<特別鼎談>戸田彬弘×古澤メイ×染井為人 生きづらさと貧困の中でもがく19歳の少女を描く、たった45分の、いま観るべき秀作

私たちが生きるこの社会は、貧困、差別、偏見と多くの問題が存在する。目を背けてしまいがちだが、小説や映画の世界には、こうした問題と真正面から向き合い、作品に昇華していくクリエイターたちがいる。映画監督の戸田彬弘(とだ・あきひろ)氏もそのひとりだ。
2023年に公開された『市子』は、過酷な家庭環境で育ち、悩み傷つき、“社会の闇”に飲み込まれながらも生きることを諦めない主人公・市子を杉咲花が熱演。第47回日本アカデミー賞優秀主演女優賞をはじめ数々の映画賞を席巻した。そんな戸田監督の最新作『爽子の衝動』が10月10日から順次全国公開となる。
本作の主人公は、四肢麻痺と失明を抱える父親と暮らす19歳の少女・爽子(そよこ)。彼女はいわゆるヤングケアラーで、生活は困窮を極めていた。役所の水際作戦によって生活保護の申請は通らず、爽子は徐々に追い詰められていく……。
本作の上映時間は、たった45分。しかし、この“たった45分”の中には、いまの日本が抱えるさまざまな社会的な課題が詰め込まれている。観る者に鮮烈な印象を残し、「あなたならどうする?」と問いかけてくる。他人事だと割り切ることは簡単だが、これはどこかの遠い国の出来事でもなければ、過去のことでも未来の話でもない。今の日本で起こっている、誰の身に起こってもおかしくないことでもある。
この映画に胸を打たれたひとりが、作家の染井為人(そめい・ためひと)氏だ。染井氏のデビュー作『悪い夏』(KADOKAWA)は、生活保護の不正受給をめぐる人物模様を描いた作品で、戸田監督の作品世界にも通じるところがある。今回、『爽子の衝動』公開記念として、戸田監督、爽子役で主演を務めた古澤メイ(ふるさわ・めい)氏、染井氏による<スペシャル鼎談>をお送りする。

<インフォメーション>
『爽子の衝動』
2025年10月10日(金曜)新宿シネマカリテほか順次公開
監督・脚本・編集:戸田彬弘
主演:古澤メイ
間瀬英正 小川黎
菊池豪 遠藤隆太 木寺響 木村恒介 中川朱巳
黒沢あすか 梅田誠弘
製作:basil、チーズfilm 制作協力:ポーラスター
特別協賛:レジェンドプロモーション
制作プロダクション:チーズfilm
2025年 45分 アメリカンビスタ 5.1ch
公式サイト:https://www.soyoko-movie.com/
X:https://x.com/soyoko_movie
それぞれの『爽子の衝動』
――『爽子の衝動』は、さまざまな社会的課題を内包した映画ですが、まずは率直な意見をうかがえればと思います。染井さんはいかがでしたか?
染井為人(以下、染井):観ていて苦しかったですね。そもそも気持ちよくルンルンで終われる映画じゃありませんから。でも「苦しさ」だけじゃなくて、『市子』同様、戸田さんの世間・社会に対する確かな眼差しを感じました。そして、「戸田さんは優しくて真面目な人だから、こういうテーマを撮るんだろうなぁ」とも思いました。でも、まぁ、観ている間は苦しい。すごく濃密な時間でしたが、上映時間は45分という。
戸田彬弘(以下、戸田):実は当初は短編の予定だったのですが、最終的にはこの長さになりました。
――短編から中編に変更になったのは、どのような事情があったのでしょうか?
戸田:企画の立ち上げ時は、プロモーション的な側面がありました。僕が代表を務める制作会社 は、俳優のマネージメントもやっていて、古澤メイさんも所属しています。ふたりで今後の展開を相談していた時、代表作が必要だという話になり、自分たちで1本の映画を撮って短編映画祭に出そうと考えました。撮るからには、最低限のクオリティをキープするのではなく、よりクリエイティブなことに挑戦しよう。そうでなければプロモーションにはならないと思ったんです。そこを突き詰めていった結果、熱を持って撮影したことが影響してるのか短編から中編になっていました。正直、時間もお金もなかったんですが、幸いにも『市子』に関わってくださったスタッフさんたちが作品に興味を持ってくれて参加してもらうことができました。
染井:古澤さんは、こういう役を演じたことはあったんですか?
古澤メイ(以下、古澤):これまでは明るい役が多かったですね。でも、私がやりたいと思っていたのは、まさに『爽子』のような作品だったんです。お芝居を始めたキッカケも、こういう作品でしたし。
戸田:最初に企画の話をした時、一切ノーと言わなくて、少し心配になりました。嫌って言えないんじゃないかなと(笑)。
染井:戸田さんは監督であり、会社の代表でもありますしね。
古澤:いやいや(苦笑)。すごく嬉しかったです。
――ある意味で、古澤メイさんありきの企画だったんですね。
戸田:そうですね。ただ、当て書きはしていません。俳優としてステップアップするには、役と向き合って負けない経験が必要だと思うからです。『爽子』の中で取り上げたヤングケアラーや生活保護といった題材は、現実の社会問題であり、現実の当事者もいます。そういった映画に臨むからには、俳優にも監督にも相応の覚悟が必要です。古澤さんにはそういう経験をしてほしくて、彼女のお芝居の質感を見て「やってもらいたい」と強く思いました。本作には「今後もこういう映画を任せられる俳優に育ってほしい」という願いも込められています。

