ディズニーの古典アニメ『眠れる森の美女』と現代社会に蔓延する「朝起きられない病」

眠り姫、いばら姫、スリーピング・ビューティー……。さまざまな名前で呼ばれ、ペロー童話やグリム童話で知られているのが欧州に伝わるおとぎ話『眠れる森の美女』です。ディズニーアニメとして1959年に劇場公開されていますが、アニメ版を観るのは初めてという人も多いのではないでしょうか。
9月12日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、ディズニーの古典的アニメ『眠れる森の美女』をオンエアします。ディズニー&ピクサーの3Dアニメ『トイ・ストーリー 謎の恐竜ワールド』(2014年)との二本立てです。どちらもノーカット&地上波初放映となります。
両作品の見どころと、現代の若者たちを悩ませている「朝起きられない病」についても触れたいと思います。
感動作『トイ・ストーリー3』の後日談
おなじみカウボーイ人形のウッディたちが活躍するのが、3Dアニメ『トイ・ストーリー 謎の恐竜ワールド』です。上映時間22分の短編アニメとあって、本編の長編アニメ以上に立体感をきっちり感じさせるハイクオリティーの作品です。
2026年にシリーズ最新作『トイ・ストーリー5』が公開されることが発表されています。『謎の恐竜ワールド』は、ウッディと持ち主のアンディ少年との別れを描いた感動作『トイ・ストーリー3』(2010年)と賛否を呼んだ『トイ・ストーリー4』(2019年)とのはざまのエピソードです。アンディからオモチャ一式を譲られた女の子ボニーが、ウッディたちを連れて男友達の家に遊びに向かったことから起きる騒動を描いています。
トリケラトプスの人形・トリクシーが大々的にフィーチャリングされています。また、クリスマスオーナメントのエンジェル・キティは「人に与える喜びは、自分に還ってくるのよ」など名言の数々を口にします。新シリーズにも登場するのか、気になるキャラクターたちです。
米国黄金時代のゴージャスなディズニーアニメ
もう一本の『眠れる森の美女』は、上映時間76分の作品です。製作された1950年代のアニメ作品としては破格の製作費600万ドルが投じられ、6年の歳月を経て、作画枚数は100万枚という超ゴージャスな大作アニメでした。劇場公開時は大赤字だったものの、鮮やかな色彩や滑らかな動きは、いま観ても「贅沢にお金をかけてるなぁ」と思わせるものがあります。
ディズニー版『眠れる森の美女』は、こんな物語です。14世紀の欧州のとある国。王さまと王妃さまとの間に、美しい女の子が生まれます。オーロラ姫と名付けられ、お城で盛大なお祝いが開かれます。
3人の妖精たちが招かれ、お祝いに魔法の贈り物をオーロラ姫に授けますが、その途中に現れたのが魔女・マレフィセントでした。お祝いの席に呼ばれなかったマレフィセントは、オーロラ姫に「16歳の誕生日の日没までに糸車の針に指を刺して死ぬ」という恐ろしい呪いを掛けるのでした。
妖精たちの力でも呪いは解くことはできず、贈り物が途中だった3人目の妖精が、「死ぬのではなく眠るだけで、運命の相手からのキスで目覚める」と呪いを薄めるのが精一杯でした。
王さまは国中にある糸車を処分させ、オーロラ姫は3人の妖精たちに預け、森でひっそりと育てることになります。森の中で暮らし始めたオーロラ姫はすくすくと育ち、森で歌うと動物たちが集まってくる森の人気者となっていくのでした。
オーロラ姫は16歳の誕生日を迎え、すっかりお年頃。「夢の中で運命の人と出会ったわ」とオーロラ姫が森の動物たちを相手に歌い踊るシーンは、ディズニーらしいメルヘンチックな見せ場となっています。
ディズニーの古臭さを決定づけた『マレフィセント』
でも、オーロラ姫が活躍するのはここまでです。森の中で「夢で出会った」王子さまに遭遇するオーロラ姫ですが、以降はお城に戻り、マレフィセントの呪いどおりに糸車の針に刺され、「眠り姫」となってしまいます。物語後半は、王子さまがキスしてくれるのを寝て待つばかりです。
近年のディズニーヒロインは、ただ王子さまが来るのをじっと待つだけではなく、自分から行動を起こすようになっています。また、純真無垢なオーロラ姫=善、恐ろしい魔女マレフィセント=悪、という単純な図式も今では時代遅れとなった感があります。
そのことを決定づけたのが、来週9月19日(金)放送、アンジェリーナ・ジョリー主演の『マレフィセント』(2014年)です。オーロラ姫に呪いを掛けたディズニーヴィランのマレフィセント側の視点に立った新説『眠りの森の美女』が描かれることになります。
ディズニーが時代の変化に合わせて、どうアップデートしてきたのか。日テレの編成担当者の思惑どおり、2週連続で『金ロー』を観るはめになりそうです。
思春期の少年少女たちが発症する「怠け病」とは?
