ハリウッド離れは当然? 80歳になるハリソン・フォードをCGで若返らせた『運命のダイヤル』

ジョン・ウィリアムズの軽快なテーマ曲を聞くと、今でも胸の高まりを覚える人は多いんじゃないでしょうか。『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)から始まる「インディ・ジョーンズ」シリーズを観て育った男性ファンは秘宝探しの冒険に心をときめかせ、女性ファンは渋い大人の魅力を放つハリソン・フォードに夢中になったものです。
スティーヴン・スピルバーグ監督が第1作から続投した『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984年)、ショーン・コネリーとの共演作『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(1989年)も、ノンストップのサスペンスアクション大作に仕上がり、大ヒットを記録。「インディ・ジョーンズ」三部作は、映画ファンの心の中で輝き続ける「財宝」のような存在です。80’sハリウッドの代表作だと言えるでしょう。
その後、H・フォードがカムバックした第4作『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008年)が19年ぶりに制作され、どうも怪しい雲行きになっていきます。そして、シリーズ完結編を謳ったのが『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023年)でした。
ルーカスフィルムが製作してきたインディ・シリーズですが、2012年にルーカスフィルムはディズニーに買収され、『運命のダイヤル』はディズニーとの共同製作となっています。正直なところ、『運命のダイヤル』は、今のハリウッドが抱えた問題点が露出しまくった作品となっています。
10月17日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で、地上波初オンエア&ノーカット放映となる『運命のダイヤル』を紹介しつつ、不振が続くハリウッドの問題点を考えたいと思います。
80歳近い主人公がナチスを相手に大奮闘!?
公開時に79歳となっていたハリソン・フォードが主演した『運命のダイヤル』は、こんな物語です。第二次世界大戦末期から物語は始まります。考古学者にして大の冒険家であるインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)は、イエス・キリストの処刑に使われた「ロンギヌスの槍」を求めて、ナチスドイツの要塞に潜入します。第1作、第3作に続き、ナチスが悪役です。
ナチスに一度は囚われたインディですが、運よく脱出に成功。「ロンギヌスの槍」の代わりに、別の秘宝を手に入れます。これは「アルキメデスのダイヤル」と呼ばれるもので、現代の科学では考えられない高度な力を秘めたものでした。半分に壊れたダイヤルを、インディは持ち帰ります。
時代は流れ、1969年の米国。アポロ宇宙船の月面着陸で街が賑わう一方、インディは長年勤めた大学を定年退職で寂しく去っていきます。かつては女子大生たちにモテモテだったインディ先生ですが、今ではすっかりしょぼくれたおじいちゃんです。学生たちは見向きもしません。そんなときに出会ったのが、かつての考古学仲間だったバジルの娘、ヘレナ(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)でした。ヘレナは例のダイヤルの残りの半分を一緒に見つけようというのです。
インディとヘレナのあとを、ナチスの残党であるシュミット博士(マッツ・ミケルセン)が追いかけます。かくして再び秘宝を求めて、冒険の旅に向かうインディでした。
インディが若々しいほど感じてしまう違和感
公開時に波紋を呼んだのが、序盤の戦時中パートです。インディの往年の活躍を描いたエピソードですが、80歳近いハリソン・フォードに演じさせ、顔の部分はCGで若返らせています。80年代のインディ・シリーズを思わせるスリリングなオープニングなのですが、CGを使っている印象が強く、CGアニメを見せられている気がしてしまうのです。かつてのファンほど、抵抗があると思います。
インディがCGで若々しくなり、はつらつとしているほど、違和感をどうにも覚えてしまうのです。
1969年パートになっても、別の違和感が生じることになります。傘寿目前のハリソン・フォードが、ナチスの残党たちを相手に体を張って、大立ち回りを演じるのです。
シニア世代の俳優がアクション映画に主演するなとは思いません。93歳の女優ジューン・スキップがシニアカーを爆走させるスローアクション映画『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(2024年)のような面白い作品もあります。
