潜入ライター・國友公司の“ワイルドサイド漂流記”──歌舞伎町、西成、モンゴル、インドで出会った強烈な人々

冒険家を目指してライターの世界に飛び込んだ國友公司氏は、いつも体を張っている。西成で78日間生活し、路上生活者としての体験を一冊の本にまとめた。
歌舞伎町、西成、インド、モンゴル……。行く先々で衝撃的な出来事に次々と巻き込まれる。悪いのはその土地か、それとも彼自身か。
『ワイルドサイド漂流記 歌舞伎町・西成・インド・その他の街』(文藝春秋)という、エクストリームなエッセイ集を出版した潜入ライターに話を聞いた。
現代的ではない「行き先を決めない旅」
――『ワイルドサイド漂流記 歌舞伎町・西成・インド・その他の街』(文藝春秋)は、國友さんが世界各地の“ワイルドサイド”で出会った人々との強烈な交流がテーマになっています。
國友公司(以下、國友) 丸山ゴンザレスさんのYouTubeチャンネル『丸山ゴンザレスのディープな世界』で路上生活の体験談を話したんです。ホームレスから戻った直後に撮影したのですが、そこで丸山さんに「國友くんの魂はまだ路上にある」と言われました。その動画を見た文藝春秋の編集者さんから「魂を置いてきた街について書いてください!」と依頼をいただいたのが、本書のきっかけです。
――ジャーナリズム、ルポルタージュ、野次馬根性……。いろいろな形容ができると思いますが、ご自身では本書をどう紹介しますか?
國友 マンガ家の清野とおるさんに書いていただいた「ページをめくるたびに恐ろしくなる。でもその恐ろしさに惹かれて、僕も旅に出たくなる」という帯の文章が、本書を簡潔に表していると思います。
――いわゆる「ガイドブック的」でも「SNS映え」でもない旅ですね。
國友 現代の旅は、行き先があらかじめ決まっていて、事前にどんな場所か分かってしまうことが多いです。「ここはキレイだよ」と言われた景色を見るためだけに行くような旅だと、移動そのものが無駄だと思われがちです。もちろん、目的地で何かをすることも大事ですが、そこに行くまでの道中で起きることこそ価値があると、読者には伝えたいです。
――國友さんは『進め!電波少年』(日本テレビ系)の猿岩石のヒッチハイク旅に憧れたと書かれていますが、今33歳だと世代的に合わないのでは?
國友 直撃世代ではありませんが、映像は残っていました。あとは、大泉洋さんの『水曜どうでしょう』(HTB)も好きで、「目的のない旅」に憧れていました。もともと、冒険家になりたかったんです。
――なるほど。
國友 昔の冒険家たちはスポンサーを集める必要があったため、旅に「テーマ」を持たせて、最終的にはその体験談を本にまとめていました。そこで、僕も「冒険家になるには本を書けないといけない」と思ってライターの道に進んだのです。
――大学卒業後は出版社への就職を試みたのですね。
國友 結局、3社しか受けませんでした。しかも、何の対策もせずに行ったので、SPIも分からない。そのうちのひとつが「まっぷる」を発行している昭文社だったのですが、当時は「『るるぶ』(JTBパブリッシング)の会社だったっけ?」と思って受けていました。
取材先に「同化」して視点を合わせる

