CYZO ONLINE > カルチャーの記事一覧 > 中国ショートドラマの躍進

元BiSHやBALLISTIK BOYZのメンバーも出演! 本国では映画を超える市場に成長した中国発のショートドラマアプリのローカライズ作品の制作の裏側

元BiSHやBALLISTIK BOYZのメンバーも出演! 本国では映画を超える市場に成長した中国発のショートドラマアプリのローカライズ作品の制作の裏側の画像1
中国発のショートドラマは世界を席巻しようとしている。(写真:Getty Images)
この記事の画像(4枚)

若者の間ではTikTokなどのショート動画が人気だが、最近は中国発のショートドラマも注目を集めている。

「そんなもの、誰が見るんだ?」と思われそうだが、2024年にリリースされたCOL JAPAN運営のショートドラマアプリ「UniReel(ユニリール)」では、中国発ドラマだけでなく、日本で撮影されたオリジナル作品も多数配信されている。しかも、元BiSHのセントチヒロ・チッチやBALLISTIK BOYZの深堀未来など、出演者も豪華だ。

一体どのようにして、このコンテンツは制作されているのだろうか?

検索してはいけない言葉

映画を上回る中国のショートドラマ市場

「タイパ至上主義」を象徴する中国発の新メディア、縦型ショートドラマの勢いが止まらない。

 縦型ショートドラマとは、1話あたり1〜2分、1タイトルあたり80〜100話で構成される超短尺の連続ドラマで、2023年ごろから中国で爆発的なブームとなっている。“縦型”とはスマートフォン画面での視聴を前提としたフォーマットを指す。

 ベタな展開とも言える分かりやすいストーリーと、テンポの良さが特徴で、つい続きを見てしまうような“中毒性”を生み出している。

 発端は、中国版TikTok「抖音(ドウイン)」などの動画アプリで、個人クリエイターたちが投稿し始めたオリジナルの短尺ドラマだ。人気が高まるにつれ、大手制作会社も続々と市場に参入するようになった。

 その市場拡大はまさに“爆発的”である。中国網絡視聴節目服務協会(CNSA)が2024年に発表した「中国ショートドラマ業界発展白書」によると、中国国内のショートドラマ市場は1兆円を突破し、初めて映画の年間興行収入を上回ったという。

「Reelshort(リールショート)」や「Dramabox(ドラマボックス)」といった専用アプリも年々増加している。中国のテック系メディア「36Kr japan」によれば、現在、世界には431本のショートドラマアプリが存在し、そのアプリ内課金の売り上げ上位50本のアプリで市場全体の98.45%を占めている。そのうち41本、つまり8割以上が中国発のアプリであるという。

 このように、縦型ショートドラマはすでに中国国内を超えて、日本を含むアジア諸国や欧米にも拡大している。

 また、単に中国国内のヒット作を輸出するのではなく、現地俳優を起用したローカライズ展開も盛んに行われており、日本向けの作品では日本人俳優が出演している。

 “縦型バブル”とも言えるこの状況は、俳優たちにとっても新たな活躍の場となっている。実際に中国発の縦型ショートドラマに出演した経験を持つ俳優・ヨウジヤマダ氏に、現場の実態や制作の裏側について話を聞いた(以下、「」内はヤマダ氏のコメント)。

中国人のスタッフで役者は日本人

元BiSHやBALLISTIK BOYZのメンバーも出演! 本国では映画を超える市場に成長した中国発のショートドラマアプリのローカライズ作品の制作の裏側の画像2
ヨウジヤマダ(写真:Keigo)

「以前、中国の長編映画に出演したことがあり、そのときに知り合ったプロデューサーから『縦型ドラマに出演してくれる日本人を探している』とオファーをいただいたんです。当時はショートドラマのことをよく知らなくて、『ウェブ広告みたいなものかな?』と思っていました。自分は映画愛の強い人間なので、『スマホでパッと撮るような作品だったら嫌だな』と不安に思いつつも、中国映画の現場に良い印象を持っていたこともあり、挑戦してみることにしました」

 出演した作品は、No.1ホストに裏切られた女性の復讐劇を描く、“定番”のジャンルだった。

 人気ジャンルは国によって異なるが、専用アプリの視聴ランキングなどを見る限り、「復讐モノ」「大富豪との格差恋愛モノ」「タイムスリップ・転生モノ」などが主流とみられる。動画サイトを日常的に見ている人なら、「貧乏な彼氏を捨てたら、実は大富豪だった……」といったストーリーを見かけたことがあるかもしれない。日本のマンガやライトノベルのトレンドとも重なる部分がある。

