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『金ロー』を独自視点からチェックする!【55】

『金ロー』40周年記念。ネット社会に最適化し、生き残りに成功した地上波最後の映画枠

『金ロー』40周年記念。ネット社会に最適化し、生き残りに成功した地上波最後の映画枠の画像1
劇場アニメ『千と千尋の神隠し』(スタジオジブリ公式HPより)

 11月の勤労感謝の日よりひと足先に、日本テレビでは「金ロー感謝の日」を迎えます。10月3日(金)の『金曜ロードショー』は、「金曜ロードショー40周年特別番組」と題して、視聴者からリクエストが寄せられた人気映画の名シーンを振り返るという企画です。

かなり怖い『崖の上のポニョ』

 どの映画のどのシーンが流れるかは事前には分かりませんが、『金ロー』の歴代視聴率ベスト10を中心に、『金ロー』40年の歴史を振り返りたいと思います。

 スタジオジブリは日本テレビの子会社になっているので、ジブリアニメは使いたい放題でしょうが、他にはどんな作品が取り上げられるのでしょうか。「いや~、映画っていいもんですね」の決め台詞でおなじみだった「あの人」は登場するのでしょうか? さっそく、歴代視聴率ベスト10を見てみましょう。

これが『金ロー』の歴代高視聴率10位

1,.千と千尋の神隠し 2003年1月24日 46.9%
2.もののけ姫 1999年1月22日 35.1%
3.ハウルの動く城 2006年7月21日 32.9%
4.ハリー・ポッターと賢者の石 2004年6月25日 30.8%
5.崖の上のポニョ 2010年2月5日 29.8%
6.釣りバカ日誌4 1994年2月4日 28.4%
7.釣りバカ日誌6 1994年12月23日 28.3%
8.釣りバカ日誌2 1995年1月13日 27.7%
9.男はつらいよ 寅次郎真実一路 1996年8月9日 27.6%
9.釣りバカ日誌4 1995年9月15日 27.6%
11.Shall we ダンス? 1997年3月28日 27.4%
(すべてビデオリサーチ・関東地区調べ)

 予想通り、上位はスタジオジブリ制作、宮崎駿監督の大ヒットアニメが独占です。『千と千尋の神隠し』(2001年)、『もののけ姫』(1997年)、『ハウルの動く城』(2004年)、『崖の上のポニョ』(2008年)は、どれも地上波初放映での数字です。とりわけ『千と千尋』は308億円(2020年に316億円に更新)という当時の国内歴代興収記録を樹立した話題性がありました。

 それにしても『千と千尋』の視聴率46.9%って、すごくないですか。1994年10月の巨人と中日のリーグ優勝がかかったシーズン最終戦のフジテレビの生中継が48.8%で、プロ野球の最高視聴率となっています。それと大して変わらない数字ですよ。宮崎駿監督の劇場アニメが自宅で視聴できることが、ゼロ年代は国民的関心事だったことが分かります。「国民的アニメ作家」の誕生を、『金ロー』が促したと言えそうです。

 宮崎駿監督と日テレとの蜜月関係は、宮崎監督の劇場デビュー作『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)から始まりました。劇場公開時は一部のアニメファンの間でしか話題にならなかった『カリオストロの城』ですが、翌年12月に『金ロー』の前身番組『水曜ロードショー』で初放映したところ21.2%、1982年には21.8%を記録。宮崎駿監督は日テレにサルベージされた形です。

宮崎アニメのヘビロテ化とSNSとの融合

 女優・タレントの川島なお美さんは「私の体はワインでできている」という名言を残しましたが、『金ロー』はジブリアニメ、それにディズニー作品が主成分でしょう。でも、その割にはディズニー作品は歴代視聴率には入っていません。まぁ、ディズニー作品の放映は視聴率よりも、CM出稿などの営業面で日テレに大きく貢献しているのだと思います。

 放送回数では、『となりのトトロ』、『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』が19回と、やはり宮崎駿作品が上位を占めています。『ラピュタ』の決め台詞「バルス!」はSNSで盛り上がることが知られています。この40年間で日本の家庭からはすっかりお茶の間が消え、代わりにSNSがその機能を果たすようになったようです。

 こうしたネット社会に『金ロー』はうまく対応することで、テレビ朝日系の『日曜洋画劇場』(1966年~2017年)、フジテレビ系の『ゴールデン洋画劇場』(1971年~2003年)といった他局の映画枠が消えゆく中、サバイバルに成功しています。一時期『金曜ロードSHOW!』という番組表記でしたが、2021年から『金曜ロードショー』に戻しています。#金ロー で検索しやすいことを考慮してのことだそうです。

日本人の洋画離れは90年代から始まっていた?

