世界一の事故物件『ホーンテッドマンション』 ディズニーとの繋がりを深める日本テレビの怪

10月末は「ハロウィン」ということで、10月後半の『金ロー』は「ハロウィン強化週間」となっています。10月24日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、ディズニー映画『ホーンテッドマンション』(2023年)の本編ノーカットでの地上波初放映となります。
ディズニーランドの人気アトラクション「ホーンテッドマンション」をもとにしたホラーファンタジー映画です。当初はギレルモ・デルトロ監督の起用が予定されていました。しかし、デルトロ監督がマジで怖い映画を作ろうとしたところ、ディズニー側と折り合いがつかずに降板しています。
公開された映画『ホーンテッドマンション』よりも、ディズニー映画製作の舞台裏のほうがよほど怖いように感じます。今回は、そんなディズニーをめぐるミステリーに触れてみたいと思います。
ディズニーらしい怖くないホラーファンタジー
世界一有名なおばけ屋敷をモチーフにした『ホーンテッドマンション』は、こんな物語です。舞台となるのは、米国南部の街・ニューオーリンズ。シングルマザーのギャビー(ロザリオ・ドーソン)とその息子のトラヴィス(チェイス・W・ディロン)は、格安の屋敷をゲットし、ゲストハウスにしようと考えていました。ところが、ここは超ワケありな物件。999体もいる幽霊たちに、さんざん悩まされるはめに。
屋敷に居つく幽霊たちに対処するため、幽霊屋敷ツアーのガイドを務める元物理学者のベン(ラキース・スタンフィールド)が声を掛けられます。さらにお祓いの専門家として神父ケント(オーウェン・ウィルソン)、霊媒師のハリエット(ティファニー・ハディッシュ)、幽霊屋敷に詳しい歴史学者のブルース(ダニー・デヴィート)が集結。凶悪ゴーストに立ち向かうのでした。
エディ・マーフィー主演で2003年にも実写映画化されましたが、ストーリーはまったくの別物となっています。前作もエディ・マーフィーらしい毒気がまるでなかったわけですが、デルトロ監督を降板させた今回のリメイク版もホラー度は限りなく低めとなっています。
ディズニー側としては、「カリブの海賊」をモチーフにしたジョニー・デップ主演作『パイレーツ・オブ・カビリアン 呪われた海賊たち』(2003年)とその後のシリーズが思いのほかヒットしたので、「ホーンテッドマンション」もテコ入れにもう1回実写化しとこうか、といったところでしょうか。本気で怖い『ホーンテッドマンション』を撮ろうとしたデルトロ監督が不憫に思えます。
一度は観ておきたい本気で怖い事故物件映画
日本では『呪怨』(2000年)や『事故物件 恐い間取り』(2020年)など生活感のあるこぢんまりとした物件がホラー映画の舞台となりますが、欧米の幽霊屋敷は広々としており、格調を感じさせるゴシック調の物件であるのが王道です。ホラー映画の世界でも、日本と欧米との住宅事情の違い、文化の違いが感じられます。
欧米系のゴシック調の屋敷を舞台にした本気で怖い映画に、ロバート・ワイズ監督の『たたり』(1963年)があります。ワイズ監督というと、『ウエスト・サイド物語』(1961年)や『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)などの名作ミュージカルで知られていますが、その一方で人間の抱く恐怖心を克明に描写した『たたり』(原題『The Haunting』)のようなサイコホラーも残しているわけです。
映画って、ほどほどさを狙った作品ほどつまんないものですよ。監督が全身全霊を傾け、俳優たちが役に憑依したかのように感じさせる振り切った作品じゃないと面白くないと思います。
CGで描いたゴーストたちがバンバン出てくる『ホーンテッドマンション』に比べ、ワイズ監督の『たたり』には目に見える形で幽霊は現れません。音響や心理描写に特化し、「もしかしたらそこに何かいるのかも」と思わせる不気味さがあるんです。幽霊は出るか出ないか、というギリギリの感じがいちばん怖いんじゃないでしょうか。
ディズニーに関する都市伝説いろいろ
1000人目の幽霊にあなたを迎えようとしているという触れ込みの「ホーンテッドマンション」ですが、ディズニーランドは他にもいろんな都市伝説が噂されています。有名なところでは、選ばれた人しか入れないという「クラブ33」でしょう。「33」は「MM(ミッキーマウス)」を横にしたものだそうです。
東京ディズニーランドにお酒を提供する会員制レストラン「クラブ33」は実在し、ミッキーマウスがもてなしてくれるそうですが、とり立ててミッキーマウスのファンではない人間には興味がさほど持てません。
ディズニーランドにカラスがいないのは特殊な音波をランド一帯に流しているからだとか、ミッキーマウスを池に突き落とした修学旅行生のいる学校はブラックリスト入りするなども、よく耳にする噂話です。
今、個人的に気になっているのは『金ロー』とディズニーとの関係です。ここ数年、『金ロー』でディズニー作品を扱う頻度が非常に高くなっているんです。これは噂ではなく、個人的な気づきです。
ディズニーが買収によってマーベルやルーカス・フィルムも傘下に収めたこともディズニー作品が増加した要因ですが、それだけではないように感じてしまうのです。
堀井憲一郎ほどではありませんが、『金ロー』での年間放送回数をスタジオジブリ作品とディズニー作品をずんずん調べてみました。2021年はジブリ4本、ディズニー5本、2022年はジブリ7本、ディズニー6本、2023年はジブリ5本、ディズニー11本、2024年はジブリ6本、ディズニーは14本。2025年は11月の時点でジブリ7本、ディズニーは8本です。
なんと、高視聴率を取り続けているジブリ作品よりも、ディズニー作品のほうがかなり多いという意外な結果です。しかも、コロナ禍が落ち着いた2023年から急増しています。
大企業のご機嫌をうかがうテレビ局関係者たち
もちろん、ゴールデンタイムに設けられた映画枠ですから、家族が楽しめる作品であることが理想であり、ディズニー作品が安全パイであることは分かります。とはいえ、今夜の『ホーンテッドマンション』は、ディズニーランドのアトラクションのPR作品でもあるわけです。特定の企業に視聴者を誘導するような作品に、偏った放送はいかがなものでしょうか。
中居問題以降、CMスポンサーが次々と降りてしまった異様な時期のフジテレビでは、報道番組でも大手企業のご機嫌をうかがうようなニュースがやたらと目につきました。地上波最後の映画枠である『金ロー』が、ディズニーにあまりに偏った編成で「もしかして営業がらみかな?」と視聴者に勘ぐられてしまわないか心配です。
ディズニーと日本テレビの関係者が「クラブ33」で密談しているなんてことはないですよね?
ハロウィン向けの映画ということなら、ディズニー以外にもたくさんあります。ジョン・カーペンター監督のおばけ屋敷もの『ゴーストハンターズ』(1986年)、アリ・アスター監督の『ミッドサマー』(2019年)に影響を与えたケルト色たっぷりな『ウィッカーマン』(1973年)などなど。デルトロ監督のブレイク作『ヘルボーイ』(2004年)や『パンズ・ラビリンス』(2006年)あたりも、ぜひ『金ロー』で放映してほしい作品です。
と、ここまで『金ロー』とディズニーのことをさんざんネタにしましたが、次週はティム・バートン製作の人形アニメ『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)を張り切って紹介したいと思っています。
文=映画ゾンビ・バブ
