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“アウトローのカリスマ”瓜田純士、かく語りき

瓜田純士が『ベスト・キッド:レジェンズ』を観て感激の笑み「あの駄作が老害パワーで“超駄作”に進化した!」

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瓜田純士は『ベスト・キッド:レジェンズ』をどう見たのか?
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“アウトローのカリスマ”こと瓜田純士が、森羅万象を批評する不定期連載。今回のテーマは、ジャッキー・チェンとラルフ・マッチオが夢の共演を果たした映画『ベスト・キッド:レジェンズ』だ。ベスト・キッドシリーズに馴染みがあり、なおかつジャッキー・チェンを長年に渡ってウォッチし続けてきた瓜田が、シリーズ集大成とも言える今作を忖度なしにぶった斬る!


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『ベスト・キッド:レジェンズ』は、映画シリーズの6作目である。初期作は、ラルフ・マッチオ演じるイジメられっ子のダニエルが、ノリユキ・パット・モリタ演じるミスター・ミヤギから空手を教わり、コブラ会などの敵を倒していくストーリー。

 ノリユキ・パット・モリタが亡くなったあとも、ジャッキー・チェンが師匠役、ウィル・スミスの息子が弟子役を務めるリメイク版が作られるなど、シリーズは継続。近年は、悪役を主役に据えたウェブテレビシリーズ『コブラ会』も人気を博した。そしてこの夏、6作目の映画『ベスト・キッド:レジェンズ』が日本で公開されたのだ。そのストーリーは以下の通り。

 主人公は17歳の高校生リー。北京でミスター・ハン(ジャッキー・チェン)からカンフーの指導を受けていたが、ニューヨークへ移住することに。リーは学校でイジメを受けるなどしたため、戦うことを決意するが、自分のカンフーのスキルだけでは充分ではないことに気づく。リーのカンフーの師匠であるハンは、空手の達人ダニエル(ラルフ・マッチオ)を訪ね、ミスター・ミヤギ(ノリユキ・パット・モリタ)の写真の前で、リーのために助けを求める。空手とカンフー、2人のレジェンドから異なる格闘スタイルを学んだリーは、イジメっ子を倒すべく究極の格闘大会に挑む!

 瓜田はベスト・キッドシリーズにそこそこ馴染みがあるという。「映画の1、2、3は観たけど、『コブラ会』は途中でリタイアした。好きなシーンは、ミヤギさんの『ワックスかける、ワックスとる』という指導場面と、体幹の弱いダニエルさんがフラフラしながら鶴の構えを披露する場面」とのことなので、どうやら“初期ファン”のようである。

 そんな瓜田にシリーズ最新作を観てもらったところ、上映中に何度も吹き出し、時にはバカ笑いをしていた。コメディ映画ではないのに、何がそんなに可笑しかったのか。鑑賞後に話を聞いた。

 ✳︎ ✳︎ ✳︎

――いかがでしたか?

瓜田純士(以下、瓜田) 映画の感想を語る前に、先日ジャッキー・チェンがこの映画のプロモーションのために来日したときの話をしていいですか? ジャッキー……いや、ここからは、「奴」と呼びますね。奴が公開初日に舞台挨拶をしたんですよ。俺はたまたまその様子をテレビで見てたんですが、奴は映画のことや、日本の魅力などをひとしきり語ったあとに、突然、酔っぱらいの宴会芸みたいに一曲歌い出したわけですよ。謎の歌を。

 そしたらね、客席から割れんばかりの拍手が起きて、司会のおばちゃんが、「この歌を聴けて本当に幸せ。今日もこの曲のCDを持ってきてるお客さんがいるようです」とか言い出したんです。俺はその瞬間、「ふざけんな!」と思って(笑)。さすがに奴がこの曲を歌うなんてことを一般の客が想定できるわけないじゃないですか。なるほど、そういうのまで仕込んできやがったのか、と。やっぱね、奴はウサン臭いんですよ(笑)。

――瓜田さんは、ジャッキーをそういう目で見てるんですね(笑)。

瓜田 ジャッキーなんて呼ばなくていいですよ。奴ですよ、奴。でね、今回、奴がこの作品に関わってると聞いて、嫌な予感がしたんですよ。原題は『Karate Kid : Legends』なのに、奴は空手を知らないから、またカンフー一色に染めるんじゃないか、って。実際、俺は観てないけど、リメイク版はそうなっちゃったんでしょ? しかもリメイク版はそこそこ成功したようで、気を良くしたウィル・スミスから「続編を作ろう」と持ちかけられたらしいけど、奴は「脚本に問題があって、出来上がってはダメ、を繰り返していたら10年も経ってしまい、企画が流れそうになった」みたいなコダワリ屋っぽいことを、こないだの舞台挨拶で語ってました。

