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祝・日米通算200勝! たどり着くのに決して簡単ではない道のりだった──巨人・田中将大の到達点

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何度も日本代表に選出された田中将大。(写真:Getty Imagesより)

 2025年9月30日、東京ドーム。読売ジャイアンツの田中将大が中日ドラゴンズ戦に先発し、6回2失点の好投で日米通算200勝を達成した。メジャーで78勝、日本で122勝。プロ入りから19年目で、球史に刻まれる大きな数字に到達した。

 200という勝ち星の重みは、ただの数字の積み重ねではない。田中のキャリアを振り返れば、その一勝一勝が容易に手にしたものではないことが分かる。

 楽天時代に築いた圧倒的な「勝てるエース」のイメージ。メジャーでの挑戦と故障との共存。そして日本球界復帰後に味わった苦境と、巨人移籍での再起。全てが重なり合っての200勝だ。

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球威を失っても勝ち方を探す

 2007年、ドラフト1位で楽天に入団した田中将大は、高卒ルーキーながら開幕から先発ローテに入り、早くもチームの柱として存在感を放った。特に2013年は圧巻で、24連勝を飾り、日本シリーズでは160球を投げ抜き球団初の日本一に導いた。

 その姿は「絶対的エース」の象徴であり、鋭いスプリットと精密なコントロールで奪三振を量産した。渡米後はニューヨーク・ヤンキースでクレバーな投球を披露し、環境に応じてスタイルを変えながら活躍を続けた。

 しかし、キャリアは順風満帆ではない。トミー・ジョン手術を回避した影響で球威は徐々に低下。全盛期には日本人投手屈指の平均球速と制球力を誇り、2011年から2013年にかけてはNPBで「敵なし」の投球を見せたが、メジャー晩年にはストレートの力が落ち、投球術で凌ぐ場面が増えていった。ねじ伏せる投球スタイルから、打者の目線を外し緩急を駆使するスタイルへとシフトした姿は、単なる才能ではなく、努力と修正力の賜物だった。

 ただし、投手として最低限必要な球威・球速を下回ると、打ち込まれるケースが増えるのも事実だ。田中のようなコントロールがよくても、一定水準の球威・球速がなければ一流の打者を抑えることは難しい。日本球界に復帰した直近シーズンも、力でねじ伏せるのではなく、投球術で交わして抑えるピッチングで試合を作った。

 しかし、打者のレベルが高い相手には、一巡目を過ぎると限界が見え、攻略される場面が目立った。その後のシーズンでも同様の課題が浮き彫りとなり、NPBの打者に研究される傾向も強まった。

苦境と適応、そして「試合を作る投手」へ

 2021年に楽天へ復帰した田中は、当初こそ大きな期待を背負ったが、思うように勝ち星を挙げられなかった。防御率や内容は悪くなくとも、勝利に結びつかない試合が続き、「勝てないエース」という言葉さえ投げかけられた。ファンの失望と現実のギャップ。その中でも田中はマウンドに立ち続け、結果を出すための工夫を重ねた。

 転機となったのが2024年オフの巨人移籍だ。伝統球団である巨人は、結果を出すことへのプレッシャーが桁違いに大きい。その中で田中は、自らを「勝たせる投手」から「試合を壊さない投手」へと位置づけ直した。役割を変化させることで、再び存在意義を示したのである。

 200勝を達成した9月30日の中日戦でも、それが象徴された。初回に援護をもらい、3回には細川に一発を浴びて1点差に迫られた。しかし、大きく崩れることはなく、打者との間合いを調整しながらのらりくらりとアウトを積み重ねた。

 6回の三者凡退は圧巻で、小林誠司のリードも冴えわたり、打者に狙いを絞らせなかった。かつてのように力でねじ伏せるのではなく、緻密さと経験で熟練たるピッチングをして封じ込める。その姿はベテラン投手の理想形だった。

 田中の進化は、若手投手にとって大きな教材となる。全盛期の球威を失っても「試合を作る」ことはできる。必要なのは、自分を客観的に見つめ直し、変化を受け入れる勇気だ。田中が証明したのは、投手の価値は奪三振数や球威・球速だけではなく、「勝機をチームに残す能力」にこそあるということだった。

 さらに、リードに定評がある小林とのバッテリーは、捕手の存在意義を強く印象づけた。捕手のリードによって投手は生き、熟練たるピッチングの投手の冷静さによって捕手は輝く。200勝は田中個人のものだけでなく、二人で積み上げた成果でもあった。

若手投手への道しるべ、そして未来へ

 200勝という数字を達成した今、田中将大の存在は単なる「名投手」を超え、次世代のための指針となっている。プロに入ったときから剛球で注目を浴び、メジャーの舞台でも勝ち続けた投手が、年齢を重ねても一線に立ち続けるためには何が必要か。その答えを実践で示し続けてきたのが田中である。

「投手の寿命は球速ではなく、創意工夫で延ばせる」

 200勝の裏にあるのは、この一言に尽きる。若手投手は「速い球を投げられなくなったら終わり」と考えるかもしれない。しかし田中は、身体の衰えや変化を受け入れたうえで、経験を生かして新しい武器を探し続けた。だからこそ、今なおチームの勝利に貢献できている。

 楽天のエースからヤンキースのスター、そして巨人のベテランへ。田中将大のキャリアは「勝つ方法を模索し続けた投手」の歴史そのものだ。200勝は通過点にすぎず、今後積み上げる1勝1勝が、さらに価値を高めていくだろう。

 若手にとって、その背中は生きた教科書であり、未来への道しるべである。田中がこれから記録する勝利は、単なる数字の上積みではなく、工夫し続ける者だけが生き残るという真理を証明する行為だ。

 200勝という区切りを迎えた。その姿は、勝ち続けるエースから、進化し続ける職人へと変わった。だが変わらないのは「勝利にこだわる執念」だ。その執念こそが、「投手・田中将大」の最大の武器であり、次の世代が学ぶべき普遍の価値である。

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(文=ゴジキ)

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ゴジキ

野球著作家・評論家。これまでに『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、プレジデントオンラインなどメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。

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ゴジキ
最終更新:2025/10/02 22:00