『ブラック・ショーマン』好発進! 福山雅治にマジックを指導したKiLaが語る“裏側”とヒットへの“伏線”

福山雅治(56)主演の映画『ブラック・ショーマン』が9月12日(金)に全国公開され、祝日を含むオープニング4日間の動員は53万5500人、興収は7億4400万円と実写作品1位を獲得。2022年に福山主演で最終興収30億円を突破したヒット作「ガリレオ」シリーズ『沈黙のパレード』(祝日を含む4日間の成績=動員49万3000人、興収6億9600万円)を超える好発進となった。
福山は元マジシャンで、卓越したマジックの技術と人間観察力を武器に、兄が殺された事件の真相に迫っていくダークヒーロー・神尾武史役。武史の姪でバディとなる神尾真世役には有村架純(32)が起用され、2人の掛け合いも見どころだ。
マジシャンKiLa氏監修のもと、福山がマジックに挑戦
原作は福山が「ダークヒーローを演じてみたい」と東野氏に話したことがキッカケで生み出された、ほぼ“当て書き”。メガホンは『コンフィデンスマンJP』シリーズや『イチケイのカラス』(ともにフジテレビ系)など、騙し合いや謎解き作品を手がけた田中亮監督で、キャッチコピーは『手段を選ばず、手品のように華麗に謎を解く』。
作中で披露されるマジックはすべて福山が実際に行い、CGや吹き替えは一切ナシだという。東野氏との対談で福山は「あくまで“手段としてのマジック”を表現するのがこの作品の目指すべきこと」だと語っていたが、未経験者が一体どこまで自然な形で「マジック」を取り入れられるものなのか――。
そんな本作のマジックの監修を務めたのは、ストーリー性のあるマジックを得意とし、ライブショーをはじめ、テレビ番組への出演やマジック商品開発の監修など幅広く活動しているマジシャン・KiLa氏。撮影の裏側にあった福山へのマジック指導や、物語に溶け込むマジック考案の工夫を同氏に聞いた。
3カ月でマジックをマスターした福山雅治の「才」
まず、本作におけるマジック監修とはどのような役割を担うのか。
「そもそも監修とは、作品に何らか専門的な要素を取り入れる際に、矛盾や不自然さが出ないようにチェックするものです。今回の場合、実は原作ではマジックの描写がそれほど多くなく、あっても文字だけだとどんなマジックなのか、どうしても伝わりにくい。ただ実写映画化では、リアリティのためにきちんと成立するマジックを散りばめたいというのが監督の意向でした。そこで僕は監督や演出部の皆さんと一緒に、ストーリーラインに馴染むマジックシーンを組み立てました」(KiLa氏、以下同)
作品中のマジックには、原作にないものもある。制作陣がこだわったのは、「作品が最も面白くなる」こと。あくまでも作品への説得力を軸にした上で、マジックをやったことがない福山が、どこまでマジックに歩み寄れるのかが重要なカギだった。
限られた時間のなかで、KiLa氏は「できるだけ再現度が高くなるマジックの考案に心を砕いた」というが、いざ指導を始めてみると、真摯な姿勢に裏打ちされた福山の“才”を目の当たりにしたようだ。
「膨大なセリフや感情を操りながら、マジックという新しい技術を習得して、それを自然に演技の中に組み込まなくてはならない。監修のお話をいただいてからクランクインまでは3カ月でした。技術的にいえば『利き手と同じくらい綺麗な文字を、逆の手で書いてください』というイメージがわかりやすいでしょうか。それを短期間でやり切った集中力と努力には頭が下がります」
観客を物語のなかへ没入させる、マジック×福山雅治の“化学反応”
流れるような手さばき、目にも止まらぬ器用さがマストとなるマジックは到底付け焼き刃でできるものではないが、監督も福山も、そしてKiLa氏も自分たちの「手」でやることにこだわった。さらにKiLa氏が印象的だったのは、福山がマジック以前に、エンターテイナーとして観客がより楽しめる見せ方を追求する姿だ。
「ストイックで、ものごとをエンタテインメントとしてディレクションし、表現・演出する能力が優れている。福山さん自身がそうした力を元々持ってらっしゃるので、そういう点ではマジシャンに向いている素養がある部分かなとは思いました。ただ、最初典型的なマジシャンの動きに福山さんを当てはめようと思ったら、『福山雅治』のカッコよさが収まらない。
だから僕はもう早い段階で『すいませんでした』って白旗です(笑)。福山さんの雰囲気に合わせてマジックの見え方を調整し、福山さんの動きでやっていただく方向に転換しました」
福山のほうからマジックの提案もあったという。
「『このシーンはこういう風にはできないのか』『ここはもっとこうあったほうが面白くなるのでは』といった意見もいただいて、僕も納得することも多かったです。このぐらいでもいいかなと思った部分でも、よりリアリティを求める。妥協しない姿勢が、作品に厚みをもたせているんだと感じます」
