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朝ドラ『ブギウギ』後、初の監督作は104分の“短編映画”!? 足立紳・晃子夫妻が語る最新作『Good Luck』の舞台裏

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足立紳、足立晃子(写真=宇佐美亮/「サイゾー 2026年2月号」より)

共著の日記本『ポジティブに疲れたら俺たちを見ろ!! ままならない人生を後ろ向きで進む』(辰巳出版)を原案としたドラマ『こんばんは、朝山家です。』(テレビ朝日系)も記憶に新しい足立紳・晃子夫妻。手がける作品のなかにも夫婦の日常を赤裸々に投影してきたふたりに、朝ドラ『ブギウギ』後の初仕事でもあったという、最新作『Good Luck』についてうかがった。

<プロフィール>
足立紳(あだち・しん)
1972年生まれ。鳥取県出身。日本映画学校(現・日本映画大学)を卒業後、故・相米慎二監督に師事。脚本を手がけた『百円の恋』(2014/武正晴監督)で、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。23年の連続テレビ小説『ブギウギ』で一躍、時の人となる。自身の同名原作を映像化した20年の『喜劇 愛妻物語』をはじめ、作家・映画監督としても活躍中。

足立晃子(あだち・あきこ)
1976年生まれ。東京都出身。成城大学在学中に、自主映画の撮影現場で足立と出会い、映画配給会社・プロレス団体での勤務を経て、03年に結婚。二児をもうける。23年に自らが代表取締役となって、足立の個人事務所『TAMAKAN』を設立。プロデューサーとして初参画した同年の映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』以降、夫婦二人三脚で作品づくりに邁進する。

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© 2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)

短編映画のつもりが 気づけば長編に

──もともとは九州・大分で行われているプロジェクト『別府短編映画』用の企画だったとか? でもこれ、上映時間も104分と、いわゆる「短編」では全然ないですよね?

足立紳(以下、足立) そうなんですよ。先方からも「3、40分の映画にしてくれ」って感じでオーダーされていたので、最初の脚本段階ではもっと短くて。うだつの上がらない映画監督が、地方の小さな映画祭に呼ばれて、そこで褒めてもらえるのかと思ったらけなされて、いろいろ嫌になっちゃって、隣町とかをウロウロする……みたいな、それぐらいのボリュームのつもりで書いたんです。

当初は、ヒロインの天野はなさんの役もそんなに大きい役とは考えていなかったんですが、いざオーディションでお会いしてみたらとても魅力的で。シナリオ段階で大きく膨らみ、撮っていても「もっと撮りたいな」となってしまって、気づいたら長編になっちゃった、という(苦笑)。

足立晃子(以下、晃子) どの作品でもだいたいそうなんですけど、足立は現場でセリフをどんどん足すんです。しかも今回は、天野さんのカラカラとよく笑う姿が「面白い、面白い」って、カットをかけずに長回しをしたりもして。私としては「ちょっとやりすぎじゃない?」という思いもあったから、そこは現場でもセッションしたんですけど、頑として譲りませんでしたね。

──まぁ、これは男目線だからかもしれませんが、足立さんがそうなってしまう気持ちもわからなくはないかなぁ、とも。天野さんのまとう空気感は、実際とてもよかったですから。

足立 とはいえ、雑誌とかで言えば、「見開き2ページの記事にしてくれ」っていうオーダーに、10ページ分ぐらいの大量の原稿を送りつけちゃうようなもので、やっぱりそこは戦々恐々でしたよ。実行委員会の方々に「ちょっとこれぐらいの長さにいまなってて……」と編集したものを見てもらったら、「面白いからいいですよ」と言ってくれたので、なんとか事なきは得ましたけど。

晃子 あんなこと、普通の商業映画でやったらヤバいからね。ただ、私自身も初めて編集を観たときに、なんだか妙に多幸感があると言うか。足立の撮るものにしては珍しく、すごく気持ちのいい作品になったんじゃないかなぁ、とも感じたんですよ。わかりやすくなにかが起こるわけでもないけど、逆に私はそこが好きで。プロデューサーの立場からすると、「監督と大喧嘩してでも、90分以内にはすべきだったなぁ」とか、反省点もたくさんありますけどね。

──ちなみに、劇中では、東京で待っているはずの太郎のカノジョが、大分でいい雰囲気になっているふたりの間に割って唐突に入るといった、虚実が入り混じるシーンも。あれは足立さん自身が、晃子さん以外に抱いてしまう、ヨコシマな気持ちに対するエクスキューズ的な意味合いも?