とはいえ、H・フォードが実年齢より若く見えるといっても、昔とさほど変わらぬ活躍を見せるのは、さすがに鼻白むものがあります。
台詞であっさり語られる息子マットの不在
派手なアトラクション映画と称されてきたインディ・シリーズですが、今回はインディの心の葛藤が大きなテーマとなっています。1969年パートのインディはしょぼくれているわけですが、それは息子のマットをベトナム戦争で亡くしたからです。マットが軍隊に入るのを止められなかったことを、インディは後悔しているわけです。
インディが「時間を巻き戻したい」と妄想していた折に、「アルキメデスのダイヤル」探しが始まります。やがてこのダイヤルは時空の裂け目を観測できることが分かります。このダイヤルさえあれば、時空を行き来することが可能なのです。
前作『クリスタル・スカルの王国』で息子のマットを演じたのは、シャイア・ラブーフでした。てっきり、『クリスタル・スカルの王国』のラストで、インディは帽子をマットに譲るものだと思っていたら、そうではありませんでした。そして、『運命のダイヤル』では、マットが亡くなったことが台詞であっさりと説明されます。
今回のクライマックス、インディたちはダイヤルに導かれて、現代とは異なる時空へ迷い込むことになります。ワクワクさせる一瞬です。
この展開だと、インディはベトナム戦争に従軍中のマットに再会することになるんだろうなと思ったんですよ。固唾を飲んで見守っていたところ、インディたちはまったく見当違いの時代へと飛んでいきます。「おーい、そっちはダイヤルのかけ間違いじゃないのかい?」と叫びたくなります。
R50スターたちが主演するハリウッドの深刻な高齢化
スピルバーグ監督は、前作『クリスタル・スカルの王国』で降板しています。『運命のダイヤル』には、マーベルコミックもの『LOGAN ローガン』(2017年)を手際よくまとめたジェームズ・マンゴールド監督が起用されています。下世話に勘ぐると、ディズニーが製作に関わった『運命のダイヤル』からスピルバーグ監督は、うまいこと逃れたようにも思えます。一応はプロデューサーとして名前を残していますが。
日本では「洋画離れ」「ハリウッド離れ」が、よく言われるようになっています。その原因が『運命のダイヤル』にはっきりと現れています。第一に、H・フォードのような一時代を築いたかつての人気スターの起用を続け、世代交代ができていない点です。
レオナルド・ディカプリオ主演のアクションコメディ『ワン・バトル・アフター・アナザー』(公開中)が久々の洋画として国内週間興収ランキングに入ったことが話題になりましたが、ディカプリオも50歳ですよ。61歳になるブラッド・ピットやディカプリオ以降、次世代のスターをハリウッドは育てることができずにいます。若い世代がオジサンたちの主演したアクション映画に熱狂できないのは当然でしょう。
シャイア・ラブーフは素行の悪さもマイナス材料になったのかもしれませんが、要は『クリスタル・スカルの王国』で、主人公の交代劇に失敗したわけですよね。ネームバリューを重視するあまり、若いキャストを抜擢し、新しい企画に挑戦することが今のハリウッドはできなくなってしまっています。
CG化が進めば、スター俳優はもういらない?
CGで若返ったインディを観て、思い出した映画があります。ロビン・ライト主演のSF映画『コングレス未来学会議』(2013年)です。ハリウッド女優のロビン・ライトが実名で出演し、自分の若いころの姿をCGデータとして映画会社に売り渡してしまうという内容です。
映画会社から持ち掛けられたこの提案に、最初は抵抗していたロビン・ライトでしたが、息子の手術費が必要なこと、いつまでも若々しい姿をスクリーンに残せること、他のハリウッドスターたちもこの契約に応じていることから、OKしてしまいます。実際のハリウッドで起きそうな、かなりリアルなストーリーでした。
CGにはCGの長所がありますが、なんでもCG頼りではつまんないですよ。知名度の高いスター俳優を起用すれば、お客さんを集められるとハリウッドが安易に考えている限り、若い世代はさらにハリウッド映画から離れていくんじゃないでしょうか。スター俳優をいくらCGで若返らせても、ハリウッドのCEOたちの考え方が古臭い限り、ハリウッドの復興は難しいと思いますよ。
一方、日本映画界は劇場アニメが花ざかりです。アニメキャラクターは歳を取らないし、いくら酷使しても文句を言わないので、大手アニメスタジオと配給会社の偉い人たちはほくほく顔です。日本の映画界はハリウッドよりも抜け目がないのか、もしくはハリウッド以上に超ヤバい状況なのかもしれません。
文=映画ゾンビ・バブ