 だったらなんで、今回の脚本が通ったんだよ! と俺は言いたい(笑)。この内容が上がってきた時点で、書き直させることもできたわけじゃないですか。なのに、通ってしまった。奴も年を取ってダメ出しするのが面倒になったか、あるいは自分が温めてきたトンチカンなアイデアを大御所パワーで随所に盛り込んで、周囲が何も言えなくなったか。おそらく後者だと俺は睨んでますが、もうマジで、これで動き出した大人たち全員バカなんじゃないかと思いました(笑)。


――今回の話の何がどうダメなのか、じっくり語ってください。

瓜田 初期のベスト・キッドの何が良かったって、あの“駄作感”なんですよ。たまたま大山倍達やウィリー・ウィリアムスの影響で、世界中で空手への幻想が膨らんでた時代だからヒットしたものの、内容的には当時から駄作だったじゃないですか(笑)。

――確かに、粗を探し出したらキリがないシリーズです。

瓜田 でもね、「だからこそ」なんですよ。観てるこっちが心配になるほどの駄作だからこそ、ファンがいるんです。俺もその1人なんですよ。となると今回もファンとしては当然、お約束の「駄作フォーマット」で来てほしいわけじゃないですか。世界中が駄作を待ち望んでたわけですよ。そんな中、奴が一体どう料理してくれるのかお手並み拝見と思ってたら、まずいきなり、そのフォーマットを崩してきやがった!

――と申しますと?

瓜田 初期作に出てたダニエルさんは本当に頼りなくて、どこへ行ってもナヨナヨしてて、偶然できた女友達との距離を詰めるのにも時間がかかったんですよ。だから観てるこっちはハラハラして応援しちゃうわけですよ。

 ところが今回の主人公のリーは、しょっぱなからしっかりしすぎてる。10代のガキのくせに未来の国際弁護士かってくらい英語も達者だし、異国の地のニューヨークにもあっという間に馴染んじゃう。初めて行ったピザ屋でも、普通ならもっとオドオドしていい場面なのに、大人相手にジョーク混じりの英語でやりとりしたりして、堂々としてやがる。さらにはピザ屋で出会ったばっかりの白人の女の子のことをすぐさまスマートにエスコートし、バイクで2ケツデートとかしてやがる。距離を詰めるのが早すぎるんですよ。おまけに最初から腕っ節も、そこそこ強いときてる。

 もう初めから何もかも持ってるじゃないですか。そんなんじゃ応援できねえよ、って思った。でもその一方で、これは新しい見せ方なのかも、っていう期待感も少しありました。1のフォーマットを大事にしすぎて続編が飽きられたから、今回はダニエルさんとは真逆の「できる男」「頼もしい男」で行って、どこかで大きな挫折をさせるんじゃないか、と。

 と同時に、こんなことも感じました。この作品はもしかしたら、リーのことを、ジャッキー・チェンの生まれ変わり的な存在として描きたいんじゃないか、と。奴はまだ生きてますけど、それだったらまぁ、理解できなくもない。

 実際、こんな場面があったじゃないですか。ガールフレンドの父親のもとへ荒くれ者の借金取りが来たときに、リーはゴミ箱の蓋やハシゴなどを使って撃退するという、まさにジャッキーの生まれ変わりっぽいアクションを見せてくれた。なるほど、そういうことか。今回はこのリーって子を次世代のカンフーヒーローとして全面的に打ち出していくつもりか。で、奴はせいぜい北京から国際電話でアドバイスをするくらいの役回りで、今回は脇に引っ込むつもりか、と。脂っこいオジイは、そのくらいの出方のほうがいいなと思ったんですよ。主役を食わないから。

 ところがどっこい後半になって、やっぱり奴が現れた! そこで俺、たまらず大爆笑しました。

――せっかく心の中で引っ込めたのに、結局出てきやがったぞ、と。

瓜田 そう。お呼びじゃねえのに出てきやがった。やっぱり主役を食ってしまうんかい、と。


――舞台挨拶で歌い出したときのような厚かましさが出てきたわけですね。

瓜田 そう(笑)。俺ね、あの中盤のサプライズの場面で嫌な予感がしたんですよ。リーが落ち込んで帰宅したら、部屋が真っ暗で、なんだか様子がおかしい。キッチンに吊り下げられた鍋がかすかに揺れてるんです。俺、もうその時点で、「奴が来たかも!」とピンと来ました。

