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中年ニートを演じた主演映画『やがて海になる』が劇場公開!

『国宝』のキーパーソン役で注目の三浦貴大 最新主演作と休みなく演じ続ける理由を語る

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2010年に俳優デビューし、すでに70本以上の映画に出演している三浦貴大(写真:石川真魚)

 興収164億円ごえの大ヒットとなった映画『国宝』では主人公の人生を左右するキーパーソンを、社会派ドラマとして話題を呼んだ『エルピス 希望、あるいは災い』(フジテレビ系)では保身に走る小心者の報道記者をリアリティーたっぷりに演じてみせた俳優・三浦貴大。名バイプレイヤーとして、映画やドラマに引っ張りだこだ。

 広島県江田島でロケが行われた映画『やがて海になる』は、武田航平とのダブル主演作。実家で母親とふたり暮らしを続ける中年ニートの主人公を、コミカルかつ繊細に演じている。また、今年だけでも8月に公開された主演作『行きがけの空』など、4本の出演映画が劇場公開されている。

 休みなく出演を続ける理由から、「自然体」と評される役づくり、そして『国宝』をめぐる話題まで、オープンに語ってくれた。

日本映画界は興行スタイルが大きく変わった!?

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『やがて海になる』では故郷の江田島から離れることができない主人公・修司を演じた

俳優はひとりで過ごす時間が重要

――映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010年)での俳優デビューから、すでに70本以上の映画に出演。アクション大作『キングダム 大将軍の帰還』(2024年)から、今回の『やがて海になる』のようなインディペンデント作品まで幅広く出演しています。めちゃめちゃ働いていますね?

三浦貴大(以下、三浦) 確かに、働いていますね(笑)。今年で40歳になるんですが、30代前半のほうがもっと忙しかったんです。今は撮影のスケジュールが被らないようにしています。俳優って現場で過ごす時間よりも、台本を読んだり、役づくりしたりする「ひとりの時間」のほうがかかると思うんです。なので、スケジュールが被っていると、自宅に戻る時間がなくなってしまい、つらかったですね。今はひとつずつ、それぞれの作品に集中するようにしています。

――確固たるポリシーがないと、ここまで出演を続けることはできないと思います。

三浦 単純に仕事が面白いからです。台本をもらって「あっ、この役は面白そうだな」というのが毎回あるんです。それにお芝居をアートとして考えている人もいると思いますが、僕は仕事として認識しているんです。仕事なので、毎日働こうかと。飲食店を経営している友人が多いんですが、彼らは週1の休みで働いているわけですし。自分の性格もありますね。自分は働いていないとダメ人間になってしまいそうで(笑)。働けるなら、働こうかと。休むと芝居が下手になるんじゃないかという恐怖心もあるんです。

――江田島出身の沖正人監督の『やがて海になる』では、映画監督になった元同級生の和也(武田航平)に嫉妬心を抱き、高校時代に好きだった幸恵(咲妃みゆ)に告白できずにいる冴えない主人公・修司を演じました。どこに惹かれたんでしょうか?

三浦 人間、みんな悩みがあると思うんです。今回のキャスト3人も、それぞれに悩みがある。修司は僕とまったく同じ年齢という設定ですし、3人の悩みもすごくリアリティーがある。家族のこと、仕事のこと、これからのこと……。40歳を目の前にし、いろいろと悩みはあるけれど、物語を俯瞰して眺めると、高校時代の同級生が集まってワキャワキャしているようにも思えるんです。その感じを、映画的に落とし込んでいるところがすごく面白かったんです。僕も海辺で同級生たちとキャッキャッしてみたかった(笑)。

――海に向かって、大声で叫ぶなんてことはお芝居じゃないとできないかもしれませんね。

三浦 そうなんです。僕がこれまで演じてきたのは好青年か暗い役が多くて、海に向かって叫ぶなんて青春映画っぽいシーンはなかったんです。しかも、40歳近くになってあえてやるところが、いいなぁと。

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ダメ人間を描き続ける鈴木太一氏(画像左)が本作の脚本を担当

人間のダメダメさへの愛あるアプローチ

――中年ニートである修司ですが、役づくりはどのように? 無精ヒゲを伸ばし、体重も増やした?