 ヤマダ氏が出演した作品も、出演者は全員日本人で、撮影もすべて日本国内で行われたという。

「中国の小説を日本向けにローカライズした作品だったようです。とにかく原作ストックは相当あると、スタッフが話していましたね。監督は日本の芸大を出ていて、いわゆる日本式の撮影フローを理解している方でした。また、ロケに使ったクラブは、赤坂に実在する豪華な店なのですが、どうやらオーナーが中国系でコネがあったのだと思います。ショートドラマとはいえ、長編映画並みの予算がかかっていると感じました」

 監督は日本語も堪能で、顔合わせの際には映画とショートドラマの違いについて説明があったという。具体的にはどんな違いがあるのだろうか?

「まず、台本を読むと展開がとにかく詰め込まれていて、相当速い流れでした。そのため、セリフ量も長編映画よりずっと多くて、正直驚きました。中には、日本人が普段使わないような不自然な言い回しもありましたが、そのあたりは現場で適宜修正していく感じです。一方で演技に関しては、短尺ということで“間”を使わずに演じるのかと思いきや、実際の本番では尺を気にせず、普通の映画のように演じさせてもらえました。完成品を見ると、テンポ良く編集されていて、90秒くらいに収まっていましたね」

無茶苦茶なスケジュールにトンデモ要求

元BiSHやBALLISTIK BOYZのメンバーも出演! 本国では映画を超える市場に成長した中国発のショートドラマアプリのローカライズ作品の制作の裏側の画像3
ヨウジヤマダ(写真:Keigo)

 実際、ショートドラマの取次・制作事業を手掛けるある制作会社のCEOは、映像業界向けメディア「Branc」の記事で次のように述べている。

〈ショートドラマは、ユーザーの感情を煽ることが重視されており、ストーリーにロジックが通っていなくても視聴者は納得しています。逆に、ロジックを通すために説明が多くなると、展開が遅くなりユーザーが離れてしまう場合が多いんです〉

 スピード重視で撮影が進められるのはどの現場も同じようだ。ほかにも、通常の映像作品の撮影と大きく異なる点がある。

「撮影方法としては、カメラは一見普通の機材なのに、モニターチェックの段階で縦型になっているのが特徴ですね。だから、役者の立ち位置や画面の構図も独特です。一番驚いたのは、1話ずつ区切ってテンポ良く撮影していくのかと思いきや、実際は全話ぶっ通しで一気に1本分撮るんです。“ショート”とはいえ、長編映画の現場よりずっと大変でした」(ヤマダ氏)

 やはり、既存の映像メディアとは制作現場の空気そのものが違うようだ。日本式の撮影手法をできるだけ踏襲しようとしていたものの、“文化の違い”は随所に見られたという。

「日本の現場では、助監督がスケジュールや進行をきっちり管理してくれますが、中国の現場はなんというか行き当たりばったり……。最初のうちは時間も守っていたのですが、後半になるともう無茶苦茶でした。ある日、夜中の0時に撮影が終わったんですが、その時点で翌日の入り時間が伝えられていない。助監督に聞いても『確認してきますね〜』と言ったまま、どこかに行っちゃうんですよ。何度も催促してようやく戻ってきたかと思ったら、『5時に来てください』と(笑)。たまったもんじゃないですよ」

 別の作品では、コミュニケーション不足から、主演女優の降板というトラブルも発生した。

「その女優さんは、日本の大手事務所に所属していて、有名映画でヒロインを務めたこともある方でした。監督が“緊縛”のような濡れ場を撮りたかったらしいんですが、それがうまく伝わっていなかったみたいで……。自分も絡むシーンだったので台本を読んでいたんですが、襲う・叩くなど、結構激しい内容で『これ、どこまでやるんだろう』と不安になりました」

 案の定、マネージャーからは「台本の内容は事務所的にNGなので、内容変更についてプロデューサーと合意しています。あらかじめご了承いただきたい」といった説明があった。ところが……。

「その話が監督に伝わっていなかったんです。現場は大混乱。監督からしたら『台本を読んで来たはずなのに、今さら何言ってるんだ!』となるわけで、普段は温厚な監督が中国語でワーッとまくし立てる場面もありました。結局、女優さんは降板。でも、プロデューサーは『絶対に撮る』と言って、1日で代役を見つけてきました。この強引さはすごかったですね。結果的にその件はすぐ業界内に広まったようで、代役の事務所スタッフが撮影現場に常に張り付いて監視していましたし、そのシーンの演出も少し変更されました」

粗製乱造あるいはメディアとして定着するか?