――『爽子』を完成させた今、戸田監督はどのように感じていますか?
戸田:監督としての「怖さ」でしょうか。この映画は自主映画なので、出資者はいません。「見せるものは見せる。隠さない」と自由に作ることができます。この題材を取り上げる上で描く必要がある問題は、すべて映画の中に組み込みました。そのことに責任と覚悟を持って撮影には臨んだつもりですが、いざ完成して、多くの観客の目に触れることが目前に迫った今、どういう反応が起きるのか「怖さ」を感じています。
――その怖さは否定的な評価に対するものですか?
戸田:作品が持つ“モラルや思想”といった部分での怖さですね。例を挙げると、今回はあえてケースワーカーをバッシングするような内容にしましたが、もちろん現実にきちんとケースワーカーとして働いている人たちが大多数いて、この映画が悪いイメージを植えつけてしまう可能性もある。こういった影響力の部分に怖さを感じますね。もちろん「どういう意図を持ってこうしたのか?」は説明できるように、自分なりの言葉は持っています。それを持っていないと、こういう映画を撮っちゃいけないと思いますから。
染井:商業としてやる以上、いわゆる万人ウケするように調整する必要はあります。でも、戸田さんの良さは作家性が全面に出ていることで、今のケースワーカーの話については、僕は心配しなくていいと思いますよ。この映画を観ても「こんなケースワーカーが大勢いる!」とはならない。逆に爽子のような子がいたら「こういうことも起こりえるかもしれない」とは思う。そこのバランス感覚も上手いなと。
――古澤さんは主演として作品に全力で向き合ったわけですが、公開目前の心境はいかがですか?
古澤:とにかく私は、観に来てくれたお客さんに「届いてほしい」という思いでいっぱいです。監督の言うような不安もありますが、まずは少しでも多くの人に観ていただき、こういった問題に関心を持ってもらうきっかけになればと思います。そして、映画が持つ力や楽しさにも気づいてもらえれば。
実は私、高校生のころに病気をして、学校に行ってない時期があったんです。その間は、ずっと映画を観て過ごしていました。当時は、自分のことをすごく日陰の存在だと感じていて、世界の見え方まで変わってしまって……。でも、映画という媒体を通じて、自分の知らない世界、そして自分自身のことを知ることができました。病気はすでに治ったのですが、あの時に映画を観て感じたことはいまでも記憶に残っています。あの時の私のように、この映画が誰かの心を動かすものであることを願っています。

