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『金ロー』を独自視点からチェックする!【65】

不発だったディズニー記念大作『ウィッシュ』 エンタメ界の巨人が嫌われる理由とは?

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 ディズニー100周年記念作品だったのにさほど話題にならなかったのが、劇場アニメ『ウィッシュ』(2023年)です。日本では福山雅治と生田絵梨花を声優に起用し、興収36億円と数字的にはまずまずでしたが、製作費はなんと2億ドル。北米での成績は伸び悩み、興行的には失敗に終わっています。

“理想郷”にはびこる差別と偏見

 思うに映画会社の××周年記念大作って、失敗作のほうが多いんじゃないですか。東宝の創立50周年記念作『幻の湖』(1982年)、にっかつ創立80周年記念作『落陽』(1992年)とか。両作は逆な意味で、忘れられない映画になっていますけど。

 近年のディズニー社のダメダメっぷりが顕在化しているのが『ウィッシュ』だと思います。はたして、ディズニーの未来に希望はあるのでしょうか? 

過去の名作をオマージュした100周年記念作

 ウォルト・ディズニーが会社を創業して100年ということで、ディズニーアニメの名作の数々をオマージュした内容に『ウィッシュ』はなっています。物語はこんな感じです。

 舞台となるのは地中海にある「ロサス王国」。魔法を使うマグニフィコ王(CV:福山雅治)が治める平和な島国です。国民たちはマグニフィコ王に自分の願いを伝え、魔法によってその願いは安全に保管されています。さまざまな願いの中から月にひとつ程度の割合で、マグニフィコ王が願いを叶えてくれることになっています。

 17歳になる少女・アーシャ(CV:生田絵梨花)は、マグニフィコ王の弟子になる面談を受けるために宮殿へと向います。祖父のサビーノ(CV:鹿賀丈史)が100歳の誕生日を迎えたことから「祖父の願いを叶えてください」と、面談ついでにマグニフィコ王に頼むアーシャでした。

 しかし、マグニフィコ王は「国のためになるものでなくてはダメ」とアーシャの頼みを却下します。そして、叶えられない願いは、ずっと宮殿に保管されたままであることをアーシャは知ります。「叶えられない願いは、本人に返したら」とアーシャが進言したところ、マグニフィコ王は大激怒。弟子になることもできず、アーシャはすごすごと宮殿から退散します。

 落ち込んだアーシャは、森の中で星の妖精「スター」と出会います。スターの振りまく不思議な光の粉を浴び、アーシャが飼っていた羊のバレンティノ(CV:山寺宏一)や森の動植物たちは人間の言葉をしゃべるようになります。スターには願いを叶える力があったのです。アーシャは仲間たちと協力し、宮殿で保管されているみんなの願いを解放することを決心します。

 一方、マグニフィコ王もスターの力に気づき、自分のものにしようと考えます。いい王様と思われていたマグニフィコ王ですが、権力の座に固執するあまり、ディズニーヴィランと化していくのでした。

ポリコレを重視した物語と主人公

 夢はきっと叶うというモチーフは、古典的アニメ『ピノキオ』(1940年)の主題歌「星に願いを」でも歌われたディズニー教のお題目です。魔法を使う王さまへの弟子入りをアーシャが志願するくだりは、ミュージカルアニメ『ファンタジア』(1940年)の一編「魔法使いの弟子」が元ネタでしょう。森の動植物たちとおしゃべりする場面は、ディズニー初のカラーアニメ『白雪姫』(1937年)や『ふしぎの国のアリス』(1951年)を思わせます。

 名作アニメの数々をオマージュしたと言えば聞こえがいいのですが、なんだかディズニーの過去作を学ばせたAIが書いたような薄~い脚本になっています。シェークスピア作品をベースにした細田守監督の『果てしなきスカーレット』が盛大に炎上しましたが、オリジナルの脚本づくりの難しさを感じさせます。

