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映画『セフレの品格』で本領発揮!! 多忙を極める職人監督・城定秀夫の「何色にもなれる」仕事術

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城定秀夫監督/取材・文=鈴木長月

 往年のピンク映画で腕を磨き、いまやジャンルの枠を飛び越えて地上波ドラマまでをも数多手がける売れっ子のひとりとなった鬼才・城定秀夫監督。商業デビューから20年あまりで、手がけた作品はおよそ150本!! 常人にはマネのできない驚異的なペースで作品を量産し続ける映画界屈指の“職人監督”に、最新2部作『セフレの品格 慟哭/終恋』の公開に合わせ、その仕事術をうかがった。

<プロフィール>
城定 秀夫(じょうじょう・ひでお)
1975年生まれ。東京都八王子市出身。武蔵野美術大学在学中より自主映画を制作。ピンク映画やVシネマの現場で研鑽を重ね、03年に『味見したい人妻たち』で監督デビュー。その後、15年間で100本以上もの作品を世に送りだす。高校演劇を映像化した20年の『アルプススタンドのはしの方』で、日本映画プロフェッショナル大賞監督賞を受賞。24年の単発ドラマ『ブラック・ジャック』(テレビ朝日)も高く評価されるなど、近年はますますその活躍の場を広げている。

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©2025日活

ドラマでしか描けない あえての性描写

──今回の『セフレの品格 慟哭/終恋』は、前作『初恋/決意』から連なる4部作。城定監督の真骨頂とも言える、エロティックで壮大な大河ドラマになっていました。

城定 まぁ最近は、映画でセックスを描くことの意味もだんだん薄れつつあるので、どう撮っていこうか、という試行錯誤は自分なりにもしています。女性向けコミックが原作の今回は、いわゆるポルノのようなジャンル映画ともまた違う。なので、濡れ場自体にドラマを与え、いかに省略せずに作品のなかに入れ込んでいくかっていうところは大事にしながら撮ったつもりです。

──現役の作り手のなかでも、城定監督と言えば、いまやその道の第一人者のひとり。この令和の世のなかにおいて「セックスを描くことの意味」は、どこにあると?

城定 うーん、いまや一般的なアダルトビデオだけでなく、無修正動画なんかも簡単にネットで見られる時代ですからね。これまでもずっと手探りでやってきたというのが正直なところではありますけど、セックスというのは人間にとって欠かせない行為でありながら、切り口によっていろいろなドラマが生まれる。やっぱりそこが面白さなんじゃないかな、と。だからまぁ、性描写に関しては、あまりそこから逃げすぎないように、というのは常に意識しています。もちろん、“R15”とか指定との兼ね合いもあるので、やりすぎるわけにもいきませんけどね。

──数をこなされてきたなかでは、エロを「魅せる」技術の向上というのも?

城定 いや、どうでしょう。作品によってもどこにフォーカスするかは変わってきますし、そこはテクニックというよりは、感覚的なものによるところが大きいですかね。それに濡れ場って実は、キャストの力量にもすごく左右されるものなので…。撮り方やある程度の型はこっちで決めるにしても、あとは「気持ちでやってください」みたいにならざるを得ない。最近だと、今作でも入ってくださっているインティマシーコーディネーターの方とも相談しながら、って形も多いですしね。

──今回の『セフレの品格』シリーズに関しては、そこまでエロに比重は置いてはいない?

城定 そうですね。今回は、胸の寄りを長々撮るとか、そういう直接的な表現には頼らず、あくまでも表情やお芝居で「感じる」というのを出していけたら、というのは当初からありました。もっとも、主演の行平(あい佳)さんのことは『私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください』(2018)で初めてご一緒して以来、断続的にお仕事をしていて、信頼もしている。抄子という役柄のことは僕よりもよほど分かっているし、モノにもしていたので、役作りに関してこちらからなにか言うようなこともあまりなかったですしね。

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『セフレの品格 慟哭』©2025 日活

クオリティは重要だが 最優先ではない

──ところで、これだけハイペースで作品を発表し続けられる秘訣はどこにあるのでしょう? そもそも、その気になればいくらでも凝れてしまうのが、映像作り。どこで線引きを?

城定 そこはもう、予算と時間が作品ごとに決まっていますから。「枠からハミ出してでもいいものを」じゃなく、「決められた枠のなかで最大限いいものを」というのが、僕の考え方ですかね。クオリティは重要だけど、必ずしも最優先ではないと言うか。その範疇でいかに費用対効果の高い映像表現ができるかは常に考えますけど、(予算や時間が)ないなら、ないなりの撮り方をするしかない。もちろん少ない予算でも条件によっては、「ここだけはいつもより贅沢にできる」みたいなことも多々あるので、そういうものがあれば喜んでやりますしね。

──そこには「予算がこのくらいなら、こういう撮り方で」という“方程式”みたいなものも?

城定 明確にはないですね。“やる・やらない”、“やれる・やれない”は作品ごとに違いますし、準備がある程度進まないことには全体像も見えてこない。なので、あまり最初から「こういうものを作ろう」と決めてかからないようにはしています。「絶対こうじゃなきゃ」みたいに一度でも思ってしまうと、それができないと分かった時点で、ヘコんで前にも進めなくなる。みんなが持ちよったものを、どう組み合わせて、どう使うか。その調整をするのが僕らの仕事だとも思いますしね。

──言わば「こだわりを持たない」ことが城定監督流のこだわり、だと。

城定 そうかもしれないです。僕ひとりが“我”を押し通してしまうと、いろんな人が不幸になる。映画ってそういうジャンルだと思うんです。「映画は監督のもの」なんて言い方もされるけど、そこは周囲との共同作業があってのもの。興行成績のような数字的な部分がいかに大事かっていうのも、ある程度の作品をやるようになって、より意識するようにはなりましたしね。

──これまでの監督作では大部分の作品で脚本もご自身で書かれていますし、今作では編集も自ら手がけられています。いちばんの理由はやはり「そのほうが早い」からですか?