――鋭いですね(笑)。

瓜田 「奴が来た」が4割、「敵が襲いに来た」が4割、「喧嘩中の彼女がサプライズで来た」が1割、「死んだはずのお兄ちゃんが映画『ゴースト/ニューヨークの幻』みたいに現れた」が1割、という読みでした。

 そんな中、リーが侵入者の気配を察知し、咄嗟に鍋を握ったんです。その瞬間、確信しました。「奴が来た!」とね。あの状態で鍋を持つ。このカンフー演出は100パー、奴のアイデアであり、奴が出てくる予兆なんですよ(笑)。そしたら案の定、奴が姿を現したじゃないですか。サプライズと言わんばかりにね。場内が満員じゃなくて良かったですよ。俺、あそこで大爆笑しちゃいましたから(笑)。

――平日の昼間とはいえ、客席はガラガラでしたね。全75席の劇場で、観客は僕と瓜田さんを含めて8人でした。

瓜田 しかも、若い客が1人もいない。初期のフォーマットが好きであろう、あの頃の青春を呼び戻したくて来てるような、ちょっとお年を召した客ばかりだった。おそらく彼らは全員、クールに振る舞い続けるリーに戸惑い、「コレジャナイ感」に打ちのめされながら映画の前半を観てたと思うんです。でもそんな観客も全員、奴があそこで登場した瞬間に、「おかえり♡」ってなったと思いますよ(笑)。

――従来のフォーマットこそ崩れたけども、「駄作感は健在だ!」と。

瓜田 そう。奴が出しゃばることによって、安定の駄作感が出ますからね。ただ、出しゃばりすぎにもほどがあるし、これは下手すりゃミヤギさんへの冒涜にもつながるんじゃないかと不安になったのは、奴がダニエルさんのもとを訪ねて、「自分はカンフーしかできないので、愛弟子に空手を教えてやってほしい」とお願いする展開。ダニエルさんはダニエルさんで忙しいのに、奴はそんなのお構いなしに「ビッグアップルで会おう」なんていう古臭いセリフを一方的に言い残して去って行く。結局ダニエルさんは、奴の旧友であるミヤギさんの顔を潰すわけにはいかないから、わざわざニューヨークくんだりまで、よく知らねえガキのために身一つで来てくれるわけじゃないですか。

 なのに、ダニエルさんがリーに空手を教えようとする度に、奴が必ず「いや、違う」と言わんばかりにカンフーで逆張りしてくるんですよ(笑)。結局、最後の試合を見ましたか? 空手っぽい技なんて、一つも出てこないんですよ。「お願いしといて、そりゃねーだろ!」と思い、ここでも爆笑しました。

――まあ、どこからどう見てもダニエルさんよりリーのほうが強いから、リーからすれば「お前から教わることなんて何もない!」って感じだったのかもしれませんけどね(笑)。

瓜田 リーは中国雑技団も顔負けのアクロバティックな回転蹴りを、最初からほぼできてましたからね(笑)。初期作は「努力して強くなるまで」のプロセスが丁寧に描かれてたから感動もしたけど、今作は話にいろんな要素を詰め込みすぎたせいで、何もかもが急展開かつご都合主義で、笑うしかないですよ。「わずか1週間でさらに強くなる」という急展開しかり、男女の急接近しかり、主人公が宿敵と地下鉄でばったり会って絡まれる「んなわけあるか!」な展開しかり。

 しかも全部、見た瞬間に先が読めるというね。「ああ、こいつとこいつが付き合うんだろうな」「こいつとこいつが戦って、最後にこの技でこっちが勝つんだろうな」ということが、登場人物の顔を見た瞬間に想像ついちゃう。観客はただ、観ながら答え合わせをしてるだけですよ。まあ、それこそが、この手の作品の醍醐味でもあるんですけどね(笑)。

――作品の粗すらチャームポイントとして許容してしまえる瓜田さんですが、「それでもこれは看過できない!」という要素はありましたか?

