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『国宝』が22年ぶりトップ更新 逆になぜ『踊る大捜査線2』は20年以上圧倒的1位をキープしたのか、「ネット黎明期」バズコンテンツの“共通点”

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映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』[DVD]

 邦画の歴史がついに動いた。映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)が死守してきた実写邦画の歴代興行収入1位(173.5億円)の記録を、公開25週目の『国宝』が173.8億円で塗り替えた。実に22年ぶりの新たな金字塔とあって、改めて話題を集めている。

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 2003年から2024年までの21年間で2万1483本、邦画だけで1万1330本の映画が公開されたなか、実写邦画の高い壁として『踊る2』は君臨し続けた。近年ではアニメ映画の勢いが強く、『君の名は。』(2016年、251.7億円)や『ONE PIECE FILM RED』(2022年、203.4億円)などが本作以上の興収を記録しているが、これまで邦画界で『踊る2』超えを達成しているのは『国宝』を含めて8本だけだ。

 それにしても『踊る2』は、なぜ現在に至るまで、それほど「強」かったのか――。

新作の撮影シーンがトレンド入り、Xのポストは1100万回ビュー

 1997年にドラマ放送(フジテレビ系)が始まってから、今なお一大コンテンツとして続く『踊る』シリーズ。2026年に公開予定の最新作『踊る大捜査線 N.E.W.』は絶賛撮影中で、10月27日早朝には新宿・歌舞伎町のライブカメラにロケの様子が映り込んでいるとして、SNS上で話題となった。主役の青島刑事こと織田裕二が疾走する姿が“『踊る』の撮影ではないか”と話題が拡散し、Xではトレンド入り。当該投稿は約1カ月で1100万回以上表示されるなど、ファンの期待値の高さがうかがえる。

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『踊る』は、社会現象を巻き起こした歴史的な作品といっていい。一方でその強さの一端を、人々の生活に革命をもたらしたインターネットの浸透が担っていたことは無視できない。放送作家でネット史にも詳しいトトロ大嶋氏は、リアルタイムで『踊る』初期の盛り上がりを見守っていた一人。大嶋氏と、1990年代後半から2000年代にかけてのインターネット界×『踊る』人気の盛り上がりの相関をなぞってみる。

インターネット黎明期、コアなファンの心をつかんだ『踊る』

『踊る』のドラマ放送が開始した1997年は、「Windows95」(1995年発売)の登場により、パソコンが家庭に広く導入され始めた頃だ。それまでパソコンといえば、業務用途やワープロ機能など限られた人が使うものだったが、Windows95がインターネットと繋がる機能を搭載したことで、ネット接続へのハードルが下がり、一般市民にも急速に普及する。

 当時すでにパソコンを使い、ネットユーザーでもあった大嶋氏が、『踊る』が与えたインパクトを振り返る。

「それまで警察が登場するテレビドラマは『太陽にほえろ!』(1972年〜1986年、日テレ系列)や『あぶない刑事』(1986年〜1987年、日テレ系列)など、硬派な刑事たちが泥臭く事件を追うようなものが多く、人気でした。

 その点『踊る』では、青島が元パソコンソフト開発会社の営業マン、警部補の真下正義(ユースケ・サンタマリア)は東大卒でメカマニア、『ThinkPad(※一世を風靡したIBMのノートパソコンシリーズ)』を持ち歩き、ネットを使いこなして犯人を特定するなど、警察官がパソコンやネットを活用する。それが視聴者にはすごく斬新に映ったものです」(トトロ大嶋氏、以下同)

 とはいえ、放送当時は決して高視聴率とはいえなかった。最高視聴率は最終回の23.1%で、全11回の平均視聴率は18.2%。今から見れば“いい数字”に思えるが、まだまだテレビが力をもつ時代、同年の「年間高世帯視聴率番組30」(ビデオリサーチ調べ/関東地区)では、全放送回が圏外となっている。

