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見た目は完全に任侠…だけど特技は”編み物”!? 50歳を迎えたアイパー滝沢が編んできた世界にひとつだけのマグロ、手錠、入れ歯、目出し帽

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(写真:矢島泰輔)
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リーゼントにイカつい和柄のシャツはどこからどう見ても極道の風貌。任侠芸人、アイパー滝沢には、見た目とは裏腹にかわいい特技がある。それは”編み物”だ。

自身のインスタグラムにはドーナツのポシェット、ハートのイヤーマフ、猫用の服まで。さまざまな愛らしい作品の種類は多岐にわたる。

そんな彼に編み物に魅了された理由を聞いてみた。

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仕事がない時代に見つけた新しい特技

――そもそも編み物にハマったきっかけはなんだったんですか?

アイパー滝沢(以下、滝沢) まずは、オフィシャルのでいいですか? 僕、刑務所に入ってて、刑務作業で編み物をやってたんですよ。シャバに出てきてみて、せっかく特技を覚えたんだから芸人だし、なんかあった方がいいなということでやってます。

――実際の理由を教えてもらってもいいですか……?

滝沢 滝沢敦史(本名)としては、12〜13 年前に始めたんです。例えば『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で、「料理芸人」や「中学の時イケてないグループに属してた芸人」など、いろいろな特性を持った芸人さんが出てくるじゃないですか。でも、「自分にはなにもないな。どうしよう……」と思ったんです。仕事もないくせに特徴もない。特にその時期はヒマだったので、なにか仕事につながるかなと、編み物以外にもいろいろと試してみたんですよ。

――ほかにはどんなものが候補にあったのでしょうか?

滝沢 任侠系の見た目でやっているんで、真逆なものをやったら、たとえヘタでも面白がってくれるかなと思ったんです。それこそ、スイーツに詳しくなるとか、ブーケ作りを極めるとか、かわいい趣味をいろいろやってみたんです。だけど、どれもお金がかかるんですよね。

――お金のない芸人にはあまり向いてないですね。

滝沢 それが編み物だと100 円ショップで全部揃います。毛糸や針で300円くらい。「これだ!」と思って、真剣に始めましたね。

編み物は器用さよりも根性が必要!?


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(写真:矢島泰輔)

――ただ、編み物はハードルが高い気もします。特に手先が器用でないと難しそうです。

滝沢 イメージはそうですよね。でも、実は器用うんぬんの前に根気がある人が向いているんだと思います。編み物は「やり遂げるぞ!」という根性がある人に適していると思います。

――アイパーさんのつくった作品は、アイコスやドスのケース、手錠のミサンガなどかわいいものが多いですよね。こうしたファンシーな作品は、どういったところから着想を得ているのでしょうか?

滝沢 ものによりますけど、アイパー滝沢のイメージと”真逆のもの”を作るようにしています。最近流行りのバブーシュカとかイヤーマフもそうだけど、自分のイメージとは真逆な作品を作ったらSNS 見てくれる人は楽しんでくれるかなと思うんです。だからまず、「かわいいものを編みたい」という思いが常に頭にあります。

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バブーシュカや入れ歯のポーチなどかわいらしいものから、手錠や「チャカカバー」など。バリエーション豊かな作品たち。(写真:矢島泰輔)

――今回持ってきていただいた、マグロケースはかなり大きいですけど……。制作するのにはどのくらいかかったのでしょう?

滝沢 1カ月くらいですね。初期の頃の作品なのでそれなりに時間がかかりました。専門的な話なのですが、1本の針で編むのはかぎ針編み、2本の針で編むのが棒針編みと言います。このマグロケースは棒針編みでやってしまったので、すごく時間かかったんです。しかも、間違えた編み方をしていたらしく、「変な編み方をしていますね」と言われてしまいました。

――誰から言われたんですか?

滝沢 年に1 回、東京ビッグサイトで『日本ホビーショー』という、手芸のイベントが行われています。ときどきブースを出させてもらっているのですが、そこに遊びに来ていた本当に偉い手芸の先生から指摘されたんです。せっかくなので、その方に編み方についても教えてもらいました。

――そんなアイパーさんはNHK Eテレの『すてきにハンドメイド』にも講師として出演されていますよね。いつも通りの和柄のシャツで出ているんですか……?