瓜田 たくさんありました。まず、オシャレなBGMが邪魔。この映画はダサくなきゃいけないのに、なんとなく今時のかっこいい映画に持っていこうとするせいで、不釣り合いな印象を受けました。話がBGMに合わせてテンポ良く進んでいくならまだしも、全然そうじゃない。話は引っかかるとこだらけなんです。

 例えば、リーは学校でボコボコにされて情けない姿を晒したという話なのに、その直後、元ボクシングチャンピオンだというピザ屋の店主(ガールフレンドの父親)に対して、武道を教えたりしてる。リーのことを「弱い男」として描きたいのか、「強い男」として描きたいのかが中途半端で、こっちは感情移入しづらいんですよ。

 また、たいした失敗もしてないのに、リーが「人生おしまいだ」みたいにヤケクソになるシーンがあったけど、まったく共感できませんでした。ああいう心理状態になるには、漫画『はじめの一歩』じゃないけども、何度もつらいことがなきゃダメで、肩を落としてジムに向かう道中に、空き缶を蹴るからこそ切なさが出て、初めて観客の共感を呼べるわけ。リーは空き缶を蹴るまでのプロセスをすっ飛ばしすぎなんです。


 そのくせリーは、やたらと顔を作るんですよ。あれがいちいち大袈裟だし、可愛くないし、鼻につくので、最後までこいつを応援しようとは思えなかった。いまだにあの主人公には納得がいかない。あの主人公じゃないほうが良かったと思うぐらい、一つも評価できるとこがなかったですね。


――手厳しい。

瓜田 まあリーだけの責任じゃなく、作り手の問題と言える部分も多かったですよ。例えば、リーとガールフレンドが仲違いして、気まずい関係になったじゃないですか。そのさなか、彼女の働くピザ屋に出前の注文が入る。その日に限って「なんでこんなに流行ってんだ?」ってぐらいの客入りなのも変だったけど、それはさておき、他の店員が忙しそうだから、彼女はやむなく自分で自転車を飛ばして配達に行くんです。そしたら、出前を頼んだのは実はリーだった、というくだり。

 あんなクソ忙しいときに、喧嘩中のボーイフレンドが出前を呼んだなんてわかったら、それはただの嫌がらせでしかなく、普通だったら彼女はブチギレて帰りますよ。なのに彼女はこのサプライズ展開にニコニコ喜んじゃって、そのあとリーと仲直りして屋上で長時間イチャついたりしてる。お店は忙しいんじゃなかったのかよ? 人間の行動として不自然すぎるだろ。

 でね、ああいう粋なようでいて、実はダサくてピンとこない演出を考えたのは、どうせ「奴」なんですよ(笑)。

――決めつけますね(笑)。

瓜田 奴しかいないですよ。ちなみに、作り手は小洒落たつもりなんだろうけど、観る側の鼻につく場面はほかにもありました。「スタッフドクラストピザ」の話です。ちょっと皮肉の効いた小粋なやりとりみたいな感じで、「スタッフドクラストピザ」って言葉をいろんな人がニヤリとしながら使ってたけど、あれ、日本人にはまったく意味わかんないから。全世界で公開される作品なんだから、ああいうローカルなネタはやめろと言いたい。

 その点、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくる「カルバン・クライン」の話なんかは、世界中の誰もがわかりやすく、しかもタイムスリップという設定を生かした小粋なネタだから、笑えるし、鼻にもつかないんですよ。

 この違いがわかるか? わからないだろうなぁ、お前(ジャッキー)には……。

――そのほか、気に入らないシーンはありましたか?

瓜田 地下鉄の自動改札を使ってトレーニングをするシーンがあったけど、あんなに長時間、一つの改札をバカ3人で塞いでたら、利用客からクレームが入るに決まってるじゃないですか。許されてるのが不自然なんですよ。あれもどうせ、奴が「ニューヨークらしさ=地下鉄」という安直な思いつきで、無理くり入れたシーンだと思うんです。

 あと、カンフー要素をネジ込みたいからって、生前のミヤギさんが言ってないことをAIだかCGだかを使って言わせたシーンも、死者への冒涜を感じました。あれもきっと奴の仕業でしょう。


――瓜田さんはさっきから、なんでもかんでもジャッキー・チェンのせいにしてますけど、彼は監督でもプロデューサーでも脚本担当でもないですからね。

瓜田 監督でなかろうがプロデューサーでなかろうが、奴があれこれ口出ししてるに決まってるじゃないですか(笑)。ウィル・スミスの電話1本で映画化の話が進んじゃうぐらいなんだから、レジェンドたちのちょっとした物言いで内容なんかいくらでも変わるんですよ。で、製作陣もそれに従うしかない。なんでかっていうと、みんな「あなたの作品を観て育ちました」なんて言いながら揉み手で奴に近づいてって、クランクインのときも「あなたのおかげで今回は絶対成功します」とかって、さんざん下手(したて)に出ちゃってるもんだから、奴が要所要所で口出ししてきたら、たとえおかしな内容でも採用せざるを得ないんですよ。