違和感から生まれた物語 届けたいという想い
――戸田監督と染井さんは、それぞれ作品の中で現実の社会問題を積極的に取り上げているイメージがありますが、なにかこだわりはありますか?
染井:僕はそんなに意識していませんね。ニュースなどを観て世間で起きていることに触れて、ちょっとした違和感を抱いた時に「これを題材にしてみよう」と思うだけで。
戸田:まったく一緒です。違和感ですよね。
染井:たとえば僕の小説『歌舞伎町ララバイ』(双葉社)はトー横キッズを題材にしていますが、あんなに若い子たちが歌舞伎町に集まっていること自体、昔の歌舞伎町を知っている人間にとっては、すごく違和感があるんです。「あそこに集まっている子たちは何なんだろう?」「そういう子たちに近づく大人は何なんだろう?」と考えていくと「おや?」と違和感が出てきて、「これを題材に小説を書こう」となる。違和感を抱いたら、その周りを掘っていくイメージですね。そこにある闇そのものより、その闇の周囲にあるものを描いて、中心にあるものがぼんやり見えてくる。そういうのが好きというのもあります。
戸田:僕はニュースやドキュメンタリーを観て違和感を抱くと、その“違和感の正体“に興味が湧きますね。「自分は今、何に対して違和感を持っているんだ?」と。それを題材に作品作りを始めると、「どこに自分の思考が向いているのか?」とか「自分の心が何に反応しているのか?」とか、徐々に違和感の正体が分かってくる。たとえば自分が『爽子』のような状況になってしまったらと想像すると、耐えられないと思うんです。何とかしてあげたいという思いもありますね。
「なぜこの人はこういう状況になってしまったのか?」を調べていくと、法が行き届かない点や、ある種の偏見があることが分かってきて、「この人を救うにはどうすればいいのか?」を考えて物語ができていきます。そこが先ほど染井さんがおっしゃった「優しい」という点につながるのかは分からないのですが、単なる「かわいそうな人」として描くのも、それは当事者に失礼だと思っていて、そう思われないキャラクターにしたいとも考えています。
染井:あとは単純に、心を動かしてくれるものが好きなんだと思いますよ。古澤さんが病気をした時に映画をいっぱい観て心が動いたように、僕は小説で戸田さんは映画ですけど、そういう人に届いてほしいなと。それで、違和感を作品に昇華する仕事を選んじゃったわけですよね。

――「救う」という言葉が出ましたが、先ほど染井さんが戸田監督を「優しくて真面目だから」と評したことに繋がってくるように思います。
戸田:僕は性善説というか、元はみんな善人だって考えるタイプなんです。争いごとは起きますけど、他人を想う心は全員が持っているはずです。それで、こういう作品を作っているのかもしれません。「この映画を通じて分かってくれたら、みんなここに寄り添ってくれるんじゃないか? 社会に大きな問題があっても、みんなの目線が向いたら解決できるんじゃないか?」って、どっかで信じている気がしますね。
古澤:私も「爽子の味方でありたい」と思いながら作品に参加していました。私が経験した記憶や経験をすべて使ってでも、役者として爽子を守ろうって。
染井:守るということで言うと、みんながちょっとした優しさを持ち寄って、ひと言でも優しい声をかけたら、少しは救われるんじゃないかと。もちろん、『爽子』のような状況が自分の近くで起こっていたら、一人で背負い込むのは無理だと思うんです。でも、それこそ区役所や専門の機関に連絡するとか、ほんの少しだけ優しい手を差し伸べてほしいなって。『爽子』を観終わったあとに、そういうことをちょっとだけ考えてもらうといいんじゃないかなって思いますね。
――お話を聞いて、おふたりに共通する創作のスタンスが見えたように思えます。違和感を入口に、心を動かすものを届けたいという気持ちがあって、そして自分の作品が少しでも現実に苦しむ人の助けになればという想いが込められているのかなと思いました。
染井:結局、人が好きなんだと思います。そもそも人嫌いだったら、こういう仕事をしてないでしょうから(笑)。