足立 そういうことでは全然ないです。あれ以上にヨコシマなことを考えまくっている作品もこれまでには撮っていますから(笑)。あのシーンは単純に、脚本を書きながら自分自身が展開に詰まっちゃった部分を、あえてそのまま出したと言うか。商業映画ではなかなかできないそういうことも、今回は自由にやっていいと言ってもらえていましたしね。

晃子 基本、この人は言い訳なんかしませんよ。いつも好きなようにやっていらっしゃるので。

──最終的には、妻として夫の才能を信頼している、と。

晃子 もちろん、そこはしてますよ。映画を観る目が私にあるわけじゃないし、足立の主張が結果的には正解ってことも多々あるし。基本的にはリスペクトもしているから、つい遠慮しちゃう部分もあるんです。人間としてはすごいダメだし、夫としてもダメダメなんですけど、クリエイターとしてはいいところもたくさんある。そのバランスがめちゃくちゃ難しいんですけどね。

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© 2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)

監督をする「父親」の姿を見せたかった

──ところで、おふたりの日記本『ポジティブに疲れたら~』によると、今作の撮影期間中は、おふたりの娘さん息子さんも、現場の大分に同行されたとか?

足立 長期で留守にせざるを得ないそれまでと違って、今回は一緒にいられて子どもの心配をする必要がなかったし、妻も人前では怒らないしで、すごく楽しい時間ではありましたね。

晃子 撮影前に仕事がいろいろ重なって、家を空けることも多くなり、子どもがちょっと寂しそうだったので、「いいや、こんな機会ないし、連れて行ってしまえ!」と思って、娘も息子も連れて行ったんです。いろんなお金のことや、その後の仕上げやスケジュールのことになると、こっちも言わなきゃいけないことが出てくるから、家庭内ではどうしても殺伐とはしてしまう。

けど、現場は一度始まってしまえばやるしかないから、結果、子どもも撮影を楽しんでいたし、スタッフのみなさんがとても温かく受け入れてくれて、本当に感謝しています。それなりに大変は大変でしたけど。でもそういう意味では、確かに現場はピースフルだった気がします。

足立 束の間の平和でしたね。その後にはまた、地獄の生活が待っていましたから(笑)。

晃子 また、そういうことを言う。でも、私としては、子どもたちに父親の仕事をちゃんと見せたいという思いも、実はあって。「映画をつくっている」ということは理解していても、普段の足立が家でしていることなんて、パソコンに向かってキーを叩くか、YouTubeを観るぐらいのもの。特性のある息子なんかはとくに、今回の現場で初めて“父親に対するリスペクト”を実感として持てた、とも思います。ニコニコ穏やかに、みんなを仕切っている足立の姿はやっぱりちょっといいんでね。

足立 家でも穏やかなつもりだけどなぁ。娘と息子の弁当だって、毎朝俺が作ってるし。

晃子 せっかくいい話をしているのに、また弁当ネタかよ! こういう取材になると、鬼の首を取ったように、毎回そのことばかり言うんですよ。女性のライターや編集者さんに「すごい! ウチの夫にも見習わせたい」とか言われて、そのたびに悦に入っちゃって。洗濯にしろ、洗いものにしろ、普段のあなたはそれ以上にできないことだらけでしょって。

足立 それでも俺は伝えたいわけよ。毎朝、不機嫌そうに遅れて起きてきたあなたが、「こいつがやり忘れていることはないか」と、目を皿のようにして細かくキッチンの汚れをチェックしてくる、あの恐怖を。

晃子 なにそれ、つまんない話!

