【ファッションから見る音楽 洋楽編】メタル、グランジ、ミクスチャー 90年代~2000年代を動かしたスタイルの変遷

クラッシュジーンズにレザーパンツを合わせたハードロック/メタル、ネルシャツと古着をまとうグランジ、アディダスのジャージにキャップを取り入れたミクスチャー……。90年代から2000年代にかけて、音楽とファッションは互いを映し出す鏡のように刺激し合い、“型”を生み出しては壊し、新しい時代を切り開いていった。 ミュージシャンの衣装制作にも携わり、音楽から大きな影響を受けてきた「RESOUND CLOTHING」デザイナー・梅本剛史氏が、その変遷を振り返る。
“型”を作ったメタル、“型”を壊したグランジ――90年代ロックとファッションの変遷
90年代初頭、梅本氏がファッション面も含めて心酔したのがガンズ・アンド・ローゼズやスキッド・ロウ。いずれもLAメタルの流れを汲むハードロック/ヘヴィメタルを象徴するバンドだ。クラッシュドデニムやレザーパンツ、ライダースにシルバーアクセ。細身でスタイリッシュなロックスター像は、後のロックファッションのベースとなった。

「音楽的には激しい一方で、彼らは体型も細身で着こなしもスタイリッシュ。僕は彼らの影響でスキニーデニムを作り続けている部分もありますし、この時代の音楽とファッションの結びつきはいまも強烈に残っています。またアクセル・ローズの短パンにコンバース・ウエポンのハイカットを合わせたスタイルは、ロックの歴史を変えたファッションだと思いますね」
続いて登場したのがグランジの波。ニルヴァーナのカート・コバーンが象徴するネルシャツや古着のスタイルは、着飾らないラフなファッションを広めた。
「アーティストがロック然とした服装から自由になり、普段着に近いスタイルが“かっこいい”とされる時代になっていったと感じます。あえて自然体でいることが新しい魅力になった時代ですね」
ただ、梅本氏がより憧れたのはカートではなくサウンドガーデンのクリス・コーネルだった。

「彼は古着やストリートっぽい服も似合うし、2000年代に入るとレザージャケットを洗練された雰囲気で着こなしていて、とにかく色気があった。僕も彼に影響されてVon Dutchのタンクトップを買いました。日本では浜崎あゆみの影響で大流行しましたけど、もともとは50年代アメリカ西海岸のカスタムカルチャーを継承したブランド。コーネルはその背景も含めて着こなしていた感じがして、本当にカッコよかったです」 同時期、強烈なファッションリーダーとして存在感を放っていたのがレニー・クラヴィッツだ。
「彼は70年代のソウルやファンクを下敷きにしたブラックミュージックの匂いを、ロックのスタイルに自然に持ち込んだ人。レザーやフレアパンツ、アフロやサングラスといった要素を、現代的でセクシーなイメージに昇華させていました。グランジのラフさとはまた違う『色気と自由さ』を感じさせる存在でしたね」
ミクスチャーが切り開いた自由――アディダスとストリートがロックに侵入

90年代後半から2000年代初頭にかけては、ラップとロックを融合させたミクスチャー・ロックが大流行する。リンプ・ビズキットやKORNは、音楽だけでなくファッションでも“ミックス”を体現した。
「リンプ・ビズキットはスケーターやヒップホップのファッションをロックに持ち込んだ代表格。ロックの人間がベースボールキャップを被るのは当時はとても新鮮な驚きがありました。KORNはアディダスのジャージが代名詞で、『A.D.I.D.A.S.』という曲まで作ったくらい。その影響で日本でも上下アディダスのスタイルが一気に広がりました。日本のアーティストではDragon Ashのファッションもこの文脈にあると思います」
もともとアディダスのジャージやベースボールキャップは、ヒップホップ黎明期から黒人アーティストがアイコン的に身につけていたもの。それを90年代の白人ロックバンドが取り入れたことで、ロックの舞台に新しい表現が生まれたといえる。
その流れを別な方向で拡張していた存在としてレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンも挙げられる。
「レイジはハードロックやヘヴィ・メタル、ハードコア・パンクの要素が強い音に乗せて、政治的なメッセージを全面に出すバンドでしたが、ファッションもストリートの延長にある部分がリアルでした。この頃から白人のロックにもワークシャツやディッキーズといった“労働服”が持ち込まれ、それが反骨精神を表すアイテムとしても活用されていた印象です」
当時のアメリカには、ミクスチャーロックとはまた違う形でジャンルを横断していたキッド・ロックという存在もいた。
「彼はカントリーやロック、ヒップホップを全部混ぜてしまうような自由さがあった。毛皮のコートにハットを合わせたり、逆にストリート風のキャップとデニムで出てきたり。ある種の“何でもあり”感が、2000年代のファッションの方向性を象徴していたと思います」
スタイルを変貌させたアーティストたち――インキュバスからリッチー・コッツェンへ
こうした90年代に活躍したアーティストは、当時流行のファッションを身にまとっていたが、年齢やキャリアの変化とともにスタイルを大きく変貌させた例も少なくない。その好例がインキュバスだ。
「初期のインキュバスはミクスチャー色が強く、ストリートやスケーター寄りのスタイルを取り入れていましたが、音楽性が成熟するにつれてファッションも洗練されていった。Tシャツにデニムといったラフな姿から、ジャケットを合わせる大人っぽいイメージに変わっていく様子が、当時すごく印象的でしたね」
同じく、ハードロックやヘヴィ・メタルの分野でも“進化”を遂げたアーティストがいる。その一人がリッチー・コッツェンだ。

「彼は70年風のフレアパンツの着こなしが上手で、ファンク要素も感じさせる独自のスタイルが印象的でした。一方で50代半ばの今は、髪型や服装も年齢に合ったスタイルに変わっていて、俳優のようにかっこいい。昔の方が良かったのではなく“今の方がむしろかっこいい”と思わせる稀有な存在です」
梅本氏は「ガンズはダフ・マッケイガン以外は全員太ってしまった」と笑うが、ダフ・マッケイガンもまた今なおスタイルを崩さないアーティストの代表格だ。
「ダフは昔から細身のパンツをベースにしたシンプルなスタイルを貫いていて、今も全然ブレていない。でも無理がなく自然体で、若い頃と同じように “かっこいい”ままなんですよ」
若い頃の尖ったスタイルをそのまま引きずるのではなく、自然体のまま歳を重ね、それでも“かっこいい”ままでいる――。ロックスターにとってそれは難しく、だからこそ彼らの存在感は今も特別に映るのだ。
(構成=古澤誠一郎)
梅本剛史(うめもと・たかふみ)
RESOUND CLOTHINGディレクター&デザイナー。海外メゾンデニムブランドのデザインや、LUNA SEA、DIR EN GREY、AAA、SMAP、Kis-My-Ft2などのアーティストの衣装製作も手がけた経験も持つ。スキャンダルのある芸能人を自身のブランドのモデルに積極起用することでも話題に。
https://resoundclothing.com/