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スターからリーダー、そして支柱へ…読売ジャイアンツを牽引してきた坂本勇人が目指すべき新しいカタチ

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2020年の東京オリンピックでは野球日本代表として活躍を見せた坂本勇人。(写真:Getty Images)
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阪神タイガースは9月7日、2年ぶり7度目のリーグ優勝を決めた。優勝決定は“史上最速”のペースでの到達だった。

一方、昨季の覇者・読売ジャイアンツは連覇を逃し、阪神には大きく負け越して苦しいシーズンになった。

そうした中で、長年チームを牽引してきた坂本勇人は大きな岐路に立っている。彼はこの先どんな答えを示すのだろうか?

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百戦錬磨の経験が生む勝負強さ

 坂本は今季、打撃不振などで二軍降格を経験。出場機会・成績ともにキャリアワーストのペースで推移している。

 それでも、勝負所での勝負強さは健在だ。9月6日の中日戦では、9回二死満塁から同点タイムリー。9月10日の広島戦は勝ち越しとなる犠牲フライ。いずれも土壇場でチームを救う一打を放ってみせた。

 かつての“絶対的スター”は今、ベンチとグラウンドを行き来しながら“勝たせるベテラン”としての新たな役割を歩み始めている。

 坂本の強みは、常にフィジカルの状態や、試合状況に応じてフォームやタイミングを修正できることだ。2016年にはキャンプで松井秀喜氏の助言を受け、フォームを改良し、打率.344を記録。セ・リーグの遊撃手としては史上初の首位打者を獲得。2019年には40本塁打を放ち、自身初のMVPにも輝いた。

 しかし、近年は全盛期のフォームを維持することが難しくなり、特に昨季はスイングスピードの低下や打撃スタイルの迷いに直面した。そのため、昨年からはフォームを試行錯誤で改良に取り組んでいる。

 2023年の復活劇を見ると、まだまだ期待してしまうため、ポストシーズンから来シーズンに向けて今の坂本に合うフォームを模索して欲しいところだ。

 また、現在の坂本は衰えを経験値で補っている。勝負強さはいまだに健在のため、まだまだ必要な戦力なのは間違いない。

 昨シーズンは、優勝争い真っ只中の9月23日阪神戦の決勝タイムリー。今シーズンの9月6日中日戦の同点タイムリー、9月10日広島戦の勝ち越しとなる犠牲フライを見ると、勝負どころではチームの中で一番頼れる選手だ。

 長いキャリアで積み上げた経験は、大ベテランとしての信頼を裏打ちしている。全盛期の打力は失われても、勝負勘と執念でチームに流れを呼び込む力は健在である。

 坂本は遊撃手として史上最多となる2000試合出場を記録。守備範囲の広さは全盛期に及ばないが、打球への反応と一歩目の速さで多くのピンチを救っている。宮本慎也のように、ポジション転向後も堅実さを武器にゴールデングラブ賞も獲得した。

 また、坂本の影響力は、数字以上に精神的な部分にある。長年キャプテンを務めてきた経験から、試合中の一言や若手選手への声掛けは、ベンチ全体に大きな効果をもたらす。

 岡本和真や吉川尚輝ら中堅はもちろん若手選手にとって、坂本の存在は単なる先輩以上の意味を持つ。若手選手がミスしたときに責めるのではなく声をかけて安心感を与え、挑戦し続けられる環境を作る。リーダーとしての坂本が築いた文化は、巨人というチームの「基盤」となっている。

ベンチスタートとスタメン起用の両立

 今後の坂本に期待されるのは、フル出場でチームを牽引する役割ではなく、ベンチスタートを基本としながら時折スタメンに立ち、勝負どころでチームを勝たせる役割だ。

 代打として重要な場面に立てば、前述の通りその経験と勝負勘で一本をもぎ取る可能性が高い。スタメン出場時には「若手にはない落ち着き」で流れを引き寄せる。

 起用法が限定的になることでコンディションを維持しやすくなり、むしろ勝負所に照準を合わせやすい環境になるとも言える。

 坂本はこれまで「絶対的スター」として巨人を背負ってきたが、これからは「勝たせるベテラン」「裏の柱」としてチームを支える存在へと変わっていくのだ。

 現段階で難しい状況だとしても、坂本にはまだ大きな目標が残されている。史上初の右打者として3000本安打に到達し、張本勲の3085安打を超える可能性だ。

 2020年に2000本安打を達成した際、張本勲氏は「いやいや坂本にしたら遅いですよ。今、打高投低ですから、もうとっくにやってもらわないといけない。これからもっとヒット打つには、自己管理と努力です。それしかありません」と語った。これは厳しさの中に期待を込めたエールでもある。現役を続けていくならまだまだ可能性としてはあるため、復活を待ちたい。

 また、巨人ファン、そして野球ファン全体が願うのは「坂本勇人を少しでも長く見たい」ということ。スタメンに固定されなくても、ベンチスタートであっても、坂本の一打や一言が試合を変える瞬間を、まだまだ多くの人が待ち望んでいる。

 実際のところ、現地で観戦していても坂本への声援は非常に大きく、根強い人気が伝わっている。そのため、限界説や引退が囁かれていても坂本の復活に期待しているファンは自分含め、まだまだいるに違いない。

 坂本は今、背水の陣でプレーをしている。全盛期のような圧倒的な数字は望めないかもしれない。しかし、ここ一番の勝負強さ、これまで培った経験、精神的支柱としての存在感……。これらは今の巨人にとって欠かせない。

 今後は、スタメンとベンチスタートを両立させながら、勝負所で最大の力を発揮する新しい形の坂本勇人。スターからリーダーへ、リーダーから支柱へ。役割を変えながらも「勝たせるベテラン」としてチームを導く姿が、今の巨人には必要とされている。

さらば悪童!

(文=ゴジキ)

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ゴジキ

野球著作家・評論家。これまでに『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、プレジデントオンラインなどメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。

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ゴジキ
最終更新:2025/09/11 22:00