──ホントに仲がいいんですね(笑)。でも、そうやって楽しく撮った大分限定の自主映画が、こうして全国の映画館でも公開されるわけですから、足立家としては最高の流れじゃないですか。

晃子 それは本当にそう思います。興行的に大ヒットするような作品では決してないと思うし、私自身、足立の狙いが現場でわからないこともあったけど、観てくださった方から「よかった」という言葉が聞けるのは、素直にうれしい。わかりやすい起承転結のあるタイプの作品じゃないので、「こういう映画です」とそのよさをうまく説明できないのがもどかしいところではありますが。

足立 劇中では、天野さんのオーディション風景を少し挿入したり、ちょっと実験的なこともやっているんですが、もし続編がやれるとなったら、映画本編にメイキングのようなその作品がつくられる過程を混ぜ込むような、そういうこともしてみたい。自分としても、それぐらい思い入れのある作品には仕上がったと思っています。

晃子 見どころを聞かれて、私が「チャレンジングなことをしてる」と答えると、足立は「恥ずかしいから、そんな言い方はやめて」と言うんですが、でも本当にちょっと面白い作品にはなっていると思います。“観光映画”らしく、私自身もちゃんと旅に出たくなりましたしね。

足立 えっ、そうなの? じゃあ、一緒に行こうよ。

晃子 いや、あんたとは行きたくないのよ!

──(笑)。小倉から特急ソニックに乗って、のんびり鉄道旅なんてのもよさそうですよね。劇中にも登場する鍾乳洞でととのえるサウナなんて、サウナーにはたまらないでしょうし。

晃子 ソニックは酒好きにもオススメですよ。超揺れるから、お酒1本ですぐ酔えて(笑)。

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© 2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)

次作は西村賢太? 女ボディビルダー!?

──足立さん自身は、今後どのような作品を撮りたいと? たびたび公言されている、故・西村賢太さん作品の映像化などは、どこか私小説的な足立さんのテイストともマッチしそうです。

足立 それは本当に、いつかはやりたいと思ってますね。妻はまったく好みではないみたいで「イライラする!」って言いますけど、西村さんの作品って僕はめっちゃエンタメだと思うので。

晃子 あなたが大好きなのは知ってるけど、読んでて楽しいと思ったことは一度もないかな。私としては「もっとマスを狙っていけよ」とすごい思う反面、一方では「足立にはマスは無理だなぁ」という思いもあって。どうしてもニッチにならざるを得ないので、足立を売っていく大変さっていうのを、最近つくづく感じています。本当にもう、消耗戦だなって(笑)。

足立 あと、ボディビルの映画もずっとつくりたいとは思ってますね。自ら進んであんな異形の肉体を追い求める彼らの生き方に、昔からすごく興味があって。ただまぁ、すでに出来あがっているシナリオもあるんですが、女性が主人公なので、肉体改造と元に戻す期間まで含めると、1年半ぐらいは役者さんを拘束することにもなってしまう。そのあたりがかなりネックではあるんですが……。

晃子 今年公開の『愛はステロイド』はびっくりするほど、めちゃくちゃ面白かったけどね。

足立 いずれにしても僕には、自分でも「僕、ここにいます!」と大声を出したいくらい仕事のオファーというものが滅多にないから、自分で仕事を作りだしていくしかない。やりたいものがすぐに実現するでもないので、これまで同様、脚本を書き溜めていく作業は続けていきたいと思っています。ストックはあって困ることもないですしね。

――おふたりのクロストークの続きは、12月27日発売の『サイゾー』本誌でも。さらに熱い“夫婦喧嘩”が展開されていますので、ぜひそちらも手に取っていただければと思います!

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© 2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)

<インフォメーション>
『Good Luck』
2025年12月13日(土)より
渋谷・シアターイメージフォーラムほか全国順次公開

九州・大分で21年から始まったプロジェクト『別府短編映画』から生まれた1作。映画祭に入選を果たして、ひとり大分へと向かった“自称”映画監督の太郎(佐野弘樹)と、そこで出会った不思議な女性・未希(天野はな)との、ささやかな“寄り道”旅を描く。舞台となった豊後大野の自然豊かなロケーションが抜群。なんの脈絡もなく一人二役をこなす剛力彩芽&板谷由夏の神出鬼没ぶりも楽しい。

公式サイト:https://mapinc.jp/film/good-luck/
X:https://x.com/Good_Luck_2025

脚本・監督:足立紳
出演:佐野弘樹/天野はな
   剛力彩芽/板谷由夏 ほか
制作プロダクション:theROOM
配給:ムービー・アクト・プロジェクト

最終更新:2025/12/12 14:00