撮影2日目から別人に見えた… 新星・古澤メイの実力
――古澤さんは今回が映画初主演です。爽子は置かれている状況はもちろん、内面的にも非常に複雑な人物で、率直に言って非常に大変だったのではないでしょうか?
染井:苦しかったんじゃないんですか? 役が抜けないみたいな。
古澤:そうですね。カメラが回った瞬間に切り替わる役者さんもいるそうですが、私はそんなに器用ではないので……。いつも爽子のことを考えていましたから、そういう意味では苦しかったですし、大変でしたね。
戸田:もちろんスタッフ全員で仲間である古澤さんを支えましたが、大変だということを分かってくれる人じゃないと、この役を渡してはいけないとも思っていました。
染井:撮影期間はどのくらいだったんですか?
戸田:3日ですね。追加撮影もないです。湯河原で合宿をして撮ったのですが、夜の撮影も1シーンだけで、他は全部日中でした。朝から始めて、日が沈んだら撮影終了という健全な現場でした(笑)。
――3日ですか⁉ それは精神的にも体力的にも大変だったんじゃないですか?
古澤:撮影現場から離れずに住んで、爽子のことだけを考える時間が持てたので、むしろありがたかったですね。もちろん自分の演技で爽子という人物がどうスクリーンに映るのかが決まってしまうので、爽子のことを知って、彼女を守りたいと思えば思うほどプレッシャーが大きくなっていって、正直、怖く感じる時もありました。でも、こんな役に挑戦できる機会はもうないかもしれないと考えたら、この苦しさは役者としてはありがたいと思えるようになりましたね。それになにより、支えてくれるスタッフさんがいたことが励みになりました。
戸田:クランクアップした時は泣いていましたね。
古澤:寂しかったんです。撮影が終わったら、爽子という役と別れなきゃいけません。実はクランクインの一週間前にも、爽子と会えなくなる日が来ることを考えて泣いていました。
戸田:『市子』の時に杉咲花さんも同じことを言っていました。撮影の1年前から台本を読んで楽しみにしていたので、クランクアップの日に「今日で市子とお別れになっちゃう。それが本当に寂しい」って。そういう役との出会いが、俳優にとっての財産になっていくんだと思います。
――それほど爽子役に愛情を持って臨まれたのですね。戸田監督はそんな古澤さんの演技を間近で見ていて、「この映画は上手くいく」と確信したような瞬間はあったのでしょうか?
戸田:僕の場合は、そういう瞬間はどの作品にもないかもしれません。スタッフさんが「今のすごかったね!」と言ってくれる時はあるのですが、僕はもう少し距離があるんです。映画を撮る時には「これが正解だ」というのは持ち込まないようにしていて、ただ、「違う」ということは分からないといけない。そういった意味では、 “違わないもの“を集めていっているとも言えます。でも、この「違わないもの」を集めて素晴らしいものになるという確信もない。『爽子』だって、完成しても個人的な反省点はいっぱいあります。役者さんがどんなに素晴らしい演技を見せても、それは役者さんが素晴らしいのであって、作品全体が良くなるとは限りませんからね。なので、撮影中に確信することはなかったのですが、古澤さんが撮影2日目から顔つきが変わったことはよく覚えています。モニターで見ていて、知らない人に見えた瞬間があったんです。その時は、すごく良いなと思いましたね。
――別人に見えたのは、どういったシーンだったんですか?
戸田:爽子がお父さんにご飯を食べさせるシーンと、ケースワーカーが自宅にやってくるシーンですね。あとは、3日目に撮った海のシーンは、もう完全に別人に見えましたね。

――古澤さんの中で1日目と2日目の間に何か変化があったのでしょうか?
古澤:正直なことを言うと、1日目は爽子として映ることに不安があったんです。爽子という女の子について決めつけたくなかったので、シーンごとに爽子の感覚を確認しながら演じていました。でも、2日目に家の中での撮影になったとき、すごく自然にそこが爽子の家であることを受け入れられたんです。そう感じた自分の感性を信じようと思って、そこからは緊張や不安はなくなって、感じたままに表現することができるようになったんです。それで変わった……のかな?
――ちなみに、何度もテイクを重ねたような、苦戦したシーンはあったのでしょうか?
戸田:そんなにテイクを重ねたシーンはあったかな?
古澤:一個だけありましたよ。お父さんのベッドの横の電気を消すシーンです。
戸田:あ~! あそこは爽子とお父さんの距離感が掴めなくて、淡泊すぎても違うし、寄り添いすぎても違う。日常のひとコマですが、作業のようになるのも避けたかったんですよね。
古澤:その時は、「どうしよう?」みたいな話し合いはなくて、たしか実際に何回かやったんですよね。自分が思うものを監督に見てもらう。その繰り返しでした。

