人気アニメ『ペット2』に見る動物福祉の歴史 過去には「動物虐待」に関わったテレビ局も

今や空前のペットブームです。ネット上にはかわいい飼い猫の動画が次々とアップされ、街には着飾った愛犬を連れ、カフェテラスで寛ぐ人たちが大勢います。
そんなペットブームを反映し、人気を集めたのが3Dアニメ『ペット2』(2019年)です。『ミニオンズ』で知られるアニメスタジオ「イルミネーション」が制作し、前作『ペット』(2016年)は日本だけで興収42億円の大ヒット。続く『ペット2』も、21億6000万円を稼ぎ出しています。
9月5日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)でノーカット放映される『ペット2』の見どころを紹介します。また、「動物好きに悪い人はいない」という俗説についても考えてみたいと思います。
愛玩動物たちのニューヨークライフ
舞台はニューヨーク。人間に飼われている愛玩動物たちを主人公にした物語です。ペットたちの目線を通して、現代社会が描かれます。前作『ペット』は、都会でひとり暮らしをしている女の子・ケイティと水入らずの生活を送っていた元捨て犬のマックスが、新入りの大型犬・デュークと火花を散らしつつも、最終的には仲良くなるまでが描かれました。
続編となる『ペット2』では、飼い主のケイティが結婚し、息子のリアムが誕生。幼いリアムは自分が守らなくちゃと思うあまり、マックスは神経過敏になってしまうというのが物語の始まりです。心配性のマックスはストレスから首を掻くようになり、エリザベスカラーを付けられてしまいます。
ホリデーシーズンを迎え、ケイティたち一家はそろって牧場へ出かけることに。マックスは牧羊犬のルースターと知り合い、危険に立ち向かっていく勇敢なカウボーイ犬としての修行を積むのでした。ペットを飼育するのには必要最低限の知識が求められるように、一人前の保護者になるためには学ぶべきものがいろいろとあることが描かれています。
人間が知らないペットたちの秘密の日常生活を描くというアイデアは、ピクサーの大ヒットアニメ『トイ・ストーリー』(1995年)からのいただきでしょう。「人種差別」をテーマにしたディズニーアニメ『ズートピア』(2016年)のような明快な社会的メッセージもありません。凡庸といえば凡庸な内容です。まぁ、のほほんと視聴して、楽しめるところがイルミネーションアニメなのかもしれません。
街から消えてしまった野良犬と野良猫たち
ペットたちの日常を描いたという点は、古典的アニメ『トムとジェリー』の歴史を受け継ぐ作品だとも言えます。しかし、1940年代に始まった『トムとジェリー』に比べ、米国もずいぶんと社会状況が変わっています。舞台は住み込みのお手伝いさんがいる大きな屋敷から、都会の高層アパートメントに変わりました。
また、『トムとジェリー』ではワイルドな野良猫たちがたびたび現れましたが、前作『ペット』では野良化した動物たちは地下の下水道に潜伏しているという設定です。少なくとも、人間の目に映る街からは、今ではすっかり野良たちは消えてしまっています。
高層アパートメントで暮らすペットたちもさまざまで、その飼い主たちも多様です。ネコを多頭飼いし、ネコ屋敷状態にしている老女が『ペット2』ではクローズアップされます。ペットを飼うことで孤独を癒す都市生活者の孤独感が伝わってきます。
今回、ヒロインであるポメラリアンのギジェットはネコに変装し、ネコ屋敷に潜入することになります。マックスから預かった大事なおもちゃが、ネコ屋敷に転がり込んでしまったためです。スラム街を思わせるネコ屋敷に忍び込んだギジェットは、無事に脱出できるのか見ものです。
動物虐待が見逃せない主人公たち
牧場から帰ってきたマックスたちは、悪徳サーカス団とクライマックスで立ち向かいます。ホワイトタイガーの赤ちゃん・フーが、サーカス団で虐待生活を送っていることを知ったからです。前作『ペット』では悪役だったウサギのスノーボールたちと共闘し、マックスはフーを守ることになります。
主人公のマックスは元の飼い主に捨てられた身、相棒のデュークはかつては施設にいた保護犬でした。心優しい女性・ケイティに引き取られていなければ、どちらも殺処分されていたかもしれません。米国の犬猫の殺処分数は、日本よりも多いという実情があります。そんなマックスたちだけに、他の動物たちが虐待されているのを知らんぷりすることはできないのです。