三浦 体重はここ5年くらいはそう変わってないはずですが、増やしたかな。体重に関してははっきり覚えてないんですが、だらしない感じにしようとは意識していました。自分もこの仕事に就いてなかったら、修司と同じような状況だったと思うんです。自分はやりたい仕事に出会えて、今に至っていますが、基本的には僕も家から出たくないし、働きたくない性格なんです。

――『くそガキの告白』(2012年)や『みんな笑え』(2025年)など、ダメ人間を描くことで定評のある鈴木太一監督が、『やがて海になる』の脚本を書き、スチールカメラマン役で出演もしています。修司の全身から漂うダメダメ感は、鈴木太一監督のビジュアルに寄せているように感じました。

三浦 太一さんはすごく人間くさくて、面白いキャラクターの方ですよね。でも、お会いしたのは江田島のロケ現場が初めてでした。太一さんに寄せたわけではないです。太一さんがご自身を投影して執筆された脚本なので、自然と似たのかもしれません。

――テレビ局を舞台にした社会派ドラマ『エルピス』、コロナ禍で起きた渋谷バス停殺人事件をモチーフにした『夜明けまでバス停で』(2022年)などで、一見すると好青年だけど、実は小ずるかったり、小心者というキャラクターを演じるのが三浦さんはとてもうまい。モデルにした人物がいるんじゃないですか?

三浦 いえ、演じる際に実在の人物を参考にすることはあっても、真似ることはしません。自分で想像して創ったほうが面白いですから。でも、僕が演じる役は、これまでに僕が出会ってきたいろんな人たちの寄せ集めでもあるので、部分的に誰かに似ることはあるかもしれませんね。こんな突拍子もないヤツは実際にはいないけど、ひょっとしたら知り合いにいるかもな、と思われるのが一番だと僕は思っているんです。

――深夜ドラマ『ひとりキャンプで食って寝る』(テレビ東京系)や大ヒットシリーズ「キングダム」など、三浦さんはロケ作品に多く出ている印象があります。

三浦 自分で選んでいるわけではないんですが、確かにロケ作品が多いです。家にいるのは年間3~4か月なんで、家賃を払うのがもったいない(笑)。今では、ロケに向かう当日の朝、さっと荷造りできるようになりました。今回のロケ地の江田島はすごくよかった。海がきれいだし、島らしい起伏のある環境だし、沖監督の故郷ということもあって、地元の人たちが撮影にとても協力的でした。沖監督が地元愛、映画愛を丸出しにした撮影現場でしたし、こういう現場なら自然と「がんばろう」と思えましたね。ギスギスした雰囲気にもまったくならなかった。

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家で過ごすのが好きだという三浦貴大。ロケ中はホテルでのコンビニ飯でも平気だという(写真:石川真魚)

『国宝』が投げかけた「血か芸か」というテーマ

――歌舞伎の世界を描いた『国宝』では、梨園で起きる葛藤劇を梨園の外から冷静に見つめる重要な役を演じました。ここまでの大ヒットになることは予測していた?

三浦 脚本を読んで、すっごく面白いなぁと思ったんです。とはいえ、歌舞伎の世界を描いているので、歌舞伎を見慣れていない人たちにどのくらい届くかなとは思いましたね。でも、完成した映画を観たら、「これはすごい映画になったぞ」と。老若男女に問題なく届く映画になったなと確信しました。

――三浦さんが演じた竹野は興行会社の若手社員で、主人公の喜久雄(吉沢亮)の人生を大きく左右するキーパーソンでした。

三浦 李相日監督とは『許されざる者』(2013年)からご一緒させていただいているんですが、いつも丁寧に役をつくってくれるんです。現場で実際に演じてみて、違和感があれば台詞を変えることも少なくありません。一緒につくっている感があるんです。今回の竹野も、下手すると最初に喜久雄と派手にケンカして、それっきりで終わっていたかもしれなかった。それを李監督はきちんと生きた人間の役につくり上げてくれた。すごく演じがいがあるんです。その分、僕も懸命に考えることになるんですけど。

――『国宝』は人気歌舞伎役者の息子として生まれ育った俊介(横浜流星)とヤクザの息子として生まれたものの才能に恵まれた喜久雄とのライバル関係の物語であり、「血か芸か」というテーマがとても印象的でした。この「血か芸か」というテーマを、三浦さんはどう感じていたんでしょうか?