 それでも『踊る』は、当時猛烈に新しかった“インターネット”というものをゴールデン帯のドラマに取り入れたことで、コアなネットユーザーから熱烈な支持を受けた。総務省「情報通信白書(2003年)」によれば、1997年のインターネット普及率はわずか9.2%。総人口1億2615万人に対して1割にも満たないネットユーザーを中心に、日本映画史に残る一大ブームが始まっていく。

偶然か遊び心か リンクした現実とドラマの世界観

 1997年は、大手掲示板「2ちゃんねる」(1999年サービス開始、現「5ちゃんねる」)もまだ存在しない。ユーザーが交流するのはパソコン通信を用いた「レンタル掲示板」やコミュニティーサービス「フォーラム@nifty」など、限定的な空間だった。そうしたなか、『踊る』のセットにあったパソコン画面に映っていた1ショットがネットユーザーによって発見されると、ネット掲示板はおおいに加熱した。〈あれは何だ〉〈見た!?〉といったように。さらに、その1ショットは意外な方向に転がってゆく。

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「劇中のパソコンモニターに映った『真下正義のDRAGNET』というホームページが “実在”していることが見つけられ、ネットは騒然となりました。通常、ドラマや映画に出てくるあの手の画面って、ダミーを用意するものなんですよね。それが『踊る』ではスタッフの遊び心で、実際にアクセスできたうえ、(HP内に設置された)掲示板もちゃんと機能していて、書き込めるようになっていたんです。現実とドラマの世界観がリンクしたことに、ネット民は大喜び。アクセスが集中してサーバーが混雑するほどの熱狂を生みました」

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 有志によるファンページが乱立するほど、ネットユーザーに支持された『踊る』。制作スタッフは、連続ドラマおよびSPドラマ終了後、1998年10月公開が決まった劇場版を盛り上げるべく、「公式」としてスタッフとファンとの交流サイト『踊る大捜査線 ネットワーク特別捜査本部』を立ち上げた。

「まだそこまでメジャーじゃなかったネットの利用者で、かつディープなファンだけが集まる場所。本広(克行)監督やスタッフがコメントで参加したり、エキストラ募集が掲示板で行われたりと、ファンと制作陣が一体となって作品を作り上げていくコミュニティとして愛されました」

 そうした勢いのもと、劇場版第1弾『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)は興収101億円という快挙を記録した。ちなみに『踊る1』公開後の1999年にサービスを開始した「2ちゃんねる」は2001年ごろにブームを迎え、いよいよインターネットが社会的に大きな影響を及ぼす時代に突入する。

『踊る』にまぶされる『エヴァ』の影響と“共通項”

 1999年にガラケーの「iモード」が登場したことも相まって、2000年代初頭、若者はネットに飛びついた。いつの時代も、新しいものを取り入れるのは若い世代だ。

「インターネット白書2003」(インプレス)によると、1997年に1100万人をやっと超える程度だったネット人口は、2003年2月時点で5645万人を突破。1年間で1000万人以上の急増を見せる流れのなか、ファンはネット内で集い、新作を待ち続けた。

「『1』の後、『2』が公開されるまで5年の間に(前述)『ネットワーク特別捜査本部』は閉鎖され、過去ログしか読めない状態になっていました。その間にファンの気持ちが離れてもおかしくないのに、非公認サイト内ではファン同士の交流が続き、コンテンツの世界観を楽しんでいました」

 そしていざ2003年7月19日に『踊る2』が公開されると、ファンはもちろん、ネットでの盛り上がりを知る若者たちがこぞって映画館にかけつけた。今でいう、“SNSで話題になって”ブームを起こす現象と似ているといえばいいだろうか。

 結果、『踊る2』は邦画歴代1位(当時)の興収成績を樹立。この頃、社会現象を巻き起こしたコンテンツとして、大嶋氏はほかに『水曜どうでしょう』(1996年〜現在は不定期で特番放送)と『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)の2作を挙げる。共通点は「ネット黎明期の熱い支持が、じわじわと世の中に拡大していったこと」だという。