ピクサーやディズニーのハイクオリティーなアニメに比べると凡庸かもしれませんが、保護犬、殺処分、動物虐待の現実をやんわりと知ることができるのは『ペット』『ペット2』のよさでしょう。
動物が虐待されていたフジテレビ製作の『子猫物語』
愛玩動物たちが縦横無尽に活躍する『ペット2』ですが、これが本物の動物たちを使った実写映画なら問題になっていたはずです。牧場でカウボーイ修行中だったマックスは、迷い羊を救出するために崖っぷちに生えている木によじ登るはめになります。ハラハラさせるシーンです。
この場面を実際の犬に演じさせたら、動物愛護団体が間違いなく噛み付いてきたでしょう。動物に痛みを与えるだけでなく、恐怖を感じさせる行為もNGとなっています。
そして、動物虐待で真っ先に思い出されるのは、フジテレビが製作した畑正憲監督の実写映画『子猫物語』(1986年)です。この頃のフジテレビは超イケイケ路線でした。CMをガンガン流した『子猫物語』は興収98億円というメガヒットを記録しています。
かわいい茶トラネコ「チャトラン」の冒険物語なのですが、木箱に入れられたチャトランが川に流されるシーンは、何度も撮影が繰り返され、多くの茶トラ柄の子猫たちが犠牲になったことが伝えられています。
公開時に「いのちの声がきこえてきます」というコピーが付けられた『子猫物語』ですが、主題歌の作編曲を担当した坂本龍一、詩の朗読で参加した小泉今日子にとっても「黒歴史」でしょう。
ムツゴロウこと畑正憲は、フジテレビ系列で放映されていたドキュメンタリー番組『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』で大変な人気がありました。人間と動物たちとの交流を謳った「ムツゴロウ動物王国」は2004年に北海道から東京へと進出しますが、2006年には経営破綻するなど迷走を続けます。経済的な事情から、従業員と多くの動物たちが振り回される結果となりました。
動物愛護に力を注いだナチスドイツ
よく「動物好きな人に悪い人はいない」と言われますが、本当でしょうか? 動物好きな人は、心が優しく、思いやりのある人だと思われがちです。
ちなみに、悪名高いナチスドイツは動物愛護政策に力を入れていたそうです。2023年に出版された『検証・ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)を読むと、ナチスは高速道路(アウトバーン)を造ることで失業者を減らし、子どもを4人以上産んだ子だくさんお母さんたちには勲章を与えるなど、手厚い家族支援を行っていた事実が書かれています。
ナチスは環境保護問題にも取り組み、動物保護に熱心だったそうです。家畜を屠殺する際には、麻酔を使うことを定めた動物保護法も制定しています。ナチス総裁のアドルフ・ヒトラーはジャーマンシェパード好きだったことで有名です。
動物たちとは切り離せない人間の暮らし
このように紹介すると「ナチスはいいこともした」と思われるかもしれませんが、『検証・ナチスは「良いこと」もしたのか?』をちゃんと読むと、アウトバーンの建設はナチス以前から決まっていた計画で、ナチスはそれを引き継いだだけでした。道路工事で一時的に失業者は減ったものの、第二次世界大戦の開戦によって多くの人命が奪われることになります。
子だくさんお母さんたちは顕彰されましたが、ユダヤ系のお母さんはその中には含まれていません。ナチスにとって都合のいい人たちだけが、恩恵を受けていたのです。
環境保護も動物愛護も、ナチスのイメージをよくするためのプロパガンダの一環でした。自然や動物には優しいナチスですが、ユダヤ人や障害者、同性愛者たちは強制収容所に送り込まれ、大虐殺に遭っています。動物好きを装ったヤバい人たちがいることは確かでしょう。愛犬家殺人事件を題材にした『冷たい熱帯魚』(2010年)という怖い怖い映画もありました。
自分はペットを飼っていないし、菜食主義なので、動物虐待には加担していないと主張する方がいるかもしれません。でも、日常的に使っている薬品類は、多くの実験動物たちの犠牲のもとから生まれたものです。動物たちと人間の命は無縁ではないことは覚えておきたいものです。
もし、イルミネーションが『ペット3』を作るときは、ナチスのプロパガンダに利用されたジャーマンシェパードや実験動物たちにも触れてほしいなと思います。
文=映画ゾンビ・バブ