 洋画で唯一ベスト10入りしたのは、世界中にファンタジーブームを巻き起こした人気シリーズの第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)です。このころのダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソンは本当にかわいかったですねー。最近はあまりスクリーンで見なくなりましたが、「ハリー・ポッター」シリーズで一生分以上の稼ぎを手にしたので、無理に働く必要はありません。映画のチケット代を節約し、いまだに『金ロー』をチェックしている下流生活者にはうらやましい限りです。

 シリーズ第1作を撮ったクリス・コロンバス監督は、他にも『グーニーズ』(1985年)、『ホーム・アローン』(1990年)、『ナイト・ミュージアム』(2006年)など、『金ロー』でおなじみのコメディ作品でも知られています。ゴールデンラズベリー賞を総なめした『ピクセル』(2015年)あたりも、『金ロー』で放映すればネット民たちは喜びそうです。

 それにしても視聴率ベスト10内の洋画が一本だけとは寂しいですね。『賢者の石』に続くのは『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984年)の26.9%です。洋画離れが進んでいるというニュースをよく聞きますが、『金ロー』の視聴率ランキングからは90年代からその傾向は現れていたことが分かります。まぁ、洋画離れというよりは、宮崎アニメのひとり勝ちなんだと思います。

映画界から消えていったコメディアンたち

 ジブリアニメ以外で定番となっているのは、松竹の「釣りバカ日誌」シリーズです。浜ちゃん(西田敏行)とスーさん(三國連太郎)の絶妙な掛け合いに、癒しを求めるお父さんたちがバブル崩壊後の1990年代後半はとても多かったことが分かります。マーク・トウェインの『王子と乞食』を翻訳したような『釣りバカ日誌6』(1993年)なんて、コメディとして最高じゃないですか。

 しかし、三國連太郎さんの追悼記念として2013年5月に『釣りバカ日誌5』(1992年)が放映されたのを最後に、『金ロー』での放映はありません。2024年10月に西田敏行さんが亡くなった際は、『金ロー』は予定どおりにディズニー映画『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)を放映しています。深夜の関東ローカルで、『釣りバカ日誌20 ファイナル』(2019年)を翌月ひっそり放映しただけでした。そうしたシビアさも『金ロー』は持ち合わせています。

 第9位は同じく松竹の人気シリーズ『男はつらいよ 寅次郎真実一路』(1984年)です。渥美清さんの追悼記念でした。この回の寅さん(渥美清)は、証券会社に勤める課長(米倉斉加年)と飲み屋で意気投合し、課長宅に泊まった寅さんは課長夫人のふじ子(大原麗子)に惚れてしまうというもの。1980年代半ばに「金妻」ブームを起こした『金曜日の妻たちへ』(TBS系)の影響を受けたような内容です。

 仕事のストレスから課長は失踪してしまい、寅さんとふじ子が鹿児島まで探しにいくわけですが、ふじ子と同じ旅館に泊まることを寅さんは「旅先で妙な噂が立っちゃ、課長さんに申し訳ない」と固辞します。このとき、大原麗子は「つまんない、寅さん」と本当に寂しそうに呟くんですよね。寅さん、ああ見えて純情キャラなんです。

採算効率が求められる現代社会とは真逆な世界

 テキ屋の寅さんは、ひとつの場所にじっとしていられない性分で、根なし草のような人生を歩んでいます。その分、社会からドロップアウトしかかっている人たちには優しい存在です。『釣りバカ日誌』の浜ちゃんは建設会社に勤めていますが、頭の中は釣りのことか、妻のみち子(石田えり)と「合体」することしか考えていません。職場での浜ちゃんは役立たずです。

 寅さんも、浜ちゃんも、採算効率が求められる現代社会では居場所のない存在です。でもね、映画はそんな人たちこそが輝く世界なんだと思うんですよ。そんな現実世界とは違う異世界があることを知っているから、人間は息を抜くことができるんじゃないでしょうか。

 渥美清さん、西田敏行さんのような芸達者なコメディ俳優は、今後はそうそうは現れないでしょう。NHK朝ドラ『あんぱん』のヤムおじさん役が好評を博した阿部サダヲなら、このポジションをうまくすれば継げるかもしれません。阿部サダヲ本人が継ぎたいと思っているかどうかは別ですが。

やっぱり聞きたい名台詞「いや~、映画っていいもんですね」

 歴代視聴率11位は、役所広司、草刈民代主演のコメディ映画『Shall we ダンス?』(1996年)です。1997年3月のこの放送は、1972年に始まった『水曜ロードショー』の時代から解説を務めてきた水野晴郎氏の最後の出演回でもありました。水野晴郎氏は映画評論だけでなく、「日本アカデミー賞」の設立を企画し、各映画会社に呼び掛けていたことでも知られています。途中から電通が仕切ることになり、水野氏は単なる投票者のひとりになってしまったそうですが。

 水野晴郎氏と聞けば、マイク水野名義で監督し、山下将軍役で出演もした列車ミステリー『シベリア超特急』(1996年)も忘れられません。演技はすっとこどっこいだし、演出もひどいものですが、本人はすっごく楽しそうでした。65歳から『シベ超』を作り始め、シリーズ5作が劇場公開されています。本人いわく「映画は観るよりも、作るほうがもっと楽しい」そうです。生きる勇気をなくしている人は、一度『シベ超』を観てほしいものです。不思議と生きる気力が湧いてきますから。

 配信はされていない『シベ超』ですが、『シベ超』を観ていると、ヒット作や名作だけが映画ではなく、凡作・駄作も含めて映画なんだなぁとしみじみ思うわけですよ。

 40周年を迎えた『金ロー』の特別番組、水野晴郎氏の名台詞「いやぁ、映画って面白いもんですねぇ」と共に、チラッとでも『シベ超』を映してくれたらいいなぁ。

宮崎駿監督の「声優」を使わない問題

(文=映画ゾンビ・バブ)

映画ゾンビ・バブ

映画ゾンビ・バブ(映画ウォッチャー)。映画館やレンタルビデオ店の処分DVDコーナーを徘徊する映画依存症のアンデッド。

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最終更新:2025/10/03 12:00