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『鬼滅』『国宝』メガヒットの裏で相次ぐ公開中止 『ミーガン2』『ファイナル』シリーズ最新作も…切り捨てられる洋画事情

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(写真:Getty Imagesより)

 公開45日間で興行収入299億8348万円の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』や、邦画実写で22年ぶりに興収100億円を突破した『国宝』など、国産映画が絶好調の2025年夏。映画界が盛り上がっているように見えるが、その裏では“悲報”も聞こえてくる。

怒涛のご都合主義

 8月19日、ワーナー・ブラザース・ジャパンは映画『ファイナル・デスティネーション』シリーズの第6作目『ファイナル・デッドブラッド』について日本未公開のまま配信・パッケージ版を販売することを発表した。つまり日本での劇場公開が見送られたということだ。

 本作は第1作公開から今年で25周年という人気シリーズの14年ぶりとなる最新作で、アメリカで5月16日に封切りされると、興収は全米で1億3800万ドル(約202億円)超えで着地し、シリーズ最大のヒットを記録。日本でも劇場公開を待ち望むファンは多く、SNSでは〈北米では大ヒットしたのになんで見送りなの〉などと悲しみの声があがっているが、公開中止の理由は発表されていない(9月1日時点)。

ホラー映画が続々「公開中止」に

 ホラー映画の日本公開中止は、『M3GAN/ミーガン 2.0』に続いて今年2作目だ。前作『M3GAN/ミーガン』(2023)は全世界で興収約1億8000万ドル(約260億円)とホラー映画界ではスマッシュヒットを飛ばしたため、続編への期待も大きかった。配給もそれに応えるべく、すでに全国公開日を2025年10月10日としてPRにも積極的だったのだが、8月1日になって突如、日本での劇場公開中止が発表されたのだ。

 近年、日本での公開中止に踏み切る作品は他にもある。たとえば昨年は、スリラー映画『陪審員2番』の公開が見送られた。配給会社は『ファイナル・デッドブラッド』と同じワーナー・ブラザース・ピクチャーズだ。同作は巨匠、クリント・イーストウッド監督作。2023年、当時92歳になる氏が2年ぶりの新作制作を発表し、注目されていたが、欧米では公開されたものの、ワーナーが興収を発表しないほどの不振が話題に。結局、日本での劇場公開は叶わなかった。

 人気シリーズの続編や、大御所監督の最新作でさえ日本での公開中止が相次ぐ昨今。ホラー映画が多いことから、SNSでは、“バズっているのに日本公開が決まっていない作品”として『Weapons』や『Death of a Unicorn』『Bring her back』『Good Boy』『The Long Walk』などの動向にやきもきする声が続出しているほか、「ホラーから切り捨てられるのでは?」との心配も聞こえてくるが、いったい公開中止の判断にはどういった事情がからむのか。

日本とアメリカで異なる「ヒット作の傾向」

 映画評論家・前田有一氏は、日本公開が見送られる洋画作品の共通項として、「ヒットしそうにない」という判断がシビア化しているのではないかと見る。

「『ファイナル―』シリーズはもともとティーン向けのバカバカしいホラー映画。死の運命を予知した若者が死から逃れようと奔走するストーリーで、ほとんどの登場人物が残虐な死を遂げていく。その様子を“騒ぎながら楽しむ”スタイルの作品です。一方で今や『映画館はお静かに』がマナーとされ、ともすれば“死”をおもしろがるなんて不謹慎だとされかねない日本では、そのコンセプトが合わない……という事情はあるかもしれません」(前田氏、以下同)

 とはいえ日本では今年、興収17億円突破の大ヒットを記録した『ドールハウス』(6月13日公開)をはじめ、『見える子ちゃん』(6月6日公開)、『事故物件ゾク 恐い間取り』(7月25日公開)、『近畿地方のある場所について』(8月8日公開)など、ホラー映画の波が来ているようにも見える。