城定 もちろんそれもありますけど、できるだけ自分でやったほうが愛着も湧くし、そのほうが楽しい、っていうのがいちばんですかね。ただ、そればっかりになってしまうと、どうしたって自分の手クセまみれにもなってくるので、作り手としては、いろんな脚本家さんとも組んでみたいという気持ちも、一方ではあるんです。ピンク映画やVシネの頃は、人を雇うお金がないから必要に迫られてやっていた部分もあったけど、最近は「自分で書いてもいいですか」と言えるぐらいの感じにはなってもいる。そのあたりは今後もケースバイケースでやっていけたら、とは思っています。

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ゆくゆくは 純然たるエンタメ作品も!?

──城定監督ぐらい実績も評価もある方なら、そろそろ「撮りたいものだけを撮る」となってもよさそうですが、ご自身としては、これからも「来るものは拒まず」のスタンスを?

城定 基本的にはそのつもりです。ただ、本当に「拒まず」かと言ったら、実はそうでもないんですよ。いろんな事情が重なって、結果的に受けられないということもわりとあります。まぁでも、僕自身いろいろやってみたいとは思ってはいるんで、「このジャンルはできません」みたいな理由で断ることは、この先もたぶんないですね。

──ご自身で温められている企画も?

城定 歳を取ってくると、若い頃のような「あれやりたい、これやりたい」という欲もだんだん薄れてきますからね(苦笑)。ただでも、いまはまだちょっと余裕がないだけで、いずれはそういうものも腰を据えて撮ってみたい。そう言えば、先日、ショーン・ベイカー監督作の3本立てを早稲田松竹で観たんですけど、それが本当に素晴らしくて。「あっ、こういう作品が撮れたらいいな」とは、ふと思いました。基本はエロいコメディでありながら、ちょっとしたアート性もそこにはある、みたいなね。

──城定監督が撮る純粋なエンタメ作品もぜひ観てみたいです。

城定 疲れているときとかに自分でもよく観たりしますど、パニックものとかは一度やってみたいです。スピルバーグの『ジョーズ』(1975)みたいに、シンプルだけど映画の原初的な面白さが詰まっているものに惹かれます。

──ちなみに、ご自身で撮られていて、いちばん楽しいと感じるのはどんなシーンでしょう?

城定 濡れ場は他の監督さんよりもたくさん撮ってきていますし、実際、僕自身も好きには違いないんですけど、それを求められてきたのは出自がそうだからってところがやっぱり大きい。そういう意味では、意外とふつうにご飯を食べているだけとか、平場の芝居のほうが演出の力量は試されるのかな、って気はします。なので、仕草ひとつで、その人物の性格やバックボーンまでなんとなく見えてくる。そういうシーンが、個人的には好きですね。

──そこにはたとえば、“小津安二郎=ローアングル”のような、注目して観るとより楽しい“城定色”みたいなものも入れ込んであったりもします?

城定 それがあんまりないんですよね。こう言っちゃなんだけど、僕自身もいまだに自分の個性がよくわからないので(笑)。必要以上にカットを割らないとか、なるべく無駄を削ぐとか、より見やすくする画の作り方みたいな、テクニカルなところは自分のなかにもある程度ありますけど、それがどんな色かと言われると、自分でもわからない。特定のキャラクターに寄り添いすぎず、フラットに描くことを意識しているので、あまり色がないのかもしれません。

──何色にでも染まれることこそが、“城定色”というわけですね。

城定 そういうことにしておいてください(笑)。今回の『セフレの品格 慟哭/終恋』も、ふたりの関係を少し俯瞰で見つめるような、適度な距離感を心がけて撮ったつもりです。いろんな見方ができるような余白が残っていると思いますので、たくさんの人に楽しんでもらえたら幸いです。

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『セフレの品格 終恋』©2025 日活

 

<インフォメーション>
『セフレの品格 慟哭』
2025年11月28日(金)より、都内先行・全国順次公開
『セフレの品格 終恋』
2025年12月12日(金)より、全国公開

累計540万部突破の人気レディコミを実写化したラブドラマ。23年に公開された『セフレの品格 初恋/決意』の2部作から続く、ヒロイン・抄子(行平あい佳)と産婦人科医・一樹(青柳翔)の“大人の恋”の結末が描かれる。前作に引き続いて出演もするシンガー・前野健太が、今回も主題歌を描きおろし。いまや朝ドラ『ばけばけ』のヒロインとして大ブレイクの髙石あかりや新納慎也ら、シリーズの世界観を彩った、前2作の主要キャストの再結集にも期待が高まる。

公式サイト:https://sfriends-pride-movie.com
X:https://x.com/sfriends_movie

原作:湊よりこ『セフレの品格』(双葉社 JOUR COMICS)
監督:城定秀夫 脚本:城定秀夫/谷口恒平(終恋)
出演:行平あい佳/青柳翔
   片山萌美/坂上梨々愛ほか
制作プロダクション:レオーネ
企画・製作・配給:日活

最終更新:2025/12/08 17:00