元BiSHやBALLISTIK BOYZのメンバーも出演! 本国では映画を超える市場に成長した中国発のショートドラマアプリのローカライズ作品の制作の裏側の画像4
ヨウジヤマダ(写真:Keigo)

 こうした文化の違いに戸惑いながらも、ヤマダさんは複数の作品に出演し、現在もオファーが続いているという。ギャランティについても「自分のクラスとしては、日本の映画現場より多少は良い」とのことだ。

 ただ、役者ならではの葛藤もあるという。

「やっぱり、いつも話が急なんですよね。『明日から中国に来られませんか?』みたいな感じです。役者としてはチャンスを逃したくないし、自分はもともと、誰も行かないような道にこそ惹かれるタイプ。だから、いろんな海外の現場を経験したい気持ちはある。ただ一方で、『急に呼んでも来てくれる都合のいい俳優』って思われるのも嫌なんです。実際、そうやって“何でも屋”みたいな立場から抜け出せずにいる人もたくさん見てきましたから」

 市場が活況だからこそ、現場では新作を次々と出し続けなければならない。とにかく“形”さえ整えばよく、スピード重視で撮影し、即リリースして利益を得て、次の作品へと向かう……。そんなサイクルが出来上がっているのだ。

 仕事の数は増えても、それが俳優としてのキャリアアップに繋がるかというと、必ずしもそうではない。

「理想を言えば、やっぱり“役作りの準備期間”が欲しいですよ。例えば、当日いきなり『ボクサーの役をやってください』と言われても、その時点で自分が持っている引き出ししか使えない。作品自体は、展開も激しいし編集もきっちりされていて、見られる形にはなっていますが、それを1年後、2年後にもう一度見返したいかと聞かれると、そうは思わないんです。中国のスタッフたちは本当に良い画を撮る技術を持っているので、正直、もったいないなと思います。だから、いつか彼らが長編映画を撮ってくれることを願っているし、そのときは自分を使ってほしいといつも伝えています」

 大量生産・大量消費が当たり前となっているショートドラマ業界。しかし、粗製乱造が続けばいずれ視聴者は飽き、次第に“質”を求めるようになるだろう。実際、現在の中国ではショートドラマに特化した制作会社や芸能事務所が次々と誕生しており、日本でもその動きが始まっている。業界のインフラが整えば、ショートドラマは俳優にとっても、映像文化にとっても、より意義のあるメディアへと進化していくかもしれない。

 しかしヤマダさんは、こんな懸念も口にした。

「日本の映画やドラマは、作品そのものに力を入れずに、場当たり的に人気アイドルをキャスティングする商業主義が蔓延して、長年下り坂のままですよね。ショートドラマの“大量消費”スタイルも、そうした商業主義と相性がいいから、大手が本格参入したら結局同じようになってしまう気がするんです。でも、今は誰でも動画を作って投稿できる時代。映画の世界でも『カメラを止めるな!』(2017年)みたいに、情熱のあるインディペンデント作品が大手を喰うことだってある。そう考えれば、表現者にとっては新たな“窓口”ができているとも言えるかもしれません」

 新たな文化の夜明けなのか、それとも商業主義の行き着く先なのか……。私たちは今、ショートドラマという、新メディアの分岐点を目の当たりにしているのかもしれない。

発禁本を1300冊所蔵する三康図書館

(構成=ゼロ次郎)

ヨウジヤマダ
1982年、東京都生まれ。高校卒業後に単身渡米し、ロサンゼルスにて俳優としてのキャリアをスタート。映画『スコーピオン・キング』で初めて映画の現場を経験し、以後、10年間の滞在中に演技力を磨く。帰国後は日本国内のみならず、海外の話題作にも多数出演。代表作に、インドの戦争ドラマ『The Forgotten Army』、Netflix配信作『The Outsider』などがある。主演を務めた『An American Masquerade』は、現在アメリカおよびオーストラリアにて配信中。また、出演作『Seven Yakuza』では、マドリード国際映画祭にて最優秀外国語助演男優賞を受賞。現在、同作の国内外での公開を控えている。
〈Instagram〉:yoji4life1982

ゼロ次郎

ライター。2015年からライターとして活動。 「実話ナックルズ」「月刊サイゾー」「日刊SPA!」を中心に執筆しているほか、 B級ニュース情報サイト「BQN」の管理人を務める。得意ジャンルは国内外のB級ニュースや珍事件。

X:@zerojirou

ゼロ次郎
最終更新:2025/09/08 12:00