 で、結局、奴がこの作品に残したものといったら、「老害」以外の何ものでもないんですよ(笑)。まったく傍迷惑な野郎だな。

――まあ、とはいえ、「初期のベスト・キッドらしさ」を残そうという努力を感じる部分もありましたけどね。

瓜田 「ワックスかける、ワックスとる」の代わりに、「ジャケット脱ぐ、ジャケット着る」とかね。あれは笑いました。あと、過去のシリーズはヒールが往生際の悪い連中ばかりなんだけど、そこを踏襲してくれたのも嬉しかったです。悪側の主役に、イケメンだけど性格がしつこそうな役者をしっかりキャスティングしてくれた。そいつが地下鉄での別れ際に「おっと、忘れもんだ」って感じでリーをブン殴ってくれたし、試合は終わったはずなのに立ち上がってまた襲ってきてくれたのもお約束通り。悪役のクズっぷりがこのシリーズの醍醐味だから、そこは期待通りでした。

――キスの寸前に邪魔が入るのも、このシリーズのお約束。それを今回も見れたのが嬉しかったですね。

瓜田 あと、人間の中でも最低な野郎どもが漫画の中でしか言わないセリフ、「覚えてろよ」が今回出ましたね(笑)。リーに撃退された借金取りたちが、去り際にそう言うんですよ。あれが出た瞬間に俺、「いただきました」って思いましたもん。ああいう陳腐な悪者描写も、このシリーズらしくて良いと感じました。

――でもその一方で、「お約束破り」もありましたね。過去作のミヤギさんは、トドメを刺せる場面であえてパンチを打たず、相手の鼻をギュッとつまんで戦いを終わらせるのがお決まりだったのに、今作のリーはそれをやってくれなかったのが残念でした。

瓜田 奴がちゃんと過去作を観てないのかも。あるいは観たけど忘れちゃったか。

――瓜田さんは、奴ことジャッキー・チェンに何か恨みでもあるんですか?(笑)

瓜田 恨みどころか、愛しかないですよ。奴呼ばわりするのも、鑑賞後の余韻として「やっぱり奴だったな〜」という親愛の情が湧いたから、ついそう呼びたくなってしまうだけのこと。それに俺は、奴の数々の作品を観ながら大人になったと言っても過言じゃないですから。でもね、「男としてこうありたい」と憧れたのは、やっぱスタローンの映画『ロッキー』なんですよ。一方で、「絶対こうはなりたくねえ」と思ったのは、奴なんです(笑)。だって、映画『酔拳』で酔っ払って無銭飲食がバレてボコボコにされるような奴に、子供が憧れるわけないじゃないですか。

 ロッキー・バルボアの「人生ほど重いパンチはない」という言葉を聞いて、我々は「おおっ!」となって、「♪チャカチャー、チャカチャー、チャカチャーチャッチャッ」という例のテーマ曲を聴いて、奮い立つわけです。そういう感動が『ロッキー』にはある。

 でも奴の「アイヤ〜」みたいなセリフとか、「♪ジャン、ジャンジャン、ジャンジャン」という『ポリス・ストーリー』のテーマ曲とかは爆笑しか生まないんですよ。

――役者としてのジャッキーの評価は?

瓜田 貧乏臭い役をやらせたら天下一品ですね。ハリウッドスターで死ぬほど金を持ってるのに、何十年経っても貧乏臭さが抜けきらない。日本の武田鉄矢、西田敏行、田中邦衛あたりに通ずるものがあるのかな。武田鉄矢って、映画『刑事物語』とかで、ちょっとオシャレなお店に行ったときに居心地悪そうな表情をしたりするのが上手いじゃないですか。あんな感じ。

――映画『新宿インシデント』でも、ジャッキーの貧乏役はハマってましたね。

瓜田 今作でも、最後の戦いの直前に相手陣営が、奴とダニエルさんを威嚇しながら廊下を歩いてくるシーンがあったけど、あのときの奴のみすぼらしい風貌と、なんとも言えない目つきや態度を見ましたか? 軽く目礼なんかしちゃったりしてね(笑)。ああいう人生の敗者感をナチュラルに醸し出せる億万長者って、奴しかいないと思うんですよ。