――戸田監督と古澤さんの信頼関係の強さを感じるエピソードですね。ちなみに、染井さんはと古澤さんは初対面とのことですが、染井さんの古澤さんの印象は?
染井:実際にお会いしてみると「おー、陽キャっぽいな」と。
一同:(笑)
染井:あとは今までお話を聞いていて、古澤さんは何か曖昧模糊とした中にいて、そこから出口を探していく、演じながら答えを見つけていく、そういう女優さんなのかなと思いました。……すみません、勝手に(苦笑)。
古澤:いえいえ(笑)。

映画監督×俳優×小説家、3人のこれから
――それでは、最後にメッセージをお願いしたいと思います。映画『爽子の衝動』について、そして、それぞれへのエールをお願いします。
染井:まず、『爽子』のことは企画段階から聞いていたので、完成したことを嬉しく思います。多くの人に観てもらえたら、応援している立場としても嬉しいですね。戸田さんには、これからもドンドン、できればオリジナル作品を撮ってほしいです。同い歳の、同じような世界で生きてきた人間が頑張ってくれるのは励みになりますからね。古澤さんはまだお若いので、この『爽子の衝動』という映画を原点として、これから大きく羽ばたいていってほしい。いろんな古澤さんを見せてもらいたいです。
古澤:私はいろいろな映画を観て、多くの影響を受けて生きてきました。この作品も、観た後に自分の心のちょっとした隙間に入って、いろいろなものに関心を持ち、身近な人、あるいは知らない人に思いを馳せたり、優しい手を差し伸べるきっかけになったり、そういう映画になればいいと思っています。それで、おふたりへのエールは、えっと……。
染井:ないならないで、全然いいですよ(笑)。
古澤:そんなことないです(苦笑)。染井先生の『悪い夏』を読ませてもらったのですが、どの登場人物にもそれぞれの正義があって、それぞれの考え方に納得しちゃいました。新作を楽しみにしています。そして戸田さんは……。私は戸田さんのオリジナル作品に出たいと思っていたので、まさかこうやってご一緒できるとは思っていませんでした。チャンスをいただけたことが本当に嬉しいです。爽子を演じたことで、役者としても今までにない成長ができたと思います。またご一緒できるように頑張りますので、よろしくお願いします。
――では最後に戸田監督、よろしくお願いします。
戸田:この映画は45分しかありません。その45分間は目を逸らさずに、一旦最後まで観てほしいです。そのあとは、作品を否定する気持ちも含め、いろいろな想いを抱くと思いますが、爽子のような子どもや、こういう問題が社会にはあるということ、それに対して自分が何を感じるかを大事にしてほしいです。45分間、爽子に寄り添ってもらえたら嬉しいです。そして、まずは染井先生にエール……。僕、先生の『悪い夏』を読んだときに、「この原作で撮りたい!」って思ったんです。あまり原作モノでそんなふうにはならないんですが。それですぐに染井先生に「僕に映像化させてください」と連絡したんですが、その時点で映画化が決まってしまっていて、けっこうショックでした。いつか染井先生の原作をやりたいので、僕が撮れるような本を書いてください! プロデューサーに「この原作は君向きじゃないよね?」と言われないような本に出会いたいです(笑)。
染井:たしかに、そういうこともありましたね(笑)。
戸田:古澤さんへのエールですが、すでにいくつかの映画祭で『爽子』を上映して、「彼女の演技は素晴らしかった」という評判が届いています。でも、俳優として生きていくことは難しいですから……ひとつ言えることは、まず腐らないこと。そして、自分の可能性に自信を持つこと。そうすれば、『爽子』の撮影2日目のような「爽子を演じるのではなく、爽子という状態でカメラの前にいる」状態に、初日から持っていけると思うんです。「ここにいていいんだ」と自分に自信が持てるようになれば、きっとステップアップしていけると思います。「古澤さんでこれやろうと思うんですよ」で企画が通るように、早く売れてください(笑)。
古澤:はい、頑張ります!
(文=加藤よしき/撮影=荻原大志)