「アメリカと日本では、売れるホラーの種類が異なります。日本人のホラーの好みは狭く、人気は都市伝説系。アメリカで人気のスプラッターホラーや“コメディ系”は動員が伸びにくい傾向にあります」

利益のため…「マイナージャンルの力作」よりも「国内ヒットアニメ」

 そもそも映画市場では、作品がどこまで「ヒット」するかは未知数で、前田氏いわく「期待以上にハネてくれたら御の字」という認識だった。それが、配給会社が“守り”に入るあまり、それほど「大ヒット」しそうにないものは早めに見切りをつける――つまり、“一旦公開して様子を見よう”という余裕がなくなっているのでは、と前田氏は指摘する。

 熱烈なファンがいても、一般受けは難しいホラー作品が割を食うのは、そうした配給会社の姿勢に起因するという見方ができる。アニメや旬の俳優の出演作がヒットの上位を占める日本において、“上陸”させる条件がより厳しくなっているということなのだろうか。

「『陪審員2番』は殺人事件の陪審員を務めた青年が、自身と事件との関連に気づき葛藤する骨太の社会派スリラー。オリジナル脚本でアメリカの検事や裁判官、法廷制度が抱える問題点を浮き彫りにし、作品の質は高いのですが、こと映画館への“集客”となると厳しいのはたしかです。

 最近洋画では、実話や現実の問題をもとにした作品が多いのですが、日本での大ヒットは望めない。最近だと“原爆の父”と呼ばれる学者ロバート・オッペンハイマーをモデルとした『オッペンハイマー』(2023)や、ボブ・ディランの若き日を描いた『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2025)などがありますが、広く日本人の興味関心を呼び起こすには地味。それよりは確実にヒットするアニメなんかをバンバン回したほうがお金になるというわけです」

『ミーガン2』の公開中止が招く「懸念」

 ジャンルを問わず、これまで数多の映画に触れてきた前田氏をもってしても、大々的に宣伝していた『ミーガン2』の公開中止は「異例だった」という。

「公開中止の判断は、基本的に配給会社が決めます。『ミーガン2』に関しては、本国での不振が影響していると言われていて、前作の興収(1億8000万ドル)に対して今作は2400万ドルにまで落ち込んだとのこと。本国でこうなんだから、日本でも……とコケるリスクを考え、中止に踏み切った可能性はあるでしょう。ただし、すでに予告を流していたため、映画館に対しては何らかの救済措置があったとは予想されます」

 実はコロナ禍にディズニー制作の『ムーラン』(2020)や『ソウルフル・ワールド』(2020)がさんざんスクリーンで予告を放映したにもかかわらず日本での劇場公開を中止し、独自の動画配信サービス『Disney+』での公開に舵を切ったため、日本の映画館業界がディズニーに対して反乱を起こしたことがある。結果的に『Disney+』の宣伝に利用された映画館側が面白くないのは当然で、「これまで通りの形式で劇場公開をしない作品については上映しない」という趣旨の文書をディズニーに叩きつける騒動に発展し、しばらく冷戦状態が続いていた。そうした背景からも、前田氏は「急遽の公開中止が映画館を敵に回す懸念は拭えない」という。

 懸念はほかにもある。「多様性」の喪失だ。

「ホラーに限らず今後は、相当のヒットが確実視できない作品は配信で良いというジャッジになりかねません。そうなると上映作品の多様性は失われ、また世界的なヒット作でも日本だけ上映されず、取り残されていく可能性は大いにあります」

 前田氏によれば、韓国やフランスでは、興収動向に左右されやすい映画業界の停滞を防ぐため、中小映画会社を支援する動きがあるというが、日本では大手配給会社の寡占化が進むばかり。歴史的ヒットが次々と生まれている今年の邦画界だが、喜ばしいことばかりではないようだ。

巻き込まれ型ヒーロー・二宮和也の集大成

(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2025/09/03 12:00