【夏の甲子園】「継投策」と「野手起用」の進化…勝利の合理性と“物語”の共存がチーム力を高める時代へ

2025年、高校野球はまたひとつ進化の節目を迎えている。
戦術の洗練、戦力設計の巧妙化、育成と勝利の両立……。その中心にあるのが「継投策」と「野手起用」のあり方の変化だ。
もはや、“エース頼み”や“打力偏重”のチーム構成は、全国で勝ち残るには不十分。代わりに、バランスと完成度を重視したチームビルディングが、強豪校の新たなスタンダードとなっている。
強豪校が示す「完成度重視型」のチーム設計
2025年夏を前に注目されているのが、横浜(神奈川)、健大高崎(群馬)、智弁和歌山(和歌山)、神村学園(鹿児島)などといった、各地を代表する強豪校だ。
これらの学校に共通するのは、いずれも「総合力の高さ」を武器にしている点である。突出したひとりのエースや長距離打者に依存するのではなく、実践を通した経験はもちろん、複数投手制、厚みのある打線、精度の高い守備、緻密な戦術をチーム全体に落とし込み、「チームとして勝つ」ことを徹底している。
各ポジションにおける適材適所の配置、データを用いた分析、ピークを夏に持っていくフィジカルとメンタルの調整。すべてが“完成度重視”という考え方に基づいて構築されている。
かつては「ひとりのエースで全試合完投」が美徳とされた時代もあった。しかし、2020年代後半の現在、その価値観は大きく様変わりしている。継投策はもはや、“窮余の手段”ではない。むしろ、継投を前提に組み立てられた試合展開こそが、「強いチーム」の証明とされている。
先発・中継ぎ・抑えを明確に分けた、“高校版ブルペンデー”のような継投策を採用している高校もある。相手の打順や展開に応じて、数種類の継投パターンを準備して試合に臨む。また、2022年の仙台育英が小刻みな継投策を活かした戦略で優勝してからは、テンポの良い投手と球威型の投手を使い分け、流れを引き寄せる継投術が試合を支えている。
この背景には、単なる負担分散だけでなく、「相手の目先を変える」「ひとりの投手に過剰なプレッシャーを与えない」「試合展開に応じた対応力を持つ」といった合理的な判断がある。
継投の成功は、そのまま“チームの層の厚さ”と“ベンチワークの的確さ”を示す指標になりつつある。
野手起用の鍵は「センターライン+若年層育成」
もうひとつのトレンドが「野手起用」の構造変化だ。
2025年の強豪校では、ただ守れる・打てるというだけでなく、「中長期での戦力維持」という視点が明確に取り入れられている。特に注目されるのが、センターライン(捕手・遊撃手・二塁手・中堅手)への1~2年生の積極起用だ。
この戦略のルーツは、2017〜2018の大阪桐蔭(2017、2018センバツ連覇、2018春夏連覇)や2022〜2023年の仙台育英(2022夏優勝、2023夏準優勝)、2023〜2024年の神村学園(2年連続夏ベスト4)の成功例にある。彼らは甲子園常連校として、早期から実戦に1・2年生を組み込み、経験値を蓄積しながら「翌年以降の強さ」を同時に作っていった。
これにより、1年目は守備固めや代走といった“部分起用”で経験を積ませ、2年目・3年目で主軸として機能する構造が確立された。
センターラインを軸とする守備の安定は、投手陣の信頼にも直結し、結果として“失点しにくいチーム”へと仕上がる。特に捕手・遊撃手・中堅手の3ポジションにおいては、守備範囲や野球IQの高さが求められるため、若いうちからの育成と起用が極めて重要になる。
合理性と戦略性が進化する一方で、高校野球が多くの人を惹きつける理由は、「物語性」にあることもまた事実だ。
エースが打たれても、2番手が流れを断ち切る。前年は涙を飲んだ1年生が、今年は正捕手としてマスクをかぶる。甲子園のマウンドで、1点を守り切った控え投手の姿に拍手が送られる……。
こうした「人間ドラマ」は、完成度の高いチームにこそ際立って存在する。合理を突き詰めたチームビルディングの中にも、感情の揺らぎや予想外の活躍が織り込まれ、そこにこそ、“高校野球の真価”があるのかもしれない。
2025年、高校野球は“設計された強さ”の時代に突入している。継投策は単なるピッチャー交代ではなく、チーム設計の象徴であり、野手起用には明確な育成戦略がある。
その一方で、「どんな物語があるか」も、強豪校の価値を決める一要素となっている。合理と情熱、戦略と偶然。その交差点にこそ、真に“語り継がれる強さ”が宿るのだろう。
未来を見据えた野球の在り方が、いま甲子園という舞台で試されている。合理性を超えて、物語のあるチームが夏を制する……。2025年、高校野球はその答えを私たちに見せてくれるのだ。
(文=ゴジキ)