 家族想いなアーシャは、公式サイトなどでは説明されていませんが、褐色の肌と編み込みヘアが印象的なヒロインです。アメリカ本国でアーシャの声優に起用されたのは、女優&歌手のアリアナ・デボーズです。父親はプエルトリコ人で、母親はアフリカ系とイタリア系の血を引くそうです。白人のお姫さまを主人公にした作品が多かったディズニー社は、多様性の時代に適応したキャラクター設定を近年は重んじるようになりました。

 要は『ウィッシュ』って、全編にわたって「ポリコレ」を意識した作品なんですよね。ポリコレ的には問題ないけど、かといって面白くもありません。多様性は歓迎しますが、劇場公開作はもっと毒気がないとダメでしょう。誰もが楽しめる作品って、誰の記憶にも残らない作品でもあるわけです。

 日本のアニメが「暴力的だ」「女性キャラが性的すぎる」などの批判を浴びながらも世界的な人気を集めていることと、ポリコレを意識しすぎたディズニーアニメの低迷がどう関係しているのかも気になるところです。

見どころは、福山雅治の愛されるヴィランぶり

 強いて見どころを挙げるとすれば、福山雅治演じるマグニフィコ王のミュージカルパートでしょうか。ディズニーヴィランとして、劇中曲「無礼者たちへ」をノリノリで歌っています。

 木村拓哉はどんな作品で、どんな役を演じてもキムタクなわけですが、『ウィッシュ』の福山雅治も声だけの出演ながら、マグニフィコ王は福山雅治のまんまです。ある意味、すごいよ。

 イケメンでありながら、魔法も使えて、国民のためを思ってみんなから願いを抜き取ってしまうマグニフィコ王。天才物理学者も、全盲の捜査官も、坂本龍馬も、そしてマグニフィコ王も福山雅治にしか見えません。『ウィッシュ』は福山雅治がキムタクと同レベルのトップスターであることを証明した作品でもあるようです。

 さて、どんなに優れた政治家でも、長年にわたって権力の座に就いていると腐敗化してしまうものです。そのことが分かっているから、米国の大統領はどれだけ人気があっても2期8年までしか務めることができない決まりになっています。

 政治家に限らず、芸能界でも長年トップの座にいると周囲が忖度し、腐敗構造を招いてしまうことは、ジャニーズ系のタレントたちが証明しています。そうならないように、各分野のトップの座にいる方たちはみなさん気をつけてほしいなと思います。

ディズニーが映画界から嫌われている理由

 ディズニー映画がつまらなくなった理由ははっきりしています。ピクサー、ルーカスフィルム、マーベルコミックに続いて、20世紀フォックスも買収し、ディズニーはエンタメ界の大巨人となっています。

 ディズニーは浮き沈みはありましたが、長年にわたってアニメーションを中心にした映画づくりと映画をモチーフにしたディズニーランドの経営をメインにやってきました。しかし、今のディズニーは本来の物づくりのスタジオから、ディズニープラスで配信するためのコンテンツをそろえることに注力した超巨大ネットワークへと変貌を遂げています。映画がヒットしなくても、配信ビジネスで儲けることができればいいわけです。

 そのことが明確化したのがコロナ禍でした。スカーレット・ヨハンソン主演の『ブラック・ウィドウ』(2021年)は、劇場公開と同時にディズニープラスでの有料配信を行っています。予告編を映画館でさんざん流させた実写版『ムーラン』(2020年)もディズニープラスで独占配信していたことから、映画館関係者たちを怒らせています。自分たちの企業だけ儲ければいいという考え方は、ポリコレ的にはどうなんでしょうか?

 夢を追いかけることの大切さを謳ってきたディズニーですが、映画界から夢を奪っているのもディズニーです。夢とか愛とか絆とか、気持ちいい言葉を並べる大人は気をつけたほうがいいと思いますね。

異質のディズニー映画

(文=映画ゾンビ・バブ)

映画ゾンビ・バブ

映画ゾンビ・バブ(映画ウォッチャー)。映画館やレンタルビデオ店の処分DVDコーナーを徘徊する映画依存症のアンデッド。

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最終更新:2025/12/12 12:00