「黎明期にネットを利用していた人たちは、コンテンツに対するアンテナが敏感、かつアクティブな人が多かった。『水どう』は北海道のローカル番組ですが、ネット上で知り合った現地の人から録画したVHSを送ってもらう、なんていうやり取りも活発でした。

 インターネット黎明期から普及期は、コンテンツの消費スピードが今ほど速くなかったことも、大きな意義をもちます。今、瞬間的に流行したものは、一瞬で忘れ去られていきますよね。この時代のコンテンツのファンはゆっくり、じっくりと堪能することで、その層の基盤を固めました。だからこそ、『踊る』のファンも待つことができたんだと思います」

『踊る』が制作された頃、まさに世の中は『エヴァ』ブーム。大嶋氏は、『踊る』と『エヴァ』に“共通項”があることを指摘する。

「本広監督も相当影響されたのか、タイトルバックにエヴァと同じ明朝体を使用したり、副題やカット割などの演出面であったり、さらには劇伴音楽など、エヴァを思わせる片鱗が至るところに見受けられます」

 わかる人にだけ、わかればいい。ネット上の一部で支持されていたものを、オタクである本広監督がドラマの中に取り入れる形で、つまり地上波ゴールデンタイムという“どメジャー”な場所とネットユーザーを繋いで作られたのが『踊る』シリーズなのだ。

 また今では“SNSを巻き込む”PR手法は当たり前過ぎるほどに当たり前で、むしろSNS戦略なくしてヒットなしと言われるまでになっているが、大嶋氏は「コンテンツマーケティングは『踊る』が1つのお手本となった」と話す。

新作公開に合わせて、ファンコミュニティが復活

 さて『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012年)で一度幕を閉じたシリーズは昨年3月、「踊るプロジェクト」を再始動、14年越しの最新作『N.E.W.』の制作をスタートした。それに合わせて『踊る』の公式ファンコミュニティは、コミュニケーションアプリ「Discord」へと場所を移し、「NW特別捜査本部」として復活した。メールアドレスを登録する一手間が必要だが、実際にコミュニティを覗くと、一人の“捜査員”として秘密組織のようなコミュニティに参加している気分が味わえる。

 冒頭・歌舞伎町ロケの後、SNSが“『踊る』ロケ疑惑”だと盛り上がっていた時、公式は何も反応していなかったように見えて、「NW特別捜査本部」内では「祝・クランクイン!」と題されたスタッフ日誌が投稿されていた。歌舞伎町ロケに関して、“捜査員”の間では共有事項だったわけだが、ライブカメラへの映り込み(&話題化)は制作陣の狙い通りだったかというと、大嶋氏は「断言できる材料はない」としつつ、「おそらくそうだと思いますよ」とニヤリ。いたずら好きの本広監督の“仕業”ではないかと見る。

「エンタメって、基本的に人を“踊らせてナンボ”だと思うんです。僕も放送作家としてしみじみ思いますが、元々テレビは作り手と視聴者の距離が遠いので、『何千万人が見ています』とか言われても正直リアリティがなかったもの。ただ、ネットやSNSが登場したことで、視聴者の反応が可視化されるようになりました。ネガティブな書き込みで凹むこともありますが、たった一つ、“良かった”という声があるだけで安心する。そう書いてくれた人に向かって、“お前最高!”と思いながら、めちゃくちゃ嬉しくなっちゃったりするんです。そういう意味では、『踊る』の制作陣は今でもファンが“踊って”くれるかどうかを常に考えている。ファンとの双方向のやり取りを大切にしながら、作品づくりをしているんだと思います」

 そしてファン側も、“踊ら”されるのを面白がる。大嶋氏は、「お約束という名の“共犯”関係を楽しむ、という言い方もできるかもしれません。そしてそれがちゃんとできているコンテンツは実写、アニメ、ジャンル問わずに『強い』」と話す。『N.E.W.』の公開まで、“捜査員”たちも忙しい日々が続きそうだ。

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(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2025/12/03 22:00