――近年は、貧困地域を興味本位で訪れる「スラム・ツーリズム」系のYouTubeチャンネルが流行しています。そこに住む人たちを見世物のように扱う、非常に倫理観に欠けた手法です。しかし、國友さんは社会学のフィールドワークにおける「同化」の手法を取られています。
國友 なんですか、それ?
――取材対象となる集団や地域に実際に滞在し、生活を共にすることで、その文化や価値観を深く理解する方法です。外から観察するだけでなく、その一員として生活することで、よりリアルで詳細な情報を得ることができます。例えば、西成ではホテルマンや日雇い労働者として、その地に同化されました。
國友 西成に行ったとき、僕はただの学生で、取材方法なんて全く分からなかったんです。だから「住んで働く」しか方法が分からず、それを始めたら定着してしたんです。
――『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)のときですね。
國友 それに、僕は街の影響を受けやすく、それが外見や人相にも表れやすい。そういう人間だからこそ、自然とその土地に馴染んで、住民と同じ視点になるのかなと思います。相手の本音が聞ける瞬間は、取材というよりも日常生活を共にし、喜怒哀楽のどれかを共有したときに訪れる気がします。
――さまざまな体験をしてきた國友さんですが、「これは特にすごかった」というエピソードはありますか?
國友 西成のホテルに生活保護を受けながら15年間住み続けている男性の部屋にあった「テレビのリモコン」ですね。その人は15年間、リモコンの「dボタン」で遊べる花札やナンプレをやり続け、ついにはボタンが潰れてしまいました。
――15年間も触り続けていると、手垢だけではなく、何かしらの怨念もこもっていそうですね。

國友 でも、それも一種の才能だと思うんです。その男性の才能が、たまたま現代に適合しなかっただけで、もし別の時代に生まれていたら、とんでもないことになっていたかもしれない。西成や寿町には、そういう“今の時代に合っていないだけ”で驚くべき能力を持っている人がたくさんいます。
――西成をテーマにした本は、福祉的な視点になりがちですが、國友さんの場合はそうではないですね。
國友 別に僕がやらなくてもいいと思っています。それよりも、社会的には「ダメ」というレッテルを貼られている人の中に、「本当はすごい人」がいることを発見して伝えたい。
――そんな人たちを世界各国で見つけて紹介しているのが、本書です。引きもいいですよね。
國友 多分、目的もなくフラフラしているからだと思います。もし目的があれば、「この人に会いに行こう」と決めてしまい、バイアスがかかる。相手も「こいつヒマそうだな」と思って絡んでくる節があるんでしょうね。
片道チケットを握り締め冒険が始まる

――モンゴルにほぼノープランで行く人も、なかなか聞かないですよね。
國友 目的もなく2週間滞在していたので、ヒマな時間がとにかく多かったです。ただ、ヒマだとその辺をフラフラするしかないので、声をかけられる頻度も高くなりますし、誰かと仲良くなって遊びに行くこともできます。旅の予定をきっちり組んでいたら、そんな偶然は生まれないですよね。
――筋トレに取り憑かれたカザフ人の青年とのやり取りも面白かったです。
國友 あれも、ウランバートルからウルギーという街まで飛行機なら1時間で行けるところを、あえてバスで30時間かけて行ったおかげですよね。そこで、ヒマだったから隣に座っていた彼と仲良くなったんです。そして、ウルギーでは特にすることがなかったので、彼の通っているジムに一緒に連れて行ってもらいました。ヒマな時間があればあるほど、そういう“あり得ない体験”が増えると思いますね。
――今後、訪れてみたい国や場所はありますか?
國友 理想は世界地図にダーツを投げて、本当にわけが分からない、初めて聞くような場所に旅することです。そのほうが、本書で紹介したような出会いが生まれやすいと思うんですよ。
――まさに、冒険ですね。
國友 あとは片道チケットしか買わない。2週間も滞在していたら、もしかしたらインドからスタートして、そのままバングラデシュに行っているかもしれません。だから毎回、空港のイミグレーションで「帰りはどうするつもりなんだ?」と聞かれてしまいます(笑)。

(構成=千駄木雄大)
國友公司(くにとも・こうじ)
1992年生まれ。栃木県・那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術専門学群在学中から「サイゾーpremium」や「日刊SPA!」でライター活動を始め、ゲイマッサージのアルバイトや東南アジアでの“沈没”を経て、7年かけて大学を卒業。2018年に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)でデビュー。著書に『ルポ歌舞伎町』(彩図社)、『ルポ路上生活』(KADOKAWA)がある。
公式YouTubeチャンネル『進め! ルポライター國友公司』
https://www.youtube.com/@Kunitomo_Kozi