予告編にも登場する“コインロール”(コインを指の上でパタパタと移動させるテクニック)も福山はマスター。ほとんどのマジシャンは子供の頃から練習する難しい技術だが、それをただ“真似る”だけでは説得力は生まれない。
「制作チーム一同で共有していたのは、ただ覚えただけの付け焼き刃の技術じゃなく、体に染み込んで血肉となった“リアルなマジック”が福山さんの演技に必要だということ。
CGや吹き替えを使えば簡単だし、より凄いものが可能になるかもしれませんが、やはりそこに本物の説得力は生まれない。リアルなマジックをリアルに演じることが、映像上で言葉以外の“匂い”を生み、単なるトリックを超えて、人を信じさせるマジックになっていく。そうした福山さんの“匂い”こそが、観客を物語のなかへ没入させる大切な要素なんじゃないかなと思います」
マジックが人を惹きつける理由の一つに、KiLa氏は「インタラクティブ性」を挙げる。マジックにはタネが絶対に存在するが、その不思議に観客が能動的に巻き込まれてゆき、最後にはそれが「人生の体験」へと変わる。その魅力をKiLa氏は「利他的な奇跡の共有」と表現する。
「もう1回見たい!」と思わせるために、必要なこと
実は東野圭吾氏とKiLa氏には、“伏線”があった。KiLa氏のマジックには「バーテンダーのイサムくん」という演目がある。1束のトランプをKiLa氏がシャッフルしながら物語を語ると、不思議とキーワードになる語呂合わせのカードが登場するストーリー仕立てのマジックだ。物語性を大事にするKiLa氏が監修したからこそ、本作の魅力が一層増したといっても過言ではない。
物語を意識するようになったキッカケは、30歳ごろに出会った東野圭吾氏原作のガリレオシリーズ、『容疑者Xの献身』だったという。東野圭吾×福山雅治タッグで2008年に実写化もされた約300万部を記録するベストセラーだ。
「それまで小説には苦手意識があったのですが、この小説は面白く、一気に読書にのめり込みました。本からは言葉の表現力と物語の力を学び、マジックにも大いに反映されています。
物語と同じで、マジックにも起承転結や伏線があります。ただ驚かせるだけだったら、びっくり箱でいいですよね。でも、それだと『もう1回見たい!』にならない。不思議なことが起こるのは手法であって、あくまでも入り口です。マジシャンは、“相手の感情をどう動かすか”を考えているんですね。そして、言葉がその部分――相手の感情や意識を揺さぶる手数をより広げてくれているように思います。観客をドラマに巻き込むという意味で、小説や映画とマジックは共通点が多いのかもしれません」
ダークヒーローとマジシャンの共通項
主人公・神尾武史は“ダークヒーロー”という立ち位置のキャラクターだ。ダークヒーローとマジシャンには不思議な親和性があるように思える。
「奪う存在に見えつつも、結果的に何かを与えるのが“ダークヒーロー”。きっとマジシャンも同じで、一見“人を騙す”パフォーマンスのようでいて、本当は“信じさせている”と思っているんです。嘘で騙して何かを奪うのが詐欺師やペテン師だとしたら、マジシャンは人を信じ込ませて驚きや感動を与える。危うさを秘めた技術は魔性の美しさがあり、その点は、ダークヒーローとマジシャンの共通項じゃないかな」
KiLa氏は、「観客の皆さんには、ぜひ本作を“味わって”欲しい」とメッセージを送る。
あらすじネタバレ倍速時代。KiLa氏は「否定しない」といいつつ、「ただそれらの行為自体は情報の“摂取”であって、“味わう”こととは違う」と指摘する。びっくり箱が驚きの「摂取」なら、マジックは「味わい」だ。
「何が起こるのかワクワクしながら作品を味わって、余韻を楽しんで、そして他との違いを感じ取ることが、人間としての厚みを作る営みだと思うんです。ぜひ、人力を込めた『ブラック・ショーマン』は、じっくり味わっていただけたら嬉しいなと思います」
マジックは、自分にとって「言葉」だというKiLa氏。マジシャンとなった福山がどんなふうにその手で――“言葉”で語りかけるのかを、この目で確かめにいきたい。
『ブラック・ショーマン』
2025年9月12日(金)全国東宝系にて公開中
原作:東野圭吾『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』(光文社文庫刊)
監督:田中亮(「コンフィデンスマンJP」シリーズ、「イチケイのカラス」シリーズ)
脚本:橋本夏(「119エマージェンシーコール」「降り積もれ孤独な死よ」)
音楽:佐藤直紀
テーマソング:「幻界」福山雅治(アミューズ / Polydor Records)
出演:福山雅治、有村架純、成田凌、生田絵梨花、岡崎紗絵、生瀬勝久、仲村トオルほか
©2025映画『ブラック・ショーマン』製作委員会
(構成・取材=吉河未布 文=町田シブヤ)