三浦 竹野が言うわけですよね、「血のないお前が……」と喜久雄に向かって。どうなんでしょう。伝統芸能の世界と映画の世界との違いがありますが、僕も一応は「二世」と呼ばれています。とはいっても(父・三浦友和から)幼いころに芝居の稽古をつけてもらったことはありません。台本自体も、実家で見たことがなかったし、台本を読んでいる姿を見たこともなかった。意図的に子どもの目には入らないようにしていたようです。のちのち聞いたところ、「裏側の世界を見せたら、純粋に映画やドラマが楽しめなくて、かわいそうだろう」ということでした。

――なるほど。三浦家では仕事と家庭はきっちりと分けられていたんですね。

三浦 「血か芸か」に対する答えは、僕個人の中では簡潔に出ています。血で芝居がうまくなったら、苦労しないよと(笑)。結局のところ、努力なしでは前に進めないんです。そのことは、この仕事を始めた最初のころに気づくことができました。(親が芸能人という)コネだけで映画に出て、芝居のできないヤツは、監督は必要ないわけです。どの監督たちも、自分の作品はいいものにしたいから、ダメなヤツは呼ばないよなと。じゃあ、がんばらなきゃなと。いい監督たちに出会えてよかったと思っています。

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作品選びの基準は面白いかどうか。「メジャーかインディペンデントかは関係ない」(三浦貴大、写真:石川真魚)

休んだり、手を抜いたらすぐにダメになる

――多くの現場に出て、自分を磨いていこうという意識もある?

三浦 磨くというよりは、大学時代は体育会(ライフセービング部)だったこともあり、スポーツ的な考えなんです。スポーツの世界だと1週間休んだら、めちゃめちゃ下手になってしまう。芝居も休んだり、手を抜いたりしたら、すぐダメになると思っているんです。でも、やればやるだけ自信にもなります。なので、いろんな作品に参加できる今の状況は、すごくありがたいと感じています。

――俳優としての今後のビジョンはどう考えていますか。

三浦 海外に進出し、大作に主演して、大ヒットさせ、大成功してやるぜ、というのではないなと思っています。目標を低くしているつもりはありませんが、今を楽しく過ごし、死ぬ間際に「面白い人生だったな」と思えればいいんじゃないかなと。映画っていろんな人たちが参加する総合芸術だと思うので、主演も助演も変わりないと僕は思っているんです。主演のよさは、ひとつの作品でいっぱい芝居ができること(笑)。僕はそこが面白いなと思っているんです。

――『そして海になる』の修司と同様、2025年11月10日には三浦さんも40歳に。40歳は「不惑」とも言いますが……。

三浦 逆ですよね。「不惑」どころか、40歳になって悩むことは増えていくと思います。困っちゃいますよね。でも、そんな悩みの多い人生を、楽しく生きられたら最高です。『やがて海になる』は悩みを抱えた人間の当たり前さを描いた、とても穏やかな作品になっていると思います。ぜひ、僕と同じアラフォー世代に観てもらいたいです。何か感じるものがあると思いますので。

三浦貴大(みうら・たかひろ)
東京都出身。映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010年)で俳優デビュー。近年の主な出演作に『初恋』(2020年)、『大綱引の恋』『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(2021年)、『流浪の月』『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022年)、『Winny』『愛にイナズマ』(2023年)、『キングダム 大将軍の帰還』『シサㇺ』(2024年)、『国宝』『雪の花-ともに在りて-』(2025年)などがある。

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映画『やがて海になる』
監督・脚本/沖正人 脚本/鈴木太一
出演/三浦貴大、武田航平、咲妃みゆ、山口智恵、柳憂怜、緒形敦、伊沢弘、三浦マイルド、ドロンズ石本、武田幸三、高山璃子、占部房子、白川和子、大谷亮介、渡辺哲
配給/MAP 10月24日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
(c)ABILITY
https://www.yagateumininaru.jp/

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(取材・文=長野辰次、撮影=石川真魚)

長野辰次

映画ライター。『キネマ旬報』『映画秘宝』などで執筆。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

長野辰次
最終更新:2025/10/25 18:00