND CLOTHINGディレクター&デザイナー。海外メゾンデニムブランドのデザインや、LUNA SEA、DIR EN GREY、AAA、SMAP、Kis-My-Ft2などのアーティストの衣装製作も手がけた経験も持つ。スキャンダルのある芸能人を自身のブランドのモデルに積極起用することでも話題に。
https://resoundclothing.com/