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芸歴も郵便局アルバイト歴も34年の大ベテラン! 「スベリ-1GP」準優勝、“地下芸人の帝王”ゆきおとこの生き様

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(写真:荒熊流星)
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赤いスーツを身にまとい、自虐ネタを言った後に「ウォンチュー」で締める芸で場を凍らせる芸風のゆきおとこ。

芸歴34年で“地下芸人の帝王”と呼ばれている彼は、どんな人生を送ってきたのか?

『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で放送された、“日本一のスベリ芸人”という不名誉な称号をかけた「スベリ-1GP」で準優勝を果たした彼に、芸人を目指したきっかけから今後の展望まで聞いた。

初めての舞台はバブルの名残のあるストリップ小屋

――芸人を目指したきっかけを教えてもらえますか?

ゆきおとこ 小学6年生から中学1年生くらいの頃に「漫才ブーム」があって、毎日テレビでお笑い番組が放送されていたんです。ツービートや星セントルイスのような東京の漫才を見て、「お笑いをやってみたい」と思いました。そのときの私は、絵に描いたような野球少年で、野球のことしか考えていませんでした。

――確かに、野球が上手そうですね。

ゆきおとこ 本当はプロ野球選手になりたかったけど、実力がまったく追いつかなかった……。そこから、お笑い芸人になりたいという気持ちが強くなっていきましたね。落語を覚えて人前で披露したり、『夕やけニャンニャン』(フジテレビ系)のオーディションにも行きました。

――落語を覚えるなんて意識が高い。そのまま、一直線で芸人の道へ進むのでしょうか?

ゆきおとこ 大学には行ったんですよ。1年浪人して、ライオグランデ大学日本校というところに入ったんですけど、1年で中退しました。ただ、その学校も僕が辞めてから2年後に潰れてしまいました。

――えっ?

ゆきおとこ あのまま通っていたら、どうなっていたんでしょうね。大学を辞めたあとは就職せずにプラプラしていたのですが、「そろそろ本気でお笑いやるか」と思って人力舎のお笑い養成所に行こうと決めました。ただ、学費が60万円くらいかかるということで断念しました。

――まとまったお金のない若者にとっては、大金ですよね。

ゆきおとこ そこで、とある師匠に弟子入りしようとしたら、「うちの弟子が渋谷の道頓堀劇場というストリップ小屋でお笑いやっているから、一緒にやりなさいよ」と言われて、その人と初めてコンビを組むことになりました。

――ストリップ小屋での修行期間というと、まるで『浅草キッド』みたいです。

ゆきおとこ 道頓堀劇場をきっかけに、居酒屋でのお笑い営業など、いろいろ仕事をもらえたんですよ。今はチケットノルマを払ってライブに出る会場が多いですが、当時はちゃんとお金をもらって仕事をしていましたね。お見合いパーティーの司会は、2時間の現場で1万円もらえたんです。バブルの名残がありましたね。

芸人のかたわら郵便局で勤続34年……

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(写真:荒熊流星)

――いかにも「下積み」という感じですね。当時は芸人一本でやっていたのでしょうか?

ゆきおとこ いえ、当時からずっと郵便局で仕分けのアルバイトもやっています。もう34年目ですね。

――おぉ……。

ゆきおとこ 芸人仲間に「今日はこれから局に行く」と言うと、「日テレですか? TBSですか?」と聞かれるんですが、「郵便局だよ!」と返す。あるいは「Pがうるさい」と言うと、「テレビ局のプロデューサーですか?」と聞かれるので、「パートナーだよ!」と返しています(笑)。バイトを始めたのと芸人を始めたのが同じ時期なので、どちらも34年間やめずに続けています。

――勤続34年となると、もう大ベテランの域ですね。

ゆきおとこ 昔一緒に働いていた同僚たちも、社員だとどんどん出世していくんですよ。当時の同僚が転勤でいろんな局に行って、久々に戻ってきたときには偉くなっていました。この前も、久々に会った元同僚に「芸人もこの仕事も、まだやっているの?」と驚かれてしまいました。

――もはや、ゆきおとこさんが局長だと思われていそうですね……。ところで、芸名はずっと「ゆきおとこ」なんですか?

ゆきおとこ 昔は本名をもじって「吉さとし」とか「吉ガイ」とか、いろいろ使っていました。ゆきおとこに定着したのは、2000年代にディナーショーの前説をやらせてもらったときに、コージー冨田さんと知り合って、「お前、スベってるからとかじゃないけど、寒くて凍るネタが多いから雪男っぽいな。芸名それにしたら?」と言われたんです。それで、字画もいいからということで、ひらがなの「ゆきおとこ」になりました。

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(写真:荒熊流星)

――そんな、ゆきおとこさんは長年ピン芸人というわけではなく、コンビでの活動もしています。相方はどんな方なのでしょうか?