眠っちゃいけない状況で、いきなり眠りに陥ってしまう症状は「ナルコレプシー」と呼ばれ、リヴァー・フェニックス主演作『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)がきっかけで広く知られるようになりました。他にも「眠り姫病」とも呼ばれる「クライン・レビン症候群」、ツェツェバエが媒介となって発症する「アフリカ睡眠症」といった睡眠障害がありますが、ナルコレプシーもレビン症候群も発症例は少なく、アフリカの赤道地帯でもツェツェバエの生息数は減っていることが伝えられています。
一方、国内の若者たちの間で大きな問題になりつつあるのが、「起立性調節障害」です。多くの思春期の少年少女たちが発症しています。朝起きられずに学校に行けない、起き上がっても立ちくらみがする、午前中はずっと気分がすぐれない、などの症状があるそうです。
血圧が極端に低い「起立性調節障害」ですが、午後になって体調が回復すると外出することもできるため、障害のことを知らない人からは「学校をサボって、遊んでいる」と思われたり、ただの「怠け病」だと責められたり、思うように体をコントコールできないことに本人が自己嫌悪してしまうケースもあるようです。
自律神経の働きがアンパランスなために主に若者たちに起きる「起立性調節障害」は、驚くべきことに日本の小学生の5%、中学生の10%、高校生の20~30%が発症しているという報告があります。不登校児の30~40%が併発しているとも言われているそうです。これ、すごい数じゃないですか?
気合いや根性で治るものではなく、家族や学校関係者ら周囲にいる人たちが障害についてきちんと理解することがいちばんの対処法となっています。現代の眠り姫、眠り王子を救うには、やはり「愛」が必要なようです。
王子さまとの結婚後を描いていたペロー版の衝撃
話を『眠れる森の美女』に戻しましょう。グリム兄弟よりも早くに童話化されたシャルル・ペローが残した童話は、王子さまがオーロラ姫を目覚めさせた後も続きます。お姫さまは王子さまと結婚し、めでたしめでたしではないんです。
王子さまの故郷の国へと嫁いだオーロラ姫ですが、王子さまの母親である王妃との壮絶な嫁姑バトルが待ち受けています。実は王妃は「食人鬼」だったという衝撃的すぎる展開です。オーロラ姫と王子さまとの間に生まれた子どもたちは、王妃のディナー用の食材として狙われてしまいます。王さまも王子さまも、王妃の恐ろしい正体を知らないため、オーロラ姫と子どもたちは孤独な闘いを強いられるのでした。
グリム童話やディズニーアニメは、ペロー童話の後半の展開はぶっ飛びすぎていてカットしていたわけですね。眠り姫は眠りから目覚め、王子さまと結婚しても、さらなる苦難が待ち受けていたー。17世紀に発表されたペロー版『眠れる森の美女』は、結婚生活を実にリアルに描いていたように思います。ディズニーアニメのようなハッピーエンドは、現実世界ではありえませんから。
(文=映画ゾンビ・バブ)