滝沢 この格好で出ようとしたら、さすがにダメだと言われてしまいましたね。「上着を変えてくれ」と指摘を受けたので、僕が編んだセーターで出ました。でも、やっぱり有名な番組なので、みんなに「すごいね! 見たよ」と言われましたよ。うちのお袋も見ている番組なので、喜んでくれてました(笑)。

講師としても活躍中! 編み物好きな奥様が平日昼間から……

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(写真:矢島泰輔)

――ほかにも講座やワークショップを開催しているとお聞きしました。

滝沢 よみうりカルチャーのスクールや、行きつけのカフェで月1回くらいワークショップをやっています。あとは公園で「編みフェス」を個人的にやっていますね。完全無料でレジャーシートを敷きながら、「みんなで一緒に編みませんか」というフリーイベントです。

――完全無料? それはどんな人が行ってもいいんですか?

滝沢 誰が来てもいいですよ。編まなくてもいいです。その代わり、ワークショップではないので、僕が教えることもありません。「編み物オフ会」的な感じですね。

――編みフェスにはどんな人がいらっしゃるのでしょうか?

滝沢 僕は今、50歳なんですけど、基本的には自分より上の世代の人が多いです。時間に余裕がある、編み物好きな主婦の方が多いイメージですね。もちろん、編み物しない人も来てくれます。最近は僕よりもはるかに年下の若い子が来てくれたりもしていますよ。

――最近は編み物をやっている人が多い気がします。

滝沢 特に若い人が多いですね。「編み物男子」も増えました。そこで、「編み物男子交流会」というイベントもやっていますよ。

――アイパーさんが思う、編み物の最大の魅力とはなんでしょうか?

滝沢 芸人のネタ作りとは関係なく、つい編みたくなっちゃうぐらい、やっていて楽しいですが、一番はやっぱりみんなの反応ですね。面白がってもらえたり、笑ってくれたりしてくれるのがすごくうれしいです。

――ほかのインタビューでは、編み物はメンタルケアにもなるという話もされていました。

滝沢 気持ちが整うのはありますね。落ち着きます。ひとりで公園に行って、わざわざ編みに行くときもあるくらいです。何も考えたくないと思ったときは、同じ編み方をひたすらやっていると、頭がスッキリするんですよ。舞台でスベッた帰りは、いつもより家でずーっと編んでますね。癒しなんです。

老人ホームに、刑務所の慰問。編み物を通して深める交流

――これからやっていきたいことや、展望などあれば教えてください。

滝沢 例えば老人ホームに行ったり、刑務所を慰問したり、子どもたちに編み物を教えたりといった場をつくっていきたいなと思います。編み物の楽しさを広めたいし、プラスで僕のことも知ってくれる人が増えたらうれしいなって。自分のブランドも、いつか立ち上げたいですね。

――編み物ブームに乗っかって行きたいところ……。

滝沢 そもそも、昨今の編み物ブームは、アイドルグループ・LE SSERAFIMの宮脇咲良さんが趣味で編み物をしていて、それをSNSに載せたところバズって、若い子たちがやるようになったらしいんですよ。

――それは知らなかったです。

滝沢 そうなんですよ。『DayDay.』(日本テレビ系)でも、編み物の特集が組まれたんです。「編み物ブームの火付け役はあの人だった!」というナレーションのあとに、宮脇さんのVTRが流れたのですが、実は南海キャンディーズの山里亮太さんがワイプで「アイパー滝沢か?」とボケで言ってくれたんですよね。みんな僕のことを知らないのでスルーされていましたが、それがめちゃくちゃうれしかったです(笑)。

――今後が楽しみですね。

滝沢 とにかく、編み物を通して仕事につながるといいですね。「こういう奴がいるんだ」と、サイゾーさんのように面白がってくれる人が増えたらいいなと思います。ホゥ。

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(写真:矢島泰輔)

盲目の漫談家・濱田祐太郎

(構成=桃沢もちこ)

アイパー滝沢(あいぱー・たきざわ)
1974年生まれ、埼玉県出身。2005年からお笑いコンビ「えんにち」として活動。自身の風貌を生かした極道ネタで『笑いの金メダル』(テレビ朝日系)や『爆笑オンエアバトル』(NHK)に出演。17年にコンビ解散後、21年に「チャッピー。」というコンビを結成(23年解散)。現在は「よしもと手芸部部長」を名乗り、『すてきにハンドメイド』(NHK Eテレ)に講師として出演するなど、手芸人として活躍中。

桃沢もちこ

1993年生まれ、愛知県出身。東京都在住のフリーライター。社会問題からトレンド、著名人のインタビュー、体験レポなど幅広いジャンルで執筆。

桃沢もちこ
最終更新:2025/07/31 14:30