 あと、ニューヨークの街なかを、トゥクトゥクで走るトレーニングシーンがあったじゃないですか。リーに運転させて、座席にいる老害たちが通行人に向かって「すみませんねぇ」みたいな顔してる。観てるこっちがこっ恥ずかしくなるようなあの感じが、たまらなかったですね。ダメな親戚のおじさんを見てる気分。奴のことは嫌いじゃないし、むしろ好きなんだけど、友達には絶対会わせたくない、みたいな。

 ハリソン・フォードやロバート・デ・ニーロが同じ演技をしても、スターの色が染み着いちゃってるから、ああはならない。そう考えると奴はすごいです。

――褒めてるんだか、貶してるんだか……。

瓜田 脚本を含めいろいろと酷い作品だけど、奴が出てきたことによって、抜群に面白くなったのは確かですよ。

――やっぱ、笑っちゃいますもんね。


瓜田 そう、悔しいけど面白いんです。懐かしさもあって爆笑したし、うっかり泣きそうになる場面もあった。泣かせるためのプロセスをすっ飛ばしてるから本来は泣けないんだけど、やっぱり何百タイトルもの映画で体を張ってきた奴が、深いシワの刻まれた顔で「人生とは」みたいな哲学を語る場面では、悔しいことに俺、ちょっとホロッときちゃったんですよ(笑)。だから、危ねえ危ねえって、慌てて心を戻しましたもん。


――こんなので泣いてる場合じゃねえ、と。

瓜田 ふざけんなよ、騙されねえぞ、と。そもそもカンフーが実戦でも強いと思ってるのは中国の一部の人たちだけで、その他大勢はアクションとして単純に面白いと思ってるだけなんですよ。なのに奴が関わると、「世界最強の武術」みたいな見せ方になっちゃう。こんなこと言ったら身も蓋もないけど、誰かと命懸けで戦うんだったら、カンフーじゃなく、ボクシングやMMAを習ったほうがいいんですよ。もちろん、そういう実情とかけ離れた奴のワールドも大好きなんですけどね。

――では、そろそろ総合評価をお願いします。

瓜田 いろいろコキ下ろしましたけど、駄作であればあるほど、ストーリーがチープで滑稽であればあるほど、「この映画は素晴らしい」ってなると思ってたんで。変に出来すぎてちゃダメだな、頼むから変に壊さないでくれよと願いながら映画を観てました。それがちょっと裏切られた部分もあったけど、結果、やっぱり“超駄作”だったじゃないですか。駄作続きのこのシリーズから超駄作が生まれるってのは、俺みたいなファンは「退化じゃなく、進化」と捉えます。

 だから俺、この連載始まって以来、初とも言える高得点を付けますわ。

――何点ですか?

瓜田 98点です! もうね、奴のあらゆるシーンに笑いが止まらなくて。俺、映画でこんなに爆笑したのは初めてかもしれない。惜しかったのは、エンディング曲。あれを奴の歌声で締めてくれたら100点でした。

――そんなにも面白いのに、客入りが悪いのが残念です。

瓜田 公開前、このシネコンのロビーの一面を使って、デカデカと今作の宣伝をしてたのを覚えてますよ。ところが8月末に公開されて、まだ1ヶ月も経ってないというのに、早くもこんな小さな箱に追いやられて、上映回数も少なくなってきてる。本当は劇場側としても、とっとと打ち切りたいはずですよ。でもジャッキーの手前、打ち切れないんじゃないでしょうか。なんせ奴は来日してましたし、『新宿インシデント』よろしく、今も日本のどこかに潜伏してるかもしれない。いつ抜き打ちで様子見に来るかわからないから、劇場側も「まだやってますよ!」という体を崩せないんですよ。そして、奴の面子を潰さないために、数少ない熱心なファンが何度もリピート鑑賞してるんでしょう。

 作り手から劇場、そして観客までもが、ジャッキーという老害に気を遣ってる感じを含め、最高の作品でした。こうなったら俺はもう、とことんまで奴に付き合いますよ。今後も出演作は全部観るつもりだし、願わくば、奴が完全にボケてしまった状態で、監督主演作を一本作ってほしいですね。俺は責任を持って、その駄作を看取りますよ。

(取材・文=岡林敬太)

『ベスト・キッド:レジェンズ』瓜田夫婦の採点(100点満点)
純士 98点
麗子 欠席

岡林敬太

風俗情報誌の編集、実話誌の暴力団担当記者などを経て、ライターに。瓜田純士のYouTubeチャンネルのカメラマンも務める。

岡林敬太
最終更新:2025/09/25 13:00