ゆきおとこ 「こてっちゃん馬場」という人と、くっついたり離れたりしながらコンビを組んでいますね。「元相方」と紹介されがちですが、たまに会ったときに「またやるか」となって、ライブに出たりもします。M-1グランプリにも出たことがありますよ。2回戦敗退でしたけど……。基本的には、ピンでの活動やコンビでの活動を含めて、週2回くらいはライブに出るようにしていました。まぁ、最近はその数も減ってきましたけどね。

――それでは、最近はどんな活動をされているのでしょうか?

ゆきおとこ ありがたいことに、「地下芸人ブーム」をチャンス大城が作ってくれて、テレビの仕事が増えてきました。チャンス大城と一緒にハリウッドに行って、ウディ・ハレルソンにインタビューしたり、僕だけの特集を組んでもらったこともあります。

――チャンス大城さんの引っ越し企画で『ラヴィット!』(TBS系)にも出演していましたね。

ゆきおとこ 今は月に1回くらいはテレビの仕事があって、ありがたいですね。それと、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で放送された「スベリ-1GP」でも2位になりました。1位のエンジンコータローと、3位のギブ↑大久保は何をやっているのか分からない感じでしたが、僕だけしっかりネタをやって、しっかりスベって2位でした(笑)。

――ゆきおとこさんも、何をやっているのか分からない感じもしましたが……。

地下芸人ではない!?  ずっとギラギラしていたい

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ゆきおとこ ほかにも、ツイキャスで「速達ラジオ」というのをやっています。歩きながらラジオのように生音声を配信するんです。あとは「南流山お笑いライブ」という無料ライブを、毎月南流山福祉会館で開催していますね。

――無料ライブ!? 毎回赤字じゃないですか? どういう経緯で始められたのでしょうか?

ゆきおとこ 今、南流山に住んでいるのですが、仲のいい「インタレスティングたけし」という芸人も流山出身。2人で「ライブやりたいね」と話していたところ、「うちでやらないか?」と声をかけてもらったんです。

――地下芸人の祭典ですね。

ゆきおとこ ただ、市の施設を利用しているため、お客さんからお金を取れないんです。物販もなし。でも「完全無料ライブならOK」という条件にすれば、市の広報にも毎回載せてもらえることになった。それでやってみたら、思いのほかお客さんが来て、毎回50人くらい集まるんです。気づいたら、もう3年くらい続いていますね。

――よく3年も続いていますね。

ゆきおとこ 仕事が入ったときは無理に来なくてもいいというスタイルにしているのと、毎回ゲストを1組か2組呼んで、新陳代謝があるのも理由かもしれません。映画監督や歌手を呼んだこともありますし、お笑いだけではないライブです。以前、ナイツさんの『ザ・ラジオショー』(ニッポン放送)に出たときにこのライブの話をしたら、それを聴いて来てくれるお客さんも増えました。少しずつ知名度も上がっていきましたね。

――今は芸人以外の活動もされているのでしょうか?

ゆきおとこ 『東京アディオス』など、たまに映画に出演させてもらっています。

――「まったく売れない芸人たちだけが生息する『お笑いアンダーグラウンド』」という舞台設定にはワクワクさせられます。

ゆきおとこ 年末年始や暑中見舞いのタイミングで、元マネージャーなど最近連絡を取っていない人たちに、突然電話するのが好きなんです。近況報告をしているうちに、急に仕事を振られることもあります。やっぱり、人間関係は縁でつながっていると思います。最近も「webアクション」という媒体で「『地下芸人列伝』というマンガを描くから、1話目のモデルにしていいか?」と言われて、実際に形になってうれしかったですね。

――トキワ荘の作家をオマージュしたようなタッチになっていますね。それでは、今後の芸人としての展望は?

ゆきおとこ 正直、ないですね(笑)。長嶋茂雄みたいに死んだ後に新聞の一面を飾るような歴史上の人物になるのは無理だし、一緒に仕事する人と「今日はいい仕事できたね」と言い合える日々を送れたら、それで満足です。

――慎ましい……。

ゆきおとこ でも、ずっとギラギラしていたいという気持ちはあります。もう一度ハリウッドに仕事で行ったり、俳優として大きな仕事が舞い込んだり……。僕は地下芸人と言われていますけど、自覚はあんまりないんです。だって、地下芸人というより“怪奇芸人”ですから。ウォンチュー!

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ゆきおとこ
1968年6月17日、千葉県流山市江戸川台生まれ。1993年、渋谷道頓堀劇場にて初舞台を踏んで以降、いくつかの漫才コンビを結成し、現在は漫談家。昭和の香り漂う「人生劇場漫談」や詩の即興などを中心とした芸風を展開。近年は『ゆきおとこの素敵に詩的に』など、自身の名を冠したインターネット番組4本に出演している。
X @yukiotoko0617

山崎尚哉

1992年3月生まれ、神奈川県鎌倉市出身。レビュー、取材、インタビュー記事などを執筆するほか、南阿佐ヶ谷でTALKING BOXという配信スタジオを運営中。テクノユニット・人生逆噴射の作曲担当で別名DJ.YMZK。

X:@yamazaki_naoya

山崎尚哉
最終更新:2025/09/11 00:41